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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 三部 ~届け屋~
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54 笑い合い、挑む

 ロゼは剣を収めて一息吐く。まだ全て終わったわけでは無いが、一応一段落と言ったところだ。ギフトとガルドーがどうなってるかわからないが、そこはロゼが心配するだけ無駄なことだ。


「どうしてここに来た?北へは向かわなかったのか?」


 ロゼ達は比較的早い段階で黒幕を掴んだ。馬鹿な貴族のお陰で真相にたどり着いたからこそ、ここまで早く行動できた。


 運が良かっただけだと思っている。それと同様の事がグラッドの方でも起こったのかと思うが、そこまで頭の悪い奴ばかりが揃うこともないだろう。


「我らは噂を聞いて王都に向かいました。だからこそ先程戸惑ってしまったのですが・・・。」


 グラッドたちは傭兵が集まっていることと、魔物が少なくなったという情報を聞いて王都に帰ってきた。ロゼには悪いと思うが、王都が壊されては元も子もない。王都に向かってロゼ達を待つつもりだった。


「城に来れた理由は?門前には魔物が来るかもと慌ただしいが。」

「ユーリィと言う娘に城に向かってくれと言われました。何でもギフト殿からの言伝だそうで。」

「・・・ああ。そういう事か。」


 完全に嘘を吐かれた。ギフトはグラッドが来る可能性も視野に入れていたのだろう。ロゼに伝えなかったのはそれを期待して動くことを懸念していたからだろう。


 誰も来ないと思って戦うのと、助けに来るかも知れないと思って戦うのでは気持ちの入り方が違う。少しの油断も期待もさせないためにギフトはあえて言わなかったのだろう。


 オードンとユーリィに頼んでいたのはギフトが逃げるための準備ではなく、もしグラッドが来た時に迷わないように案内を頼んでいたのだ。結果的にギフトが逃げるためと言うのもあながち間違ってはいないが、言ってくれても良かったのでは無いかと思ってしまう。


「全く。ギフトは妾をすぐ子ども扱いする。」


 声色は厳しそうに、表情は緩んでロゼはギフトに小言を漏らす。結局ギフトは自分の為だけだと積極的に行動しようとはしない。いつでも最善を尽くそうとするギフトの姿勢は見習うべきものがある。


「仲良くなったのですな。」

「む?・・・ああ。妾とギフトは友達だからな。」


 嬉しそうに話すロゼにグラッドは表情を緩める。ロゼはちょっと見ない間に変わった。今まで自分には変えられなかったロゼを変えてくれた、年相応の性格を表に出せるようになった事に感謝する。


「それよりも今はサイフォンだ。知らぬうちに姿を消している。」

「・・・そうですな。まだ何か企んでいるやも知れませぬ。」


 いつの間にかサイフォンはこの場からいなくなっている。劣勢になった事を見て撤退したのだろうが、このまま大人しくなるとは到底思えない。


 最早サイフォンに手駒はいない筈。いたとしてもその数は減っている。ここまでくれば敵にはならないだろうが、姿が見えないと不気味だ。


「サイフォンを探そう。ギフトには合ったか?」

「いえ。火の手が上がっていたのですが立ち寄らずにここに来ました。」

「・・・無事だろうか?」

「死ぬほど腹減ったから無事じゃないかもね。」


 とそこにギフトが窓から現れる。服はボロボロ身体中に煤を付けてそれでもいつもの減らず口を叩きながら窓の淵に腰掛ける。


「無事だったか。」

「なんとかね。しんどいけど。」


 言葉の通り表情はうんざりしている。声音は変わっていないが、本当に疲れているのだろう。だるそうに窓から降りると、そのまま地べたに座り込む。


「あ、帽子忘れた。杖も探さなきゃな。」

「まだ終わってないぞ?」

「え?そうなの?」

「ああ。サイフォンに逃げられてしまった。」


 ロゼは自分の状況をギフトに話す。その話をぼーっとギフトは聞いている。今頭を使うのは極力避けたい。と言うよりこれ以上戦うのは本当に面倒だ。


 取り囲んでいた敵も一人一人潰した。全員倒せたわけでは無いだろうが、それでも数は減らした。それなのにこれからまだ戦うのは出来るだろうが、単純にしんどい。


「だが一先ず状況は優勢になった筈。ここから先は残党処理・・・。」

「そう上手くいかないだろうな。」


 ロゼがここから先の提案をしようとした所で、今度はガルドーがやってくる。血が服にこびり着いているが、その殆どは返り血なのだろう、痛みもなさそうにケロッとした顔をしている。


「お主も無事だったか。」

「途中で敵が退いた。理由はわからんがな。」


 ガルドーと戦っていた者はある時を境に急激に少なくなった。ロゼの方に多く敵が向かったかもと思ったが、この様子を見る限りその心配は無さそうだ。


 そして益々状況が読めなくなってくる。ギフトは煙草を吸って思考を放棄したのか、顎に手を置いて煙を吐き出すだけだ。


 するとギフトが急に視線を上げる。眉間に皺を寄せて少しだけ視線を彷徨わせた。


「どうした?」

「・・・揺れてない?この城?」


 そう言われてもロゼはわからない。注意深く足元を見つめるが、揺れているかどうかの判断はつかない。周りに目を向けても全員首を横に振り、ギフトの勘違いかとも思うのだが、ギフトは床に手を置いて目を閉じる。


