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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 一部 ~邂逅~
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7 ギフトは見た

 ギフトは王都から少し離れた場所にいる。少しと言っても、そこは徒歩で三日ほどの距離だ。

 ホーンブルを食うと意気込んだは良いが、その場所に着いてげんなりした。今までは王都近くの森に生息していたホーンブルが、何があったのか自分の生息していた森を離れ少し離れた場所で住処を作った。

 その場所が遠い。街についたのに落ち着くことなく出発したのは、美味しい肉を食べるためだったが、さすがに距離が遠く、最初は意気揚々としていたがどんどん気持ちが沈んでいった。

 考えなしに突っ走ったのが悪いのだが、それを考える知能が有ったのなら、こんな場所に来てはいない。

 森は鬱蒼としており生命力が溢れている。こんな森の中に肉を仕入れるためだけに来ないだろう。仮に来たとしても、どうやって王都まで運ぶのかという問題もある。

 散々生け捕りにしろと言ってきたのは肉が腐るからだろう。その時点で気づくべきだったのだ。

 だが、今更愚痴っても始まらない。もう来てしまったのだ、何の成果もなくまた三日歩くくらいなら、一匹は捕まえて帰りたい。気持ちを切り替え真面目に探し始める。

 鳥のさえずりを聞きながら森の中を歩き回り、標的を探し始めるが特に成果は得られなかった。この辺りの地形に詳しいわけでもない。迷わないよう目印をつけながらだと、どうしても歩みは遅くなる。

 なんか腹たってきた。とギフトが思い始めると水の音が聞こえてくる。近くに川があるのかもしれない。気分転換も兼ねて音のする方向へ歩き始める。

 するとそこには切り立った谷があり、その間を川が流れている。それが更にその下へと勢いよく落ちていく。


「滝かぁ。どうせなら下から見たかったな。」


 それを覗き込むように見ていると気づくのが遅れた。他の事に興味が行っている時に気づけというのも無理な話なのだが、一人で旅をしているのならもう少し危機感を持つべきだったのだろう。

 後ろから猛スピードで突進してくる音を聞いて直ぐ様振り返るが、その時には遅かった。回避を試みようとするも相手は予想以上の大きさだった。少しだけ体に引っかかり、ギフトは体を空中に躍らせる。

 自分に突進してきた者に視線を向けると、それは目当てのホーンブルだった。一本の角だけ頭部から生やし、全身に肉を蓄えた牛がギフトの視界に入る。

 そしてそのホーンブルはその視線に気付いたのか、ギフトに向けてまるで勝ち誇ったかのような顔をした。ように見えた。


「こ・・・の!クソ牛!覚えてやがれぇぇぇ!!」


 落ちていく中ギフトはそのホーンブルに復讐を誓うも、その体は重力に逆らうことなく谷底へと落ちていく。そして大きな水しぶきが上がり、ギフトは滝に向かって流されていく。



「姫様。この辺りで休憩に致しましょう。」

「む。目的地まではもう少しだろう?」

「大勢での移動は個人のそれより疲労が溜まります。輪を乱さないための処置と思ってくだされ。」

「そうか。分かった。皆の者、休息にするぞ。」


 言うやいなやローゼリアは率先して馬から降りる。長時間の間集団で動くのはキツいものがある。自分の速度で歩けないのだから、ストレスも貯まれば疲労も貯まる。馬に乗っているのなら騎乗しているものが疲れずとも馬にも疲れはある。休める時に休むことが出来るのは騎士にとって大事な素質だ。

 ローゼリアもそれをわかっているのか、自分はまだそこまで疲れていないだろうが、休むことに異論は挟まない。グラッドは休息のための簡易的な休息所を整えた後ローゼリアに進言する。


「姫様。この辺りには沢があります。そこで沐浴してきてはいかがでしょう?」


 それは女性であるローゼリアを気遣っての発言だったが、言ってから失言だと気づく。女性である以上自分の体は常に綺麗にしておきたいだろうが、それを面と向かっていうのは、「汚いから綺麗にすれば?」と言ったと捉えられてもおかしくない。何より男が女性に向けてそんな発言をするのは普通なら憚られることだろう。

