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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 三部 ~届け屋~
31/140

31 悩む

 ギフトがストレス解消の捌け口を見つけた頃と同時刻、陽射しが差し込む部屋で男は怒り狂っていた。


「ふざけるなっ!何で思い通りに行かない!!」


 贅沢に肉を蓄え、汗を吹き出し怒鳴り付ける。


 男の名前はサイフォン。この国で第2王子と呼ばれていた人物だ。カイゼルが王となり、そう呼ばれることは無くなったサイフォンはずっと不服だった。


 自分がカイゼルの代役であること。兄や妹より優秀な自分が次男と言うだけで正当な評価を得られないことが。


「くそがっ...!おい!ローズと一緒にいるやつはまだわからないのか!?」


 泡を飛ばしながら目の前の男を問いただすが、男は沈黙したまま一言も喋らない。


 ローゼリア一人なら簡単に始末できた。騎士との訓練で多少の強さがあるのは知っているが、多数に囲まれてそれを突破出来るほどではない。


 もし、ローゼリアが自分の企みに気づいたのなら黙っている筈がない。王家の者に相応しくない感情の持ち主であるローゼリアなら自分の企みを壊そうとするはず。


 そうなったとき不安要素になるのはローゼリアと行動を共にしている人物の存在だ。ここまで秘密裏に動いてやっと行動したと思えば不確定の存在に邪魔をされるなど堪ったものじゃない。そして何より行動理由が見えてこないのも不気味だ。


 ローゼリアに利用価値は無い。それは誰もが分かっている。現王であるカイゼルでさえローゼリアの価値を見いだせていない。継承権も無くなり、余所の国に嫁ぐ事も無くなったローゼリアに付く理由がない。


 実際にはギフトの気まぐれに近い行動でしかないのだが、自分の目論見を悉く回避しローゼリアを守っている人物がそこまで適当な人間だとは夢にも思わない。


「どうする・・・!ローズを始末するのは後回しにするべきか・・・!」


 ローゼリアを始末する事はサイフォンの中では確定事項だ。ローゼリア自身は気づいていないが彼女の人望は高い。利用価値が無いと自分を卑下するようになってからは笑わなくなり、誰もが少しずつ離れていった。


 だがそうなるまでは王家に関わらず誰にも分け隔てなく接する性分が人気があった。そのローゼリアがいる限りは自分が王になっても必ず反旗を翻す可能性がある。


 自分の事は棚に上げ、ローゼリアがそうすると確信している。このままではいけない。ローゼリアが動く前に行動して、先手を打たねば今までの苦労が水の泡になる。計画は大きく崩れたが動かない訳にもいかない。


 サイフォンは焦りと不安さを抱えて動き出す。アルフィスト王国を我が物にするために、自分の望みを叶えるために。




 ギフトは上機嫌に街を歩く。その後ろを神妙な顔つきでついていく四人の女性と一人の男性。仲良く会話する雰囲気でもなく、調子はずれな鼻歌を歌いながら歩くギフトに付いていくことしかできない。


 解散しても良かった。だがこのまま放置していくことはリカ達には出来ず、それでも付いていく訳にもいかず、どっちつかずの気持ちのまま沈んだ空気を醸し出している。


「なんか辛気臭いなぁ。どうしたのさ?」


 立ち止まって振り向き声を掛ける。いつもなら能天気なギフトの言葉に反応があるのだが、今は芳しくない。ローゼリアも考え事をしているのか返事をせず、男もその言葉に腕を組み目を伏せるだけで声を発する事は無い。


「・・・当然。何をするつもり?」

「さあ?俺はその時その時やりたいようにやるよ。ただ、一発だけはぶん殴るかな?」

「君はわかってない。国の争いに介入してはいけない。」

「それは冒険者の決まり事だろ?俺には関係ないよ。」

「冒険者じゃなくても戦争に他国の人間が介入して良いわけないでしょ。最悪全世界に睨まれるわよ?」

「関係ないだろ?世界がどうとかどうでもいいじゃん。」


 あっけらかんと言い切るギフトに二人も押し黙る。冒険者である自分たちはこれ以上踏み入ってはいけない。それはわかっている。


 冒険者としての決まりごとに国の諍いに介入してはいけないと言うものがある。盗賊や魔物と戦うことは出来るが、一つの国に肩入れしてはいけない。


 冒険者がいるから戦争に勝つことができた。というのは問題があるのだ。国の力に関わらず勝利することができるなら国同士のバランスを崩すことになる。


 傭兵は金で動く。強いと言われる傭兵を雇うなら金が大量に必要になるし、一局で勝てても他の場所で負けるのなら戦争には勝てない。強い傭兵団を一つ雇うよりも、複数雇った方が結果として勝つことがある。それを見極めるのが国の力となる。


