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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 一部 ~邂逅~
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15 変化する者

予約投稿忘れてました。


すみません。

 ローゼリアは泣き伏せ天幕に戻り眠りにつき、朝を迎える。ギフトは膝を曲げて座り、上半身を折り曲げ額と両手を地面に付けていた。


 事情はわかったが何分やりすぎとの事で、反省することを強いられていたのだ。悪い部分が無かったとも言い切れないので反論は何もしなかった。と言うより、完全にただ切れただけなので、文句など一つも出てこない。


 そしてその横には止めなかった忠臣もいる。地面に額は付けていないが、同じように正座している。因みに二人共ローゼリアに言われてのことではなく、騎士たちに怒られてのことなのだから、グラッドとしては笑えないだろう。


 その内心ではローゼリアが感情を吐露したことに喜んでいるのだが、それを表に出すのはまだ早い。部下に怒られていてはこれから先に支障をきたす可能性もあるのだから。これを最後にしたい。


「反省したからもう許しておくれよぉ。」


 ギフトから情けない声が出る。こいつに怯えていた自分たちも情けないと思わなくも無かったが、それはそれ。これはこれ。叱れる時に叱らねばならないのだ。


「ダメだ。少なくともローゼリア様が許すまでそのままでいろ。グラッドさんも同様ですよ。」

「お兄さん、優しいだけじゃないんだね・・・。」

「褒めてくれて光栄だ。」

「わぁお。おにーさん神経太いね。」


 皮肉も通じず起きたばかりの騎士に囲まれ、土下座をし続けているのは中々に辛い。足は痺れないが、動けないのが一番辛い。じっとしているのが我慢できないのだ。精々数十分程度だが。


「姫ちゃん早く起きないかな・・・。」

「今更だが、様を付けろ。不敬だぞ。」

「俺この国の人じゃないから良いじゃん。それに姫ちゃん様は長くない?」

「まだ余裕そうだな。」


 しまったと思っても時すでに遅し。ギフトを見る目がさらに増える。


 一方グラッドも頭こそ下げていないが、起き抜けから正座をしているので、足が痺れてくる。元々地べたに座る習慣などないので座るときは胡座が基本のこの国で、正座は辛い。


「儂は一発殴られて終わりではないのか。」

「グラッドさんも同罪です。別の方法もあったでしょう?」

「うむ・・・。」


 騎士たちは事の顛末は全て聞いた。だから二人の言い分も分かるのだが、かと言って許されることではない。皇女である事を差し引いても、流石に追い詰めすぎではないのかと思ってしまう。


 ギフトが嫌われることで、その怒りをバネに生きる。と聞こえは良いが、やったことは結局叩きのめして泣かせた。要約すればこうなるだろう。


「うぅ。嫌われてもいいからご飯だけは下さい。お恵み下さい。」

「常に飢えているのかお前は?それもローゼリア様の裁可次第だな。」

「姫ちゃん早く来てーー!!」

「朝から騒々しいなお主は。」


 ギフトがお望みのローゼリアが場に現れる。グラッドを除いた騎士達が片膝を付き右手を胸に添え、恭しく頭を垂れる。


「あぁ。良いぞ。楽にするがいい。」


 その声に険はなく、眠れたおかげなのか昨夜よりかは幾分すっきりとしている。


 本当はもっと早く目覚めていた。気恥ずかしくて出るのを躊躇っていたが、いつまでも出ないわけにもいかないので覚悟を決めて出てきたのだ。


 そして、何より言わなければならない事を口にする。


「皆の者。姿勢を楽にして、聞いてくれ。」


 その言葉は真剣さがあり、立ち上がり姿勢を正す騎士たち。楽にしろと言ったはずなのにとは思えど、そこをグチグチ言うつもりはない。


「妾は不甲斐ない。心も強さも何もかも。全てに於いて、未熟者だ。」


 繰り出される言葉は自分を落とす言葉ばかり。それでもそれを恥ずかしいとは思っていない程凛々しい姿だった。


「だからこそ妾は強くなる。誰にも負けぬ力を身に着けよう。」


 ギフトの眉間に皺が寄り、ローゼリアを睨む。あれだけ言われてまだ分かんねぇかとその顔は如実に語っていた。


 だが、それは違うと言いたげにローゼリアは薄く笑う。自虐的な笑みでも無い、ただの微笑み。そんな顔をしたのはいつ以来か、ローゼリアにも思い出せない程昔に置き去った微笑みを。


