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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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46 ため息

「ふにゅ……。」

「可愛らしーなー。夢でも見てるかな?」  


 寝ているミーネの頬を突つくと、ミーネは嫌そうに寝返りを打って距離を取る。


 その様子すら楽しそうに見つめギフトの頬が弛むが、何一つ面白くないと言わんばかりにギフトを見つめる視線が一つ。


「……もうわかりません……。」

「これの行動を一々把握しようとするのは止めておけ。疲れるだけだ。」

「人を物みたいに言わないでよ。」


 ソフィーは目が覚めて暫くはベッドの上で呆けていた。昨日は疲れてすぐ眠ってしまったが、1日置いて昨日の出来事を振り返っていた。


 疲れが抜けきらず、気持ちも上に向けることが出来ない。自分がこれから何をするべきかを悩み始めた時、ノックも無しにドアが開かれ、陽気な赤毛が入ってきた。


 その赤毛はソフィーを見ると「早起きだな。」と呟いただけで、寝ているミーネの側に座り込んで頭を撫でたり頬を突ついたりと、悩みなどありませんとばかりに振る舞っている。


「ギフト様は何がしたいのですか?」

「色々。その為の準備だな。」

「……私にもわかるよう説明をお願いします。」

「可愛いなーミーネは。ほっぺもふにふにだ。」

「むー!」


 ギフトは嫌がるミーネの頬を尚も突つき、その手を寝ぼけたミーネにはたかれる。それでも嫌悪感は微塵も出さずに、頭を一撫ですると窓辺の椅子に勢いよく座る。


「心配しなくても、お前は何も知らなくて良い。と言うより何も知らない方が良い。」

「そういう訳には行きません。」


 確固たる意思を持ったソフィーに視線を送り、苦笑を作り煙草を咥えて上下に動かす。


「強情だねー。」

「ギフトよ。」

「んー?」

「お前に不安は無いのだろう。だがな、妾達は違う。お前ほど強くなければ豪胆でもない。」

「あー。んじゃそれを踏まえた上で、俺は何も言わなーい。」


 ロゼの指摘に対してもへらへら笑うばかりで本質ははぐらかす。


 ソフィーやロゼが不安になるのは理解している。得体の知れない敵にいつ襲われるかもわからない。何も知らないなら安心を得ることは出来ないだろう。


 だがギフトは何も語らない。自身の中で答えが出て満足したのか、別の理由があるのかロゼにも推し量れないが、今何を聞いても無駄なことだけは理解した。


「何も知らなくて良いのさソフィーは。仮に知ったとしても意味が無いしな。」

「何も知らないよりかは知っていた方が良いのではないか?」

「そりゃあね。ただ、言ったけど意味がない。知っても知らなくてもやることは大して変わんないさ。」


 ふてぶてしい態度のまま、ギフトは意地の悪い笑みを浮かべて煙を吐き出す。


 ロゼはギフトの答えに少なからず納得はしている。どこまでいっても所詮部外者で、深く関わる理由も義理もない。


 それにギフトがソフィーとアルバは守ると言った以上は、何が起きても問題にはならないと判断しているのだろう。ならばとロゼはギフトの判断に身を委ねられる。


 だがそれは少なからずギフトを理解できてる者の答え。ギフト自身も他人からそんな答えを聞いて納得出来る訳でもないことは承知している。


「知りたきゃ自分で頑張りな。どうせ俺から伝えても納得はしないさ。」

「……それが出来るなら、やってます。」

「お、今お前は良いこと言ったね。それが一番大事さ。」


 相も変わらず適当に、人の神経を逆撫でするようにギフトは笑う。


「俺から言えることは一つ。失敗してもいいから自分で動け。何もかも全部その先にあるのさ。」


 頭の後ろで腕を組み、達観した様子で言葉を括る。怪訝な目を向けられようと飄々とした態度を崩さないギフトに、ソフィーはいよいよ諦めたのか深い溜め息を吐いて脱力する。


「ま、飯でも食って気分を変えよう。あの三人も同じ宿にいるんでしょ?起こしてきなよ。」

「誰のせいで気分が……。わかりました。」


 ギフトに言われてソフィーは立ち上がり部屋を出ていく。何一つ納得する答えも得られなかったその背中は少し落ち込んでいる様子。


 それでもロゼはその背に声をかけることもせず、ただ黙って見送りギフトを見る。


「……感心せんな。」

「あれ?お前はわかってると思ってたんだけど?」

「お前が何もしないと言った時に確信はしていたがな。」


 ギフトの目的は敵に警戒だけさせて動かせないようにする事。


 なのにギフトはソフィーが勝手に動く事を許した。目的はわからずとも聖教連が動くならソフィーを狙うことは充分に有り得ることだ。


「心配しなくてもたぶん動かないよ。でもそのまま思い止まって貰っても困るんだ。」

「聖教連とその仲間。そいつらには悪になって貰わねばならないからだな。」


 ロゼは宿の外での会話を思い出し一つ頷く。


 まかり間違って聖教連が正しいとなってしまえば、ロゼ達に起きた事が今度は別の場所で起きる。運良くギフトやネヴィルといった強者がいたから乗り越えられただけで、あそこで死んでいてもおかしくはない。


