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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 三部 ~届け屋~
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36 甘い男

「随分と仲良くなってんのな。」


 ギフトが大きな鹿を抱えて女性陣の元の帰ってきた。


 ロゼは驚くことは無かったが、他の三人はその獲物の大きさに驚く。狩りはそれほど簡単でもない。何も取れないこともザラにあるのに平気な顔で大物を仕留めてきたのだ。


「血抜きはしておるか?」

「それは大丈夫。ナイフ忘れたから解体できなくてさ。」

「ふむ・・・。解体は妾にもできるか?」

「やった事ないの?」

「グラッドがやらせてくれなかったのだ。」


 ギフトは忘れているがロゼはこの国の王女なのだ。騎士の訓練に混ざることでさえ最初は渋られていたのに、それ以上野蛮と思われることを許容は出来なかったのだろう。


「出来るとは思うけど最初はキツいかな。内蔵を直接見るのは人によって抵抗あるし。」

「何事もやってみよう、だ。」


 袖をまくり意気揚々としているロゼに別に断る理由もないとナイフを渡す。出来るかどうかはやってみないとわからない。鹿を縄で木に吊るし持ち上げる。


「吊るして切るよ。寝かした方が楽なんだけど、地面に置くのは抵抗あるし。」

「旅の最中なら仕方ないだろう。教えてくれ。」

「ん。まず手を洗ってきてね。血抜きは済ませてるから首にナイフを刺して・・・。」


 ロゼはギフトに教わりながら鹿を解体していく。わからない部分も懇切丁寧に教わるが、人に説明をするのが苦手なのか、ロゼの手を取り手伝う。


 作業は遅いがギフトはその事に文句を一言も言わず、鹿の解体を進めていく。


「うぅ・・・。私は無理そうです・・・。」

「私も・・・うぷっ。」

「私は平気。」


 ミリアだけが平然としているが、リカとルイは今にも吐き出しそうだ。その途中でガルドーが戻ってくる。


「おお。立派な鹿だな。」

「でしょ?ガルドーの成果は?」

「見ての通りだ。すまんな。」


 ガルドーは何も持っていない。成果は何も得られなかったようだ。ギフトはそちらを見ることなくロゼの手元を注視していたが、その口ぶりから何も狩っていないことを理解する。


 ロゼは集中して解体を終える。時間は掛かったが最初にしては中々上手にできたと自分では思っている。


「うん。上手上手。」

「意外と疲れるな。手を洗ってくる。」

「ほいほーい。じゃあ何も持ってこれなかった罰ゲームね。ガルドーこれ捨ててきて。」

「承知した。」


 罰ゲームと態々言わずとも、言われれば指示通りに従うが、その気遣いは素直にありがたい。自分の立場を下に見ることなく扱ってくれるなら、従う事に抵抗もなくなる。


「内蔵も美味いらしいんだけどねー。」

「本当?食べたことない。」

「俺も無いよ。寄生虫が多くて危ないらしいから食べるなって言われてるんだよ。」


 非常に残念そうに言うギフトにルイとリカは顔を青ざめさせる。内蔵なんて食べようと思ったこともないし、食べたいとも思わない。


 あんなグロイ場面を見て直ぐ様食事の事を考えられるのも引く要素の一つだが、その上で内蔵を食べたいと言い出すのは奇想天外の発言だ。


 だがガルドーが二人にとって聞きたくない言葉を口にした。


「鹿ではないが牛の内蔵なら食べたことがある。あれは美味かった。」

「マジで?いつか食ってみたいなー。」

「機会があれば食ってみろ。コリコリとした歯ごたえが」

「その話は終わりにしましょう!もうゲテモノ話はいりません!」


 ルイが無理やり割って入りその話を終了させる。未知の食材に目をキラキラさせていたギフトがぶーぶーと言ってくるがルイはその話を続けさせるつもりはない。


 ロゼが手についた汚れを洗い流して帰ってくると食事の為に火を起こす。ガルドーが慣れた手つきで肉に串を通していく。ギフトは火を起こした後は手伝うことなく全員の作業を煙草を吸いながらぼんやりと眺めている。