「だからその為に、皆の力を貸してくれ。不甲斐ない妾だが、必ずお主たちに相応しい者となって見せよう。信じてくれ。この通りだ。」


 そう言って頭を下げるローゼリアに騎士は慌てふためき、頭を上げるよう説得する。数秒経ってからローゼリアは顔を上げ、揺るがぬ瞳で騎士たちを見返す。


「返事をくれぬか?」


 その顔を見てギフトはニヤリと笑い、グラッドは開いた口が塞がらない。騎士はそれぞれ顔を見合わせ頷いている。


 そして一斉に跪き、一人が言葉を述べる。


「我らはあなた様の剣にして盾。義務だけで従っていません。どうか我らをお導きください。」

「うむ。妾と共に行こう。辛い道でも照らしてやる。妾が迷ったときは、」


 言葉を区切り、一点を見つめて目を伏せる。そして目を開き、口角を釣り上げ、


「お節介な誰か達が、妾を怒鳴り散らしてくれるそうだ。幸せな事にな。」


 騎士達もローゼリアの視線に気づきその後を追う。そこには得体の知れない真っ赤な髪の青年と、涙をボロボロと零す老将がいた。


「姫様・・・。あぁ、良かった・・・。」


 誰に向けてでもなく、誰に憚る事もなく。


 これほど嬉しいことはない。笑顔を浮かべることのなかったローゼリアが笑い。誰にも頼ろうとしなかった孫のような存在が、頼れる誰かを見つけることができた。


 涙を溢れさせながらうつ向くグラッドに近づきその方に手を置く。


「心配ばかりかけたなグラッド。迷惑は承知だが、これからも頼む。」

「ええ・・・。ええ・・・!これ以上ないお言葉です・・・!」


 誰にも踏み入ることの出来ないその領域。見たこともないグラッドの涙を誰も笑うことなく、穏やかな顔でその光景を見つめている。


 そして誰もが忘れている。そのすぐ近くに居る青年の事を。


「姫ちゃん?俺にも一言下さい。」

「ふむ・・・。」


 割り込み空気の読めない発言をするギフトに、ローゼリアは顎に手を当て考える。


 世話になった事は確かだが、何故かそれを素直に認めたくない。と言うよりはギフトは完全にただ切れただけで、この結果は偶然ではないかとも考えている。


 救われたのだから文句は無いが、それでも何か意趣返しもしたい。悪戯心が沸くのも久しぶりだ。その気持ちに素直に従うことにする。


「姫ちゃん。お前。散々地面に転がし、脅して、挙句の果てには面と向かって嫌いと言ったな?」

「覚えてません皇女姫殿下様。」

「どれだけ慣れておらんのだ?それにお主が覚えていなくとも妾は覚えているぞ?」


 冷や汗をダラダラと流しながら、次の言葉を模索するも、言葉が浮かばない。相手を責め立てることはできても身を守るための言葉は今まで必要なかったからだ。


 周りの騎士もニヤニヤと笑っている。この場に味方は一人もいない。望みをかけて、ローゼリアを潤んだ瞳で見つめると、ニッコリと微笑み、これは勝ったとギフトは確信する。


 だが、ローゼリアはギフトに背を向け、騎士の一人に命令を下す。


「無礼者には食事は与えんで良い。もう少し反省しろ。」

「姫ちゃんの馬鹿っ!薄情者!!」

「ふふっ。冗談だ、ギフト殿。」

「愛してるぜ姫ちゃん!!」


 ありえない速度の手のひら返しに、誰もが苦笑いを漏らす。滂沱の涙を流していたグラッドも、清々しい笑顔を浮かべる。


「さあ。食事にしよう。今後の方針も決めねばならぬしな。」

「姫ちゃんの手料理?」

「そうだな。存外楽しかったからな。」

「姫様。料理なら私めが。」

「そう言うなグラッド。皆で作ればよかろう?ギフト殿は見てるだけで良いぞ?」

「・・・て、手伝うよ?」

「ああ。分かった。はっきり言おう。手を出すな、食材が無駄になる。」


 あまりにも率直な物言いだが、ギフトから文句は出ない。自分をよく知っているからだ。


 そして騎士とグラッドと共同で食事を作る。今までは作られたものを食べるのみだったが、変わらなければならない。その為の一歩をローゼリアは踏み出し始めた。



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