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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 三部 ~届け屋~
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41 疑いの目

 ギフト達は路地裏で少し休憩し、体に篭った熱を放出する。汗をかいた体を風が撫でて体を冷やす。その心地よさに思わず目を閉じる。


「休憩は短いぞー。早く行くぞ?」

「お前の所為であろうが。汗ばんだ状態で街を徘徊したくないぞ?」

「行く場所は決まってるから大丈夫だよ。」


 ギフトはそう言って壁に背を預けてもたれかかる。急げとは言ったが少しくらいは待ってくれるのだろう。ギフトは炎を操るからか暑さに慣れているのだろうが、他の者はそうはいかない。ガルドーも汗を拭って息を吐いている。


「砂漠を思い出したな。」

「俺も一回行ったことあるなー。あれは辛そうだね。」


 飄々とした態度のまま煙草に火を点け全員が動こうとするのを待つ。程なくして全員が息を整え不承不承ながらも歩き始める。


「で、どこへ行くのだ?」

「知り合いの場所。たぶんいると思うんだけど、いなかったら冒険者ギルドに行くしかないかな。」


 ギフトは王都に限らずこの国に知り合いなどそういない。昔一度だけ立ち寄った時は直ぐに出立したし、それ以降この国に来たことはない。


「知り合いが居るのか?その者は力を貸してくれるのか?」

「昔の約束を覚えてたら、匿ってくれるとは思う。忘れられている可能性もあるけどね。」


 周囲に気を配りながら目的地に向かって歩き続ける。巻き込むことは忍びないがここで下手に邪魔をされるくらいなら身を隠す場所があるに越した事はない。断られたら仕方ないが、宿に泊まるよりかは幾らか動きやすいだろう。


 街の路地裏をこそこそと抜けて、最初に居た場所とは毛色の違う場所に辿り着く。昼中にも関わらず人の通りが少なく、外にいる者も肌を露出させた女性が多い。


「ねぇ。こっちであってるの?」

「あってるよ。たぶんね。」


 確証を得ない言葉で濁す。ギフトも来たことはない。聞いた話でここにあるという事しか知らないので、確信を持って言い切ることができないのだ。


 路地裏で五人を待機させ、ギフトは通りに出て女性に声を掛ける。


「こんにちわお姉さん。」

「あら?どうしたの?」

「道に迷っちゃったのさ。赤い鳥の止まり木って店ある?」

「それならこの道をまっすぐ行けばいいわよ。看板に書いてあるからすぐわかると思うわ。」

「分かった。ありがとねお姉さん。」

「どういたしまして。今度は私に用事を持って話しかけてね。」

「お誘いにはいつか答えるよ。じゃあね。」


 下心も下衆な考えも微塵も持たず、必要な事だけ聞くとギフトは早々にその場を離れる。そのまま仲間の元に戻るとガルドーを除いた面々から白い目を向けられる。


「あっちだってさ。」

「・・・ねえ。本当にあってるの?」

「大丈夫。ちゃんと確認取れたし。」


 どう考えてもギフトが向かおうとしてる先は色町だ。と言うより既に色町に入っている。まさかとは思うがギフトが何かよからぬ事を考えているのかと思わず想像してしまう。


 三人娘が少し戸惑い、足を踏み出すのを躊躇っているとロゼがギフトに近づき不審な目を向ける。この状況で遊ぶつもりならそれは黙って見てられない。


「お前の知り合いとは女性か?」

「ん?んー。男もいるし女の子もいるかな?」

「・・・女の子?」

「昔の話だからねー。今は女性になってるかもね。」


 出会ったのは随分前だ。男の方は覚えてるかもしれないが、女の子の方は自分を覚えているとは思えない。出会いも決して良いものとは言えなかっただろうし、覚えていなくても不思議ではない。


 ギフトは別に思うところは無い。女の子がどんな風に成長しているのかは見てみたいがそれ以上の気持ちは無い。だが本人の気持ちとは裏腹に邪推をするものが人間というもので。


「・・・子ども好きか?」

「なんか含みある言い方だなー。何もないって。」

「色町の女性と知り合いとか。別にいいけど。」

「あれ?お話を聞いてよ。」

「男性なら仕方ないこと。」

「そ、そうですね・・・。いえ別にギフトさんが変態とか言っているわけでは・・・。」

「お前らの気持ちは良くわかった。」


 溜息を吐いてギフトは目的地に向かって歩き始める。その後ろを足取りは重くても離れるわけには行かないと付いて行く女性陣。ガルドーは男なら構わないだろうと思っているが口に出す愚行は侵さず黙っている。


