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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 一部 ~邂逅~
14/140

14 説教?喧嘩?

ちょっと長め。

 ただ焼いただけの肉と、水で煮込んだだけの野菜を二人で黙々と平らげる。食えないことは無かったが、やはり美味しいと言えるものではなかった。


 幸いなのはホーンブルの肉が焼いただけでもそれなりに食べられるものだった事だろうか。そうでなければローゼリアは不満も漏れていただろう。


「美味かった。ご馳走様。」

「・・・世辞はいらぬ。分かっておるわ。」

「そういう時はお粗末さまって言うんだぜ?俺がいつか言ってみたい言葉だな。」


 煙草を加えながらケラケラ笑うギフトは不満を漏らすことなく全て食べきった。自分が焦がした肉もローゼリアが綺麗に焼いた肉と交互に食べていた。食材を無駄にすることが嫌いなのだろう。だが、食わねば飢える。ギフトの旅はさぞ多難なものだろう。


 ローゼリアが味はともかくとお腹を満たした状態で暫く火を見つめる。パチパチと音が鳴り、揺れ動くそれを見つめていると無心になれる。


「姫ちゃん?どうした?」


 そして黙って火を見つめている状態を不審に思ったのかギフトが声を掛けてくる。そこにはどこか心配をしているような顔が映し出され、ふと思い出す。


 先程まで完全に忘れることが出来ていた。他の事に夢中になることで、一瞬忘れることができた。それが薄情に思えてローゼリアは自分を嫌いになる。


「いや、何でもない。」

「おっと残念その言葉は俺には効かない。なぜなら俺は姫ちゃんを信用していないからな。」


 ずいっと指を近づけ眼前で指を振る。その奥には笑顔が見えて、ローゼリアに怒りが灯る。


「食事を作ってくれた相手に無礼だな?」

「・・・。」


 睨むと今度は大人しく引き下がった。萎縮したというよりは、単に痛いところを突かれただけのようだが、初めて見るその顔に少しローゼリアの怒りも収まる。


「冗談だ。そこまで狭量ではない。恩を返しただけだ。」

「あの目はマジだったぜ・・・。って、何?恩?」


 幾分か落ち着いた心でギフトに向き合い、そして頭を下げる。


「皆を助けてくれたこと、弔いをしてくれたこと、今まで礼を述べることが出来なかった。改めて感謝する。」


 今更それを言うのも恥ずかしいが、この期を逃すと一生言うことは無いだろう。そもそもがギフトはこの国の者ではない。用事が終わるか、気分が変わればこの国を去るだろう。


 そうなれば礼を言うことは一生できなくなるかも知れない。そうでなくとも、この場で言わなければ意味もないだろう。


「お姫様って簡単に頭下げちゃ駄目なんじゃないの?」

「簡単にではない。今皆が生きておるのはお主のおかげだ。それがわからぬ程馬鹿ではない。妾がすべきことを変わってやってくれたお主に頭を下げるのは当然だ。妾にはその責任がある。」


 何もできなかった自分に変わり騎士を守ってくれたギフト。もしギフトが居なければこの場には誰もおらず、下手をすれば自分もグラッドも生きてはいなかっただろうと。そう思って真摯に頭を下げる。


