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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 四部 ~ギフトと言う男~
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63 今日も星は綺麗だ

 門番のヨーケルは平和を謳歌する。街はお祭りの時と同じくらいの盛り上がりを見せているが、自分達もそれに混じる訳にはいかない。かといって今も緊張感を持ち続けることは出来なかった。それだけの出来事があったのだ。


 そこには八人の男女が歩いてくる。その内の二人は見覚えがあり、敬礼して出迎える。


「ご苦労様です!如何されましたか?」

「少し外に出る。通してくれるか?」

「はっ!この方達もですか?」

「ああ。彼女達は冒険者だ。そうでない者もいるが、問題はあるか?」


 そういって一人の女性は自分の身分を証明する。それを受け取り見ると、確かに冒険者の様だ。ならば止める必要は何もない。


「失礼しました。どうぞ。」


 ヨーケルは問題なしと判断して、ロゼ達を通す。ロゼを止めることは自分には出来ないし、冒険者達も止める必要は無い。


 街が盛り上がっている中外に出向くことは疑問があるが、それを口にはしない。自分の考え付かないこともやるだろう。この街に不利益を被らない限りはヨーケルは何も言わない。


 ロゼ達は街の門を潜り、外へ向かう。ヨーケルは額の汗を拭って、良い天気だと空を見上げて平和を唄う。半人(デミ)も処刑されこの国には平和が訪れた。その事実を噛み締めて。


 そしてある程度離れた位置でロゼは複雑な表情を作る。良かったとは思う。ただこのままでは問題もあるだろう。もし悪意を持った者がこの力を持っていればこの国は災禍に見舞われる。


「対策が必要だな。」

「魔法を使える人間がいた方が良いね。まだ気づく可能性はあるし。」


 そういってギフトは何もない空間から声を掛ける。実際は魔法使いでも気づけるかわからないが、何もしないのは愚策だろう。そういう力があると知って手を打たないのは怠惰の証明だ。


「お前はわかるのか?」

「魔法を使えば空気が淀むんだよ。わからない?」

「どういう意味か教えて。淀むとは?」

「魔力が空気に漂うから何というか変な感じがする。感覚的過ぎて上手く言えないけど。」

「嫌な感じがするのは何となくわかるな。」

「そうですな。強い魔法を撃たれる前は独特の空気があります。」


 ガルドーとグラッドはギフトの言葉に賛同する。言っても二人は攻撃的なものに敏感なだけでギフト程感覚が鋭いわけでは無い。


 戦ううちに身に付いた、経験から成り立つ予測。それを理解できるのはこの中で三人だけで他の人はいまいちピンとこない。


「いずれわかるのか?」

「戦ってりゃ嫌でもね。そういうのに敏感な奴はしぶといよ。」


 普通に会話をしているが、彼らは逃亡中だ。まだ気の抜けた会話をしていい状況ではないが、一番見つかってはいけないギフトが緩いのでその空気に釣られてしまう。


 だらだらと会話をしながら歩き、一行は森の中に入る。そしてしばらく歩いて少し開けた場所に着くと、ギフトは振り返り背伸びをする。


「いやー。なんだかんだ良い思い出の少ない国だったな。」

「そういう事を今言うな。心が苦しくなるだろう。」

「まあでもお前らに会えたし帳消しだな。」

「・・・そう言う事を言わないでよ。照れるでしょ。」


 リカはそういうが、ギフトは恥ずかしさの欠片もない。思ったことを誤魔化す事はしない。自分の理解者が増えることは何にも代えがたい財産だと思っている。


「ポンコツ姫とかいけ好かない冒険者とか思っててごめんよ。」

「・・・私もあんたを変態の屑と思ってて悪かったわね。」

「・・・妾もゴミ屑みたいなゴミと思ってすまなかったな。」


 ギフトの笑顔にリカとロゼも笑顔で答える。今更ギフトの皮肉に一々本気で応えない。出会いなんてそれぞれ決して良い者では無かったのだ。


「別れくらい普通に出来ないのか?」

「これが普通。」

「成長されましたな姫様。」

「良い意味での成長なんでしょうか?」


 その様子を見てがやがやと話し合う。既に慣れた光景だ。会話は弾み、それぞれが木に寄りかかったり地べたに座ったり思い思いに休み、くだらない会話に興じる。


 それでも別れの時は来る。日はまだ高いが、これ以上話し込んでしまえば、夜が来てしまう。


 ギフトは立ち上がり、空を見上げる。この国の思い出は言った通り良いものでは無かった。それでもいろんな出会いがギフトを飽きさせる事は無かった。


 懐かしい人にも出会えた。自分の予想を超える者がいた。垣根を越えて戦う者がいた。誰も彼も楽しく面白い人達だった。


「さて。そろそろ行くか。」

「・・・もう行っちゃうんですか?」


 ギフトの呟きにユーリィは悲しげな声を出す。結局ギフトと碌に話す事は叶わなかった。文句を言うつもりは無いが、もっと話したい事はたくさんあった。


「泣くなよユーリィ。また会おうぜ。約束だ。」


 ギフトは笑いながらユーリィの頭を撫でる。ギフトだって悲しまないわけでは無い。それでも自分はこの国にはいられないし、仮に居られたとしても、じっとしてることは無いだろう。