 しかし、それを気にした風もなく、ローゼリアはあっけらかんとしていた。


「ふむ。そうだな。少し体の汚れを流していこう。見張りは頼むぞ?」

「・・・ハッ!お任せ下さい!」


 自分の右手を心臓に叩き、失言を咎められなかったことに安堵する。そして同時に見張りをと頼まれるほどには信用されていることに少し面映くなる。

 ローゼリアからしてみれば自分の体にそこまでの魅力はないと思っている。胸は大きくなく他の女性に比べれば少し筋肉質で女性らしさに欠けていると。

 それは思い違いである。グラッドにとって、ローゼリアは年齢の面と、今までのことから娘のように思えているから大丈夫だが、他の男からしてみれば気が気で仕方がなくなるだろう。

 整った顔立ち、綺麗な肌、姿勢は良くスタイルも良い。そんな女性が一糸まとわぬ姿など目も眩むことだろう。

 しかしローゼリアは自分をそんな風に評価はしていない。見るならもっと目を引く女性はこの世に引く手数多だ。自分の体を態々覗きに来るものなどいないと考えている。それでも見張りを頼むのは羞恥の問題は別にあるのだ。見られて嬉しいものではない。


「では行くぞ。場所を教えてくれ。」


 少しの着替えだけを持つと催促してくる。こういうところは子どもの頃から変わらない。決めたことは即実行に移す。まだ子どもらしいなと笑いそうになるがそれは表に出さず、案内役を買って出る。

 暫く会話もなく二人で歩くと、大きな滝が見えてくる。派手に水しぶきが上がり、少し離れた二人の場所まで冷気が飛んでくる。この大陸は比較的気候が安定している。だが、今の季節は少しばかり暑い。行軍で疲れた体にその冷気は心地よかった。


「良いものだな。では暫し待たれよ。」


 グラッドは本音を言えばもう少しこの場に居たかったが、命令とあらば逆らうわけにも行かない。

 その場を少し離れ、ローゼリアの見えない位置にまで着くとそこで声がかけられるまで待つ事にする。

 ローゼリアは服を脱ぎ水に足をつける。長時間いれば体調を崩しそうだが、軽く汗を拭く程度なら問題はなさそうだ。

 滝の音を聞きながら深い場所にまで移動し、そこで水を全身にかけて行く。肌がその水滴を弾き、太陽を反射し体のいたる箇所が煌めいている。髪は水が滴り体に張り付き、艶やかさを強調している。

 ある種の神々しさを秘めたその場所は余人の踏み入る隙のない聖域と変化していた。

 一息つき、空を見上げながら体を汚れを洗い流す。すると不意に滝が落ちる以外の音が耳に届く。それも人の声だった。

 瞬時に警戒し、辺りを見渡すもその姿は見つからない。上の警戒はしていなかったのだ。誰が空から人が落ちてくることを即座に予想できるだろうか。


「うわああああああああああ!!!!」


 その人物は大声を上げながら水面に叩きつけられる。勢いよく水柱が上がり、ローゼリアの下まで水しぶきが飛んで来た。

 いきなりの出来事に呆然としてしまったが、滝の上から落ちてきたのだとしたらそれなりの高さがある。その人物が誰かは知らないが、無視を決め込むわけにも行かない。ゆっくりとそちらに近づこうとする。

 だが、その人物は即座に立ち上がった。深い川でもなかったのに幸い怪我は無さそうだった。ずぶ濡れの服と帽子で体は重そうだ。


「あのクソ牛・・・!次会ったら容赦しねぇ・・・!食材にして美味しく頂いてやる!って、お?」


 目の前に人がいることにも気づかず、恨み節を炸裂させていたが、さすがに視界に入ったのか素っ頓狂な声を上げる。

 一糸纏わぬローゼリアの姿を目にして、彼はそれから視線をそらさない。ローゼリアは特に見られたくない所だけ腕で庇っているが、見るものが見れば逆にそそられる光景だろう。

 暫く二人して無言だったが、ギフトが顎に手をやり考え事をする。視線は一切逸らさないまま。

 そして不意に口を開く。


「なんでこんなところに真っ裸の女がいるんだ?これが所謂変態ってやつなのか?まぁ何はともあれ・・・。眼福ものだな!ありがとう!」


 弾けるような笑顔で断言し、親指を立てたギフトの頬に、ローゼリアの右腕が全力で振るわれることになり、乾いた音が周囲に木霊する。


続きは明日10時。

誤字脱字は気をつけていますが、

あれば報告お願いします。

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