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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 三部 ~届け屋~
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32 ギフトとロゼ

 宿に戻るとギフトは帽子をベッドに投げる。杖もテーブルに立て掛け、椅子に乱暴に座り、ローゼリアもベッドに腰掛ける。


「ほいで、何をそんなに悩んでいるのさ?」


 窓を開けて外に煙を吐きながら興味なさそうに問いかける。別に苛立っている訳では無い。単純に疑問なだけだ。


 実の兄が首謀者であると聞いても平然としていた。なのにここにきて何を考えているのか、悩んでいるのかがわからない。心に影を落としたままの奴と行動を共にするのは気が滅入るのでしたくない。


「・・・いや。」


 だがどうにも歯切れが悪い。ギフトは視線も寄こさないまま黙って答えを待つ。ローゼリアが考え込むことなど今までにもあったことで、何も思うところは無い。


 信用の置ける相手に根掘り葉掘り聞くつもりはない。喋るのを待っていればいつか話すだろうと基本は思うのだが、これから攻め入ると意気込んでいるときにモヤモヤを抱えたままにはしたくない。たとえすぐ忘れるかも知れなくてもだ。


「・・・そうだな。迷っているのかもな。」

「あー。まあ姫ちゃんからすれば実の兄だもんね。」

「そうではない。お前は、その、あれであろう?知られては困るのでは?」


 サイフォンと対峙すること自体はやはり迷っていないようだが、言わんとすることはギフトにもわかる。


 ギフトの正体をローゼリアは知っている。そしてこのまま争えば、ギフトの正体を広く知らしめる事になるかも知れない。それを危惧しているのだ。


「んー。一応言っとくけど俺半人(デミ)って事気にしてないんだよね。」

「・・・そうなのか?」

「広めるつもりは無いけど、別にバレたらそれそれで構わないんだよ。」


 これは偽らざる本音だ。昔は確かに自分が人と違うことを気にしていた。化物と呼ばれるだけの異質な能力や体質である事をずっと考えていた。


 だが、ある時からそれを気にすることは無くなり、その日からは自分が人でないことをどうでもいいと思い始めた。自分から広く喧伝する様な事はしないが、結果としてバレてもそれは仕方ないと思っている。


「バレると見る目が変わるからそれが鬱陶しくて秘密にしてるけどね。それ以上の問題はないのさ。」

「そもそも半人(デミ)とはなんなのだ?妾はとにかく危険な存在とだけしか知らないのだが・・・。」


 ローゼリアは半人(デミ)を知らない。子どもの頃にお伽噺として聞かされては来たが、実際に会ったことなどない。大半の者がそうだろう。それほどその存在は出くわさないものだ。


「うーん。俺も自分について全部知ってるわけじゃないんだよね。」

「・・・どういう事だ?」

半人(デミ)ってのはどうやって産まれるかもわかってないし、同じ力を得るわけでも無いらしいんだよ。俺は自分以外の半人(デミ)に会ったことないから知らないんだけどね。」


 それはそうだろう。そう簡単に半人(デミ)と出くわす事など普通ない。ギフトも聞いた話でしかなく確証は何一つない。


「俺自身親に捨てられてから数年一人で生きてきたからさ。何があって俺が産まれたのかも知らないんだよ。」

「・・・そうなのか?」

「別に気にしてないよ。今楽しいし。まぁ俺の事に関してなら少しは話せるけど。」

「聞かせてくれても良いか?妾は知りたいんだ。」


 自分の事を話すのは得意ではないが、ここまできて隠すようなことも特にない。自分を知って問題ないと言ってくれた人に隠し事をするつもりはない。ギフトも気にするほどの事ではないと簡潔に説明する。


「まず俺は昼の内だけ半人(デミ)なんだよ。夜は普通の人間になる。」

「そういうものなのか?」

「俺の場合ね。他の人は知らないよ。それに昼って言っても色々制限もあるみたいだし。」


 昼と明確に区切ることはできない。時間的に太陽が出ていても、雨が降っていたり雲に覆われていると人間のままになる。自分の考えでは太陽が視認できる事が条件かと思っても、それだけではない気もする。


