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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 一部 ~邂逅~
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5 ホーンブルを食べるために

「んだよ。お前冒険者じゃ無いのかよ。」


 喧嘩をした後、アッシュはギフトと同じテーブルに着いていた。理由は簡単。ギフトが何者かを聞いてきたからだ。

 喧しい時はギフトも苛立ちを覚えたが、今ではすっかり霧散している。怒りを持続させる程ギフトに根気はない。あと、何より質問を許す代わりに奢りになったのだから文句はない。


「そう言ったじゃねえか。何を聞いてたんだよ。」

「悪い悪い。ってかならなんでここに来たんだ?それも元傭兵が。」


 全く悪びれた様子も無かったが、それを咎めることなくギフトは目の前の男を横目で見る。

 実力はあるが、頭は空っぽ。自分の都合の良いように物事を考える節はあるが、性格は真っ直ぐ。喧嘩の時も槍を使わず拳のみで向かってきたところを見ると、正々堂々と戦う者のようだ。


「メシ食いに来たんだ。ここが美味いって聞いたからな。」

「それだけでここに来るか普通。冒険者とか依頼人でなければここには来ないぞ?」

「途中でおっちゃんに出会ったんだよ。そんで、俺が作るメシは美味いっつったからな。」


 冒険者ギルドは性質上荒くれ者が多い。余計なトラブルを起こさないためにも街の住人はあまり近づかない。中には住人に人気の出る者もいるが、全員がそうというわけでもないので基本的にはこの場には寄ってこない。

 そんな中、何も気にすることなく席に着き、呑気にメシを頼むことしか考えてないものなどギフトくらいだろう。無頓着がやってきて気の短いものが出会った。喧嘩に発展した理由はそれだけだ。


「確かにダリオさんの飯は美味い。それは保証するぜ。」

「まじか。期待が膨らむな。」


 頬を緩ませだらしない顔をしている。先程喧嘩していたとは到底思えないだろう。お互いに先ほどのことはなかったとばかりに会話をしているのは案外気が合うのかもしれないが、二人共それを意識はしない。

 ギフトが期待に胸を膨らませていると、お待ちかねの食事が運ばれてくる。

 我先にと、ギフトは食事の前の祈りを簡単に捧げると、そのままガツガツ喰らい始める。


「待たせたな坊主ども。随分仲良くなったみたいじゃないか。」


 そこへダリオがやってくるが、ギフトはそのことにすら気づかない。目の前の食事を味合うのに必死だ。自分の言葉に返事をしないことに腹も立てず、むしろ美味しそうに頬張るその姿に気を良くしたのか豪快に笑い飛ばす。


「いい食いっぷりじゃねぇか。気持ちの良いやつだ。」

「人の金で食ってるのにお礼もなしかよ・・・。」

「あれはお前が悪い。」


 アッシュも負けじと食事を掻っ込む。その途中に呟いた言葉にダリオが反応するが、唇を尖らせるだけでそれ以上は何も言わなかった。

 暫く無言で食事を食べていたが、突然ギフトがその手を止め、口を開く。


「これって何の肉?」

「ん?それはタスクラビットだな。柔らかい肉質で、さっぱりしてるだろ?」

「うん美味いよ。ただ、これとホーンブルだったらどっちが美味い?」

「人にもよるが、俺はホーンブルだな。噛むたびに肉汁が溢れ出すあの肉は、ちょいと辛く味付けするとそりゃ絶品だぜ?」

「なるほど・・・。」


 ギフトは黙り込み、また黙々と食事を再開する。その顔を先ほどのようにただ美味しそうに頬張るのではなく、どこか考え込んでるようだ。

 アッシュとダリオは二人で顔を見合わせるが、お互いギフトにあったのは今日が初めて。何を考えているのか分かるはずもなく、ただ目の前の食事が無くなっていくだけだった。


「ごちそうさま。」


 しばらくして食事を食べ終えると、ギフトは腕を組み目を閉じる。アッシュはその様子をぼーっと眺めている。理由などないが、食事を終えてすぐ動く気にもなれず、依頼も大したものはない。今日はどこで暇を潰すか、それを考えているのだ。

