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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 三部 ~届け屋~
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37 炎の中で

 それは少し前炎の壁に囲まれた中で、ギフトはやれやれと溜め息を吐く。


 いくらなんでもこの規模の魔法は長続きしない。普通の人間より魔法の効率化は行えてるだろうが、保有する魔力の関係で自分から離れた位置に炎を出し続けるのは疲れる。


 戦えなくなるまで続けるつもりは無いが、疲労が溜まる事を戦闘意外で使うのは愚の骨頂。戦闘が開始されてから話し合うのも実に愚かな行為だ。


「それで?ロゼはあいつらを殺すなって?」

「あ、ああ。そうだ。」


 ギフトの行動に一々驚いてたらキリが無い。とはいっても流石にこれは無理だろう。


 これだけの魔法を詠唱をせずに出来るのは、やはりギフトの正体に由来しているのか、その力は凄まじい。


 思えばロゼはギフトが本気で戦っている場面を見たことがない。直接戦ったときも本気だとは思えないし、そもそも夜だったからギフトは人の状態だった。


 実力の底の深さに身震いはするが、相変わらず怖いとは思わない。その力を無造作に振るうことは無いと信じているからだ。


「無理があるぜ?そもそも俺に喧嘩売っといてただですまそうなんざ虫が良い話だ。」

「そこを曲げてくれ。と言うか何故殺す必要がある?」


 面倒臭そうに後頭部を掻きながら押し黙る。


 ロゼはギフトが人殺しを好んで行うとは思っていない。もしそうなら今までにもっと死者が出ているはずだ。


 戦闘になれば容赦はしないが、それ意外では優しい奴だ。自分の事を悪く言われようが受け流す。


「お前は人を殺したいのか?」


 ロゼはギフトに更に問いかける。それでもギフトは何も語らない。


 ギフトも別に人を殺したい訳ではない。殺さずにすむならそれが一番だとは思っている。


 だが、現実はそれを許してくれない。甘さを見せたものから死んでいく。目の前でも何度も見てきたし、自分でも実際に経験したことがある。


 ギフトは目を瞑り思考する。自分の甘えや弱さが自分を害するならそれは仕方ない。自分の責任と割りきれる。


 ただ今回敵に情けをかければ傷つくのはロゼで、自分ではない。自分の甘えが他人を害するなどあってはならない。もう決めたことだ。


「俺はもう割りきってんだよ。人生ままならねぇことは沢山ある。」

「かもしれぬな。だからどうした。」


 ロゼはギフトから一切目を逸らさない。ギフトは真っ直ぐに向かえば向き合ってくれることを知っている。


「妾は諦めたくはない。それしか方法が無くともだ。」


 前を向かせてくれた恩人に目を背けて生きていくことは出来ない。割りきったと言ってもそれは非情になれたと言うことではない。


「お前はどうだ?我を通すか、通さぬか。単純な事ではないか。」


 ロゼはキッパリ言い切る。もしギフトがただの悪人ならこんなことは言えなかっただろう。


 そうではないことを知っている。例えギフトが我を通しても、それは決して無関係な人間を不幸にはしない。


 二人の睨み合いは続き、先に折れたのはギフトの方だった。


「甘いね。甘すぎる。いずれ現実を知って心が折れる。お前はそう言い続けて生きる事の辛さを知らない。」

「ああ、妾は知らない。」

「いつかその甘さは自分だけでなく周りの人間も殺すだろうな。お前が甘えたせいで人が死ぬんだ。」

「ああ、かも知れぬな。」

「そしていつか、」


 ギフトはそこまで言うとふっと息を吐く。諦観の色が見えるその顔は、本当に呆れたようで、それでいて少し嬉しそうな。


「その甘さは誰かを救うかも知んねーんだよな。本当、人生ってのはままならないもんだ。」


 両手を上げて降参のポーズを取る。人生なんて何が起こるかなど誰にもわからない。ギフトは自分が正しいと信じて生きているが、それは他人を否定するためじゃない。


 むしろ他人を肯定したいのだ。自分以外の誰かはどんな人生を送るのか。甘い人生を突き進もうとするロゼは一体どんな人生を迎えるのか。


 自分が選ぼうとして選べなかった道を生きるロゼはこの先何を成すのか見てみたい。ギフトは未知を知りたがる。知らないことを知る機会があるのならそれは試してみたくなる。


「茨の道だぜ?殺したほうが楽だって気づいちまう時が来る。」

「いつまでも悩み続けたいものだ。妾は馬鹿だが考えることくらいはできるさ。」


 いつから決めていたのだろうか。いつからここまで自信満々に言い切ることが出来たのだろうか。自分の知らないところで勝手に強くなる。ロゼはギフトが思っている以上に子どもだった。