 気が向いたときに気が向いた方向に。物を届けて人を届けて世界を転々と渡り歩く。そしてその先に何が待っているのか、想像する事も出来ないが、きっと面白い何かがある。


「どうせ止まりませんよ?笑って見送りましょう。」


 オードンがユーリィの肩に手を置いて優しく言葉をかける。オードンだって望めるならギフトにちゃんとお礼がしたかった。ギフトは気にしないだろうが心残りはある。


 それでもたぶん自分を救ってくれた恩人はそんな事をしなくていいと笑うだろう。だからこそ彼らはギフトを尊敬しているのだ。


「悲しいですが、仕方ありませんね。また会いましょうギフト君。」

「おう。お前も元気でなオードン。」


 ひらひら手を振って応える。ユーリィは涙を見せぬようオードンに抱き着いて時々肩が揺れている。


「女の子を泣かせるんじゃないわよ。」

「俺は罪作りな男だからな。」

「確かに罪人ですもんね。」

「ルイ。そういう意味じゃない。」


 三人はユーリィに比べてまだ元気だ。冒険者として出会いと別れは繰り返した。これもその一つと思えば悲観しすぎる事ではない。悲しくないわけでは無いが、最後くらいは笑って別れたい。


「まぁ旅してればまたどこかで会うかもね。」

「困ってたら助けてやるさ。なんだったら約束してやるぞ?」

「それは良い。私達も約束する。」

「ギフトさん達が困ってたら助けに行きますね!」


 それぞれと握手を交わしてギフトは頭に疑問符を浮かべる。ギフトは何も聞かされていない。ルイがギフト達と言ったが、一人で旅を続けるつもりだった。


「ガルドー?俺に付いてくるの?」

「いや、しばらくはこの国に残る。折を見て一度国に戻るつもりだがな。」

「ん?一緒に来ないの?」

「それも考えたがな。これ以上恩を増やせば返せそうにない。」


 ガルドーはギフトにこれ以上ないくらいの恩義を感じている。だからここでギフトに付いていくのは違うと思っている。


 いつかギフトが辛くなった時、帰って来れる場所が必要だ。その場所を作るためにもガルドーはギフトに同行しない道を選んだ。恩は必ず返す。その恩を返すまでは受けた幸せを他人に与えるのも悪くない。


 ギフトもそれを望んでる。何かを期待して人を助けたりはしない。優しさに触れた人間がどんな道を選ぶのかを楽しみにしているのだから、ガルドーはこの道を選んだとギフトに自慢する。


「俺はいつかお前に恩を返したい。いずれまた会おう。」

「んー?うん?またね?」


 ギフトは首を傾げてガルドーに別れを告げる。そして息を吐いてまあいいかと思考を放棄し腰に手を当てる。


「ロゼも元気でな。国の事大変だろうけどまあ頑張れよ。」

「うむ。頑張ってもらおう。」


 そして再び疑問符が浮かぶ。ロゼは笑顔を浮かべてギフトを見やるだけでそれ以上何も言わない。


 ロゼはこの国の為に命を懸けた。なのに今はどこか他人事の様な言葉を吐いている。ロゼがどれだけこの国が好きか等わかっているからこそ、その言葉はギフトに疑問を与える。


 ロゼはグラッドに近づき、別れの挨拶を交わす。と言っても既に伝えているから、それほど時間はかからない。


「グラッド。後は頼むぞ。」

「お任せくだされ。姫様もお元気で。」

「ロゼもどっか行くの?」

「ああ。言ってなかったな。」


 ギフトの疑問にロゼは胸を張って答える。それをギフトが嫌と言えば諦めるが、そうでないならロゼは決めている。


 ロゼは何も知らない。様々なことを教えては貰ったが、それでも知らない事の方が多い。この世界は広く、知らない事ばかりだ。ならばそれを知りたい。


「夢が出来た。この世界にお前の存在を認めさせると言う夢が。」


 何より半人(デミ)という存在について知らな過ぎた。もしもう少し見識があればあんな事にはならなかっただろう。自分の弱さと知識不足が、ギフトを貶める要因になった事は許しがたい罪だ。


「その為に妾も万物の箱庭(ユニヴァースガーデン)を探す。つまり・・・。」

「俺に付いて来ると?」


 ギフトの言葉にロゼはこくりと頷く。ギフトが認められない世界など興味は無い。それでも自分はこの世界で生きていくんだ。世界を嫌ったままでは生き辛いだろう。


 ならばどうするか。好きになればいい。その為にこの世界にギフトを認めさせてやる。万物の箱庭(ユニヴァースガーデン)があればギフトも普通の生活を送ることが出来るだろう。


