1 憤怒と哀惜
二章開始します。
世界は激変した。いや本当は何一つ変わっていなのだろうが、ある人物にとっての世界は大きくその姿を変えた。
静寂を突き破る遠吠えが響き渡る。それは怒りか悲しみか、その声の主ですらその答えはわからない。
怒りでもあるだろう。悲しみもある。だがどちらがより強い感情かと聞かれれば答えは出てこないと答えるだろう。ただこの感情を抑え込むことが出来ないだけだ。
何をした訳でもない。ただただ理不尽だけが襲い掛かってきた。最初は耐えようとしていた。だがその理不尽は止まることなく雪崩れ込み、遂に限界がやってきた。
平和に生きて来た筈だ。ただ生きていただけなのに、何故こんな目に合ったのか。一体何が起きたのか理解する暇もなく、その理不尽は全てを奪っていった。
―――許すわけにはいかない。―――
―――例えこの身が朽ち果てようとも!―――
体中の血がマグマの様に熱くなり体を駆け巡る。血が巡る度に憤怒と哀惜の念が溢れ出てくる。血だけではなく骨も肉も全てが恨みを晴らすだけの塊になった様に、体中から怒気が膨れ上がる。。
何も見ることも何も聞く事は出来ない。まともな判断を下す事は出来ないのだろう。唯一出来る判断は世界の全ての人間を屠るという使命だけ。
恐怖を思い知らせてやる。どれだけの血に塗れようが、どれだけ血を垂れ流そうが目的を果たすまで止まることは無く、復讐だけが男の生きる意味だと血が訴えて来ているのだろう。
そしてまた遠吠えが響く。その声は千里を越えて遠い町に届いて、人々を恐怖に陥れる。
「覚えていろ屑共!貴様らの喉笛が噛み千切られる瞬間を待っていろ!」
男の脳裏に今までの記憶が蘇る。楽しかった記憶も嬉しかった記憶も全てが塗りつぶされてどす黒い恨みだけが男の記憶を一色に染め上げている。
世界が男を嫌うと言うのなら、男も世界を嫌いになる。全てを敵に回す事になろうとも、許せない者を許すくらいなら、喜んでその身を悪魔に捧げる道を選んだ。
そして一人の男は動き始める。夜の闇を駆け抜けて、復讐を果たすためだけに。その様子を欠けた月だけが見つめ、男の行く道を照らしていた。
続きは今日の11時。
本当は纏めるつもりでしたが分けたかったので。
邪魔くさいかも知れませんがお付き合いください。