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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 一部 ~邂逅~
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4 冒険者ギルド

「見た目あんまり変わらないんだな。」


 目的の冒険者ギルドにたどり着き、ギフトが放った第一声はそれだった。三階建てだからか周りの建造物より少し背が高く、木の柱ときの壁で作られた、他が石造りの建造物が多い中、明らかに作りが一つだけ違っていた。

 立派な建物ではあるが華やかさは無い。どこか無骨な印象が醸し出されている。


「国じゃなくて冒険者を相手にするからな。見た目や中身は変わらない方が使いやすいだろうってことさ。」


 ダリオの言葉にそんなもんかと軽い相槌を打つ。

 冒険者ギルドは国に属しているわけではなく、あくまでも自立した存在だ。国の中に別の国が存在していると言ってもいい。

 冒険者たちは国や個人からの依頼を受けて、それをこなす事で報酬をもらい生計を立てている。その時に国のしきたりなどで縛られないよう、国とは独立する必要があった。

 魔物という脅威がある以上、騎士や衛兵だけでは人手が足りない。自由に各国を移動する人間は必要だ。

 その分制約は存在する。国同士の戦争には干渉してはならないとか、冒険者ギルドや国に不利益を被らせたりしてはいけないなど。

 一見自由に生きてるように見えて様々な鎖に繋がれるのが冒険者だ。自分の国と別の国が戦争を起こした時、力があるのに見ていることしか出来なくなる。

 と言ってもそこまで愛国心のあるものは態々冒険者になどならない。旅が好きなだけならギフトのように冒険者ではなく旅人になり、自分の国を守るために戦いたいなら騎士になる。

 それでも冒険者になるものは、一攫千金を狙うものや、何らかの事情で国を追われたもの、小さな国で一生を終えるのを嫌ったものなどが主になる。

 様々な人種が冒険者ギルドに所属しているなら、違う場所に行ったときその構造が変わっているのなら不便になるだろう。それを見越してギルドは一律似たような建物になる。


 だが、ギフトにはそんな事情は関係ない。外見を眺めるのもそこそこに早速扉を開けて中に入る。

 そこにはダリオと同じくらい筋肉質の男や、線の細い杖を持った老人。軽装の女性もいる。多種多様な人が存在し、情報収集に励むもの、舐められないよう睨みを利かすもの、英気を養うため馬鹿みたいな量の食事を食べるものと様々だ。

 見知らぬギフトを睨むものもいたが、それらに一瞥くれてやることもなく、空いてあった椅子に座る。備え付けのテーブルからメニュー表を取り出し、真剣に眺め始める。


「堂々としてんな。注文が決まったら呼べよ。」


 誰も意に介さない態度が気に入ったのかダリオは笑いながらギフトの頭に手を置き、厨房へと消えていく。メニュー表には絵はなく、文字ばかりが並んでいる。大概が『〇〇肉の〇〇焼き』ということしか書かれてなく、食材の有無をあまり知らないギフトには味の想像がつかなかった。

 メニュー表を注意深く見ていると、アルフィスト王都名物『ホーンブルのピリカ焼き』と言った内容が目に止まった。名物なら頼まざるを得ない。後は他のスープや野菜をどうするかだ。


「おい、お前。見ない顔だな?新人か?」


 ギフトが真剣な顔で注文を選んでいると、黒い髪を逆立て額にバンダナを巻いた、大きな槍を背中に背負った目つきの鋭い男が話しかけてきた。しかしギフトの耳には入ってこない。彼は今自分の世界に没入しているのだ。