 建物の影にいても能力を行使することはできる。だが、地下にいると力を使えない。自分の中でも知らない部分が多すぎて、これに関して説明は上手く行うことはできない。


「力としては炎を操る事だと思う。意思一つで炎を出したり動かしたりできる。魔力を纏わせればそれを燃やすことも出来るのさ。」

「魔法ではないのか?」

「俺詠唱しないでしょ?魔法じゃなくて能力なんだ。自分から離れた場所を燃やすには魔力が必要だけど、接するものを燃やすのは息をするのと同じで、疲れることもないし、特別何かしてるわけでもないのよ。」


 昼に魔法を行使することは無いと聞いて、ローゼリアは確かにギフトが昼の内に詠唱を行った場面を見たことがない。ただ一つ疑問が残る。


炎の槍(ジャベリン)とはなんなのだ?あれも無詠唱で行ってるではないか。」

「あれは本当の無詠唱。人の状態で戦えるように身につけたんだけど乱発できないし威力も弱いから、殴ったほうが早い。あまり使う意味は無いんだよね。」

「・・・人の力か?」

「無詠唱は姫ちゃんにも出来るかもね。才能か努力かは知らないけど、俺も昔は詠唱しなきゃできなかったし。」

「ほう。それは希望が湧くな。」


 無詠唱を自分にも出来ると聞いて嬉しくなる。あくまでも可能性でしか無いが、希望がないよりずっといい。戦いの最中に詠唱なしで魔法を打てるなら単純に強みだ。


「コツはあると思うけど、それは今度教えてやるよ。後俺の事に関して言えることは寝ないことかな。」

「・・・何だと?」

「寝ないんだよ。というか眠れない。ただ月に一回意識が切れるから、その時纏めて睡眠を取ってるのかもな。」

「そんな事が、出来るのか?」

「出来ないと思うよ。俺以外にそんな奴見たことないから多分だけどね。」


 濁してはいるが、そんなこと出来るとは微塵にも思ってもいないのだろう。ローゼリアも同じく、いや誰が聞いてもありえないと思うだろう。


 人は睡眠を取ることで体を休める。疲労を感じれば睡魔が襲って来るし、それでなくとも起き続けるだけでも思考が低下し、判断力も鈍る。そんな状態をずっと続けていられない。


 だがギフトは違う。寝ないことで起こる倦怠感の様な状態も無いし、欠伸をした事も一度もない。月に一回同じ周期でぷつりと意識が切れることを睡眠と呼ぶなら、ギフトにとってそれが寝ている時間に該当しているのだろう。


半人(デミ)って別に強いとかじゃなくて、どこか人らしさのない奴の事らしいよ。生命が生きていく上で必要なことを必要としない奴だから化物と呼ばれてるんだと思う」

「・・・なるほど。月に一回意識が切れるとはなんだ?」

「昔の仲間が言うには突然倒れるらしいよ。俺は当然意識ないから何が起こったかなんて知らないけどね。一定の周期で起きるから、その時には街にいるようにしてるけどね。」


 意識が切れるときは予兆なく突然来るものだから、ギフトにも防ぎようがない。依然意識が切れた時から大体一月が経てば意識が落ちるだろうからその時には宿から一歩も外に出ない。


「まぁそんなものかな?寝ないこと。昼と夜で変わること。炎を操れること。だいたいそんなものかな?」

「・・・。」


 互いに沈黙。ローゼリアはベッドに腰掛けたまま瞑目し、ギフトも喋り終えたのでこれ以上言う事はない。


 人に話したのは数年ぶりで、ギフト自信にも要領を得ない部分が多いことはわかっている。それでも自分が普通とは違う場所に居ることは理解できたと思う。


 その上で判断を下すのはローゼリアだ。ギフトに言うことは特にないと、ローゼリアの反応を待つ。暫くするとローゼリアはゆっくりと口を開く。


「お前の危険性は無くないか?何故それで半人(デミ)が嫌われるのだ?」


 そして口にした言葉は同情でも嫌悪でもない事実確認の言葉だった。


 その事に少し笑いを溢すが、誰もがローゼリアの様に考えられればギフトも苦労はしなかった。


「人は自分と違う奴を遠ざけるんだよ。自分の身を守るために、自分の常識を守るために理解できないものは理解しない。違う奴を受け入れない。それが普通なんだって。」

「そんな考え理解できぬな。人と違うなど当たり前だろう。その上でどう向き合うかを考えたほうが生産的ではないか?」

「向き合わないで泣いてた人の台詞とは思えないね。」

「ぐっ・・・。その話は良いだろう?」


 ローゼリアは向き合うことを止めたせいで失敗した。その事は自分の中で反省するもので忘れてはいけないことだが、人に言われると恥ずかしくなる。正直その話題はして欲しくない。


