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Deliver Happy   作者: 水門素行
2章 獣人闘争 一部 ~新たな出会い~
67/140

4 町の中の

今日の6時に書き終わりました。

誤字脱字が酷い可能性と、内容が変更する可能性があります。

「お。あれかな?」


 馬車の上から額に手を翳して遠くを見ながら声を出す。ロゼはその言葉に釣られてギフトの顔を見やり、くすりと笑う。


「随分楽しそうではないか。」

「当然でしょ。何か美味しいものがあると良いな。」


 その言葉を否定することもなく楽しげにギフトは笑う。だが言ったロゼも興奮を隠せないのか町を指差し疑問の声を上げる。


「壁がないのだな。」

「ああいうのは主要都市だな。あの町は国に属してないんだって。」

「そんな町があるのか?」

「というよりはそんな場所の方が多いかな。国の管理できる場所なんて知れてるからね。」


 魔物が存在している以上、国として管理できる土地を広くできない。よほど潤沢な資源があるか、よほど才能のある人間がいない限りは国の土地は広げられない。


 ロゼのいたアルフィスト王国は国としては広くはあるが、その国の全てを知っている者は数少ない。地図はあっても縮尺は曖昧な物しかなく、街と街を繋ぐ道以外を使う者はギフトの様な破天荒位で、新しい道を開拓する様な者は多くない。


 管理できる場所が限られているなら必然的に土地は狭くなる。その土地から溢れた場所は多数存在し、その一つが今目の前にある街ということだ。


「国に属してないから重要度は下がる。それでも人が居る以上そこに住む人たちで色々工夫しているだろうけどね。」

「支配者がいない町か。運営は大丈夫なのか?」

「その辺含めてその町の力さ。そもそも弱いなら町にまで発展しないと思うよ。」


 どんな場所も最初は小規模なものだ。そこに人が集まり商業が成り立って町が作られる。町として歴史が浅くても、人のいる場所に人は集まり力を蓄える事ができる。


 その中に才能を持ったものがいるかも知れないし、独自の文化が芽吹く可能性もある。そんな一つ一つの成り立ちを知っていくのは楽しさがある。


「あそこはどんな街なのだ?」

「それは聞いてないよ。行けばわかるからね。」

「それもそうか。」


 ギフトは次の町に何があるかを聞くことはない。見ればわかるし、何より大したものが無いと言われれば楽しみが減るだけだ。何があるかは自分で探すからこそ新しい発見となり面白みがある。


 二人が話している間も馬車は進みやがて町の入口に到着する。そこには見張りの者はいるが、大した検査もなくほとんど素通りで町の中に入る事が出来た。


「見張りの意味があるのか?」

「あいつらが見張ってるのは魔物さ。人を見ているわけじゃないってこと。」


 言いながらギフトは馬車の上から飛び降りて体を大きく伸ばす。ロゼもそれに続いて馬車から降りるとキャラバンのリーダーの男が二人に声を掛ける。


「もう行くのか?別の場所に行くのに護衛を頼みたいが・・・。」


 男は二人の実力を認めたのか護衛の継続を願い出る。ギフトは索敵に優れ一体一で人狼族(ワーウルフ)と互角の力を持っている。ただギフトは行動がハチャメチャで手綱が握れない。


 その手綱を握ってるのはロゼで、ギフトはロゼの言うことだけはちゃんと聞いている。傍から見ると上下関係があるように見えるが、実際はそんな事はなく、ギフトが親しい人の言葉を無視しないだけなのだがそれは初めて会う人にはわからない。


 要はロゼがいるならギフトも言うことを聞いてくれると思っている。ギフトは強いことは理解できて、それを扱うためにロゼが必要と思っているなら二人を同時に引き抜きたいと考えている。


