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Deliver Happy   作者: 水門素行
2章 獣人闘争 一部 ~新たな出会い~
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6 届け屋とお食事

 席に座り三人で机を囲む。時間帯が外れたのか人の賑わいはまばらでちょっとした会話も聞こえてしまうだろう。


 込み入った話が出来る雰囲気ではないが、ギフトはそれもお構い無しに煙草に火を点けて口を開く。


「そういや名前言ってなかったな。俺はギフトね。」


 マイペース、と言えば聞こえは良いのだろうか。今更ながら自己紹介を始める。名乗ってから誘うと言うことをしない辺りが考え無しに見える所以だろう。


 そしてロゼも自分が名乗っていなかったことに気付き名を教える。ミーネはそれを聞いているのかわからない態度で、黙って俯いている。


 多少警戒は解けたのだろうが相変わらず信用はされていない。だが、ギフトはその態度を咎めること無く店員を呼びつける。


「オススメ何?特産とかある?」

「特産って呼べるものはありませんね。まだそこまで発展した町では無いので。」

「よく食うものは?」

「野菜とお肉ですね。あと、川魚もありますよ。」


 店員はギフトの質問に丁寧に答える。ここは町として認識されてから日は浅い。経済も軌道に乗っている訳でもなく、まだまだ足りない部分が多い。


 この町で暮らしているものはそれを理解している。だからこそ他の場所からやって来た人間には基本寛容に接することになっていた。


 誰がどんな情報や物品を持っているかわからない間に嫌われては発展が遠退いてしまう。貪欲にかき集める意欲が無ければ経済を潤すことは出来ない。


 この町で産まれたものもいればそうでないものも当然いるが、住んでいる以上は理想的な環境作りに従事すると言うのが町の決め事だった。


 そのため他所から来た人間には丁寧に対応する。気に入ってもらえればまた来るかも知れないし、噂が立てば人の往来も増えて町も大きくなる。


「じゃあ魚で。肉は少しでいいや。」


 だが店員の思惑もギフトの知ったことではない。取り立てて珍しいものが無いのなら覚えようともしないだろう。


 食事が美味しければ覚えることはあるだろうが、それを他人に教える事は無いだろう。それよりもその時に食べられる物に確実に目が行くのだから。


「ロゼとミーネはどうする?」

「妾は野菜料理が良いな。旅の間はどうしても新鮮な野菜は食べれぬからな。」

「・・・。」


 ロゼは自分の意思を伝え、ミーネは相変わらず黙りだ。ミーネからすればここにいる理由すらいまいちわかっていないのだから、堂々と出来るはずもない。


 だがギフトはそれを許さずミーネにメニュー表を見せて言葉をかける。


「どれが良い?お金はそんなに無いけど飯代くらいはだせるぞ?」


 メニュー表の裏で笑うギフトにミーネは戸惑いながらもメニューを凝視する。しかし、そこに何が書いてあるのかを理解することは出来なかった。


 ギフトはそれを察して椅子をミーネの横に持っていく。そして文字を指差しながら、それを音にして伝えていった。


「珍しく気が利くではないか。」

「ロゼが普段俺の事はどう思ってるか気になるね。」

「何故それを全員に出来ないかが疑問だな。」

「全員に気を遣うなんて息苦しいよ。」


 ロゼと会話をしながらもミーネに一通りメニューを教えていく。名前だけではわからないものは店員に聞きながらミーネの希望に沿うものを選んでいく。


 結果指刺されたのは肉料理で、自分の意思を出してくれたことにギフトは笑みを溢す。


 注文を取り付けた店員は店の奥に消えていく。料理が来るまでの間にギフトとロゼは今後の方針を決めることにする。


「これから何しようか?」

「取り敢えずミーネの事だろう。話はそれからだ。」

「んー・・・。なんかもういいんじゃない?」


 そしてギフトはあっけらかんと言い切り、ロゼはすっとんきょうな声を上げる。


「悪いやつには見えないし。やむにやまれぬ事情があるんじゃない?でももうそれを詮索する気も無いし。」


 逃げれる機会はいくらでもあった。だが逃げずに付いてきたのは少なくとも反省の気持ちがあるか、罪悪感があるのだろう。


 自分の行いを悔やんでいるならギフトはそれ以上なにも言うつもりはない。そうなった時一番許してくれないのは自分で、他人にどれだけ言われようと立ち直りはしない。


「反省してるならいいかなーって。もうするんじゃないよ?」

「待て。そもそも根幹を取り除かなければまた同じ事が起こるであろう?」

「仕方なくない?生きるって難しいよ?」

「一応言っておくが妾は生きる為に他人を害しても良いと言うのには反対だからな。」


 ロゼは自分でも甘い事を言っているのをわかっている。そもそもロゼはそれほど窮地に陥ったことはない。明日食べる食事に困ったことも、盗みを働かなければならない事態になったこともない。


