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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 一部 ~邂逅~
17/140

17 さあ、行こう

更新は10日と言ったな、あれは嘘だ。

「・・・理由を聞いても良いか?」


 硬直から立ち直り、ローゼリアはグラッドを問いただす。隊を二分する事は納得したが、それがギフトと行動を共にする理由に直結しなかったからだ。


「理由は二つです。まず一つは、姫様を失うわけにはいけません。その為にはこの中で一番強いと思えるギフト殿には姫様の護衛についてもらいます。」

「・・・二つ目は何だ?」

「隊を分けるなら戦力は分散させるべきです。ギフト殿が一番強く、その次が私と姫様。そしてその後に騎士が続きます。本来ならギフト殿と騎士を同行させるのが一番良いのですが・・・。」


 そう言ってグラッドはギフトを見るが、視線を明後日の方向に向け、それは出来ないと雄弁に語っている。


 元傭兵として、人を指揮する人は近くで見てきたが、それが自分にできるとは思ってはいない。得意とするのは特攻で、頭を使うのは人に任せきりだったのだ。騎士と同行を共にしても、それを指揮することは出来ない。


「ギフト殿は騎士の指揮を取れません。ならば騎士とギフト殿は分けるべきです。そうなれば私か姫様と行動を共にすることになります。」

「俺は個人でも構わないよ?」


 一人の方が動きやすいし、ストレスも溜まらない。知られたくない事もそれなりに有る。ならばいっそ一人の方が都合が良いと口にしたが、グラッドは首を横に振る。


「ギフト殿を一人にしても情報が集まるのならそれでも構いません。」

「・・・。まぁ、俺は興味がころころ変わるし、一つの目標に向けて突き進むのは苦手だな。」

「ならばお目付け役が必要でしょう。そして私は腐っても元騎士団長。部隊の運用は慣れております。」

「妾が部隊の指揮に不安がある以上、消去法でそうなるしかないか・・・。」


 理には適ってる。ローゼリアも騎士を率いる事は出来るが、グラッドほど上手くできるとは到底思っていない。騎士達も自分が新人であることは理解しているし、けが人も多い。グラッドの下に着いたほうが安心もできるだろう。


「妾はギフト殿と同行するのは些か不安だ。強さは理解できるが、人間性は否定するぞ。」

「姫ちゃん毒舌過ぎない?俺も普通に傷つくよ?」

「評価できるところはある。だが、全てを信用することはできまい?」


 ギフトはその場で大きく体を伸ばし、その言葉を否定しない。仕方が無い事だと思っているからだ。


 隠し事はあるし、身分の保証も出来ない。昨日出会ったばかりでそんな人間に全幅の信頼を置けるなら、それはよっぽどのお人よしか、馬鹿だけだ。


「せめてお主が隠し事があると言わなければ、もう少し信用も出来ただろうが・・・。」

「それは仕方無い。というかてっきり諦めると思ってたんだけどね。」

「内容にもよりけりです。ギフト殿から害をなすつもりは無いのでしょう?」

「ムカついたらその限りではない。」

「具体的には?」

「ウジウジしたり、理不尽だったり?」

「ならば今の姫様なら問題は無いでしょう。」


 グラッドに笑顔でそう言い切られるとローゼリアも言い返せない。グラッドは自分を信じきっている。それを裏切ることはもうしたくない。


 ただでさえ心配をかけ続けていたのだ。その上でここで駄々を捏ねるのもみっともない。どうせ手段は限られている。割り切ることは必要だ。


「・・・。」


 だがそれとは別にできないこともある。簡潔に言えばローゼリアは女性でギフトは男性。素性のわからない者と同行するにしても不安はある。何より力はギフトが上だ。いざとなれば力づくも考えられる。


「そこまで怪訝な目を向けられる謂れはないんだけど。」

「お主が妾を襲わぬとは限らぬだろう?」

「もしその気があるなら、もっと早く行動してるよ。疲弊しきった集団なんてカモでしかないよ?」


 新しく煙草を咥え、煙を吐きながら何でもないように朗らかな表情を浮かべるギフト。言われてみれば一理ある。その時間も力もギフトにはあるのだろう。仮に万全の状態で挑んでも、勝てると断言は出来ない。強いて言うならグラッドが勝ちの目が見えるが、ギフトの実力の底が見えたわけではない。


 ローゼリアに不貞を行うのならばいつでも出来た。それをしなかった理由は単に興味が無いか、好みじゃないか。もしくは気分じゃ無かったか。


 二つ目までならば問題ない。だがもし最後の部分が当たりなら、そう思うとローゼリアが不安を覚えるのも仕方無い。いつまでも首を縦に振らないローゼリアの顔を覗き込み、ギフトは言ってはならない言葉を口にしようとする。