 すると当然ギフトが立ち上がり、食堂の奥へ視線を向ける。


「お?どうした?」

「やっぱりホーンブルが食べたい。」


 それだけ言うとギフトは食堂の奥、依頼の受付カウンターへを進んでいく。アッシュも何となく後ろを付いて行く。受付窓口の前に着くとギフトは受付の男性に尋ねる。


「ホーンブルって何処に居るの?」

「はい?どうされました?」

「食べたいんだ。取ってくるから場所教えて。」


 その言葉に周囲がざわめく。ホーンブルは凶暴性があり、冒険者で言うならCランク。中堅どころでなければ討伐依頼を受けれないのに、冒険者でもない男が事も無げに取ってくると言い出したからだ。

 冒険者ならランクを提示させ、そのランクに応じた依頼を出すが、ギフトはギルドに所属していない。断る正式な理由もなく、依頼を受けるわけでもなく場所を教えてくれと言われても、それを簡単に教えるわけには行かない。無謀な事を止めるのも役割の一つだ。


「申し訳ありませんが、依頼を受理させるわけにはいかないんですよ。」

「なんで?」

「実力の無い人が無理をしても命を落とすだけですからね。できるだけ被害を抑えたいんですよ。」

「ふーん。分かった。」


 冒険者は無謀なものも多い。新人などがそうだが、自分の実力を過信し無闇に突っ込み命を散らす。そんな話は枚挙に暇がない。

 しかし、それを言っても聞いてくれないことは多々ある。だが、今回はあっさりと引いてくれた。それに胸を撫で下ろすも束の間、ギフトは行動に出る。


「アッシュ。ホーンブルって何処に居るの?」

「あ?話聞いてなかったのか?お前が弱いとは言わないけど、俺も怒られたくねぇよ。」

「むぅ。どうしようかな?」

「どうしようかな?じゃなくてどうしようもないだろ。諦めろ。そもそも飯食いに来ただけだろ?」


 諦めろ。と言われて諦めるほど殊勝な性格はしていない。どうするか悩んでいるとギフトはある事を思い出す。ここに来てやっと自分が食事の為だけにここに来たのではないと思い出したのだ。


「あ、そうだ。手紙を預かってたんだ。」

「え?はい。預かります・・・。」


 その手紙の内容を見る男性は最初は普通に、次第にその顔を険しくしていく。


「っ!少しそこでお待ちください!」


 急に立ち上がり、奥の方へと駆けていく男性。それを首を傾げながら見送るギフト。手紙の内容はギフトは知っている。尤も最初の方の数行を読んだだけで、全てを読んだわけではない。魔物が最近増えていることは知っていてもそこから先、どう対処するつもりなのかは知らないのだ。

 ギフトが言われたとおりその場で待っていると、先ほどの男性が汗を掻きながら戻ってきた。そして報告を告げる。


「お待たせしました。ギフトさんですね?手紙の配達ありがとうございます。その報酬として、ホーンブルの居場所を教えますね。」


 ギフトは破顔し、周囲の者は驚愕を顕にする。どんな取り決めがなされたのかは知らないが、ギルドが決め事を破るのだ、それは普通のことではない。冒険者でもないギフトに何故便宜を図ったのか、その理由は周囲の者にもギフト本人にもわからない。


「ただですね、ホーンブルを生け捕りにすることと、後は周囲で何かしらの異変があれば報告。それをお願いします。」

「冒険者がいるだろ?」

「不確かなことですので動かしたくないんですよ。あなたなら自由に動けますし。」


 冒険者より自由に動けるとはどういうことなのか。その理由を説明することもなく、ギフトにホーンブルの居場所を教える受付の男性。

 ギフトもそれを問いただすつもりはなく、地図を受け取り早速その場を後にする。


「一体どうなってんだ?」


 アッシュは怪訝な顔をしながら呟くが答えは返ってこなかった。分かることは何か冒険者では対応できないことが起きているかもしれないということだ。


続きはあす10時。

誤字脱字は気をつけていますが、

あれば報告お願いします。

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