「とにかく妾は気にしない。お前が人と違う事は良くわかったが、それはただの一面だろう?お前が無闇に危害を加える人間でないことはわかっている。」

「なら問題ないさ。ただ、お前が気にしないならむしろそのせいで傷つく可能性はある事は理解しとけよ?」

「どういう事だ?」

「例えどれだけ頑張っても認めて貰えない事があるってこと。あれは案外キツい物があるよ。」


 ケラケラ笑いながらそういうが、言葉に重みが含まれている。恐らく今までにもあったことなのだろう。ギフトは気にしていなくとも、もしその場面にローゼリアがいたらどうするか。


 ローゼリアなら憤慨するだろう。そしてギフトと一緒に罵倒される可能性もある。それはギフトにとって面白くない。気に入った人が自分のせいで罵倒されるなど考えたくもない。


「だから、もし俺の正体がバレて非難されたら一切関係」

「断る。くどいぞギフト。妾はお前に救われたのだ。妾がお前の敵になることは無い。」

「・・・姫ちゃん格好良いね。まぁとにかく俺は気にしてないよ。むしろ気掛りなのは姫ちゃんの方だけど・・・。」

「お前が気にしないと言うなら、力を貸して欲しい。妾もお前の力になりたい。」


 決意を込めた瞳ではっきりと口にする。ローゼリアにとってギフトに負担を強いるのが心苦しいだけで、それで自分がどう言われるかはどうでもいい。


 その問題さえないのならローゼリアはギフトと一緒にいることは問題ない。むしろギフトといることは心地よさがあり、頼もしさもある。


「互いに互を思い会える妾達は良い関係だ。どうせならその関係を壊したくはない。」

「なにそれ?なんか告白みたいだね。」

「そうか?だが妾に思いの丈を綴らせるなどそう出来る事ではないぞ?」

「いや姫ちゃん絶対無自覚に男誑かすよ。酷い奴だよ。」

「そんなことはせぬ。後、今更だが、姫ちゃんと呼ぶのは止めよ。どこか距離を感じる。」

「だって俺姫ちゃんの名前知らないよ?」

「え?」


 きょとんとした顔でとぼけた声を出すギフトにローゼリアも気の抜けた声を返す。思えばギフトは名乗っていたが、ローゼリアは名前を名乗っていない。


 周りも姫や皇女と呼ぶのでギフトはローゼリアの本名どころか名前を一文字も知らない。姫ちゃんで通じていたから不便は無かったから、聞き出そうとする事も無く、結局名前を知らないまま一緒にいたのだ。


「聞けばよかろう?何故聞いてこなかったのだ?」

「だって別に姫ちゃんって呼べばわかるじゃん。不便でも無いし。」

「そのせいでバカップルと呼ばれたではないか。」

「本当じゃないしいいんじゃない?姫ちゃんは俺の呼び方変わるし俺は変わらないでいいでしょ?」

「変わったか?」

「呼び捨てになったよ。」


 どうでもいい事をダラダラと会話し、ただ時間を浪費する。それを勿体無いと思うこともなく、その時間を共有する相手が居ることをローゼリアはただ喜ぶ。


「改めてよろしく頼む。妾はローゼリアだ。ローゼリア・クラウン・アルフィスト。それが妾の名前だ。」

「よろしくね姫ちゃん。」

「おい。」

「冗談だよ。じゃあロゼで。よろしくなロゼ。一緒にこの国に戦争吹っかけようぜ!」


 笑って不吉なことを言うギフトに苦笑いを漏らし、家族以外にロゼと呼ばれることの恥ずかしさを隠して、他愛も無い会話の心地よさに気持ちを軽くする。

ここからローゼリアをロゼと

変更します

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