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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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40 過去を知る者

 暫く時間が経ってリズだけが戻ってくると、話は座ってしようと誘われる。


 流石にリズの一存で得たいの知れないギフトを協力者とするのに抵抗はあるのだろう。妥当な判断と納得して二つ返事で頷き、適当に店に入る。


 空いた机を囲んで座る。賑わいのある時間だからか、それとも祭りが近いからか異様な服装の集団には目も暮れず、それぞれが会話に興じている。


「さて、何から話すか。」


 全員が座り、聞く体制になったのを見計らってリズが発言する。真剣な面持ちで、事の深刻さを理解している人間の顔だ。


「何にしようかな?魚は食ったしなー……。」


 それに対してギフトは平常運転。何を食べるか悩んでいる。


「いや待てよ。」

「何がさ。飯屋に来たら飯食うだろ?」

「そうだが状況もあるだろ?時間は有限じゃない。お前もそれは同じ筈だ。」

「だからこそ食える時に食べなきゃ。腹が減ると苛ついてくるしね。ただでさえムカつくのにこれ以上腹が立つと何するかわかんないし。」


 ギフトからすれば現状は取るに足らない相手と思っている。魔物を呼び出す技術が確立されているなら多少の脅威ではあるが、あの程度の魔物なら何体産み出そうが問題はない。


 ロゼも一体仕留めることが出来た上に、炎の槍(ジャベリン)で貫ける程度の防御力なら、何百いようが物の数には入らない。


「俺もそこそこ強いからさ。あんまり実感が沸かないのよね。邪魔だから潰しはするけど。」


 危険だから倒す。と言った行動をギフトは取らない。これから先邪魔になるかならないか。ソフィーやアルバが生きていく上で、聖教連が邪魔になりそうだから消えてほしいと願うだけ。


