45 戦闘開始
「先ず、どう攻める?」
三人娘と別れ、ギフト達は城門の前で身を隠している。正面突破でもギフトは構わないのだが、無駄な戦闘は避けるに越した事はない。かと言って城をぐるりと囲っている城壁はどう見ても越えられそうな高さではない。
「とりあえず正攻法かな?ロゼが行って入れるならそれで良いし。」
「お前達が入れないなら?」
「ごねよう。無理なら悪いけど殲滅戦に切り替えだ。」
「本命にたどり着けるか?」
「そうなったら俺が目を引く。ガルドーはロゼに付いて行け。」
ロゼが門の騎士に事情を話して入れるならそれで良い。問題はロゼだけが入ったところで罠の可能性も考えられることだ。
何かあったときすぐ動けるようにできるだけ一固まりで動きたい。多少の無理を通さなければここから先勝つことが出来ないだろう。
「基本ガルドーとロゼが一緒に行動。俺は隙見て適当に動くわ。」
「作戦と呼べなくないか?」
「俺はそういうの考える人じゃないの。それとも良い作戦があるなら教えてくれ。」
そう言われてロゼは考えるが、確かにロゼもギフトも作戦を立てて行動する性格じゃない。ロゼは指揮官となるための努力はしたが、その成果は芳しくない。
一縷の望みをかけてガルドーを見るが、無言で首を横に振り何もないと意思表明する。そもそも冒険者が国に攻め入るようなことするはずもない。洞窟などの魔物を倒すことはあれど、単純な魔物と人とでは戦い方も大きく変わる。参考にはなりはしない。
「別に構わんだろう。どの道作戦通りに行くとは思えん。」
「それもそうか。」
作戦を考えてそれに縛られるくらいなら、無い方がマシかも知れない。そもそもこちらはギフトを自由戦力と考えて勝手に暴れまわってくれた方が動きやすいだろう。
負担はギフトが多いが、それをギフトが気にしていないしロゼ達もギフトの事を信用している。何かあっても一番対応力が高いだろう。
「負担をかけるが、頼むぞギフト。」
「任せとけって。」
親指をグッと立てて頼もしいことを言ってくれる。ロゼはそれを見やると身を翻し、門に向けて進み始める。その後ろをギフトとガルドーが付いて行き周囲を警戒する。
門の前に立ちロゼ達に向けて槍が向けられる。が、直ぐに顔を驚愕の色に染め上げ、槍を直し声を絞り出す。
「ロ・・・ローゼリア様・・・?」
「そうだ。今帰った。門を開けてくれぬか?」
淡々と何事も無い風を装って会話をする。この者達がサイフォンに組みしているかどうかわからない以上、気軽に話せることではない。何があったのかは離さずこちらの要望だけ通すつもりだ。
「い、いえ!申し訳ありませんがそれは出来ません!」
「何故だ?」
「その・・・サイフォン様からの言伝なのです。えっと・・・。」
「構わん申せ。」
何か良からぬ事が起きている。それを直感が告げるも聞かねばならない。サイフォンなら自分が生きていることを確実に知っているだろう。そしてそれを誰にも教えていないはずだ。
「・・・ローゼリア様が反旗を翻すおつもりだと。城の内部に入れれば確実にこの国が沈むと・・・。」
怒りを通り越して呆れ果てるような言葉を門番に掛けられる。どうせそんな事だろうとは思っていたが、流石に子供騙しの言葉ではないかとも思う。
門番たちも信じきっている訳でも無いだろう。現に今槍を向けようとしていない。サイフォンよりもロゼの方が人望があるのは明白だ。
「それは嘘だ。むしろサイフォンがこの国を乗っ取ろうと企んでいる可能性が高い。」
「なっ!?・・・それは本当ですか?」
「本当だ。妾がサイフォンを止める。門を開けてくれ。」