「・・・そっか。頭上げていいぞ。」


 頭を上げるとギフトはこちらを見ておらずじっと火を見つめている。その顔はどこか怒っている。そしてローゼリアに向き直り口を開く。


「俺はお前が嫌いだ。」


 その声は今までの能天気な声ではなく低い声で、ローゼリアは方が一瞬上下する。


 嫌いと面と向かって言われたことは初めてで、何よりここまで怒りが溢れているのか、それがわからない。


 狼狽えるローゼリアにその怒気を一瞬で引っ込め、顔を笑顔にし煙草に火を点け煙を上に吐き出す。


「何もわかっちゃいないお子様姫が、何を抱えこんでるつもりなんだ?」

「・・・貴様、誰に向かって、」

「お前に言ってんだよお飾り姫。面と向かって言われても分からない程馬鹿なのか?」


 ローゼリアは立ち上がりギフトを睨む。それでもギフトは動かず煙草をくゆらせ、薄い笑みを貼り付けるのみ。


「至らぬ点は確かにある!だが、お飾りと呼ばれるほど何もしてないわけではない!」

「知るか。お前の努力なんて。結果が全てのこの世界で、お前に出来たことを数えてみろ。」


 それは全てを否定する言葉、ローゼリアの怒りはこれ以上ないくらいに溢れ出す。剣を抜き放ちギフトに斬りかかる。


 それをギフトは避けもせず、ローゼリアは首筋に剣を向け、荒い口調で言葉を紡ぐ。


「妾の事を知りもせぬのに貴様が妾を語るな!」

「お、いい言葉だね。あいつらの墓前に添えてやろうぜ。冥界からお前に言われたくないって言葉が返ってくるぜ。」

「貴様・・・!」

「ほれ切れよ。あいつらの恩人の俺をお前の怒りのままに切ってみろ。」


 視線を向けると、騒ぎに目を覚ましたのか、騎士の者たちが心配そうにこちらを見ている。それに気づきローゼリアは剣を下ろし鞘に収めようとして、


「また逃げんのか?臆病者のお飾り姫。あいつらを殺せば少しはやる気になるか?」


 手が止まる。


 それだけは許せない。だが、ギフトが本当にそうするとは思えない。少なくとも無償で命を救える者が、そこまで非道なことはしないと、ローゼリアの冷静な部分が囁く。


 そして、自分を止めようとしないローゼリアは無視してギフトは騎士の一人に掌を向け、呟く。


炎の槍(ジャベリン)。」


 翳した手から、槍を模った炎が一直線に騎士に向けて飛んでいく。それは殺傷能力の高い、肉を突き刺しその身を燃やす魔法。当たれば普通の人間が耐えれる道理のない魔法を躊躇う事なく放つ。


 しかし、それは騎士に当たる前にひと振りの大剣に防がれ、その結果に舌打ちを一つ漏らす。


「何をしておるギフト殿!!」

「ん?俺この姫様が嫌いだから、こいつの一番嫌なことしてやろうと思って。」

「なっ・・・!」


 笑いながら何でもないことのように返事をしてきたギフトにグラッドは絶句する。


 それを無視してもう一発魔法を撃とうとすると、横合いから剣が向かってくる。上体を逸らして回避し、帽子が落ち、そのまま少し後退する。


「貴様は、許さぬ!この下郎が!」

「ハッ。お前の許しを請うつもりはまるで無いけどな。お飾り姫に許されても何も嬉しかない。」


 言葉の終りと共にローゼリアが踏み込み剣を振り下ろし、ギフトはそれに対して木の杖を使って防御する。切れると思っていたローゼリアはそれが防がれたことに動揺し、足を止めると、足払いを掛けられ態勢を崩す。


 追い打ちがかけられると身構えるが、ギフトは煙草をくゆらせるだけでこちらを見てもいない。煙の流れる方向に視線を合わせるだけだった。


「くっ・・・!舐めるなぁ!」


 立ち上がり剣を振るうも、それは全て躱されるか、防がれる。実力に差がありすぎる。何度挑んでも勝つことは出来ないだろう。


 ギフトが油断しているのを好機と思っても、その油断が突けない。こちらの体制が整っていない時だけ彼は気を抜き、立ち向かえば一切当たる気配がない。


 暫くそのやり取りを騎士たちは黙って見ていたが、自分たちの使命の為動こうとする。しかし、それは真っ先に動くべき者に止められる。


「グラッドさん!?」

「儂はギフト殿を信用している。貴様等も今は黙って見ておれ。」

「一体何を・・・!?」

「儂には出来ぬ事だ。これは命令だ。黙って見ておれ。それが出来ぬなら儂を殺せ。」


 それだけ言うとグラッドは腕を組み、黙って戦いを見つめる。騎士たちは理解が出来ず、かと言ってグラッドを倒すことも出来ず。顔を見合わせて、黙り込むしかなかった。


 何度も地面に転がされ、服が泥だらけになったローゼリアはそれでもギフトを睨み続ける。


「なぜ、当たらぬ・・・。」

「そりゃ俺のほうが強いからな。潜ってきた修羅場が違うよ。」


 悔しそうに呟くローゼリアを挑発するように、笑顔のまま汗一つ欠かずあっけらかんと返事をするギフト。


 奥歯を噛み締め、ギフトに向けて剣を振るうも、もうその剣に力はない。押し返されるだけで尻餅をついてしまい、ギフトを見上げる形になる。


「お前は知らなすぎる。知らないことが多すぎて、知ったと勘違いしてるんだよ。」


 ローゼリアを見下ろしたまま杖をくるくる回してつまらなさそうに言葉を漏らすギフト。その真意はローゼリアには理解できなず、ただ馬鹿にしているとしか感じられない。


「貴様に、何が・・・!」

「認めるところは認めなきゃいけねーよ。お前は弱くて何も守れなかった。自分も他人も。」


 心に突き刺さる一言を平然と言ってのけるギフトに、ローゼリアはその視線を下に向けてしまう。その間にギフトは落ちた帽子を拾い、土を手で払う。そして騎士を背中にローゼリアに語りかける。


「俺の言えることじゃ無いけどさ、お前は他人を守り続けれる程強くはないよ。」

「だからこそ妾は!」

「強くなろうとしたって?でも今のお前は弱いのにどうするんだ?」


 言葉が詰まる。強くなろうと努力はした。剣を覚え魔法を覚え、成長し騎士にも負けぬ程の力は得た。だが、それでも守ることは出来なかった。ならば一体どうするべきだったのか、ローゼリアにその答えは出てこない。


