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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 三部 ~届け屋~
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47 ガルドーの戦い

 ギフト達が城内に攻め入る少し前。リカ達は西門のすぐ近くの外壁の上で遠くを見つめる。魔物がいつ現れるかわからない。その緊張感が周囲に伝播し、リカ達も身を強張らせる。


「いるのかしらね?」


 来なければそれに越した事は無い。いるかどうかもわからない相手に構え続けるのは精神に悪いが、強さのわからない魔物の相手をするくらいなら、多少神経をすり減らそうが戦いたくはない。


 リカ達が直接戦いに出るかはギルドの采配しだいだ。住民の避難を優先させるほどの事態に陥れば、リカ達は恐らく前線に出ない。自分達より強い冒険者はここにいる。


「いると仮定して動くんだろ?じゃなきゃここまで動員しねーよ。」


 眠気を隠そうともせず欠伸をしながらダルそうな声を出すのは、黒い髪を逆立てて額にバンダナを巻いてそれが落ちないようにしている男。今いる中でも上位に入る実力を持った男だ。


「わかってるわよアッシュ。でもそう思わずにはいられないでしょ?」

「そうかね。俺は強い奴に出てきてほしいがな。」


 これだけの人数が動員されるほどの緊急事態だと言うのにアッシュは自分の願望を果たそうとする。元来冒険者とはこういうものだ。リカ達の様に他人の為に動こうとしている方が珍しい。


 実際そのお陰かアッシュは強い。意地で生き残り自分の限界を試してきた男はまだ若いにも拘らず一目置かれるほどの実力を持っている。


 それでもとリカは思う。強さは欲しくはある。弱ければ何も守れやしない。だがその陰で泣いている人が居るのを見捨てることは出来ない。自分達は強さを証明したくて戦っているわけでは無い。


「弱いに越したこと無いわよ。それだけ守りやすいんだから。」

「そんなんだからいつまでたってもランクが上がらねーんだよ。」


 直球な物言いにリカは不快感を示す。多くの冒険者はこれだから嫌いだ。その嫌いな冒険者に自分がなっていることも我慢ならないが、目的の為には冒険者でいることが一番都合が良い。


 だからランクがどうのと言われてもいまいちピンとこない。だが何度も何度も言われれば鬱陶しくもなる。ランク上げばかりに力を入れて周りを顧みないだけならともかく、それを他人に強要されるのは腹が立つ。


「リカ。集中。夜は長い。」

「だったら俺と一夜過ごそうぜ?そしたら短く感じるかもよ?」

「下衆。話しかけないで。」

「つれないなぁ。」


 アッシュも本気で言っているわけでは無いが、あわよくばの下心が透けて見える。この国で何度か会ったことがあるが、その度絡んでこられて面倒くさい。


 アッシュの言葉に返すことなく、ミリアは街の様子を見る。まだ静けさで包まれているが、もうすぐこの街に変化が起きる。それは確信している事だ。


 正直ギフトが隠れて動くとは思っていない。数日見てきて、隠したり隠れたりなどを好まない性格だとは理解できた。


 問題はその規模。底が見えないギフトが本気になればどれほどの事をしでかすかはこの場の誰にも分らない。近くで見てみたい気もするが、それは立場が許さない。


「大丈夫ですかね・・・。」


 ミリアが向ける視線を追いかけ、ルイが心配そうに呟く。強い事は重々承知だが、何が起こるかわからないのが戦いというもので。絶対が存在しないのがこの世界だ。


「なーにを心配してんだ?俺がいりゃ街に被害なんて・・・。」


 とアッシュが自慢話を始めようとした所でそれは起こる。街の中心地近くにいきなり巨大な炎の化身が現れたのだ。


 夜の闇を払い、辺りを照らして君臨するその様相は見る者すべての目を引いてしまう。街の外に注意を向けるべきだと頭の隅でわかっているが、それから目を離す事が誰にもできない。


 たった三人を除いて。


「あいつね。」

「しかいない。」

「心配するだけ無駄でしたかね?」


 先ほどまでの心配はどこへやら、ルイは苦笑いを浮かべて発生源を見つめる。姿など遠すぎて見えないが、あんな魔法を使うのは三人の中で一人しかいないと一致する。


「すごい魔法。魔力の塊がそのまま燃えているよう。あれなら街の外壁も意味を成さない。」


 ミリアは冷静に分析する。ギフトが目の前にいれば詰め寄ったに違いないが、この場にいないのが悔やまれる。結局ギフトには何も教えてもらっていない。


「むう。絶対後で教えてもらう。」

「アハハ。そうですね。」


 周りでざわめきが起こる中、三人は改めて決意する。弱弱しい気持ち等消え去った。ギフト達は騒ぎの中心で戦っているのに、自分達が不安になっても仕方ない。


 街の中から外へと視線を変えて三人は闇を見つめる。例え何が来ようと必ず守って見せる。約束を果たすために彼女達は長い夜を迎える。




 ロゼは階段を駆け上がる。上から人が襲い掛かって来るが、その度にガルド―が前に出て剣の腹で壁に叩きつける。ロゼは未だ剣を抜くことなく、ひたすら迷路の様な城の中を進み続ける。


