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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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38 ソフィーの思い

 ギフトが去り、残された面々に沈黙が降りる。


 今はギフトの行動に何も言えない。今のロゼに出来ることにギフトの手助けは含まれない。


「悔しがる事が妾に出来る事ではないな……。」


 だがロゼはそこで止まりたくは無いのか、小さく呟いて頬を叩く。いつかギフトの手助けが出来るよう、ギフトが望まぬ道を進まないで良い答えを出せるよう成長しなければならない。


「ふむ。儂も手伝おう。」

「頼めるか?」

「ギフトに負けてはられん。儂は奴より年上としての矜持がある。」


 自分より若い者に実力が劣るのはまだ許せる。だが覚悟が劣ることは許容できない。


 ギフトを見てネヴィルは自分を恥じた。その上ギフトはその先を進もうとしている。せめて自分に出来る事だけはやらなければ、長く生きた意味がない。


「僕も頑張る。僕は自慢のお兄ちゃんの自慢の妹だもん。」

「……お、俺だって!師匠の弟子だ!」


 ギフトのしたことは非道な行いだ。それを知って尚、ギフトが何のために非道をしたか理解すればギフトを責めることは出来ない。


 むしろ手伝いたいという思いが沸いたのか、今まで以上に気合いを入れる。一人で嫌われ役を買ったギフトの思いだけは無駄にしたくないと拳を握る。


「あいつは必ず聖教連の企みを暴くさ。その時に役立たずにならぬようにせねばな。」

「あ、あの……。」


 治療を施しながらソフィーは居心地が悪そうに声を上げる。この問題の渦中にいる筈のソフィーに何も聞かないのはギフトの行動からすれば不思議なのだろう。


 何より自分の組織が悪行を行っていると聞いてソフィーは黙ってられないだろう。自分がここにいて良いかも迷いもする。


「……ふむ。そう言えばわからぬな。」

「え、な、何がですか?」

「もしギフトが聖教連を問い詰めるならお主に聞くのが一番早い筈。なのにそれをしなかったからな。」


 ギフトは寄り道は好むが、あくまでも楽しいと感じた時だけ。この一件には楽しさを微塵も見出だしてない筈だが、ソフィーを問い詰めると言う事はしなかった。


「お主は無関係なのか?」

「……無関係。と言いたくありませんが、私は何も……。」

「知らないのだな?そしてギフトはそれを知っておる。」

「そこまでは……。」

「ふむ……。なるほどな。」


 ロゼは得心がいったと頷きソフィーを見る。聖教連を潰す気はあるのだろう。許すつもりは全く無いのだろう。


 それでもギフトは甘い。ロゼはそれを感じて少し笑う。そもそもギフトは暴力で全てを解決した方が早いのに、その手段を選ばない。聖女を人質にするか、問い詰める事は出来たのにそれはしなかった。


