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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 四部 ~ギフトと言う男~
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59 平和・日常・自慢

 戦争が終結して翌日、アルフィスト王国の王都ではある話題で持ちきりだった。今まで誰も出会わ無かった存在が現れたこと。そしてそれを冒険者と騎士が共闘して倒せたことが話題の中心だった。


半人(デミ)って何?」


 何も知らぬ子どもが大人の話を聞いて疑問を投げかける。それに親は困り顔で答える。


「魔物よ。だからもしこれから先出会ったら直ぐに逃げるか助けを呼びなさい。」


 それは端的に半人(デミ)を表している。半人(デミ)は人ではない。それが全世界共通の認識だ。冒険者はその存在の恐怖を聞かされている。あるものの冒険譚、あるいは自慢話の中で度々耳にする言葉。


 半人(デミ)に出くわし倒した。それは冒険者にとって称号の一つだった。魔法とは違った異能を使う存在ははっきりとした脅威。殆どは嘘だろうが、今回はその存在を多くの人が目撃した。


 それを倒したとなれば噂にもなる。街は今戦争の事など忘れその話題しか耳に聞こえてこない。


「そこで俺が半人(デミ)に槍を突き刺したのさ。それであいつは動けなくなって、そこをギャレットさんが止めを刺したのさ。」


 酒を煽りながら上機嫌にアッシュは語る。今回の功績でアッシュはランクが上がり、冒険者としても更に一目置かれるようになる。あの化物を退治した功績は大きい。これを自慢しない冒険者はいないだろう。


「要は俺がいたからこそ半人(デミ)を倒せたのさ。」


 アッシュは言葉を締めくくってまた酒を呑む。顔を紅潮させてアッシュはどこまでも上機嫌だ。ギフトの事は知っている。一緒に飯を食った仲だ。


 だがそんな事は関係ない。アッシュにとって自分のランクを高める一員になってくれた事しか頭にない。昨日先を酌み交わして今日殺し合うなどよくある話だ。一々気にしていては冒険者等やっていけないだろう。


 アッシュは他の冒険者と陽気に笑い、酒を片手に笑い合う。これでまた冒険に出たとき自慢できることが増えたと上機嫌に。


「あの半人(デミ)を最初街に入れたのはお前か?」


 ギャレットは街の門の詰所でヨーケルに質問する。責めるつもりはない。自分だって気付かなかったのだ。それを他の人間が気付かなかったからと責め立てる事はしない。


 ただ今回の様な自体を二度と招かないために対策を講じる必要がある。国に介入は出来ないが、自分達がいる場所を守る努力は当然するべきだ。


「はっ!自分の失態です。申し訳ありません。」

「いや、責めてる訳ではない。俺も気付かなかったしな。だがこれから先もそれで良い事も無いだろう。」


 ギャレットもヨーケルも今回の自体を招いたのは自分だという責任がある。自分がもし気づいていれば魔物を街に入れることもなく、人々に半人(デミ)の脅威を広めることも無かっただろう。


 今回は運良く討伐できた。だが運の良さに頼ってばかりでもいられない。自分達の居場所を守る為には最善を尽くすべきで、それが最良の結果を生むと大人は知っている。


「今回はお世話になりました。今後共よろしくお願いします。」

「ああ。後で上の者にも伝えておいてくれ。今度話し合う機会を設けよう。」


 ヨーケルはその言葉に敬礼を返し、ギャレットは詰所を離れ自分のギルドへ向かう。街は噂は立っているが平和そのもの。この平和を守ったのは自分達と思えば誇りにも思える。


 半人(デミ)を倒した事は世界に広まるかも知れない。そして冒険者の強さが広まれば犯罪者も当確を表さなくなり、世界が平和になる確率は高くなる。


 冒険者の一ギルドマスターとして、ギャレットは世界の安寧を願う。今歩いている街並みが、自分が死ぬまで、死んだ後も続くことを願って。




 部屋の中で一人の女性は眠れるはずもなく、夜を迎えて眠ることなく夜明けを迎えた。疲労は溜まっているのだが、気持ちだけがまだ荒れ狂って、眠ろうとしても嫌な考えが離れない。