「ガルド―!まだ行けるか!?」

「問題ない。」


 短く言葉を返しガルド―は見た目の割に身軽な動作でロゼの元まで駆け寄ってくる。そしてロゼが再び走り出そうとしたところでガルド―がロゼの前に出てその身を大剣で防ぐ。


 甲高い音が二発鳴り、ガルド―が前方を睨んだ時、後ろからも人が迫ってくる音が聞こえてくる。人数が多すぎる。ロゼも戦力として数えられるが、サイフォンの元まで行っても何が起こるかわからない以上、最後まで体力は残しておきたい。


「どうする?」

「・・・お前はどうしたい。」

「妾のやることは変わらぬ。終わりを齎すのは妾でこ奴らではない。」


 ロゼは腰に差した剣に手を添える。だがそれをガルド―が片手で制して動きを止める。その行動の意味を察することは出来るが、それを実行するのは躊躇われる。


 ガルドーにはこの国に何の義理も無いはずだ。むしろこの国を恨んで当然だろう。ギフトに救われギフトに付いてきてはいるが、ロゼを守る理由は無い。


「ガルドー。」

「俺はこの国の事は別に嫌いじゃない。だが、もう奴隷にはなりたくない。」


 一つの覚悟と恩義さえあれば戦える。このまま放置することはガルドーには出来なかった。守りたいものが守れないから冒険者を辞めたと言っていた。


 ガルドーにも様々な思いがあるのだろう。恩義だけで突き進めるほどガルドーは自分の事を義理堅い人間だとは思っていない。恨みを返せる機会をくれたから、ギフト達に付いてきたにすぎない。当然ギフトの人柄は嫌いではないが、それだけの理由で命は懸けない。


「俺は復讐したいだけだ。俺を奴隷に落としたくそったれにな。一度だけぶん殴れれば気が済む。」


 復讐心など長続きはしない。少なくともガルドーはそう思っている。一つの事に打ち込み続けるには才能が必要だ。自分には復讐の才能は無かったのだろう。それでも自分を奴隷にした張本人を見つければ怒りは沸くだろうが、それをずっと覚え続けることはできない。


 ならば殴るならもっと相応しい者がいる。命を狙い無関係な人を巻き込んだ阿呆に制裁を加えるのに一番相応しい者。だからギフトも譲ったのだろう。その人物の顔をじっと見る。


「お前が終わらせろ。お前の国はお前が救え。」


 ロゼはその言葉を黙って聞き入れる。ロゼは今までずっと助けられてここまで来た。ここから先は一人で戦う。優しい人に救われてここまでこれたのだ。例え失敗するとしても途中で投げ出すことは許されない。


「頼んだガルドー。お前にはこの国を必ず好きになってもらうぞ。」


 そういってロゼはガルドーから離れ、前の敵に剣も抜かず突進する。目を一切逸らさず突撃するその姿は一本の矢のように、曲がることなく愚直に走る。


 ロゼに向けて剣が向けられるが、ガルドーが大剣を敵の足元に投げて敵をどかせる。開いた空間をロゼは走り敵を置き去りにして遠ざかっていく。


 追いかけようとロゼの方に視線を向けるが、それは愚行。ガルドーが一瞬で距離を詰めて二人の頭を掴み地面に叩きつけ、大剣を抜いて肩に担ぐ。


「俺は別にこの国は嫌いじゃないと言ったんだがな。」


 ガルドーは人知れず笑う。嫌いじゃ無いのは本当だが、好きなわけでもない。ロゼには見抜かれているのだろう。そしてその態度を変えてみせると言われたのだ。


 だったら変えて見せろとガルドーは笑う。青臭い理想を抱えた小娘が一体何を成すつもりなのか。ギフトではないが、確かに見ていると面白いと思える。


 その邪魔をさせないのが自分の役目だ。子どもが前に進むために大人はその背を押してやる。間違えていたら頭を殴って止めてやる。


 ロゼは間違っていない。ならば進めばそれでいい。邪魔するものは薙ぎ倒してやる。前を向くのが子どもの仕事だ。その仕事を奪わせないために大人がいるんだ。


「来い。大人の意地を見せてやろう。通りたければ俺を超えて見せろ。」


 ガルドーは廊下の真ん中で仁王立ちし、あらゆる障害を通さない。生きている限りはここを守り抜いて見せると、剣を振るって敵を押し留める。


続きは明日10時。

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