 踏みとどまり、考えてくれているのだ。ロゼ達を死なせない為に、その果てで笑える為にギフトは行動したのだ。


 ならばロゼはロゼが笑うために動かなければいけないと、決意を込めて口を開く。


「妾達は強くなろう。ギフトは優れていても万能ではない。」

「そうね。あいつが泣きついて来た時に一緒に泣くわけにはいかないわ。」


 今出来ることはギフトに言われた通り地力を付けること。ギフトが聖教連を止めれば何も起きないが、もし失敗すれば魔物が産み出される可能性がある。


「聖教連の目的が魔物を産み出すことかそれ以外か。今妾達はそれを考えるよりも、魔物が出た時に倒せるようにならねばな。」

「私は広範囲魔法を覚える。ギフト君の魔導書を借りても良い?」

「置いて行ったなら構わないのだろう。怒られたら……謝ろう。」

「私は誰が怪我しても治療できるよう頑張ります。」

「やるべき事は残してくれた。これ以上のおんぶに抱っこは流石にな。」

「わ、私はどうすれば……。」

「ここにいて良いのではないか?」


 無関係とは言えないが、ロゼはソフィーを責める気にならない。最初こそ聖教連の仲間と冷淡な態度だったが、もう気にしている様子がない。


 ギフトが責めなかった事や、ミーネが仲良くしているのも理由だが、聖教連に返す方が不安になる。


 ギフトはそれなりにソフィーを気に入っている様子だが、もしソフィーが同じ目に会えば容赦しないだろう。心でどれだけ泣こうとそれを表に出すことなく。


 見たくない物は見ない。その為に出来る限りの手は尽くし、最後まで微塵も諦めない。ギフトと言う戦力が離れた今、ソフィーを守れるのはロゼ達だけだ。


「でも、迷惑が……。」


 ソフィーは責任を感じているのだろう。自分がいなければ、自分がしっかりしていればこんなことにはならなかったと。


 直接関与してなくても関係無いと言い切れない。ギフトが一人で行ってしまったのも、自分のせいだと心が責める。


「大丈夫だよ。僕がいても良いって言う人達だよ?」

「それは……ミーネが可愛いからでは無いですか?」

「ソフィーも可愛いよ?綺麗な金髪だもん。」


 あどけない表情を作るミーネはソフィーから見ても可愛いと思えるのだろう。それに対しミーネは少し勘違いして答える。


 見た目に対してではなく性格に対して言ったつもりだが、ミーネは容姿を褒める。悪い気はしないが今求める答えではなかった。


「気にするな。迷惑など好きなだけ掛ければ良い。」

「……でも、」

「まだ子どもなんだ。妾も偉そうな事は言えぬが、多少の我儘くらいは許される。そうでなければならぬのだ。」


 それが慰めになるかどうかは知らず、ロゼは自分の思いを口にする。


 ロゼは自分ですら許された事が、ソフィーに許されないのは間違いだと言い切るだろう。いや、この世の全ては別段許されないことなど無いと思っている。


 自分が許せないことも誰かは許すだろう。その逆も然り。押し通したいなら力が必要になるだけで、我慢する必要など何処にもない。


「良いではないか。立場は大切だが、それに捕らわれるな。聖女であることよりも、聖女のソフィーであることを大事にしろ。」

「……聖女の、私?」 

「うむ。同じ立場の人間でも考え方はそれぞれだ。お主にしか為せぬ事がきっとある。自分を殺していてはそれも見えなくなるぞ。」


 一つだけ見ようとして、何も見えなくなったロゼはソフィーに優しく語る。


 ロゼの取った行動は世間的に褒められた物で無いことを自覚している。立場を捨てて好きに生きるなど責任感が無いと自分でもわかっている。


 それでも取った行為には微塵も後悔がない。ならばそれは正しいかはともかく、自分には大切な行為だったと断言する。


 責任、立場、環境。様々な要因は人を縛り、心を磨り減らす。息苦しい生き方をロゼは強要できず、出来るならただ笑っていてほしい。


「偉そうに言ってすまぬ。そういう考え方もあると片隅に置いておけば良い。」

「いえ……。なら少しだけ我儘を良いですか?」

「良いぞ。内容次第だがな。」

「私には夢があるんです。それを、叶えたいです。ですが私はご覧の通り未熟者です。」

「……ふむ。」

「聖教連が今どんな風に思われてるか、私も知っています。お金の為に悪どい事も平気でする集団だと。」

「そうか。」

「でも、本当はそんな組織じゃ無かった。教祖様がいなくなられてから、変わってしまった。だから、私は元の聖教連に、皆を笑顔で救っていく、私の憧れた場所にいると胸を張りたいんです。」