 揺れている。間違いない。それも一定の感覚で揺れている。その揺れを次第に大きくなり、ロゼの身にも振動が感じられた。


「なんだ?」

「ちょっとずつ大きくなってるな。・・・まさか。」


 ギフトは目を開いて窓の外を見る。その方向には見えず、部屋の扉を蹴り飛ばして奥に入って遠くを見る。そこにはギフトが想像したものと同様のモノが存在した。


「どうしたギフト?一体何が・・・。」


 あったと聞こうとしてロゼの口が止まる。ロゼもその姿を視界に入れた。


 それは人に似た姿をしていた。ただ明らかに人ではない。ゴツゴツとした岩が体を覆い、肩の部分には苔が生えている。


 何より街の外壁があるにも関わらず、ここから視認できている。外壁より少し高い位置に自分達がいるとはいえ、普通の人間を視認できるほど近い場所ではない。


岩人形(ゴーレム)・・・!」

「だろうね。あそこまでデカイとは知らなかったけど。」


 ギフトも見たことは無いが、話くらいは聞いたことがある。人より大きな体躯を持った、岩の肌を持つ魔物。自ら行動することなく、岩と同化している事が多く、あまり脅威と見られない魔物だ。


 怒らせれば攻撃はされるが、鈍重な動きは躱しやすく、出会ったとしても先ず問題にはならない。それが普通の大きさで逃げ場があるのなら。


「外壁くらいのデカさか?あの質量を動かす筋力か魔力があるなら厄介だな。」


 魔物の大きさは大きいほうが厄介とされている。全部が全部その限りではないが、大きいということはそれだけ生きて、生き残った事に他ならない。


 厳しい生存競争を生き残った魔物が人の街に向かえば、その惨事は見て取れる。そうならないための冒険者で騎士の筈だが、あんな魔物がいるなど聞いたことがない。


「あんなのがいればそりゃ魔物も消えるわな。」

「呑気な事を言っている場合ではない!歩くだけで街が壊されてしまうぞ!」


 ロゼは直ぐ様岩人形(ゴーレム)のいる場所に向かおうとする。自分に何ができるかは考えない。放っておくわけにはいかなかった。


「お前の兄ちゃんは?」

「ミュゼットに任している。安心だとは思うが・・・。」

「心配いりませんよ。皇女様。」


 思案するロゼに声が掛けられる。その女性を見てギフトは疑問符を浮かべるが、ロゼは顔を破顔させその女性に抱きつく。


「ミュゼット!!」

「はしたないですよ。皇女様。」


 ロゼとは対照的に落ち着いた声色のミュゼットはロゼを嗜める。ミュゼットは再開の感動もそこそこに窓の外に目を向け目を細める。


「陛下?見えますか?あれはあなたが招いたモノです。」

「・・・厳しいな・・・。私は・・・王だぞ・・・?」

「今の陛下は王ではなく怪我人です。」

「ならば・・・優しくしろ・・・。」


 ミュゼットの後ろには息も絶え絶えになってはいるが先程よりも顔色が少し良くなったカイゼルがいた。二人が無事だったことにロゼは喜ぶが、直ぐに気を引き締め外を見る。


「これで気にすることは無くなったな。」

「そうだね。あれが最後の敵って訳だ。」


 ギフトもロゼも見合って笑う。ようやくだ。ようやく戦いに終止符が打たれる。一週間ほど前に始まった戦いを終わらせることができる。


「気を抜くには早いが、」

「終わると思えば気も楽だな。」


 何も言わずともお互いの気持ちはもうわかる。ロゼもギフトもそこまで小難しい性格はしていない。ようやく見えた終わりに二人は笑い、ギフトは窓に足を掛け飛び降りる。ガルドーも続き、ロゼもその後を追うように窓から身を乗り出す。


「ロゼ・・・。」


 そこにカイゼルが口を挟む。止めるつもりは無いが、言わなければいけないことがある。最早未来は自分の手にはない。この国の未来は彼らに託された。


「・・・なんでしょうか?兄上。説教なら後にしてください。」

「いや・・・。この国を頼む。」


 ロゼはその言葉を聞き届け微笑みを返し、何も言わないまま窓から飛び降りる。その背中を見送ってカイゼルは隣のミュゼットに小さく呟く。


「私は・・・大馬鹿だな・・・。ロゼの・・・才覚を、見誤った。」

「その通りですね。ロゼ様はとても強く育ちました。」


 歯に衣着せぬ物言いにカイゼルは力なく笑うが、それも仕方ないと思う。人を見る目が無かったのだろう。だからこそロゼはあそこまで成長したのかと思うと自分は本当に不甲斐ない。


 録に会話も出来なかったが、あの赤髪の青年がロゼを変えたのだろう。ほんの少し見ただけだが、笑い方や言動が影響を受けているのか、似ている部分があった。


「礼を言わねばなりませんね。」

「そうだな・・・。終われば、・・・礼をしよう。」


 二人は窓の外を見てそう遠くない未来を思う。もうすぐ夜明けがやってくる。夜明けと共にこの国に平和がやってくることを二人は信じて疑わない。


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