 その時初めてロゼは世界を好きになれる気がする。世界とか気にするなと言われるかもしれないが、自分が好きな人を全世界に認めて貰いたいと言う気持ちは溢れて止まなかった。


「別に良いけど辛いと思うよ?あんなこと良くある事だし。」

「その度に妾は激高するだろうな。お前が笑えても妾は笑えん。」

「だったらなんでさ?」

「お前が好きだからだ。」


 その言葉にギフトを除いた全員が目を丸くする。そうだろうなとは思っていたが、まさか面と向かって人前でそれを言うとは思ってなかった。


 だがロゼはそれをなんとも思わない。伝える事より伝えられない事の方が恐ろしい。ギフトが死ぬかも知れないと思った時に後悔しか産まれてこなかったからだ。


 対して言われたギフトは表情を曇らせて頭をがりがりと掻く。気持ちは嬉しいがギフトはそれに応えることは出来ない。


「あー。悪いけど、」

「わかっておる。お前の事だ。妾の為を思って応えぬだろう。」


 ロゼだってそんなことわかってる。半人(デミ)については何もわかっていない。ギフト自身も自分についてわからない部分が多いくらいだ。


 連れ添う関係になったとしても幸せにすることは出来ないだろう。だがそれはギフトの意見でロゼの意見では無い。


 ロゼは笑う。もしギフトが旅の最中で気が変わればそれで良い。解決策が見つかっても良いだろう。その時共にいれない事の方が嫌だった。


「だがそれがどうした。辛い時も悲しい時も支えてやろう。妾の愛を舐めるでないぞ?」


 言われたギフトは口を開け、やがてその口の端は吊り上がる。肩が揺れだし、堪え切れずに笑い声が漏れる。


「男前だねロゼ。そういう所、俺も好きだよ。」

「相思相愛だな。」


 ギフトは説得は無駄だと諦める。なぜかロゼとの意地の張り合いで勝とうと思わない。それも一つの変化かも知れないが、嫌な気持ちは沸いて来なかった。


「じゃあ一緒に行くか。」

「当然だ。」


 それだけ言うと二人は背を向けて離れていく。ロゼもギフトも自分で道を選んだ。迷いなく進みその足取りに重さは無い。


「ギフト様!また会えるのを待ってます!」


 その背中にユーリィは大声を張り上げ、ギフトは片手を上げるだけでそれに応える。その場に佇みその背中が消えるまで見送ると、ユーリィの眼からは堪え切れずに涙が零れ落ちる。


「随分あっさりと行っちゃうのね。」

「頭の中は次に向かう場所で一杯。」


 どうせギフトの事だ。次はどんな出来事が待っているかを楽しみにしているのだろう。二人が消えていった方向から視線を外して、一行も街へ踵を返す。


「なんだかんだ寂しいわね。」

「でもまた会えますよ。約束しましたし。」

「そうだな。ギフトは嘘を吐かない。」


 数日間だけの付き合いだが、その為人は理解している。不器用で適当で、それでも優しさを持った普通の人。約束を絶対に破らない律儀な人は今も下手くそな鼻歌を歌いながら歩いているのだろう。


 誰もが想像して少し笑う。その旅路が少しでも幸福になる事を願って。




 ギフトは上機嫌に森の中を歩く。調子外れの鼻歌を歌いながら三つ編みを揺らしている。日は沈み辺りは暗くなっているが、二人共歩みを止める事は無い。


 隣を歩いているロゼが楽しそうに髪を揺らしてギフトに質問する。


「どこへ向かうのだ?」

「この国は山ばっかりだったからな。次は海が良いな。」

「届けの仕事はどうするのだ?」

「続けるよ?次はどんな依頼だろうね。」


 まだ見ぬ出来事を想像してギフトは笑う。辛い事もあるかも知れない。醜いものが見えるかも知れない。それでもそれだけじゃ無い事をギフトは知っている。


 次に行く場所は何があるのだろうか。何を届けるのだろうか。世界は自分に何を教えてくれるのだろうか。それを楽しみにギフトは旅を続ける。


 空を見上げれば星が瞬き二人を照らす。眠くなれば止まりもするが、二人はまだ疲労を感じていない。


「今日も星が綺麗だな。」

「・・・そうだな。こんなにも綺麗だとは思わなかったな。」


 星は様々な色で光り、思い思いに地上を照らす。今まで気づかなかった美しさにロゼは歩みを止めてしまう。


 呆然と立ち、星を見上げるロゼにギフトは何も言わず、自分も黙って星を見上げ続ける。ロゼの銀髪は光に照らされどこか神々しさが携えられている。


「今日は星が綺麗だ。」


 そしてロゼは星々の輝きに魅了され一つ呟く。世界は光り輝いて、二人の旅の始まりを祝福する。




一章終わり。


面白いとかなんだ以前に長い。

力不足しか感じませんでしたね。


続けてはいきますが間が開きます。気長にお待ちください。


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