 冒険者は名声を求める者が多い。戦争で名を上げたいと思うものが増えて戦争に介入すれば、味方に付いた国に痛みは無く、敵になった国は冒険者を恨むものが出てくる可能性がある。


 結局は組織なのだ。他の者に迷惑をかけて生きていけるほど冒険者は自由ではない。見えない制約に縛られた自由を謳歌するのが冒険者なのだ。


「だからここでお別れして良いよ。おっちゃんももう自由でいいから。」

「・・・いや、俺はお前を手伝いたい。」

「駄目だよ。せっかく自由になれたのに、おっちゃんが睨まれたら悲しいじゃないか。」


 ギフト自身自分がやろうとしている事が他人にどう思われているかくらいは理解できている。それでもギフトは止まるつもりは一切ないが、それに無関係な人間を巻き込むのは忍びない。


 男は迷うことなく答えを下す。自分を救ってくれた事に対して恩を感じさせることもなく、縛ることも無い。ギフトに対して義理を欠く行為を男はしたくない。


「恩があり、義理がある。手伝わせてはくれないか?」

「恩も義理も、俺に返す必要は無いよ。いつかおっちゃんが笑えた時に頭の片隅にいりゃ充分。」

「・・・しかし、」

「でも、おっちゃんの人生は俺が決めるもんじゃないしな。もう奴隷じゃないんだから。」


 ギフトは男の顔をしたから覗き込む。帽子を少し持ち上げにっと笑い、判断を男に任せる。ならば答えは決まっている。奴隷として仕えたくもない主に仕えて鬱屈な日々を過ごしていた。それなのに誰かの下に付きたいと素直に思える。


「ならば俺はお前に力を貸したい。この国で奴隷の被害に逢う者など見たくないしな。」

「そりゃいいな。悪くない。おっちゃん名前は?」

「ガルド―だ。昔は冒険者だったが、今は引退している。」

「俺はギフト。届け屋だよ。元傭兵ね。」


 握手をし、軽く紹介をするとそれ以上言葉を交えなかった。互いに多くの情報は必要としていない。ガルド―はギフトに付いていくと決め、ギフトはガルド―の意思を尊重した。あれやこれやと話す必要は無い。やることはもう決まっているのだから。


「お嬢ちゃんらはお別れだね。元気でやれよ?」

「ま、待ってください!」


 そこで今まで何も言わなかったルイが言葉を発する。その表情は影があり、言うべきか迷っているのか言葉が彷徨う。


「あ、あの・・・!私・・・!」


 言葉が詰まり頭の中も混乱する。したいことはある。でもそれを出来ない。葛藤は渦巻きルイを止める。俯き何も言わなくなったルイにギフトは何も言わず、ローゼリアに声を掛ける。


「明日の朝に出発するよ。姫ちゃんそれでいい?」

「え?あ、ああ。それでいいぞ。」


 どこか上の空のローゼリアの返答に、ギフトは頭を掻いて大きく溜め息を漏らす。そして煙草に火を点け紫煙を燻らし、空を見上げる。


「ガルドー。お金渡すから必要な物買って来て貰っていい?食材とお前の服だけでいいから。」

「・・・わかった。金はいずれ返そう。何日分だ?」

「大目に見て一週間分くらいかな?調味料多めでね。最悪食事はその場で取るから。」


 一つ頷きガルド―は街に繰り出す。今ノルディは気絶しているし、ガルド―が再び捕まることは無いだろう。ギフトはそれを見送ると三人娘に振り返り、手を叩く。


「ほい。解散。お前らの事はお前らで決めろ。期限は明日の朝な。それ以上待つつもりは無いから。」


 そしてすべての文句を封殺し、ギフトはローゼリアの手を取り宿に戻る。ローゼリアも三人娘もギフトの突然の行動に驚くが、何か言う暇も無くその場を解散することになった。



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