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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 二部 ~二人旅~
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21 向き合う。

 鳥の囀りが聞こえる中上機嫌にギフトは歩き、その後ろをローゼリアが付いて行く。朝食を食べ終えて二人は街に向かい森の中を進んでいく。


 本当なら森の中を突っ切るのは危険なのだが、問題ないとギフトが言い張り、森の中を二人で歩く羽目になる。だが、ローゼリアの心配は杞憂に終わり、森が開け、その目に街の外壁が見えてくる。


「おー。見えた見えた。」

「ふむ。あれがミギルの街か。何か得られれば良いのだが・・・。」


 能天気なギフトとは裏腹にローゼリアは深刻な顔を浮かべる。この街で情報を得られずとも良いのだが、不安は早く消してしまいたい。出来ることなら早く決着を着けたいのだ。


「・・・そういや姫ちゃんそのまま入るつもり?」

「む・・・。そうか・・・失念していたな。」


 ローゼリアの服装はこの国の騎士の服と同じものだ。それだけでなくローゼリアの顔は騎士にも知られている。誰が敵かわからないこの状況で、無防備に街をうろつくのは危険が多いだろう。それで構わないなら王都に向かっている。


「替えの服とか無いの?」

「あれば良かったのだが・・・。」

「1・服を交換する。2・そのまま行く。3・追い剥ぎする。どれがいい?」

「2と3は却下だ。お主だけ街に入り、服を買ってくるのは?」

「俺のセンスは脱帽ものだぜ?それでもいいなら。」

「これ以上恥の上塗りはしたくない。」


 ギフトのセンスが如何様なものなのか、それは分からないがいい予感はまるでしない。着るものに拘りは無いが、自ら恥をさらすような事はしたくない。


「無難な物を選べばよかろう。」

「普通を知らない奴に普通に生きろと言っても無理ってもんだよ。」

「・・・分かった。お主の服の替えがあるだろう。」

「うーい。上着はないからこれ貸すよ。ズボンは適当に縛れば大丈夫かな。」


 そう言ってギフトは上着を脱ぎローゼリアに投げて寄越す。そしてリュックの中から替えのズボンとシャツを取り出しそれも投げる。


「何故服が同じものなのだ・・・。」

「楽で好きなんだよね。きっちりした服は嫌いなんだ。」


 ギフトのズボンもシャツもローゼリアはともかくギフトの体にあっていない。あえて大きいサイズの服を買って、無理やり紐で縛ってサイズを合わせている。


 それをローゼリアが着れば当然ブカブカで、子どもが無理して大人の服を着ているような気がして、小っ恥ずかしい。ギフトのように堂々としていれば多少はマシなのだろうが、ギフトと同じ服というのも恥ずかしさを加速させる。


 ギフトの目から離れたところで着替えを行い戻ってくると、服装には一切触れず、帽子を頭にかぶして杖を渡してくる。そしてローゼリアの腰に吊り下がった剣を自分の腰に携える。


「これでお前は今日から魔道士だ。意外と騙せるもんだぜ?あと一応髪型も変えとけよ?」

「妾は髪をこれ以外で結えないぞ。」

「嘘?じゃあ三つ編みにする?お揃いー。」

「・・・。」

「凹むよ姫ちゃん。その目はヤメテ。」


 髪を持ち上げながら冗談めいて話すも、ローゼリアの冷めた目に負け早々に折れる。しかしローゼリア自身も相手がどう動くかわからいない以上、下手に自分の場所を知らせることはしたくない。


「・・・よし。三つ編みにしてくれ。」

「あれ?どうしたの?」

「可能性はできるだけ低くする。見つかるのは仕方ないが、何の対策も打たないわけには行くまい?」

「・・・どんどん腹が座って来てるね。いいと思うよ。」


 そしてギフトはローゼリアの髪を左右に分けて三つ編みに括る。自分の髪で慣れているのか、それは手早く行われる。


「女性の髪に断りなく触るものではないぞ。デリカシーの無い男だ。」

「俺に紳士の真似事して欲しいの?吝かではないよお姫様。」

「期待はしていない。」


 侘びも触るとも言わず急に髪の毛を纏め始めたギフトに一応言ってみるが、やはりと言うべきか、ギフトは取り合わない。期待してないと言われても気にした様子もなく、ギフトは一体何があれば凹むのか、少し気になる。


