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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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45 帰還

 朝目が覚めて周りを見渡す。そこには普段いる筈の人間がいなくてロゼは少し溜め息を吐く。


 いつもなら煙草を吸っているか、窓辺で椅子に座って暇を潰しているギフトが、朝になっても帰って来ることが無かった。殆ど日常と化した風景とは違う空気が物悲しくなる。


 帰って来ると思っていた。ギフトは同じ目的を持ち続ける事が苦手で、やる気の無いことに注力する性格でもない。途中で飽きて帰ってくる可能性もゼロでは無いと。


「……何をしているのだ。」


 ロゼが窓辺に立ち外を見渡す。そしてある地点に目を向けると呆れと共に言葉が漏れて、ミーネ達を起こさないよう部屋を抜ける。


 もう少しで日が上る。町の人間は少なく、静寂の中目を向けた地点に向かうと、惚けた顔で煙草を吹かす男が一人。


「あ、やっぱり気づいた?」

「……。…………お前な。」

「わかるわかる。何してんだって話だよねー。」


 ロゼが少し口を開いただけで、ギフトは納得が行ったと頷きながら笑う。ゼロでは無いと思ったし、帰ってきたのは素直に嬉しい。


 だがそれでロゼが納得するかは別の話。苛立ちを抑えてギフトに近づいて睨み付ける。


「そう睨まないでよ。もう充分だし。」

「満足したか?」

「ん。まぁ後はどうとでもなれって感じかなー。」

「……最初から、の間違いであろう。」


 ロゼは深い溜め息と共にギフトを非難する。そもそもの始まりがおかしい時点で、途中から勘づくことができた。


 ギフトは自分の思惑をロゼが理解しているとわかって嬉しそうに顔を綻ばせる。


「そりゃあね。そもそも今回俺って場違いだし。」

「そうでも無かろう?妾からすればお前は騒ぎの中心だ。」

「だから場違いなのさ。一人だけ無関係だから悪目立ちしてるの。」


 ギフトが今回の件でわかっている事は、聖教連が人を集めている事。魔物が召喚できる事。リズ達が聖教連を警戒してる事。そして聖教連が何かしらの組織と繋がっていること。


 全てに置いてギフトは無関係も良いところだ。何が起きても関係無いの一言で終わらせられる。なのに全てに薄く関わりを持っている。


「後は当事者の問題だよねー。まぁソフィーとアルバは守るけど。」

「ああ、その為か。」

「アルバとは約束したからな。俺ちゃん忙しいわー。」


 そう言ってへらへら笑うギフトを見て、水面下で動いている正体もわからぬ者達にロゼは少し同情する。


 恐らく勇者に決闘を挑んだギフトの事は知っているだろう。それが動き始めて警戒もしたかもしれない。


 にも関わらず当の本人はどこまでも適当で、敵が誰かを理解した上で動くつもりが無い様子。


 敵が誰かさえわかればギフト一人が警戒してれば良い。余計な茶々を入れて争わないよう警戒心を与えるのが目的だった。


「祭りを楽しむだけさ。邪魔な彼等には大人しくしててもらおう。」


 結局の所ギフトはそれしか望んでいない。怒ったふりも、一人で動いたのも着地点が皆の望みと違うから。


 楽しみたいだけの人間がわざわざ楽しくない事をしない。ギフトからすれば祭りが終わるまで大人しくしててくれればそれだけで充分だった。


「だがそれでは被害が増えるのでは?」

「たぶん大丈夫。この世界は逞しいからねー。何だかんだで今まで悪人は栄えなかったんだよ。」

「……妾からすれば、止めれる時に止めておいた方が良いと思うが……。」

「ならお前達がやるべきだ。そこは人任せにするなよ?」


 面倒臭がりのギフトは自ら進んで解決を図らない。ディーゴもいるしロゼもいる。この国で出会った仲間もいるのだ。ギフトは祭りを楽しみ、戦争を止めたいだけ。それ以上は望まず、一人で何もかもやりきるつもりは一切無い。


「腹が立ったのは事実だから、本当は全員叩き潰そうと思ってたんだけどねー。」

「思い直したのか?」

「約束が多くて大変だよ。一つ破っちまったのは悲しいな。」

「……いや、お前は何も破ってなどいないさ。」


 相も変わらずへらへらとしているが、声音から反省の色が見えたギフトをロゼは慰める。


 ギフトは約束と口にしたら破らない。例えそれがどれだけ下らなくとも、達成が不可能と思われようと必ず実行する。


 ギフトは面倒を見ると言い、それを守れなかった事に負い目を感じているようだが、ロゼからすればそれはお門違いな話のようで。


「妾達の為に少し離れただけだ。約束は何一つ破ってなどいないさ。」

「……そうかな。そう考えても良いのかなー。」

「そうとも。それに付きっきりでなければ成長出来ないと思われるのも心外だ。舐めるな馬鹿者め。」


 ロゼが自信ありげに吐き出した言葉にギフトは目をぱちくりさせる。そう思えば少し嫌らしい笑みを浮かべてロゼを見返す。


「ロゼは俺には辛辣だよねー。」

「気を許してるからであろう。嫌われる事を気にしなくてよいからな。」

「確かに。気を遣われたらむしろ嫌いになるし。」


 ギフトは短くなった煙草を消して、新しく口に咥えて火を点ける。そして両腕を空に伸ばしてゆっくりと息を吐き出す。


 ギフトのやるべき事は既に終わった。後は誰かが勝手に動く。必要なら力も貸すが、そうでないなら遊ぶだけ。


 スッキリした表情のギフトに、ロゼは何度目かの溜め息を漏らして口を開く。


「敵がいるなら叩けば良い物を。」

「それじゃ駄目さ。聖教連は悪者になってもらわなきゃ。それと共犯者もな。」

「……大変だな。」

「そうでもない。って思えてる自分がいて少し楽しいのさ。」


 ギフトが風来坊でなければ。様々な国からの信頼も厚ければ、ここまで面倒な手間をかけずにすんだだろう。


 半人(デミ)であることを隠し、仲間に危害を加えない為に遠回りな方法しか取れず、その事に自分は苛立ちを覚えるとギフトは予想していた。


 だがいざやってみれば、ロゼやミーネの為になるなら悪い気はせず、自分で直接決着をつけられないやり方にも楽しみを見いだしている。


「それはそうであろうな。お前は……、……。」

「何?」

「……いや。何でもない。自覚せずとも良いことだ。」

「気になるじゃないか。言えよ。」

「大した事では無いさ。宿に戻ろう。ミーネを喜ばしてやれ。」

「ちょっと?ロゼちゃん?」


 ロゼは言いかけた言葉を飲み込んで宿へと足を向ける。ギフトは首を捻ってロゼが何を言おうとしたのか少し考えるが、直ぐに匙を投げてロゼの背中を追いかけ問い質すが、ロゼは答えず笑うだけだった。


明けましておめでとうございます。

年末年始は無理でした。


久しぶり過ぎて思うように書けなかったです。


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