「随分悩むな。もしかして姫ちゃんってしょ」


 その顔に拳がめり込むことになり、後ろへ勢いよく倒れこむ。それが答えとなるのだが、口にされるよりはマシなのだろうか。ローゼリアはすまし顔で決断を下す。


「妾も覚悟は出来た。それで良い。信用は一切出来ぬが、いざとなれば舌を噛み切ってやる。」

「・・・わ、分かりました姫様。それでは行動に移りましょう。」


 そしてグラッドは指示を出し、騎士はそれに従い動き始める。誰も触れてはいけない事は理解している。以前より規律の取れた動きで、野営地を片付けていく。


「荷物はどうするの?お金とかも。」


 殴られていないとばかりに鼻血も出さず、飄々とした表情でグラッドとローゼリアに語りかける。一発殴って意識を切り替えたのか、それとももう無かった事にしたのか、ローゼリアも普通に答える。


「む・・・。そういえばそうだな。食料はともかく先立つものは必要だ。」

「蓄えは少しあります。しかし、彼らの怪我も考えると・・・。」

「ちゃんと治療は受けたほうが良いよ。手荒な真似だし想像以上にきついと思うよ。」

「お主はお金は持っているのか?」

「結構あるよ。あんまり使わないし。」


 まるで期待せず聞いてみたのだが、返ってきた答えは予想外のものだった。グラッドも予想していなかったのか、目を少し見開いている。


「ほう。意外だ。いくらぐらいあるのだ?」

「金貨三枚。銀貨が五十七枚。」

「・・・本当にそこそこ持っているのだな。」


 この国の貨幣は石貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨の順で高くなる。それぞれ百枚で次の物一枚と交換できる。国を移動する時にその国との価値を照らし合わせ、交換することになっている。


 周辺国なら混乱を避けるため、できるだけ貨幣の価値は統一されており、そこまで上下の変動はない。そしてその国の周りにも国はある。その為、この大陸の貨幣の価値は大きく変動はしない。


「とりあえず金貨二枚はおっちゃんに渡しとくわ。」

「な、いけませんギフト殿。それはあなたのお金でしょう?」

「俺の金だからいいんじゃん。俺金の使い方下手くそだし。あ、でも後で返してよ。」


 金貨二枚は稼げない額ではないが、それでも高額だ。それを平然と渡してくるギフトはお金に執着がないのか、さして気にしてもいない。


「良いのかギフト殿?」

「俺は金よりご飯が良い。姫ちゃんがいるならお金は使わないし。」

「・・・妾を召使い扱いか。良い度胸だな。」

「じゃあ俺がご飯作るか?絶対文句を言わないならそれも良いぞ。」

「うむ。妾が間違っていたな。」


 グラッドはギフトに感謝を示す。そして物資の配分を行い、騎士たちを集めて方針を決めていく。


「北にあるカラドの街に集合としましょう。」

「こない場合は?」

「一週間待ちましょう。それより遅ければ、王都に向かいましょう。」

「その前に動かねばならないときは?」

「各自の判断で動きましょう。不安しかありませんが、今はそれしか・・・。申し訳ありません。」

「いいんじゃない?俺は作戦通りに行動するの苦手だし。」

「よく傭兵などやっていられたな。」


 雑談を交わしながら、打ち合わせを行い、各々が頷き合う。もう話し合うことは無いとなった時、ギフトとローゼリアは立ち上がり、東へ向かう。


 騎士たちに見送られながら、歩いてるとふとギフトが口を開く。


「懐かしいな。傭兵を抜けた時もこうやって見送られたな。」

「ほう。感慨にふけることもあるのか。」

「姫ちゃん俺に対して本当に遠慮が無くなってきてない?」


 二人は騎士たちを振り返ることなく、真っ直ぐに歩き続け、やがて見えなくなる。騎士たちは少し不安そうな表情をしているが、グラッドは穏やかな笑みを浮かべている。


 心を閉ざした筈のローゼリアを動かしたのは、間違いなくギフトのお陰だ。彼なら良き友としてローゼリアを支えてくれるだろう。それくらいにはギフトを信用はしている。


「グラッドさんは不安は無いので?」

「不安はある。だが、それ以上に嬉しいものだ。」


 その目はまるで親のように、巣立つローゼリアを慈しむ。


「だが、もし姫様に手を出すならば地の果てまでも必ず追い詰める。」


 その発言に騎士は苦笑いを浮かべるが、ギフトは突然の殺気に身震いをして辺りを突然見渡し、ローゼリアに冷めた目で見られるが、それは騎士たちの知る由もない話。



キリが良いのでここまでを一章とします。

次回からは動き回りたいと思います。

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