 そして歩くこと数分。目的地に辿り着く。そしてそこは想像通りに色町の中に存在し、ギフトに対する目が余計に鋭くなる。


「仕方ないだろ!俺の知り合いがここにいるんだから!!」


 流石にその目が鬱陶しくなり訂正の声を求めるが、それに返答は無かった。


 こうなったら本人に直接否定してもらおうと、ギフトはドアを叩き反応を待つ。暫くすると服を着崩した色気のある女性が扉から顔を出す。


「な~に~?今は閉店よ~?」

「オードンかユーリィはここにいるかな?」

「・・・?借金取り~?クリーンな経営してるわよ~?」

「ただの知り合いだよ。ギフトが来たって言えば多分分かると思う。」


 ちょっと待てと間延びした声で告げられて建物の外で待つ。すると中からいきなりドタドタとした人が走り抜ける音が聞こえてきて扉が勢いよく放たれる。


 扉を開けた女性は黒い髪が緩く巻かれており、この色町に相応しくはない、色気のある女性というよりかは可愛げの溢れる若い女性だった。


 服も露出は少なく、普通の服を着ている。一見すれば地味とも取れる服装だが、可愛げのある顔立ちがその雰囲気を塗りつぶす。


 ギフトと目が合うとその女性は大きく目を開き、暫く唖然としていたが、やがて目に涙を溜めて声を漏らさず涙を零す。


「・・・最低。」

「クズだな。」

「酷い。」

「ありえません。」

「本当言いたい放題だなお前ら!!」


 四人それぞれに罵倒されて堪忍袋の尾も切れる。泣いている理由など分からないが、確かに傍目から見れば、ギフトが泣かせたと取られてもおかしくは無い。


 ギフトが振り向いて四人を黙らせようとすると、直後に体に衝撃が来る。あまりに突然な出来事にギフトは数歩進むと首だけ後ろに向けて衝撃の発生源を見る。


 そこには予想通り女性が涙を流しながら抱きついていた。そして今言われたくはない言葉をギフトに投げかかる。


「お会いしたかったです!ギフト様!!」


 頬をヒクつかせて涙を見せながら笑う女性の顔を見る。そして徐々に眉間の皺が解かれて女性の顔をまじまじと見つめる。


「え?もしかしてユーリィ?」

「そうです!ギフト様に助けていただいたユーリィです!!」

「マジ?大きくなったなー。」

「はい!お陰様でこんなに大きく育ちました!!」


 より力強く抱きついてくるユーリィにギフトは驚きを隠せない。確かに出会ったのは数年前だが、成長しすぎだろう。年齢など分からないが、もっと子どもだったし、ここまでハツラツとした正確ではなかった気がする。


 ギフトが不思議に思っていると奥の方から口髭を綺麗に揃えた髪をオールバックにした男性が現れる。ギフトとは対照的なかっちりとした服を着こなした、落ち着いた雰囲気のある男性だ。


「・・・これは、驚きました。お久しぶりですギフト君。」

「・・・お前は変わってなくて安心したよオードン。元気かな?」

「お陰様で。あの時はお礼が出来ずに申し訳ありませんでした。」


 腰を綺麗に追ってお辞儀をするオードンにギフトはヒラヒラ手を振って気にするなと合図をする。その仕草にオードンは微笑んで姿勢を正す。


「変わっていませんねギフト君は。」

「そう?これでも結構変わったんだけどな。」

「本質が変わっていないんですよ。立ち話もなんですし奥へどうぞ。そちらの皆さんは?」

「同行者だよ。一緒にいいかな?」

「構いませんよ。どうぞこちらへ。」


 手招きされてギフト達は建物の中へと入る。ユーリィはギフトから離れず話し続け、それにギフトが答える度に笑顔を見せる。その様子を全員が黙って見ているが、疑惑の目は向けられたままだ。


「ギフト様?この人達はギフト様の友達ですか?」

「ん?まぁそんなところかな?」

「そうなのですか?何か言いたそうにしていますが・・・。」

「ほっといていいよ。どうせ俺の事変態とか思ってるから。」

「最低な人達ですね。」


 ユーリィはプイット女性陣から顔を背けるとギフトとまた話し始める。何かのボルテージが上がっているのだがギフトはそれを気にすることなく、むしろいい気味だと言わんばかりに笑顔でユーリィと会話する。


「何が最低よ。騙されてるんじゃないの。」

「ギフト様の表面しか見ていないからそう言えるんですね。心の浅さが目に見えます。」

「はぁ?あんたこそ本気で言ってるの?」

「本気ですよ?ギフト様以上に尊敬できる人はいません。」

「良い事言った。ユーリィは良い子だなー。」


 ユーリィの言葉に気を良くしたギフトが頭を撫でる。子どもにするような動作だがそれでもユーリィは嬉しそうに笑い上機嫌になる。


 その様子をガルドーは溜息を吐いて見守る。何も態々神経を逆なでするような事を言わなくてもいいだろう。ギフトにそのつもりがあるかないかは知らないが、目に見えて機嫌が悪くなっている。


「ふむ。確かにギフトは尊敬できる面は多々あるな。」


 そこにロゼが別段気にすることなく発言する。この中で一番付き合いが長いのはロゼだ。良い所も悪い所もいくつか見てきた。


 ロゼはどちらかといえばユーリィよりの意見だ。命の恩人でもあるギフトを悪く言われて腹が立ったこともある。言いたいことは理解できるつもりだ。


「だが、それだけでもあるまい。嫌な部分に目を背けてはいかんぞ。決してギフトも完璧ではない。」


 正論であるが故に人を黙らせる一撃。全てを含んで言わなければ重みがない。そんな言葉に意味はないということをロゼは知っている。


「ロゼはもう少し人の気持ちを考えような。」


 だがそれは今言う事ではないだろう。ユーリィは頬をむすっと膨らまして、リカは自分の子どもっぽさに後悔を覚える。


 そしてギフト達は招かれるまま奥の部屋へと入る。そこで最初に行われたのは言われたことの意味を理解していないロゼに訥々と説教をすることだった。


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