7 依頼
食事を取り終えた三人は店を後にする。当面の目標も決まったので後はそれに向けて進むだけだがここで問題がある。
「依頼を誰から受けるつもりだ?」
ロゼはその疑問を口にする。ミーネの手助けをするのは良いが、自分達もそれほど大金持ちな訳ではない。自分達の宿代や食事代を考えるとそこそこの額を稼ぎたいところだ。
「当てはあるよ。」
「・・知り合いでもいるのか?」
その疑問が来ることは想定していたのだろうか、ギフトは悩むことなくロゼに答える。と言っても知り合いが居るわけではない。
この町はできて日が浅いと言っていた。ならば必要な物も多いだろう。それを集めてくるといえば受け入れてくれると言う計算だ。
当然上手くいく保証は無いが、可能性は低くも無いだろう。町の発展に躍起になっているならそれを利用して金を稼ぐ方法は幾らでもある。
「一先ずはある程度大きな店に行こう。魔物の皮とか売りつけられそうな装飾品の店が良いな。」
「冒険者の真似事か。上手くいくのか?」
「冒険者ギルドがないなら引くて数多さ。常時雇うにも金が掛かる。大きな組織ならそれでも行けるだろうけど、そこまで規模の大きくない組織なら可能性は高いな。」
「詳しいな。」
「それほどでも無いよ。いろんな話聞いてる内に知っただけの知識だよ。」
ギフト自身商売をした経験は無い。ある程度話を聞いただけの上辺だけの知識しかないから確信は無いが、うだうだ考えているよりかは先ずそこを目指すべきだろう。
「上手くいけばそれで良し。失敗しても後で考えればいいさ。」
基本的に考えることは後回しで行動を先にする男だ。あれこれ考えて上手くいく保証があるから動くわけではない。
ロゼはそれでいいのかと考えるも、自分に代替案があるわけでも無く押し黙る。それに行き当たりばったりではあるが、案として悪いわけでもない。
「ならば商会探しか。何処へ向かう?」
「そこでミーネの出番でしょ。」
「・・・え?」
急に話題を振られてミーネは目を白黒させる。ミーネはギフト達に付いてくだけと思っていたのに会話に加えられると考えていなかった。
「な、何で僕・・・?」
「この町に詳しいだろ?俺らを狙ったのも町に入ってくるのを見て外の人間だと思ったからだろ?」
ギフトに図星を突かれて狼狽する。
この町に住んでいる人間を狙えば当然その情報が知れ渡ってしまう。そうなれば盗みを働くことは難しくなるだろう。それに外から町に入ったばかりだと警戒心も緩んでいるので狙いやすい。
逆に言えばこの町に頻繁に来る者を狙うわけにはいかない。自分の姿もやっていることも知られたくないのだからそこだけは気を付けいてた。
「今度やる時は一人の奴を狙えよ?別の角度から見られると案外簡単に見つかっちゃうからな。」
「盗みのコツを教えるな。そうさせないために動くのだろう?」
「機会があればさ。それで知ってるかな?」
ギフトの質問にミーネは頷く。この町の地理には詳しい。いざという時に逃げるための経路も知っている。
舗装は町の中心からされている。その中心から離れれば離れるほど店が少なくなっていくから、ギフトの思い描く場所はその中間地点の場所に当たるだろう。
ミーネはその場所に二人を案内する。その間もギフトとロゼは他愛も無い会話で盛り上がり、知らぬ物を見つけては立ち止まり話し合う。
偶にミーネに話題を降ってはミーネを困らせて、その反応をギフトは楽しそうに笑う。それを馬鹿にされているとも思わず、会話の心地よさにミーネは頬が緩み始めた所で目的の場所に辿り着く。
外観は石造りの素朴な作りだが、屋根の上に紹介を指す看板が掲げられている。服を扱う店の様で外から中の様子を伺うと、店は閑散としており人の出入りは少なそうだった。
ギフトは店の扉を開けて店の中に入る。その後にロゼとミーネも付いて行き入ると、そこには派手ではなく、それでも人の目を引く丁寧な造りの服が並べられていて三人同時に声を上げる。
「ほう、素晴らしいな。」
「可愛い服がいっぱいだ!」
「動きににくそう。」
若干一名服の見た目以外で感想を漏らしたものもいるが、多むね反応は良好だった。その反応を察知したのか一人の若い女性が近づいてくる。
「いらっしゃいませ!」
その女性は笑顔で近づきミーネがフードを目深に被りなおす。その行為にも疑問を抱くことなく女性は笑顔のまま話しかける。
「どうですか?ご期待に沿うものはございますか?」
「うむ。悪くない。これはここにあるもので全てか?」
「いえ!言ってくだされればオーダーメイドでも作りますよ!」
女性は拳を握り熱く語る。ロゼはそれを快く受け取り、ギフトを見る。どうせ依頼を受けるならこんな人が良い。録でも無い人間に手を貸すよりもこっちもやる気を出しやすい。