「お主は凹む時はあるのか?」

「唐突に何?ほい終わり。」


 だがその質問に答える前にギフトはローゼリアの髪を括り終える。思ったよりも綺麗に纏まった髪に感嘆し、自分の服装を軽く確認する。


「思ったよりも軽いのだな。」

「俺の服だよ?一級品に決まってるじゃん。」

「お主はそういう事に拘りは無いと思っていたが?」

「実際は昔もらったものをずっと使っているだけという。」


 ローゼリアは自分の予想通りの返答に思わず笑い、少しだけ鼻を鳴らして街へと向かう。


「さて、これで何事もなく街に入れれば良いのだが。」

「そればかりは祈るのみだねー。堂々としてりゃ意外とすんなり行けるって。」


 数日前に堂々と入ろうとして止められた者の発言とは思えないが、あからさまに挙動不審に振舞うよりかはマシだろう。


 ローゼリアは一つ深呼吸をし、街の門へと向けて歩き出す。


「止まれ。何用だ。」


 案の定門番に止められるが、それに対して不信感を抱かれないよう、淀みなく答える。


「旅人だ。冒険者ギルドに用事がある。」

「ならばタグを見せろ。」

「冒険者になろうとしてんのよ。だからまだ持ってないんだ。」


 タグを見せろと言われ少し戸惑ったローゼリアをギフトがフォローする。門番は眉間にシワを寄せて二人を見る。不審がられたかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


「また冒険者か。力が欲しいなら騎士になれば良いものを。どいつもこいつも愛国心のない奴らだ。」


 愛国心が無いという件に、ローゼリアが反応するが、ギフトに前に出られて反論することは出来なかった。そのまま簡単なチェックと質問をされるだけで、街へと侵入することができた。


 街の様子は特に王都と変わらない。綺麗に整備されており、人の活気がある元気な街だ。王都に比べれば多少人が少なく見えるが、それでもここ最近街にいなかった二人にとって、そのざわめきは心地よいものがある。


 商店は所狭しと並び、道行く人に声を張り上げる。石造りの家が立ち並び、服を乾かすための紐がそこらに引っ掛けられている。


「先ずは宿探しかな。食堂を兼任している場所がいいな。」


 ギフトは新しい街に来た時に先ずやるべきことを口にする。が、ローゼリアからの返答はなく、道の真ん中で棒立ちになり、通行人から奇異の視線を向けられている。


「おーい。悩むのは後にしろよ。邪魔だぞ?」

「愛国心が無い・・・か。」

「あ、姫ちゃんお得意のウジウジタイム?」


 ギフトに揶揄されローゼリアは不快感を示すも、ギフトはニヤケた笑みを浮かべ続ける。ローゼリアは1つ息を大きく吐くと、止まっていた足を動かし始める。


「ウジウジなどしておらん。ただ不快だっただけだ。」

「言い返さないだけマシになったよ。口だけなら何とでも言えるんだ。今後の行動でお前の愛国心を国中に見せつけてやれば良い。」


 ギフトにしては珍しい真っ直ぐな励ましに、ローゼリアは目を見開き驚きを顕にする。今までもギフトに励まされたことはあるが、それはどれも優しい言い方ではなく、こちらを奮起させる様な言い方ばっかりだっただけに、驚きが上乗せされる。


「何だよ?なんか変なこと言ったか?」

「いや、まともな事を言ったので驚いただけだ。」

「時々姫ちゃん俺のこと完全に下に見るよね。別に気にしないけどさ。」


 確かにあまりと言えばあまりな言い方だ。別にギフトを下に見ているわけでは無いのだが、こちらが何を言おうともそれをいちいち気にしない性格だからこそローゼリアも何も考えずに発言ができる。