 うつ向くローゼリアにギフトは溜息をついて、杖をローゼリアに向けて小さな声で囁く。


「頼れよ。お前が抱えるものを分けて、誰かが抱えるものをお前が持て。お前はそれが出来る環境にいるだろうが。」

「妾には・・・そんなもの・・・。」

「証明してやる。お前はこんなにも幸せなんだ。」


 ローゼリアに背を向け騎士へと視線を向ける。中心にグラッドが立っているが、彼はこちらを見て、眉間に皺を寄せているが、まだ動かない。


 グラッドが動かないことを確認すると、ギフトは騎士たちに大声で宣言する。


「今から俺を怒らせた姫を殺す!止めたければ俺を倒してみろ!」


 その宣言に我慢の限界と騎士が動こうとするが、それは再び止められる。


「これは命令だと言ったはずだ!動けば騎士の称号は剥奪する!」


 ギフトに負けない大声で騎士たちを制止し、ローゼリアはその言葉に絶望を覚える。一番の忠臣に裏切られたと。そんな中騎士は戸惑うが、一人だけ動いたものがいる。


 ギフトに食事を渡そうとしていた騎士の一人が、グラッドに顔に向けて拳を振るう。防ごうと思えば防げたそれは、グラッドの皺の刻まれた顔に突き刺さり、勢いをそのままに後ろに転ぶ。


「グラッドさん・・・。そりゃねぇよ。俺たちは騎士だ。人を守るためにいるんだって教えてくれたのはあんたじゃないか!!」


 握った拳を震わして、グラッドに怒声をぶつける若い騎士は、その感情のままにギフトを見据える。


「あんたに勝てるとは思わない。でも、俺にも意地があるんだ!守られるだけで良いなら騎士にはならない!!皆!ローゼリア様を守れ!」


 その言葉はローゼリアに届き、そこで初めて自分が思い違いをしていると気づく。


 騎士とは守られる存在ではない。例え新人であろうと、誰かを守る矜持があるから、騎士になったのだ。それをずっと蔑ろにしてきた。彼らの気持ちを踏みにじってきた。


 強いが故の傲慢にローゼリアは否応なく気づかされる。自分が守るべきだと、そう思い込んでいた。だが、そうではなかった。彼らは共に守るべき存在なのだと。


 様々な感情が胸の中でぐちゃぐちゃになる。後悔、懺悔、悔しさ、虚しさ。だがその中で一番強い思いが嬉しさだった。


 もう価値は無いと、誰にも見向きもされなくなった自分を守ろうと立ち上がった弱きもの。遠目からでも足が震えていることは目に見える。それでも立ち向かうその意思は誰よりも強いと思えた。


「な。お前は何も知らないだろ?強さも弱さも人の気持ちも。」


 そんなローゼリアにギフトは視線も向けずに言葉を掛ける。その目は騎士をじっと見据え、これ以上ないくらい屈託のない笑顔を浮かべている。


「あいつらは自分達の無事よりお前の無事を願ったんだ。一人で抱え込んでたらあいつらはずっと心配し続けるぞ?」


 ローゼリアの目に涙が浮かぶ。人前で涙を見せることなどいつ以来かもわからない。悲しさを抑えることをできても、嬉しい気持ちを抑えることは彼女には出来ない。


「幸せ者だろ?仲間が目の前で死んだんだ。それでもあいつらはお前を心配した。誰にでも出来る事じゃない。認めるところは認めろよ。あいつらは、」


 同じ言葉でも意味が違う。言葉の先など聞かなくともわかっている。


 ギフトの怒りも今なら理解できる。自分を心配してくれたものを蔑ろにし、自分一人で抱え込み、結局何も出来ないくせに責任を語る。騎士にもギフトにも自分にも、ローゼリアはずっと不誠実だった。


「お前が守る奴らじゃ無くて、お前と守る奴らなんだよ。」


 振り向き薄ら寒い笑みを消し、歯を見せながら笑うギフトの言葉は届き、ローゼリアの視界はすっと開け、涙はとめどなく溢れ出る。


 こちらに来るために、機会を伺いながらギフトに少しづつ詰め寄っていた騎士たちは突然ローゼリアが泣き伏せたことにより動揺し、堪えきれずに一直線に駆け出していく。


「これで一件落着かな。・・・ってちょっと!待って待て待て待て待て待て!!」


 眼前で腕を精一杯振るい止めようとするも、その勢いは止まらず、ギフトに向けて騎士が突撃をかます。殺すつもりは無かったのか剣を抜いてはいなかったため、これも仕方ないとギフトはその突撃に身を委ね、数名の騎士に伸し掛られて地面に倒れふせ、汗臭に顔を顰める事しか出来なかった。

続きは明日10時。

誤字脱字は気をつけていますが、

あれば報告お願いします。

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