「やだ。」


 だがギフトは簡潔にそれを拒否して歩き出そうとする。するとロゼがギフトの三つ編みを掴みその歩みを止めてギフトに笑いかける。


「どうしたのさ?」

「お礼はどうした?」


 ロゼは笑みを崩すことなくギフトに問いかける。その笑みに隠された意味を察してギフトは一歩下がり、ロゼは一歩踏み込む。


 別にギフトも礼を言うのが嫌なわけではない。ただもう会うことも無いだろうし、護衛もして貸し借りは無い興味の沸かない相手に態々何かを告げる必要を感じていないだけだ。


 ただその態度はロゼにはお気に召さなかったようで、呆れ顔で伝えてくる。


「お前はもう少し世情を知れ。妾も人の事は言えぬが、いらぬ諍いを起こすような真似をするでない。」

「そんなつもりは無いよ?」

「そう取られるんだ。面倒でもその辺りはちゃんとしろ。」


 ロゼはギフトの言葉を先制して封じる。面倒なのはその通りだし、ギフトがどうでも良いと感じることも相手によってはそうでも無い。


 当然ギフトだってそのくらいはわかっているロゼも思っている。ただそれを態度に表さないので知らない人には誤解を招く事が多いだろう。それではこれから先の旅に支障も来すかも知れないし、ロゼの夢が遠ざかる。


「妾の為だが気にしてくれ。お前が嫌われるのは見たくない。」


 ロゼは正直に心情を吐露する。ギフトを世界に認めさせる為にロゼは付いてきている。それだけでも無いがそれが一番強い思いなのは間違いない。


 下らない事で嫌われる前に認めてくれる人を多くする。性格さえわかればギフトが悪い人間では無いとわかってくれる人は必ずいる。少なくともロゼはそう思っている。


 それに対してギフトはロゼに笑いかける。正直に言ってくる人は嫌いじゃない。例えそれが罵倒だろうと、自分を誤魔化した者よりも好感を持てる。その人の頼みならそれは受け入れることも吝かではなかった。


「おにーさんありがとね。」

「世話になった。最後まですまぬな。」

「あ、いや。仕方ないさ。」


 そのやり取りを見ていた男は二人の関係を不思議に思う。想い合っているのはわかるがそれだけじゃ無いとも思える。


 ただあまり踏み込む事も無いかと何も言わず、適当な相槌だけ打って馬車に乗り込む。


「また会ったら護衛を頼むよ。」

「気が向いたらね。」


 男の言葉に素っ気ない返事をしてギフトはキャラバンから離れていく。ロゼは溜息を吐くと男に一礼してギフトの後を追いかける。


 男は肩を竦めて出発し、二人から離れていき、ギフトに追いついたロゼは振り向いてそれを見るとギフトに問いかける。


「何処へ行くのだ?」

「適当に。とりあえず飯屋かな?」


 ギフトは当ても無く町を歩くつもりだが、ロゼはそれを否定することなくギフトの隣を歩く。当然だが知り合いなどいる訳もなく、何があるかはわからない。


 ただそれも楽しみの一つとロゼは周囲に視線を配る。所狭しと商人が軒先に店を展開して人の賑わいがある。王都ほどの人混みではないが、それでも歩くには少し気を使わなければならない。


 周囲に目を向けていたロゼは自分に近づく人に気づかずぶつかってしまう。相手が少しよろめいた所をロゼは腕を伸ばしてその体を支え、相手もロゼの体にしがみつく。


「すまない。余所見をしていた。」

「大丈夫だよ。僕も見てなかったからさ。」


 その声は高く、フードを被っているせいで少年か少女かまではわからなかいが背丈がロゼより低いことから子どもだと想像する。ロゼがその手を離すと子どもは一つお辞儀をして二人をすり抜けるように歩き始めようとする。


