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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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39 強者との出会い

「仕事に明け暮れ理解は得られず、終いにゃ逃げられ酒に逃げ、落ちた先では乾いた笑い。……これが父親の辛さかな?」


 町を覆う外壁の上。ギフトは座り、煙草を吸いながら一人呟く。


 ロゼやミーネに心配されてるだろうが、実際ギフトは特に思うところは無い。邪魔者がいるから排除するだけ。取り立てて一人の頃とやることは変わらない。


 ミーネにあまり見せたい部分では無かったが、それも含めて考えてくれるなら悪くないと、既に意識は切り替えている。


 さっきの言葉も特に意味はない。どうせならミーネやロゼの成長を近くで見たかったが、かといってギフトは仮に逃げられても酒には溺れないし、悲壮に明け暮れることもない。


「約束を守れなかったなー……。」


 唯一そこだけが無念ではある。ロゼ達の修行の邪魔をさせないために潰したいが、面倒を見ると言う約束を守れなかった。


 あの二人は怒らないだろう。ただ自分が許せない。口約束程度のものだからこそ、ギフトは守るべき価値があると思っている。


 それを守れなかった自分。邪魔をしてきた聖教連。知らず知らずの内にギフトを怒らせた彼らはギフトのストレス解消の為だけに潰されようとしている。


 立ち上がり、町を見下ろす。大会に近付くに連れて人の賑わいは多くなっている。


 この中から聖教連だけを見つけ出すことはギフトには出来ない。白いローブの人間など多い。ルイの様に冒険者でも似た服装をしているものはいる。


 紋章が入ってはいるが、ギフトはそんなもの覚えていない。白い服のの集団なら聖教連。そうでないなら別と適当に振り分けている。


 ただ、今回は場が悪い。白い服の一団など幾らでもいる。視線を右から左に降っただけでいくつも発見できる。


「……ローブ。ローブローブ……。ローブってなんだ?」


 服に大した頓着の無い人間に、服の特徴を目印にして人探しなど無理がある。


 格好つけて出てきた手前、戻って「ローブって何?」とは聞けない。と言うより一度戻ってしまえばどうでも良いやと考え出すに決まっている。


「……ん。よし。」


 悩み、煙草を消して出た結論は運試し。適当に白い集団に声をかけ、正誤の判断をした上で尋問する。


 考える事を一瞬で放棄し目についた一団の行く先を予想する。そして壁から飛び降り地上に降りると、予想した地点まで屋根の上を跳ぶ。


 時折視線が向けられるが、それには手振って返す。大会が近い今なら余興の一つと捉えてくれるかも知れないし、別に騒ぎになろうが最終的に静かになれば問題ない。


 目的地からある程度遠くに降りて平然と裏道をぐねぐね歩いて目的地に向かう。降りた所を数人に見られても、ギフトは笑うだけで気に止めない。


 目撃者に適当に笑顔で手を振って離れる。建物の間に入り、目的地に向かう。


「あー……。なんか急に面倒に……。」


 急激に目的までの遠さを実感してうんざりする。場所ではなく、聖教連の企みを知るまでが遠い。


 目的までが遠いなら寄り道をする。最後に辿り着けば良いのだから、途中経過はどうでも良い。そう思ってるギフトからすれば、目標達成の道が遠ければやる気を失う。


 駄目な癖と理解して、そう考えた時点で気持ちが上がらない。こんな時にロゼがいれば叱咤してくれるだろうなとふと思い、笑う。


「想像以上に気に入ってるのかなー。っと。」


 ロゼに対する自分の気持ちはさておき。対象の人間を見かけて息を潜める。


 大柄な男。フードで顔を隠した細身の人。小柄な癖っ毛に、細目のおっとりした女性。


 全員が白い服を着ているが、聖教連かどうか判別が出来ない上に、強い。


 特に一番前を歩く男は相当強い。街中で戦えば犠牲が出ると判断して悩む。


 犠牲者を出さないために潰すつもりだが、その過程で犠牲者を出しては本末転倒。目的の為に手段を選ぶつもりは無いが、目的を見失っては意味がない。


 だがもし聖教連なら叩いておきたい。あれがロゼ達に向かえば勝つのは厳しいだろう。四人相手では不利だろうが、後をつけて人気の無いところなら全力で戦える。


「……。……ん?」


 考えを纏め、バレないようこっそり後を追おうとして目を疑う。目を離したのは一瞬だった。なのに一人既に見失った。


「……不味い、か!」


 言葉と共に上体を反り返して自分の頭が合った位置を蹴る。本来なら何も鳴らない筈が、鈍い音が響き、地に手をついて屈んだ姿勢で顔を上げる。