「ちょっと。手伝わないの?」

「やめておけ。妾が解体した肉が無駄になる。」

「俺は食事を無駄にしたことは無いよー。」


 手をヒラヒラ振って否定するが、手伝うことはしないらしく動く気は無さそうだ。リカはそれに文句を言いそうになるがそれをグッと堪え、肉に串を刺していく。


「なぜ手伝わない?普通に疑問。」

「料理が絶望的に下手くそだからだ。煮るか焼くかは出来ると豪語してそれすら出来ないポンコツ具合だ。」

「誰がポンコツだ。って言い返してやりたいなぁ。」

「あ、ポンコツなんですね。」


 止めをルイに刺されギフトはそれ以上何も言わなくなる。杖で地面をつついて絵を描いているようだが、それを見ても何を描いているかわからない。


 だが、ギフトはどんどん上機嫌に鳴り、鼻歌を歌いながら絵を描いていく。調子はずれの鼻歌を歌いながら意味のわからない絵を描く様は不気味だった。


「何を描いておるのだ?」

「お前ら。」

「今すぐ消せ。」

「ロゼちゃん?どういうことかな?」


 流石に気味の悪い絵が自分と言われることは不愉快だったようだ。ギフトのやることなすこと全てを許容しているわけではない。その事にリカは少しだけ安堵する。


 肉を焼いていくと香ばしい匂いが辺りに漂い鼻腔を刺激する。するとギフトはフラフラ近づいて最初に焼いていた肉をさっと横取りして背中を向けてしゃがみ、貪り始める。


「ちょっとつまみ食いはやめなさいよ。」

「・・・。」


 リカの抗議はギフトの耳には届いていない。いや届いていないわけでは無いだろうが言葉を返すつもりはないようだ。


「無駄だぞ?ギフトはつまみ食いをやめはしない。食事の最中に話すこともないしな。」

「なに?育ちが良いの?」

「育ちが良ければつまみ食いはしないだろう?」


 育ちがいいかと言われれば絶対違うだろう。だが妙なところで律儀というか拘りがある。ギフトの中では線引きがあるのだろうが他人には理解できない部分ではある。


 だが、ふとギフトが咀嚼を止め、ガルドー見る。うんざりとした表情でガルドーを見つめると頷かれ、口の中の肉を飲み込み溜息を吐く。


「どうした?不味かったか?」

「美味しかったよ。どうしようかガルドー?」

「なんであろうと敵対するなら叩きのめすべきだろう。俺はそうしてきた。」

「ん。同意かな。」


 女性陣が疑問に思っているとギフトは立ち上がり背筋を伸ばす。ガルドーも剣を手に持ち臨戦態勢だ。その事に何かしら敵に該当する者が近づいている事は理解できた。


「敵か?」

「どうだろうね?囲まれてるけど。」


 ギフトの言葉と同時に複数の人間が姿を現す。誰も彼もがフードを目深に被り、その顔は見ることができない。


 ギフトは沸々と怒りが湧き上がっている。食事を邪魔されることは腹が立つ。口角が上がり、両の掌に魔力を集めいつでも燃やし尽くす気満々だ。


「お前ら俺と敵対するなら覚悟しろよ?」

「・・・殺せ。」


 端的に命令を下した男にギフトは笑みを深くする。殺せと言われたなら容赦しなくていい。手加減せずに戦えるならそれに越した事はない。


 戦いを挑んで殺すつもりなら、やり返すだけだ。炎の槍を四本空中に生み出し、腕を振ればそれに追随するように槍が飛んでいく。


 だが、その槍は敵に当たることなく地面に刺さる。足を止めることには成功したがそれをしたいがために攻撃したわけではない。


 腕を振る瞬間にロゼに服を引っ張られたせいだ。その程度で気が散ることは無いが、何らかの意思表示を感じて、無理やり方向を変えたのだ。


「・・・ロゼ?」

「人を殺すなとは言わない。だが、お前なら殺さずに済む方法もあるだろう?」

「面倒なんだよね。手加減って。」

「できるのだな?ならば殺さないでくれ。人が死ぬ所を何度も見たくない。」


 ロゼは殺しを割り切ってはいない。ギフトは流石に矛盾だらけのその思想に嫌悪感を示す。


 戦えば傷つけるし殺すこともある。なのに人を傷つけたくはないと言い、殺しもしたくないと言う。無理がありすぎる思想は、現実味の無い理想は不快なだけだ。


「ロゼ。お前は戦いを選んだんじゃ無いの?」

「考えたさ。妾も馬鹿なりに考えた。出た答えは矛盾だらけの子どもの答えだ。悪いか?」


 ちらっとロゼは三人を見る。気を使っているわけではない。単純にギフトがこれ以上嫌われる所を見たくない。


 自分を救ってくれた人が嫌われるのは嫌だ。自分がどれだけ罵倒されても耐えられる。だが、自分の友達が嫌われることはロゼには許せない。


「わかってるんだ、甘いこともな。妾も殺しは仕方ないと思っていた。だがお前の力を見て思ったんだ。本当に強いなら人を殺さず制することが出来るだろう?」


 会話を続ける二人だが、それをじっと待っている訳もない。ギフトが炎の槍で牽制し続けたが、これ以上話し込むわけにもいかない。


 だが、ギフトはロゼの意思を無視しない。魔力を高めると炎の壁を周囲に展開し、六人を包む。その勢いにフードの男たちはたじろぐが、即座にナイフを投げ始める。


 そのナイフは炎に飲み込まれギフト達に届いているかは分からない。炎で完全に姿は見えなくなり、届いているかもわからない攻撃を繰り返すのは得策ではない。それにこれだけの魔法を常時展開することはできないだろう。そう思い男はその炎が消えるのをじっと待つことにする。


 そして数分の時が流れると、炎の壁が消えていく。男は好機と思いナイフを投擲するがそれはギフトの手で掴まれ止められる。


「ロゼ。後お前らも本当に良いんだな?」

「ああ。妾の言ったことだ。責任は取る。」

「俺は従うだけだ。」

「殺しを肯定する気は無い。仕方無いと思っても、目の前なら話は別。」

「怪我しても私が治しますよ!安心して下さい!」

「いいじゃない!私は最初から反対だったし!それにしても・・・。」


 全員が全員爽やかな笑顔を浮かべている。囲まれて状況は良くないにも関わらず、緊張した様子は見られない。そしてリカが全員を代表して言葉を綴る。


「意外と甘いのね。」

「うるさい!いいだろ別に!」

「悪いとは言ってないわよ。」


 リカはギフトに笑いかける。ルイとミリアが残忍で甘いと言った理由が分かった気がする。


 不器用にも程があるギフトの性分に苦笑いをして、晴れ晴れとした気持ちで戦いに挑むことができる。


「さあ行くわよ!溜まったストレス晴らさせてもらうから覚悟しなさい!」


 リカの目の前には不気味な男たちがいるが、今は哀れな存在にしか思えない。そんな哀れな存在に四人は牙を向け、それぞれ戦闘を開始する。






睡眠時間を削ればどうということはないのだ。

無理しない程度に頑張ります。

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