 勿論戦争を起こすつもりなら止めはする。どれだけ無惨な結果を生むか知っているから。それでも別段躍起になって止めようとは考えていない。


「基本なるようになれって考えてるからさ。止めたいなーとは思っても止めなきゃならないとは思わないんだよ。」

「なら何で今は止めようとしてるのにゃ?」

「邪魔だからって言ったろ?俺が笑うためには邪魔なのさ。」

「外道だにゃ。」

「気付くのが遅いよ。」


 悪びれる様子は無く、それでいて驕る様子もない。リズは静かにギフトを観察し、言動の一つ一つに注目する。


 ギフトもリズに見られている事を承知でいつもと変わらぬ様に過ごす。自分の行動原理を打ち明けたのも、変に強制されないためだ。


 命令に従って動くのも楽で良いが、途中で飽きて勝手に動き出す。自分の事を理解しているギフトはリズを協力者と仰いでも、共に行動する仲間とするつもりはない。


「欲しいのは情報さ。後腐れなく潰したいからな。」


 ギフトが今直接的な行動に出ないのは、今ここで倒しても、蛆虫が如く聖教連が沸いて出るのが嫌だから。


 組織の規模が縮小したとはいえ、まだまだ人はいるだろう。その連中を一々相手取るより、世界的な犯罪者に吊し上げた方がギフトとしても楽なのだ。


 個人的な恨みはすぐに忘れられるし、一発殴れればそれで良い。


 ギフトは煙草に火を点けて煙を吐き出し、リズはギフトをじっと見つめる。


「……俺は信用するさ。」

「リズ?」


 不信感が高まる発言を繰り返すギフトをリズは何故か信用しようとしている。


 仲間からすれば理由が見えないのだろう。それでもリズはある程度確信を持っている。


「傭兵。燃えるような赤目に赤毛。不遜な態度。心当たりが無いか?」

「……まさか。」

悪戯好きな炎(ウィルオーウィスプ)。仲間になるならこれ以上はいないだろうよ。」


 リズの発言でギフトに視線が集まる。煙草を咥えたままその視線を鬱陶しそうに受け止め、煙と共に溜め息を吐く。


 ギフトは既に傭兵ではなく、その呼び名の栄光も見に覚えがない。周りが優れていただけで自分の功績はそれほど大きいものではない。


「昔の話だろ。」

「あの傭兵団の名前は有名だからな。数年で消えたりしないさ。」

「あの中なら俺は地味な存在だと思うけどなー。」

「何言ってるにゃ。ただ一人で国相手に喧嘩を売った馬鹿の名前は有名にもなるにゃ。」

「皆に迷惑かけただけの馬鹿者だけどな。」


 少し昔を思い出したのか、笑いながら答える。無謀な事をしたと自覚しているが、微塵も後悔はして無いのだろう。


 喧嘩を売った者は潰し、調子に乗った者も潰す。少しだけ丸くなったと言うか、ロゼと出会ってからは殺さないようにはなったが、行動原理は変わってない。


 自身の成長の無さに眉間に皺を寄せると、リズ達が真面目な顔でギフトを見る。


「でも、なるほどにゃー。それなら言いたい事があるにゃ。」

「私も言いたい事があるのよねぇ。」

「……我も。」


 今まで黙っていた金髪の女性と、癖っ毛の小柄な男性が言葉を発する。間延びした話し方と、見た目の割に低い声を聞きながら、煙を上に吐く。


「なんだ?」


 ギフトは何時でも戦える様にと警戒を強める。傭兵時代の自分を知っているなら恨みを持っている者も多い。リズが仲間にしたいと思っても、それを仲間が許容するかは別の話。


 多くの人を殺した。その数だけ恨まれても仕方ない。そう思っての反応だが、出てきた言葉はギフトの予想の外だった。


「ありがとう。直接言えて嬉しいにゃ。」

「貴方に出会えた事、精霊に感謝しますぅ。」

「太陽は世界を照らした。輝きを糧に我は生きる。」

「え?最後のは何?」

「ありがとうって事さ。俺も含めて俺達は南大陸の出身なんだよ。」


 リズは肩を揺らして笑い、ギフトの反応を楽しむ。


 自分の功績を語る者が少なく、感謝を伝えようにも会う事は出来なかった。ギフトの所属していた傭兵団の功績を知る人は少なく、話しても笑い話にしかならない事だ。


 曰く、一夜にして国を滅ぼした。曰く、三年続くと言われた戦争を一週間で終わらした。曰く、たった一人の獣人族の少年の涙を拭うために、馬鹿一人が国に喧嘩を売った。


 悪にも善にも頓着が無く、ただあるがままに振る舞う。そんな傭兵だねだから誰よりも戦場を駆け抜け、誰より多くの人を救った。


「強く憧れたさ。自由に信念を貫き、笑って全てを拾い上げていく傭兵団にな。」

「俺はそこでは木っ端だって。あの人達と一緒にするなよ。それに噂は噂だよ。」

猫人族(ケットシー)の少年の為に国に戦争を仕掛けたってのは?」

「俺達はいつだって自分の為にしか動かなかったさ。その国がムカついたんじゃない?」

「あ、そういう誤魔化しは良いですよぉ。こっちはちゃんと調べてますからぁ。」

「……関係無いさ。俺に売られた喧嘩を俺が勝った。それを皆が助けてくれただけの話だ。」


 意地でも人の為と言わないだろう。その強い意思だけは感じ取れる。


 実際は下調べは済んでいて、事実と確認はしている。だからこそ、その不器用な優しさに感謝できる。


 責任を誰にも押し付けず、何が起きても自分が悪いと非難を受け止める。その上でどれだけ偉大な功績を上げてもそれはいらないと他人に譲り渡すから質が悪い。


 感謝したくても、本人と確認が取れない。それはギフトだけでなく、その傭兵団の全てに言えることだった。


「どうせ悪い癖だろ。俺は信じたいさ。」

「なるほどにゃ。私はそれなら納得にゃ。」

「そうですねぇ。」

「無常が世の常。福音はもたらされた。」


 彼等の中では腑に落ちる話だったのか、結論が出た様子。


 ギフトとしては今一納得出来ない話だ。ギフトは彼等を知らない。会ったことも無いし、傭兵団の活躍はギフトにはそこまで関係無い話。


 所属はしていたが、本当に末端。可愛がられていたが大きな功績は無く、褒められるには相応しくない。


「お前らなら南大陸でも我を通せただろうに。」

「立場を気にしたんだよ。俺達は昔は冒険者だった。」

「あー……。若いねー。」

「あの時は舞い上がっていた。まぁ昔話はもういいさ。今の話をしよう。」


 思い出したく無いのか、リズは話を打ち切る。ギフトの過去は調べた癖にギフトは彼等の過去を知らない。


 公平では無いがギフトもリズ達の過去を掘り下げたい訳ではない。ただ信用に足る情報が無いだけだ。


 それでもギフトはそれ以上探らない。どれだけ言葉を重ねても、たった一つの行動で信用は失う。それが普通と思ってるギフトからすれば、ここで彼等の真偽を問い質す事に価値を感じない。


「その前に飯だな。お前らの事情は関係無いし。」

「食いながらで良いか?」

「別に良いよ。」


 食っている時に話す事はしないが、飯屋に来て食事を取らないと言う選択肢はギフトに無い。


 美味しそうな匂いが漂う中で会話ばかりは辛いと、ギフトはあれこれ頼んでいく。


 ギフトの能天気さに不安もあるが、逆に頼もしいと考える事にして諦め、リズ達も幾等か落ち着いた気分で食事を頼んでいく。



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