「そりゃー駄目だろロゼ。」


 だがギフトがその子どもの肩を掴んで止める。子どもはそれに振り向くこともせず肩をビクッと震わせる。


「どうした?」

「流石に無用心だよ?だから狙ったんだろうけど。」


 ギフトはその子どもの腕を掴んで近くの路地裏に入っていく。ロゼもその行動に疑問を持ちながらも付いていくと、ギフトがしゃがんで子どもと視線を合わせる。


「ほれ返しな。怒るぞ?」


 あくまでも平坦に、怒った素振りも見せず言うが、それが逆に怖かったのかおずおずと両手で革袋を差し出す。それはロゼの金貨袋でロゼの腰に付けていたものだ。


 それを見て腰に手を当てるとそれはなく、目の前の子に盗まれた事をようやく理解する。自分が間抜けなのか手際が良いのか、それでもこれから先が不安になる様な出来事だった。


「よく気づけたな。」


 悔しさからかロゼはギフトに呟いた。自分の観察眼がギフトより上回っているとは思っていないが、それでもここまで簡単に騙されれば思うとことはある。


「俺も昔似た様な事してたからわかるんだよね。」

「・・・そうなのか?」

「まあそれは大事な事ではないさ。それよりも・・・。」


 ギフトは視線を目の前の子どもに移して眉間に皺を刻む。何故こんな事をしたのかなど聞くまでもない。金を盗んだのだから金が必要なのだろう。


 それに自分の過去からも強く言うこともできない。間違っていると言うのは簡単だが、それだけでは道を指し示すことは出来ない。ただ自分は正しいと酔うだけの行為など反吐が出ると思っている。


「んー。どうしようかな?」


 結果案は浮かばず叱ることもしない。深く踏み入るつもりは無い以上今何を言ったところで無駄なのはわかっている。この町を取り締まっている人に引き渡すのも考えるが、それでこの子が怒られるだで終わるかわからないなら気軽に行動はできない。


「何を悩んでおる?」

「ただの悪戯なら拳骨で終わらせるんだけどね。切羽詰った理由なら俺は何も言えないしな。」

「悪いことは悪いのでは無いか?」

「生き残るためなら多少は汚れるのも仕方ないさ。」


 ギフトとロゼは育った環境は違う。その為価値観も違うから意見の違いは出てくるのは仕方の無い事だった。


 そして二人共意見を聞き入れて悩む。どちらの言うこともわかるからこそ結局答えがでないの一点張りだった。だからギフトは最短で答えを出す方法を選ぶ。


「お金がいるのか?それとも悪戯?とりあえずフード取ろうか。」


 ギフトが手を頭の上に持っていこうとすると、フードを両手で握ってより目深に被る。よほど顔が見られると困る事情があるのとも思うが、流石にそれを許しはしない。


「駄目な事は駄目だからね。諦めなさい。」

「心配せずとも理由があるなら話は聞こう。」


 それでもフードを取らない子どもにギフトは業を煮やして肩をガっと掴む。そしてロゼを呼びつけてフードを取らせようとすると子どもはギフトの腕を振り払おうとする。


 当然それで振り払えるわけもなかったのだが、最後にはギフトの腕に噛み付いた。突然の痛みにギフトは顔を顰めるも、ここで離したら逃げられると思い、むしろその手に力を込める。


「暴れるな。殴るぞ?」

「脅すな。怖がるだろうが。」


 ギフトが物騒な事を言い出した時にロゼが呆れながら子どものフードを取る。そして出てきたのは青紙の幼い顔立ちの少女だった。


 だがその頭には髪の毛以外の物が二つついていた。それはピクピク動いて少女は顔を青ざめさせる。ギフトとロゼもそれを見て目を見開く。


 呆気に取られたギフトの手が緩んだ瞬間少女はその手を振りほどいて路地裏の隅に隠れてフードを被りなおす。もうその行動に意味は無いのだが、これから起こりうる出来事を想像したのか震えが止まらなくなる。


 どう動くのかそれをじっと見つめてくる少女の顔を見つめ返してギフトは優しく微笑む。それならスリも仕方ないと思ってしまったのだ。


人狼族(ワーウルフ)か。」


 少女の肩は大きく上がり、こちらを見る目が怯えて涙が浮かぶ。ギフトはロゼに視線を向けて頷くと二人は何も言わずに行動を起こす事にした。

続きは明日10時。

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