 そう思えば、ギフトに対してローゼリアは遠慮はしていない。ギフトの性格がそうさせるのか、最低限の礼儀さえ弁えるが、それ以外は適当でもギフトは何も言ってこない。


 誰と話すときも隙を見せないように話していた時代が少し懐かしい。ギフトは言えば返ってくるし、言われれば返せる気楽な関係とも言える。それは心地の良いものがあり、今まで得られぬ感情だった。


「姫ちゃん?置いてくよ?」

「・・・お主は妾の護衛であろう?それを放っていくのか?」

「条件付きだよ。俺は気に入らない人に手を貸し続けるほど気は長くないよ。」

「仕事はきっちりとこなせ。それが気に入らずともな。」

「なんと?説教とな。それでいいなら傭兵か冒険者だよ。姫ちゃんはわかってないなー。」


 やれやれとばかりに首を横に振り溜息を吐く。それがおかしくてローゼリアは吹き出してしまう。ギフトは基本的に身振りが多い。だが、真面目に話すときはちゃんと相手の目を見て言ってくる。大げさな仕草をしているときはふざけている時だという事は、短い付き合いだがわかってくる。


「妾は大丈夫だ。宿に行こうか。」

「ほえ?どうしたの急に。いや宿に行くのは賛成よ?」

「切り替えただけだ。いつまでも悩んでいても仕方あるまい?」


 ギフトを前にするとあれこれ悩むのが馬鹿らしい。と言うより悩ませてくれない。ローゼリアが悩み俯きそうになれば絶対にギフトが邪魔をしてくる。こちらの気分など関係なしに、平気で心に踏み込んでくる。


 触れて欲しくないところと触れてもいい部分を見極め、こちらを奮い立たせる事ばかりしてくるギフトを前に、悩むのも考えるのも馬鹿らしい。どうせ何を悩んでいるかなど筒抜けの可能性の方が高い。ならば悟られないようにする方が()()()


 飄々としたギフトを食事以外で困らせてみたいと、ローゼリアの悪戯心が湧いてくる。ずっと昔に置いてきた筈のその感情は、とても懐かしく、とても暖かい。


「ギフト殿は子どもの様だな。」

「え?なんで俺いきなり罵倒されてるの?さっき良い事言ったと思うんだけど。」

「馬鹿にしてる訳ではない。思ったことを言っただけだ。」

「それって思いっきり馬鹿にしてるって言ってるよね。姫ちゃん俺の事嫌い?」

「いやむしろ好きな方だな。」


 子どもと一緒にいるときに変に大人ぶることは無い。そもそも自分は未熟な存在。無理に背伸びしても足元が覚束無くて、転んでしまうだけだ。ならばいっそのことギフトに合わせるという言い訳のもとに、子どものように言いたいことを行った方がずっといい。


 例えそれで転ぼうとも、背伸びをしてない自分にはギフトが手を指し伸ばしてくれるはず。様々な会話と時間が、それを確信させてくれる。見捨てることは出来た。それでも見捨てなかった。声を荒げて怒ることも、呆れて何も言わないこともなく、自分と向き合おうとしていた人にいつまでも背を向けてはいられない。


「そういうの真っ直ぐ言っちゃ駄目だよ。勘違いしちゃうぜ?」

「どうせギフト殿は勘違いせぬ。信用しておる。」

「何の心境の変化!?駄目だよ姫ちゃん男は皆狼よ?」


 これ見よがしにローゼリアの眼前で指を振り、それはいけないと言ってくるが、ギフトも本気にはしていない。と言うよりそれが友愛とわかっているのか、照れることもない。


「ふむ。これでは狼狽えぬか。」

「あ。試したな姫ちゃん。受けて立つぜ。」

「身構えるな。今の妾では難しそうと分かっただけ良い。」


 ギフトと話していると肩の力が抜ける。気負ってばかりの時は煩わしかったが、今はこの身の軽さを楽しもう。それが自分を信じてくれたギフトに対する恩返しに繋がると、ローゼリアは今初めてギフトと向き合う事になる。


続きは明日。

誤字脱字は気をつけていますが、

あれば報告お願いします。

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