 そうならない為にも聖教連が悪だと周知させる。危険度は変わらなくても警戒を強めさせれば表だった行動も出来なくさせられるし、事前の対策も立てられるかもしれない。


「でも『聖教連』が悪だと思われるのは困るわけで。」

「……ソフィーとアルバがいるからか。」


 今度はロゼの言葉にギフトが頷く。二人は現在仲違いをしていると言っても所属は聖教連。


 このまま悪になってしまえば彼等も一緒に責められるかもしれない。違うと叫んだ所で信じる者は少ないだろう。


 それを回避するために言葉だけでは納得させられない。ならばソフィーとアルバには今動いてもらっていた方が都合が良い。


 幸か不幸か今この国は祭りの為賑わいを見せている。普段より多くの人がいるのだ。聖教連と二人の対立を第三者に見せておけばいくらか擁護もしやすくなる。


 だがーーー。


「嫌だな。そんな理由は。」

「お前はそう言うと思ったよ。」


 苦笑いを溢してギフトは煙を吐き出す。ソフィーとアルバは決して保身の為ではなく、自分達の意思に従って動いている。


 それをギフトは利用しようと思っている。どんな理由だろうと有利になるなら使おうとしているのだ。


 だからロゼは嫌だと思う。彼等の行動は汚い保身等と思って欲しくはなかった。


「だがやろう。知ったからには妾も共犯だな。」

「ほえ?」


 予想外の言葉に面食らう。てっきりロゼは断固として拒否すると思っていたからだ。


 実利では無く感情で動く事を優先している節があるロゼにとって、ギフトの取った行動は許せない。そう言うと思って罵倒も覚悟していたギフトは肩透かしを食らう。


「意外そうな顔をされるのは心外だ。」

「いやいや。絶対否定的だと思うでしょ普通?」

「うむ。だがお前にばかり負担をかけるのはもっと嫌だ。」


 意思の強い相貌がより強くなる。ロゼは自分の弱さを理解した上で、ギフトの隣に立つことを選んだのだ。


 ただ強いだけでは駄目で。ただ優しいだけでも駄目。下劣と言われようと突き進む覚悟が必要なのだ。


 そうでなければ誰も守れないし、救えない。少なくともギフトはそう思ったから行動に移したのだろう。ならばロゼは一先ずはそれに従うと決めた。


「それに有効だということも理解できる。二人にそれを悟らせなければ、傷つく事も無いだろう。」

「騙し続ける方が辛いと思うけどねー。」

「いずれ気づくだろうが、その時は妾達が責められれば良いだけだ。」

「ふーん……。」


 ギフトは暫し目を閉じ黙考し、その目を開いたときには意地の悪い笑みを浮かべて笑う。


「良いじゃないか。やっぱりお前は最高だよ、ロゼ。」

「ふん。では妾にもお前の考えを全て……。」

「お断りします!」


 腕を交差して、バツ印を見せつける。


 ロゼの表情がみるみる内に、汚物を見る様に冷えていくがギフトはその様も笑って見送る。


「やーん。ロゼちゃんこわーい。」

「……おい。」

「ロゼは大会に出場して優勝する事だけ考えてれば良いよ。それが俺の手助けになる。というより…」

「なんだ?」

「結局何らかの強さが無ければ、何も成すことは出来ないのは世の常だから。」


 聞きたく無いことをバッサリと言いきられ、ロゼは沈黙する。その言葉の意味も重さも承知して、言い返すことも出来ずに目を伏せる。


 自身の弱さはわかってる。今までも誰の助けもなく何かを成したことは一度もない。


 それを責めている訳でも無いだろうが、確かに。今ここでどんな事実を知ろうとも自分には何も出来ないかもしれない。それを思うなら自力をつけた方が幾らか建設的だと考え直し目を開ける。


「切り替え早くなったね。良い傾向だよ。」

「どれだけ悔しくとも飲み込まなければならない言葉もある。それだけだ。」

「なるほどね。それなら良いさ。んじゃ俺は先に飯食ってくるから、ミーネが起きたら一緒に来てね。」

「あ、おい。」


 ロゼの言葉を聞かず、ギフトはそのまま部屋を出る。一つため息を吐き出して、ロゼはミーネが起きるのを待ってからギフトの後を追った。

次回も不定期です

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