そう言われても門番は動けない。サイフォンよりロゼの方が信じられる。ロゼは王族とは思えないほど人に優しく接していた。横暴な態度を一切見せないロゼを無碍にする騎士はこの城には存在しない。
だが、そうは言ってもサイフォンも使えるべき主人の一人だ。ここでどちらかを信じると言う判断は出来はしない。どちらが嘘を吐いているのか今判断できないなら現状を維持したいと思うのが人間だろう。
「・・・ロゼ。」
どう説得するかを悩んでいるロゼにギフトが上を見上げながらボソリと呟く。ロゼは溜息を吐いて門番に笑いかける。
「すまぬな。せめてお主らに危害が加わらないことを切に願う。」
時間をかけてはいられない。門の前で話し込めばいつか人目に付くだろう。ここまできて先手を取られたくはない。失敗は許されないのだ。立ち止まっていては何も成せない。
ロゼは門番に背を向けて距離を取る。その後ろをギフトとガルドーが付いて行き、ある程度離れた位置で立ち止まり振り返る。そして門番には聞こえない声で何事かを話し合っている。
「周りに人はいない。最大火力でぶち破るぞ?」
「・・・被害は抑えてくれ。」
「城門だけしか壊さないから安心しろって。多少派手だけどな。」
笑いながら言ってくれるがそれは一つも安心できない。城の守りなどギフトにかかれば無いも等しいと言われているのだ。これから先住むことに不安も覚えるだろう。
かと言って守りが硬すぎて自分達が攻め入ることも出来なければそれも困っていただろう。複雑な心境でロゼはギフトのする事を見守ることにする。
「さあさあ王のお通りだ。暴虐と炎を司り、全て壊して灰にしろ。」
ギフトは門に杖を向けて言葉を紡ぐ。荒れ狂う魔力が可視化され、ギフトの周りの空気が歪む。戦いの最中に魔法は使えないが、止まって集中していれば使えないことはない。ギフトは目を閉じ静かに紡ぐ。
「王が通りしその道は、万物燃やして黒ずんで、振り向いた時には死の世界。」
殊更楽しそうにギフトは謳う。こんな魔法は使えないと思っていたが、人生何が役立つかわからないものだ。城を攻めるつもりで考えた訳でもないが、この場に相応しい魔法だと思える。
「夢と現の狭間にて、領域乗り越え業火を齎せ。この世界に破壊を知らしめろ!」
そして現れるは炎の巨人。ギフトの破壊を象徴した、炎で模られた魔力の塊。ギフトが用いる魔法の中でも最上位の威力を持った使えない魔法。
その姿に見るものは目を見開き動けなくなる。この場の誰も見たことがない魔法をギフトは笑って行使する。それは楽しそうに、子どものように。
「俺の名はギフト!俺の意に従い絶望を届けろ!炎帝の破城槌!!」
炎の巨人は大きく腕を振りかぶり城門に向けて真っ直ぐ拳を放つ。巨大な炎の塊は夜の闇を払い、静寂を突き破る轟音を奏で、城門にぶち当たりその姿形を無くす。
門が煙を上げて崩れ去る姿を少し離れた位置で見ていたロゼは憮然とした表情だ。自分の魔法の上位版といっても良い魔法を平然と行使され、その強さをまざまざと見せつけられれば面白くもない。
今それを言うべきことではないのはわかっているから口には出さないが、どうしても自分と比べてしまう。
「行くぞロゼ!ここで終わりにしろ!」
ギフトはまだ完全に崩れ去っていない門に向けて走り出す。奇襲を仕掛けたのなら相手に余裕を与えないうちに叩き潰すのが上策だ。その為に夜に戦うことを選択したのだから、ここで相手に構えさせるべきではない。
ロゼはその声に反応して門に向けて走り出す。どんな思いを抱こうが、先頭の火蓋は切って落とされた。もう後戻りは出来はしない。自分の未来を掴み取るため、ロゼは城に向かって走り抜け門を超えて戦いの舞台に降り立つ。
続きは明日10時。