 ソフィーは拳を震わせて俯きながら独白する。まるでそれを思うことさえ罪だと感じるように。


 聖教連の上の立場に付くソフィーが、今を否定的に見る事は出来なかったのだろう。自分の中だけに押し込んで、口を固く閉ざして漏れないようにしてきた。


 なのに揺り動かされる。ギフトやロゼはソフィーを特別視していない。ただの少女のように扱い、心配してくれる。


 崇められ、他の人とは同じ立場にいないと強く実感させられてきた。その常識を、垣根を二人は平気で踏み越える。それが少し嬉しくて、動揺する。


「本当は今の勇者だって……。」

「聖女様……。」

「言いたくないことは言わなくて良い。今の勇者がどうこうは関係無いからな。」


 ロゼにとって必要な情報はもうわかった。ソフィーが今まで苦労して来て、それを変えようと足掻いてる。それさえわかればロゼは迷わなくて済む。


 ロゼはソフィーの頭に手を置いて撫でる。ミーネにやるのと同じ様に、安心感を与えるために。


「頼りないかも知れんが、任せろ。妾がお主に笑顔を届けてやる。」

「ぼ、僕も!僕はソフィーの友達だもん!」

「ギフトはいないが……。まぁ、どうせ同じ事を言うさ。妾達届け屋がソフィーに力を届けてやろう。夢を叶えるに足る力、お主が笑える力を届けてやる。」


 胸を叩いて自慢気に笑う。それが不安を拭い去るに一番効果的と誰より理解してるから。


 自信満々に、傲岸不遜に。例え自分に自信が無くても、周りの人には悟らせない。無理であっても確証が無くても、自分だけは出来ると信じて貫く。


 根拠の無い自信を持って、無理して笑うロゼにソフィーは笑ってしまう。誰の真似をしてるかは明白で、少しそれが似合ってる。


「ロゼ様は、ギフト様と似ていますね。」

「む?そ、そうか?それは嬉しいな。」


 照れ臭そうに頬を掻くロゼのコロコロ変わる表情は見ていて楽しい。ミーネもロゼもギフトも感情を素直に出していて、全員がそれを許容している。


 羨ましいと素直に思う。そんな仲間がいることに。そんな人が側に居てくれることに。


 ソフィーは横目でアルバを見る。昔は仲良く話していた筈なのに、最近は自分の本音を話してない。思いを隠して無理をさせて、それでも付いてきてくれた幼なじみが自分にはいる。


「無理、してましたね。」


 やっと理解して納得する。自分が子どもだと言うことに、何も見えてなかったことに。


 まだ子どもで良い。ギフトの言葉を思い出す。今ソフィーの周りには頼れる大人がいるんだから、頼ってしまえば良いんだと。


「格好良いですね。」

「僕のお兄ちゃんとお姉ちゃんだよ。」

「ふふっ。そうですね。」


 ミーネは当然とばかりに胸を張り、ソフィーもそれはそうかと笑う。


 人を尊敬し、尊敬される人間が格好悪い訳が無い。自分が尊敬した人もそうだった。


「ああ。そうなんですね。似てるんですね。」

「やっぱり聖女様もそう思いますか?」

「ええ。……アルバ、ごめんなさい。今まで迷惑を掛けました。」


 ソフィーは突如アルバに頭を下げる。突然の事に面食らったアルバは慌てて頭を上げるように言い、ソフィーはすぐに頭を上げて年相応の笑みを浮かべる。


「そしてごめんなさい。これからも迷惑をかけちゃうね。」

「……。いや……。……大丈夫、だよ。ソフィー。」


 アルバが泣きそうになって、本当に自分が今までどれだけ間違えていたかが重くのし掛かる。見るべき事はあったのに、そこに目を向ける余裕が無かった。


 自分を見て一緒に居てくれた人には目もくれず、意味のない方向にばかり視線を向けていては何も出来ない。やっと気付いたその事実は辛いものがある。


「私。頑張るよ。付いてきて良かったって、必ず言わせるから。」

「……ああ。俺もソフィーに付いてきて貰って良かったって、言わせるから。」


 二人とも、その答えは出てる。それでもそれをまだ言わないのはまだ何も成していないから。


 その答えを言うのはまだ早い。昔の口調に戻った二人は暫く睨み会うようにして、そして吹き出す。


「イチャイチャするでない。そういうのは人目の無いところでやれ。」

「え?」


 見かねたロゼが文句を言うが、その言葉にロゼ以外の全員が疑問を上げる。


 アルバとソフィーは顔を赤くして離れ、ロゼは周囲の疑問の声に疑問を持つが、それには笑い声だけが返事した。


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