「おい魔法使い!お前に聞いてんだよ!」


 その様子が気に入らなかったのだろうか、男はギフトの座るテーブルを蹴りつける。それでもギフトは動じない。黙々と注文を決めるためにメニュー表から目を離さない。


「てめえ、いい度胸だ、表に」

「おっちゃーん!注文決まったよー!」


 男のことなど眼中になく、ギフトはダリオを呼びつけようとする。周りで見ていた者達は一斉に笑い出す。

 声をかけても無視され恫喝すらも無視されたその様子は傍から見れば滑稽に映ったのだろう。声をかけた男は唖然とした表情を屈辱の色に変える。

 やってきたのはダリオではなく若い女性だった。エプロン姿のよく似合う茶色の髪を後ろで纏めただけの女性は、場の雰囲気に飲まれる事なく、ギフトから注文を受ける。


「ホーンブルのピリカ焼きとコーンスープと後蒸し鳥サラダを頂戴。」

「あ~すみません。今ホーンブルが在庫切れなんですよ。」

「・・・名物なのに?」

「名物なんですけどね。最近生息地が変わったのか、仕入れが難しくなったんです。」

「呑気に話してんじゃねえ!こっちを見やがれ!!」


 やってきた女性と会話をしていた所に男が怒鳴り声を上げる。すると初めてギフトはそちらを見上げる。そしてそのまま女性の方に向き直り、


「じゃあなんか肉系で美味しいものお願い。」

「こちらのおすすめでよろしいですか?」

「よろしいです。ダリオさんに手を抜かないよう伝えといて。」


 女性はそんなことしませんよと言いたげに笑いながらその場を去る。後は待つだけだ。何が来るのか楽しみにしながらギフトは帽子をテーブルに置き、頭の後ろで両手を組む。

 するとギフトからすれば突然、周囲からすれば当然だが胸ぐらを掴まれる。


「舐めてんじゃねぇぞ新人!」

「・・・誰?新人?」


 ものすごい剣幕で怒鳴られるが、ギフトには身に覚えがない。目の前の人物も知らないし、新人もなんのことだかわからない。至って冷静に聞き返したのだが、男の怒りは収まっていない。


「冒険者のルールも知らないのか?先輩が声かけたのに無視してんじゃねえぞ!!」

「そんなの知るわけないじゃん。俺冒険者じゃないし。」

「今から登録するんだろうが!」

「・・・何の話?」


 男が知らないだけでギフトが冒険者の可能性もある。そもそも冒険者になるかどうかもわからないはずなのに、全てを決めつけ怒鳴る男にどんどんとギフトにも苛立ちが募り始める。


「お前が誰だか知らないけど、とりあえずその手離せ。後、息が臭い。と言うか全身が臭い。飯を食うのに不快だ。どっかいけ雑草頭。」

「やんのかこの野郎!!」


 一瞬で喧嘩腰になった二人に周囲が盛り上がる。喧嘩などここでは日常茶飯事だ。周りのものも慣れている。ギフトは掴んである手を振りほどき、男を冷めた目で見つめる。


「やんのかって?最初に喧嘩売ってきたのはお前だろ?今更びびったか異臭を放つ雑草が!」

「お前にここのルールを教えてやるよ・・・!強い奴には逆らうな!!」


 冒険者ギルドにはランクが存在する。頂点をSSSとし、最下層がF。あくまでも目安でしかないが、冒険者たちの大半はそのランクを上げるために依頼をこなす。ランクが上がれば名声を得ることもできるし、どこに行こうとそれなりに幅を利かすこともできる。

 男はBランク。それなりに上位にいる存在で、自分が強いという自負もある。それが舐められたままではいられない。名も知らぬ奴に無視されたとあっては、今後の活動に支障を来す可能性もある。

 強さだけでのし上がるのが冒険者。知力か武力かの違いはあれど、自分の力を誇示したいのはギルドに所属するものなら、多くが思っていることだろう。


 男の前蹴りを、ギフトは身を捻りそのまま右足で廻し蹴りを頭部に向けて放つ。それは腕で防がれるが、相手の体が少し揺れた隙に右腕を真っ直ぐ顔面に伸ばす。

 男にとって予想外だったのは魔道士の様な帽子を被っていて、杖のようなものを持っているくせにギフトの体術はかなり優れたものだったことだ。

 ギフトの右腕を左手で弾き、二人は互いに距離を取るため後ろに下がる。お互い様子見は終わった。本当の喧嘩は今から始まる。

 それを見ていたものも、想定以上の攻防に固唾を呑む。目つきの悪い男はそれなりに有名だ。素行の悪さはあれど、実力は確かなものがあるのを知っている。

 それについていく赤毛の男は一体何者なのか、周囲が響めく中、二人は互いに相手を倒すための手を模索する。しかしそれは長くは続かなかった。

 互が同時に詰め寄り、両手で押し合う。力比べは望むところと一切引くつもりはない。力は均衡し、相手を睨む目だけが強くなる。


「やるじゃねえか・・・。ただの新人じゃねえな?」

「お前もただ声がでかい訳じゃねえんだな。」


 にらみ合いながら不敵に笑い合う二人。そこにいつの間にか近づいていた一人の男。

 その男は二人の頭に拳骨をかまし、地面に叩きつける。


「食堂で暴れてんじゃねぇ!!ここは飯を食うところだ!」


 ダリオは拳を握りそう怒鳴り散らす。いらぬ介入で周囲が冷めた目をしているが、それらに視線をやるとそれぞれ視線を逸らし、自分たちの席に戻る。


「赤坊主!それ以上暴れるなら飯作らねぇぞ!」

「それだけは堪忍を!もう暴れません!わんわんっ!!」


 ガバッと起き上がり懇願するギフト。許可を出せば本当に犬のように椅子に座りじっと待っている。


「お前もだアッシュ。見知らぬ奴が来たらとりあえず噛み付くのやめろ。」


 倒れ伏したまま目つきの悪い男、アッシュにその言葉が聞こえたかはわからないが、それだけ言うとダリオは自分の仕事をするために厨房へ戻る。

 ギフトはそれを見ながら、ダリオが冒険者をやればいいんじゃないかと思ったが口には出さなかった。




続きは明日。

誤字脱字は気をつけていますが、

あれば報告お願いします。

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