「驚いた。あれに反応されるなんて。」

「俺も驚いたよ。自信はあったんだけどねー。」

「うん。たぶん私じゃなきゃ気付かないよ?」


 ギフトの頭を砕こうと踵を落とした人間は、悪びれる様子もなくギフトを称賛する。


 それに対して文句はない。自分とて勝手に後を付けてコソコソした人間がいれば、殺さないよう加減はしても許しはしない。


「ん。人違いだな。悪かった。」

「あっさり。何と勘違いしたの?」

「ちょっと聖教連に用事があってな。白い服が特徴だろ?」


 ギフトの言葉に少しだけフードが動く。聖教連では無いが無関係ではない。そう理解したギフトは話をするため近づこうとする。


「待て。お前は何者だ?」

「聖教連に雇われた傭兵だよ。」


 嘘をついて反応を確かめた結果、フードから殺気が漏れる。


「ならばこっちも話がある。覚悟しろにゃ。」

「語尾が漏れてるぜ?フードが意味無いね。」

「そっちも隠すなら隠すべきだな。」


 後ろから掛けられた声に、ギフトは驚きを隠せない。一切油断した覚えはない。それでも背後を簡単にとられた事は屈辱的で、諦めがつく。


 両手を上げて降参する。この場で無駄なプライドを守っても良いが、不毛なだけだ。


 聖教連は人族の集団。目の前のフードと行動を共にすることはあり得ない。探りを入れようとしたが、ここまで強い者を相手に腹を探るのは危険すぎる。


「で、どうしようか?」

「話が通じるなら話そうか。無益な戦いは好まないのでな。」

「あまり有益な情報は無いよ。」

「そうかな?お前は俺の知らない事を知ってそうだ。」


 警戒心がどんどん高まる。言葉に偽りは無いと思えても、その威圧感は並みではない。


 整った顔立ちの顎に手を置いて笑う姿は様になる。どこぞの勇者よりも勇者らしく、雰囲気が他者と異なる。


「……やめてもらえる?」

「お前がその魔力を抑えれば止めるさ。」


 右手に集めた魔力が見抜かれている。それ事態は不思議なことではない。魔力の操作に慣れた人間ならこれくらいは感じ取れる。


 問題はそれに全くびびらないこと。人一人位なら壊せる魔力だと言うのに警戒心を持ってない。それはつまりその程度ならなんとかなると理解していると言うこと。


 溜め息を吐いて魔力を霧散させる。威嚇に意味がないなら疲れるだけだ。


「肝が据わってるんだな。」

「お前に言われたか無いけどね。」

「二人ともおかしいにゃ。」


 語尾の可笑しな女性は二人をそう評する。互いに人を殺せる程度の魔力を脅しに見せびらかして、見せつけられた上で無防備を晒す。


 仲間は理解できるが、ギフトは理解できないのだろう。正直男に勝てる人間を知らないが、ギフトは魔力を霧散させても対応できる自信があるから警戒を解いたのだろう。


「俺より強い奴、久しぶりに会ったよ。」

「試してみたいが、こっちも使命があってな。それはまたの機会にしよう。」

「お前怖いから嫌だな。でもまぁ……。」


 警戒を持つ程に強く、気配を消せる技術を持っている。恐らく自分と同等かそれ以上に強い人間。


 それを相手にギフトは笑う。聖教連に付いて知りたがり、冷静な判断力を持っている。


「聖教連は魔物を呼び出す術を持っている。戦争を望んでる可能性もあるな。」

「……それは可能性だ。俺達はそれを探りに来た。」

「黒い霧。」

「目玉の魔物。それから変質。」

「予想通りだな。これが原因かもね。」


 ギフトはポケットから石を取り出して手渡す。それをまじまじと見つめるが、男は眉根を寄せるだけで結論を急がない。


「人の体内から取れた。伝手は?」

「無くはない。」

「何を話してるにゃ?」


 話題に取り残された女性が質問するが、ギフトも男も答えない。そして出した結論は互いに同じものとなった。


「敵にはしたくない。だから仲間にしようと思ったが、どうだ?」

「悪くない。こっちも頭の回る実力者は幾らでも欲しいからな。」

「交渉成立。俺はギフト。頭に自信は無いけどね。」

「リズだ。少し時間を貰う。」


 リズと名乗った男は女性を手招きし、ギフトの前から消える。


 息を吐いて煙草に火を点ける。目的が一緒なら自分と同等の力を持つ人間は頼りになる。何より自分には無い情報と考えを持っている。


 ロゼ達を頼れない今、自分以外の知恵があるのは有り難い。為人がわかればディーゴに会わせて見るのも良い。


 思いがけない進展に、心の中で自分の運の良さに呆れる。もっと運が良ければ大会までに全てに方をつけられる。その可能性が見えたことに、ギフトは一人笑みを溢した。

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