 それでも綺麗事なのは重々承知の上で自分の意見を口にする。ロゼはそれが正しい事と信じているし、ギフトがその意見を無視しないことも知っている。


 案の定ギフトは眉間に皺を寄せながらも思考する。聞く耳持たずに切り捨てることをしないからロゼも正直に全てを話せる。


「価値観の違いだな。それは難しい。」


 ギフトは腕を組んで天を仰ぐ。ここでそれは違うと対立するのは簡単だが、ロゼの意見が間違っているとは思っていない。


 それが出来れば一番良いとは当然思っている。誰も傷つけない世界があるならそれは理想的だと思うが、ここは現実で、その理想はあり得ない。


 そしてこの手の話はギフトは嫌いだ。会話を楽しんでも議論を楽しむつもりは全く無い。なのでギフトは早々に逃げの一手を打つ。


「ミーネ次第だな。もう嫌なら助けてやるか。」

「そういうことだな。解決しなくとも手助けしよう。」


 二人は会話をやめて視線をミーネに集める。二人の視線を受けた少女は怯えて縮こまってしまう。


 ミーネは自分でも罪を侵したと思っている。だから怒られて罰を受けることは覚悟していた。


 だが、二人にその気はない。ミーネが盗みはしたくないと言うのなら、盗みをしなくとも生きていける環境を探す。続けるつもりならここでお別れと言うだけの話。


「僕は・・・。」


 ミーネは自分の置かれた状況は把握して口を開く。それは叶わない望みと諦めた筈で、それでもまだ諦めきれない未練の願い。


「お金が、必要なんだ・・・。でも、僕がお金を稼ぐには、これしかなくて・・・。本当は、・・・。」

「良し充分。」


 ギフトはそれだけ言うと肩をぐるぐる回す。そんなに長い間話してはいないが、まるで何時間も同じ体制で話しましたと言わんばかりに体を伸ばす。


「堪え性がなさすぎる。」

「真面目な会話は疲れるよ。」


 ロゼはそれを見て呆れながらも笑っている。ミーネは付いていけずにフードの下から二人の様子を伺う。


「金稼ぎか。ならあれだな。手伝ってもらおう。」

「しばらくこの町に滞在か?」

「そうなるね。最終目標はミーネに環境を届けるって所かな?」

「なるほど。その目標に向けて届けの仕事か。」


 会話の応酬を聞きながらミーネは二人の顔を交互に見る。ミーネの知らない所で一つの仕事が決まった瞬間だった。


 そして話が纏まった時に食事が運ばれてくる。ギフトが歓喜しそれに手をつけると、ロゼも優雅な動作で食事を口に運ぶ。


 どうしていいかわからずミーネが狼狽えているとロゼが隣に椅子を持ってきてギフトと挟まれる形になる。


「すまんな。ギフトは食事の間喋らぬ。お主も食べていいぞ。」


 ロゼにそう言われてもミーネは動かない。この事態に頭が付いていっていないのだ。


 それをロゼは遠慮していると受け取り、ミーネの目の前の肉料理を切り分けていく。そして小さく切り分けられたそれを目の前にしてミーネは言葉を絞り出す。


「あの、」

「心配しなくて良い。やると決めたらやる男だ。」


 ミーネの言葉を遮りロゼは笑う。それは優しく、とても綺麗な笑顔で。


「お主はもう苦しまなくて良い。妾が、いや。妾達届け屋がお主が苦しまない環境を届けてやる。」

「・・・届け屋?」

「そうだ。望まれたものを届ける仕事だ。」


 そう言ってロゼはミーネの頭を撫でる。フードが落ちないように注意しながらも、慈しむように優しく撫でる。


「後でちゃんと教えてやる。冷めぬ内に食べると良い。」


 ロゼはミーネに笑いかけ、ギフトも頬に食い物を詰めながら笑って頷く。その顔はとても格好いいものでは無く、思わずミーネとロゼは吹き出してしまう。


「ギフト・・・。その顔を、止めよ。食べられぬ・・・!」

「ふふっ!あっ・・・。」

「・・・痛く傷付きました。」


 二人は顔を下に向けて笑いを堪えようとするが、既にギフトにバレている。それでも構わず食事を続けるギフトを二人も見ないようにする。


「笑って良いのだぞ?まぁ今は食べるといい。」

「・・・はい!」


 ミーネは目の前の肉にフォークを突き刺して口に運ぶ。それは久方ぶりのまともな食事で、美味しさからか目に涙が浮かぶ。


 口元は緩んで目には涙を溜めて。それをロゼもギフトも見ないでいてくれた。その涙が決して美味しさから来たものでは無いことをミーネは理解していた。



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