 だからこそギフトの考え以上に早く成長し、ギフトの事を考えられる様になったのだろう。もし、ロゼがギフトに出会わなければこんな思いは抱いてはいない。


「妾を変えたのはお前だギフト。悪い所を悪いと言ってくれたから変われたのだ。妾はお前に苦しんでほしくはない。その為なら妾はどれだけ苦しもうとも構わない。」


 拳を胸に当て背筋を伸ばす。隠し事をするつもりはない。ギフトに受け止めて貰えないのならそれはロゼの言葉に力が無いだけだ。


 ギフトは自分の為と嘯いているが、結局ギフトは自分の為だけに戦うことはそうそう無い。手を出してくるならその限りではないが、売られた喧嘩を買っても命を奪うつもりはない。


 相手が殺意を持って襲ってきても自分一人なら全力で逃げるだけで、戦うつもりなんて一切ない。守りたいものがある時だけ逃げずに戦う事を決めている。


 ロゼと三人娘を守るためなら敵に情けをかけてる余裕はない。可能性を減らすためなら止むなしと考えていた。


 だが、ロゼはそれを嫌がる。皮肉にもギフトは最初にロゼに出会った時と同じことを突きつけられている。


 自分一人で背負うな。頼れ。そうロゼは言っているのだ。偉そうに説教しておきながら、今度は自分が説教されている。しかも同じ理由で。


「だっせえな。」


 ボソリと呟き。覚悟を決める。だがそれだけでは足りない。我を通すなら力が要る。ギフトは自分に我を通すだけの力があるとは思っていない。


「分かった。今回はお前の意見を聞いてやる。」

「・・・そうか!ありがとうギフ」

「ただし!条件がある。」


 ロゼの言葉を遮り指を突きつける。その条件を満たすならばこれから先も聞いてやってもいい。出来ないならその言葉に力はない。虚しく耳を通り過ぎるだけだ。


「この状況を切り抜けて見せろ。それが出来ない位弱いなら、俺にも守りきれる自信はない。俺は一切手伝わないし、ガルドーにも手出しはさせない。」

「・・・。」

「我を通すなら力が必要だ。弱いくせに文句を垂れるな。この世界は強い奴だけが生き残る世界だ。」


 ギフトはヘラヘラした表情を見せず、ロゼに語りかける。冗談でも何でもなく、ギフトはそう思っている。傭兵団に入る前も、入った後もそうやって生きてきた。


 特殊な傭兵団であったが、彼らは理想の為に強くなることを惜しまなかった。どんな状況でも信念を貫く心の強さも持っていた。


 それがロゼが持っているかどうかをギフトは知らない。いずれ強くなるだろが、それは今ではない。少なくとも今ロゼがこの状況をどうにかできるとは思っていない。


 気持ちだけで勝てるなどギフトは考えていない。試すべきは力ではない。ギフトにとって強さとは振り翳すものではなく、秘めるものだ。その強さは死の淵に立つことで初めて見える。


 だが、それを邪魔するものが現れる。


「だったらその戦い私たちも参加するわよ。」


 リカが腕を組んで声を上げる。ギフトがひと睨みすると一瞬ビクッと体を震わすが、すぐに気丈に振る舞う。


「な、なによ!睨まなくてもいいじゃない!」

「これは俺達の問題だ。関係ないなら黙ってろ。」

「そんな訳にはいきません!ローゼリアさんを見捨てられません!」

「私たちは紛いなりにも一緒に旅をしている。冒険者は助け合うもの。袖振り合うも多少の縁。」

「俺が最初に言ったことを覚えているか?」


 ギフトは三人に向き直り凄む。力の片鱗をまざまざと見せつけられているこの状況で睨まれると体が竦む。


 引いてはならないと頭で理解していても、本能がそれを拒む。ロゼがギフトと言い合えている理由がわからないくらいには圧倒的な存在感がギフトにはある。


 だが、それは直後に霧散する。ギフトにとって三人はまだ測りきれてない部分が多すぎる。ガルドーもそうだが、見定められるときに見定めるべきだ。


「ただ、俺は嘘を平気で吐く事がある。やって見せろ。」


 そしてギフトは指をパチンと鳴らし、炎の壁を消し去る。飛んできたナイフを見ることもなく止めるとギフトはガルドーを除いた四人に問いかける。


「ロゼ。お前らも本当に良いんだな?」


 それは自分達の意思を示せと言う言葉。その言葉に答えられなければ全てが嘘になる。自分達の言葉を嘘のないものにするためにはここで答えなければ、戦わなければいけない。


 それぞれがそれぞれの意思を示して、敵に向かい合う。誰ひとり迷うことない思いを抱いて。


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