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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 三部 ~届け屋~
46/140

46 牙

 ギフト達は一気呵成に城の中庭へと踏み込み、城内を見渡す。かなり大きな音がなったが流石に対応しきれないか、目の前にいる人の数は少なく、更にはロゼの姿を目撃して困惑する。


 ギフトは一番前方で暴れまわり、人のいなくなった場所をロゼとガルドーが駆け抜ける。夜の遅い時間に城に攻め入るものがいるとは思っていなかっただろうし、仮にいたとしてもここまで派手に来られとも思っていないだろう。


「ロゼ!前に出ろ!阿呆の所まで一直線に行くぞ!」


 ギフトが大声でロゼを呼びつける。ギフトは城の内部の構造など知らない。ロゼが前に立って案内したほうがずっと早くたどり着けるだろう。


 敵の勢力として騎士は数えない。サイフォンに付いているものもいるだろうが、それよりも問題視するべきはやはり毒渦だ。毒渦には動かれる前に決着をつけたい。毒を散布されれば動けなくなる可能性が高くなる。


 そうでなくとも囲まれれば動きが鈍る。そうならないよう真っ直ぐ突き進み、時間をかけない。夜が明ける前には全てを終わらせるつもりで長期戦をする気は更々無い。


 中庭を抜け、扉を前に立ち止まることなく蹴り飛ばす。走った勢いを殺さない蹴りは扉を折り曲げ吹き飛ばして転がっていく。


 城の内部は薄暗く、月明かりだけがホールを照らす。燭台も点いていないためよく見えない。それでも数十年自分が住んでいた場所だ。多少の明かりさえあればロゼも進むことができる。


「とにかく登れ!先ず目指すは玉座の間だ!騒ぎが起こればカイゼル兄様がそこに来る!」


 一番の前提として今回の戦いの勝利条件はロゼかカイゼルが死なないことだ。二人のどちらかが死ななければサイフォンを王にさせないために行動し続けられる。だが二人共がいなくなってしまえば、サイフォンを止めれるものはいなくなってしまう。


 何よりカイゼルを死なせてしまえばこの国の未来は無い。守るべきはこの国だ。そのためにはカイゼルは生きてもらわなければならない。


 ロゼの言葉に従いギフトが階段を駆け上がる。一緒に行動するならギフトが前衛に立っていたほうが良い。天性の勘かはわからないが、ギフトの索敵能力はロゼの比ではない。油断さえしていなければ近づくことすら叶わない。


 そしてギフトの勘が告げる。このまま上手くはいかないと。ギフトは立ち止まって杖を投げ捨てロゼを掴むと、そのまま手すりに足を駆け階段から跳躍し、ガルドーが追いかける様に飛ぶ。


 その直後階段に向けて矢が飛んでくる。階段とは逆側のテラスから弓矢を番える人間を数名目で捕らえるが、ギフトはそれを無視してロゼの手を引き走り出す。


「ガルドー走れ!構ってる暇はない!」


 言われるまでも無くガルドーはギフトに追従する。出来るだけ戦わずに切り抜ける。立ち止まって相手をするくらいなら、多少危険でも逃げた方が時間を短縮できる。


 だがその思いは通じない。廊下を走る三人の前に一つの影が降り立ち、音も無く近づいてくる。ギフトはロゼの手を離し、単身影に向かって突撃する。


「邪魔だ!どけっ!!」


 ギフトがその人物に向けて蹴りを放つが、その蹴りは男の右腕に防がれる。そして鈍い音を立てて二人は距離を取る。


 ギフトの左足に鈍い痛みが走り、感触から人の腕を蹴ったわけではないと知る。手甲か何かを仕込んでいるのだろう。動きが重くなるだろうに自分の動きに対応された事から警戒心を高める。


 後ろからは直ぐに追いつかれるだろう。ギフトは舌打ちをすると、ガルドーに向けて短く命令を下す。


「ガルドー!ロゼを守れ!俺はここでこいつをぶっ飛ばす!」


 厄介な存在を放置は出来ない。逃げ続けることが可能か。倒すことが可能か。逃げることと戦うことを天秤にかけたときに倒したほうが良いとギフトは判断する。ロゼを守りながら戦うより、一人で倒してから追いかけた方が良いと。


「行け!ロゼ!」


 ギフトが再び影に向けて突進する。勝てるかはわからないが、ここで足止めされるよりロゼだけ先に進ませる。ギフトがカイゼルにあったところでやることは何もない。ならばここで戦うのは自分の役目だ。


 ギフト右足で蹴りを放つが、それは後ろに下がられ躱される。だがそのまま体を捻り地面を蹴って懐に潜り右拳を突き出す。突然距離を詰められたからか影は対応しきれず、腕でその攻撃を防ぐが、ギフトは相手に当たる前に手を開き腕を掴む。


 手甲を仕込んでる相手に殴り続けても痛いだけだ。楽しくもない無駄なことを何度も続ける事はしない。もう一度体を捻って敵を窓の外に向かって投げようとする。


 だが相手もそれを黙って見てはいない。即座に体を回転させてギフトの手を振りほどく。その勢いのまま今度はギフトが蹴りつけられるが、ギフトは体を密着させて自分ごと窓の外へと身を放り投げる。