 結局悶々としたまま朝を向かえ、日も高くなり昼の時間だ。街の人々は昼食を取っているだろうが、ロゼは食事をする気も沸かなかった。


 部屋で一人座って窓から空を眺めている。こうしているとひょっこりギフトが窓からやって来そうだが、そうならないことはロゼが一番よくわかってる。


「皇女様。起きていますか?」


 すると部屋にノックの音が響く。ロゼはそれに返事はしなかったが、ノックをした主は確認を取ることなく部屋に入る。


「・・・やはり起きていましたか。」


 ミュゼットは悲しげな表情を浮かべてロゼに呟く。寝ているとは最初から思っていない。情に厚いロゼが自分のために、この国に戦った者が倒されて平然としている訳が無い。


「・・・報告します。サイフォン様の刑が決まりました。それに伴い複数の貴族も罰を受けることになります。」


 ロゼは一言も喋らず、ミュゼットに一瞥くれてやる事もない。ただ外を眺めて音だけがロゼの脳裏に響く。


「傭兵達も処断することになります。関係なく人を傷つけたので、この国法に従い刑罰を与えます。それと・・・。」


 ここから先は言うべきか言わざるべきか迷う。今のロゼにこれ以上追い打ちをかける事はしたくない。今まで冷たくあたってきたのに、ここに来て手のひらを返す事になる様だが、それでもミュゼットはロゼの無事を願わずにはいられない。


 ここから先を言ってロゼがどう動くのか。それはわからないが、良い結果を生むとは思えない。カイゼルからも状況次第で伏せろとは言われている。


「話せ。」

「・・・。」

「構わん。話せ。」


 見向きもせずにロゼは言葉だけを吐く。自分が酷く冷めているのはわかっている。それでも今感情を暴走させればロゼは止まらないだろう。自分を制御するためにも言葉を長く続けることが出来なかった。


 そしてミュゼットも話すことを決める。ロゼは強くなった。自分達の想像など軽く超えたロゼになら伝えても大丈夫と思える。何よりこれ以上ロゼに不義理なことはしたくない。


「・・・ギフト殿の処刑の日取りが決まりました。」


 その言葉にロゼの肩が少しだけ動き、そして口を固く閉ざしたまま立ち上がる。ギフトは生きてはいる。だが処刑は決まり、ロゼが会って話すことは叶わないだろう。カイゼルからの命令も有り、ロゼがギフトの姿を見れるのは、もう処刑の日だけしかない。


窓を開けて街の様子を見ると、ロゼが今まで過ごしてきた日常がそこにはある。


 働いて食べて、喧嘩して泣いて、呑んで笑う。ここからでははっきりと見えないが、この街には先日の騒ぎは忘れられた事と思えるくらいの平和があった。


 だけど違う。確かにこれはロゼが望んだものかも知れない。それでもロゼはこの景色を喜ぶことが出来なかった。その為の犠牲が大きかった。そしてその犠牲はこの街にとって喜ばしいことになっているのが耐えられなかった。


「いつだ。」

「・・・明日の正午。・・・知らしめる意味も込めて街中で行われるそうです。」


 苦しそうに言葉を吐き出し、ミュゼットは目を伏せる。ミュゼットからすればギフトは人とか化物とか以前にロゼの恩人にして感謝だけでは伝えられない事が多い者だ。


 その人を喜々として処刑する事になったのをミュゼットは黙っていることしか出来ない。それが何よりも許せなく、自分の事を恨む事になる。


 そしてそれは自分の非ではないぐらいにロゼが思っているだろう。それでもロゼは力不足を嘆かず、暴れる事もなく、静かに状況を見守っている。


「わかった。」


 ロゼはそれだけ言うと上着を羽織り、部屋を出ていこうとする。ミュゼットはロゼの背に声をかけるか迷い、手だけを少し上げるが言葉は出てこず、腕は空中を彷徨うだけだ。


「心配するな。街の様子を見に行くだけだ。馬鹿な真似はしない。」


 それだけ言ってロゼは部屋を後にする。その言葉には力が無く、まるで抜け殻の様に、昔に戻ったような姿だった。


続きは明日10時。

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