一方ギフトはフードを被ったミーネと一緒に別の服を見に行っている。ミーネに配慮したのと、単純に服の話など興味が無いのだろう。
「オーダーメイドか。値段も高いのだろうか?」
「まあ多少は張りますね。それでもやっぱり自分に合った服は動きやすさも見た目も良いものですよ。」
女性は笑顔でロゼに勧めてくる。値が張るものを勧めるのは経営に余裕が無いのか、それとも別の理由があるのか。ロゼは周囲を見渡して女性に質問する。
「ここにあるものはお主が作ったものか?」
「そうですよ。と言っても最近はあまり作ってないんですが・・・。」
「む?何故だ?」
ロゼがそう言うと女性は窓の外に目をやり外の風景を見つめる。そして微笑を浮かべながら淡い息を吐いてロゼに答える。
「こんな事をお客様に言うのもあれなんですが・・・。最近町が少し賑わってきて、行商人が多く入ってきているのです。それは良い事なんですが・・・。」
「ふむ。」
「他の町や国で流行っているものが多くなるんですね。そうなると私の服はあまり好まれなくて・・・。」
「似たものを作れば良かろう?」
「素材が無いんですよ。仮にあっても私じゃ取りにいけないんですよね。外は魔物もいますし護衛を雇うお金もありませんし。」
苦笑いを浮かべながら女性は語り終える。話を聞き終えたロゼはこれは良いかもしれないと思うが、お金に直結はしないと思う。
お金が無いなら依頼は受けられない。ミーネの事が無ければそれでも良いのかもしれないが、今はお金が必要だ。手を貸したいという思いだけで動くわけには行かない。
だが、女性の後ろでとてもいい笑顔で佇むギフトがいた。
「ちょうどいいなそれは。」
「わっ!」
女性は驚いて振り向く。そしてギフトの手にはギフトが着るわけでも無いのに何着が服がかけられていて、それを女性に手渡すと話し始める。
「それ買うから会計して。それと欲しい素材教えてよ。」
「え?あ、ありがとうございます。・・・え?」
「おい、良いのかギフト。」
「構わないさ。それに良い案もある。」
ギフトは人の悪い笑みを浮かべて女性を見る。その顔に怯えの色を滲ませるが、直ぐに営業スマイルに切り替えた。
「魔物の素材を使った一級品を作る。俺にはわからないけどセンス良いんでしょ?ミーネが喜んでたし。なら珍しい素材で作られた洒落た服を一着つくる。それを売りに出してその金の何割かを報酬でもらう。」
女性は何も言っていないのにも関わらず、ギフトは展望を描いていく。思い通りに進めばお金は手に入るだろうが、色々穴もある作戦だった。
「珍しい素材など簡単に手に入るのか?」
「珍しくなくてもいいさ。人にこれは!って思わせればそれでいい。」
「売りに出しても高い値段がつくとは限りませんよ?」
「この町は店の外で売るのもありなんでしょ?だったら道行く人に値段を上げてもらおう。期間は三日でその間で一番高い値段を付けた人がもらえる。」
「ああ。競売を個人でするんですか。」
女性はギフトの言葉にぽんと手を打つ。確かにそれなら物さえ良ければ値段はどこまでも跳ね上がる。そう物さえよければ。
「いい案だとは思いますし、出来るなら私も構いませんよ。」
「良し。なら決定だな。」
「ただ私は素材を加工は出来ませんよ?布と糸さえあれば作れますが・・・。」
「それは大丈夫だよ。な?ミーネ。」
名前を呼ばれて視線がミーネに集まる。おどおどしながらギフトに隠れるも、ギフトはその頭に手を乗せて優しくなでる。
「大丈夫だよな?」
「う、うん!僕やるよ!」
顔を覗かせないよう下を向いたままだが、その声には確かに覇気が戻っていた。後暗い行為以外でお金を稼げるのが嬉しいのだろうか、年相応の無邪気な声が店に響く。
「なら決まったな。お主名を教えてくれぬか?」
「あ、私はニコって言います。でも良いんですか?私の服が売れると確証はできませんが・・・。」
「それは大丈夫。絶対売れるから安心しとけ。」
ギフトは自信満々にロゼを見て笑う。ロゼはその笑みを見て嫌な予感がするが、本当に嫌なことはさせないだろう。それを信じて少し考えたあと頷く。
「今は信じよう。それに動かなければ何も変わらない。」
「そういうことさ。期待して待ってろよ?」
「・・・わかりました。お願いしますね。期限も設けませんし気楽にお願いします。」
初対面の人間に全て押し付けるのは気が引けるのか、言葉の末尾に保険を掛ける。勿論ギフトは言った言葉を反故にするつもりは無いが、その気持ちはありがたく受け取っておく。
「じゃあ届け屋始動だ。行くぞロゼ、ミーネ。」
ギフトの言葉に二人は頷いく。ミーネは自分の願いのために、ロゼは初めての仕事を成功させるために、それぞれ気合を入れて、三人は店を後にする。