「後で行く!俺が行くまで死ぬなよロゼ!」


 それなりに高さはあるはずだが、ギフトは自分の心配を一切しない。暗闇の中に自ら飛び込んだギフトは最後までロゼを気にかける。


 ロゼはそれを見届けずに走り始める。心配をしていないわけではない。ギフトだって負けることはあるだろう。だがそれでも今はギフトの気持ちを無駄にしない。


 行けと言われたのだ。立ち止まっていてはギフトに馬鹿にされるだろう。自分がいなければ何もできないのかな?といつものニヤケた面で言ってくるのは目に見えている。


「先に行っている!必ず来い!」


 ギフトに届くかもわからぬ声を張り上げながらロゼは一直線に走り出す。目指す場所は玉座の間。もうじきこの国の運命が決まる。




「随分仲良くなったものだな化物風情が。」


 場所は中庭。落ちたにも関わらず、二人共目立った外傷は見られない。ギフトもこの程度で終わるとは思っていない。この程度で終わるなら自分が警戒する必要などない。


「化物とは言ってくれるじゃないか。俺だって傷つくんよ?」


 言いながら軽薄に笑い、帽子を放り投げて対峙する。大体見知らぬ奴に化物呼ばわりされる筋合いはない。自分の存在がバレているとは思っていたが、化物と評されるのは心外だ。


「俺が化物なら俺と戦うお前も化物だろう?」

「そうでもない。俺は勝機のない戦いはしない。」


 ギフトのこめかみがピクリと動く。自分より強い奴など幾らでもいるだろうが、面と向かってお前に勝てると言われては面白くない。


「勝機があるから戦うだけだ。お前を知らなければ戦わない。」

「へー。確かに俺とは違うね。俺はお前なんて知らないけど勝てると思うよ。」


 傲慢な口ぶりでギフトは話す。挑発に乗ってくれれば儲け物。激高すれば冷静な判断が出来なくなる。どれだけ強いかわからなくとも勝てる可能性は上げれる時に上げるべきだ。どんな手段を使っても。


 そして互いに黙り静寂が生まれる。ギフトからすれば未知の敵だ。慎重に動かざるを得ない。と言っても、敵の強さを測らなければ動きようもない。ギフトは一息で駆け出し静寂を破る。


 主体は殴り。手甲が仕込まれているなら細かな動きの出来る手の方が切り替えが容易い。蹴りの方が威力は高いが足も止まるし、掴まれてしまえば身動きが取れない。振り払う事もできるだろうが、最初からそうならないよう動いた方が良い。


 影はギフトの動きに合わせて前に出る。そしてギフトの右腕を屈んで避けると足元を払うように足を伸ばす。ギフトはその足を踏みつけようと足を持ち上げ踏み抜くが、事前に察知されたか足を引っ込めて廻し蹴りを撃たれる。


 それを腕で防ぐが想像以上の鈍痛に顔を顰めて後退する。腕を振って痛みを抜くかの様な動作を取るが、それだけでは痛みは引いてくれない。


「隠し事がお好きな様で。」


 ギフトの軽口に構わずに、相手は油断せずに構えている。足にも何か仕込んでいる。そのくせ自分の速度と変わらない動きを見せる相手にギフトも認識を改める。


 こいつが一番強い。そうでなければ、道中でもっと苦戦していただろう。こいつより強い奴がいるならば目の前の男を向かわせている。言ってはなんだが、今までの相手は捨て駒に等しい存在だったんだろう。


 認識を改めればギフトも構える。と言っても誰かに習った物ではない。両腕をだらりと下げて相手に向けて上体を伸ばし少し斜めに構える。


 相手からすれば右手が見えない構えを取って、左腕を曲げて手を開く。だらしない表情を引っ込めて敵と認識した相手を倒すために本気で戦う。


 ギフトは体力を残すため後の先を狙う。昼の間なら炎を用いて攻め入ることもできるが、夜に炎を使うには詠唱が必要になる。そして唯一詠唱をしない炎の槍(ジャベリン)は常に右手に魔力を纏わせていつでも打てるようにする。


 魔力を纏わす事で体や物をより硬化する事ができる。強いものなら誰しも使う魔力の操作だ。ギフトはまだこれに慣れているわけではない。せいぜい一部分。または持っているものだけしか纏わせることができない。


 だが、これでギフトは近距離で殴ることも、遠距離から魔法を使う準備も出来た。後はこの集中を切らさないことだけだが、戦いの最中に油断するほどギフトも舐めてはいない。


 それは相手も同じこと。ギフトが本気になったと見るや、重心を落として回避行動を優先しようとしている。それにギフトは違和感を覚える。自分で言うのもなんだが、隙だらけだと知っている。だからこそ相手は油断してくれるのだが、より警戒を強めている。


 ギフトの右腕に魔力が集まっていることがバレているのかとも思うが、視線が右腕にいっていない。もしギフトの魔力の流れに気づいているのなら、視線がどうしても行くだろう。視線がいかないくらいなら、警戒する必要もない。


 他にも可能性はいくつか考えられるが、ギフトはここで一つ思い出す。それは過去に潰した筈の傭兵団で、今は存在しない過去の亡霊。


「なるほどね。噂は本当だったのか。」


 (ファング)は潰れた。それは人伝に聞いた話ではない。間違いなく自分が潰したのだから間違いようはない。それでもその噂が流れていることが不思議だった。人違いだと思っていたが、この男の反応を見てその可能性もあると思える。


「お前、(ファング)の生き残りか。」


 残虐非道な集団は、傭兵に睨まれ討伐の対象となった。その生き残りは笑みを浮かべてフードを脱ぎ去る。顔の上半分が焼けただれ、常人なら悲鳴を上げる顔でどこまでも楽しそうに亡霊は笑う。



続きは明日10時。

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