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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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37 それが悪と理解して

「結局よくわからんな。」

「妾達も理解が追い付いてない。魔物とはあの様に産まれるのか?」

「んー……。」


 魔物を一掃し、何が起きたかをあらまし聞いたギフトの反応は淡泊な物だった。


 ロゼ達も理解できず、話を聞いたギフトも疑ってはいないが、事実と断言はしきれない。魔物の発生等見たことが無いので何とも言えない。


「一応魔素溜まりから産まれるって聞いた事はあるけど……。事実かどうかは判明してないし。それに何もない所から生物が産まれるなんて予想できるか?」

「……まぁ。それは生物では無いな。」

「俺は動物や虫、人の変化だと思ってたんだけど……。んー?」


 魔素溜まりに生物が触れて魔力が変質し、姿形を変える。そう考えた方がギフトにとって納得できる答えだったが、今回は何もない所から現れた。


 少し悩み、結論を出す。今これ以上の情報が出てこないなら、考えても意味がないと。


「……よし。これは後回しにしよう。」

「良いのか?魔物の発生がわかれば対策も……。」

「できんだろうな。それが事実と判明したなら話は変わるが、今の段階では時間をかけるに値せぬな。」


 ロゼの言葉をネヴィルが否定する。ネヴィル自身は直接見たからこそ考えもするが、人伝に聞いていたなら疑うだろう。


 何もない場所から魔物が発生する。そんな話を信じては自分の国の平穏が揺らぐ。話が広がることも事実と認めることも簡単にはしない。


「そう言うこと。せめて真実がわかるまでは誰にも言うな。混乱するだけだからな。」

「……承知した。」

「お前らも良いな?」

「わかってるわよ。どうせ信じて貰えないしね。」

「じゃあ次だ。」


 一つ解決とギフトは煙草を取り出し口に咥える。座り込んで脂汗を流す聖教連の目の前に立ち、顔を近づける。


「し、知らない!俺達は何もぐっ!」


 そのまま胸ぐらを掴み上げ無理やり立たせる。良い笑顔を浮かべながら空いた腕を聖教連の腹に押し当てる。


「今から質問するんだ。まだ何も聞いてないよ?」

「ほ、本当にっ……!」

「ならお前の名前は?」

「え……?」

「自分の名前もわからんか?もしかして嘘を吐いたのか?」


 左腕に魔力を込めて熱を上げる。少し熱く、耐えられる程度に。だがそれが余計に恐怖を煽る。いつでも殺せるのに簡単に死なせてくれないことを悟ってしまう。


「お前は答えれば良いんだ。余計なことを言わずにな。理解できたか?」

「……っ!」 


 聖教連の男は二回頷き涙を滲ませる。ギフトは手を離さないまま口を開く。


「と言ってもそんなに聞きたいことは無いさ。お前に命令を出した奴は?」

「ゆ、勇者様、です……。」

「ふーん。そっちは?」

「わ、私も、お、同じ、です。」


 下手なことを言えば命を失うと感じているのか、流暢に喋れず歯が擦り合わせる。


 それを聞いてギフトは舌打ちを鳴らす。怯えた二人はギフトから逃げるよう下がろうとするが、力が入らず、モタモタと動くだけ。


 ギフトは目を凝らして二人を見る。そして違和感を覚えて、腹に押し当てた手を槍のように尖らして男の腹部を貫く。


「うっ、があああぁぁぁぁぁ!!?」

「ギフト!?」

「な、何してるの!?」


 疑問の声も無視してギフトは腹の中を手で探し回り、異物を掴む。人の焼ける匂いが漂うなか、平気な顔でそれを引きずり出した。


「……ルイ。こいつの治療しとけ。」

「え、は!はい!」


 雑に男を放り投げ、手に取った黒い石を眺める。それが何かはわからないが、原因はこれだと推測する。


 人体にある筈もなく、仄かな魔力を感じ取れる石。魔力は生物に宿っても、鉱石には宿らない。あるとすれば誰かが魔力を石に流し、それを人体に埋め込んだと言うこと。


「どこのどいつか知らねーが、これを考えた奴は頭が狂ってるな。」


 普通魔力は自分以外の生命体には渡せない。渡したとしても拒否反応が出てまともに扱うことはおろか、日常生活にさえ支障を来す可能性がある。


 唯一無属性だけがそれを可能にするが、もしそうならただの動力炉として使え、彼等はあんな魔物にてこずりはしなかっただろう。


 魔物を呼び出す、または産み出す事が目的かは知らないが、これを行った人物は相当に狂ってる。そうでもなければこんな真似はしない。


「おい。お前はこの石に見覚えはあるか?」

「……あ、ありま、せん。」

「なるほどな。」


 それだけ言うとギフトは女の胸ぐらを掴んで引き上げる。この女にも同じ異物があり、それを取り除こうとしたがそれは流石にロゼに止められる。


「待て。何をしているのだ?」

「この石が魔物を呼び出した可能性が高い。発生する条件もわからんし取った方が早い。」

「……それは、埋め込んだ者が悪く、こやつらは無関係では無いか?」

「無関係かどうかはともかく。危険なことは変わらない。今回は運が良かった方だぞ?」

「……しかし、な。」

「お前の考えもわかるさ。だがその上で俺はこっちだ。それとも放置するか?」


 ロゼはギフトの質問に答えられない。今にも泣き出しそうな聖教連を前にして良いとも言えず。かといって放置して被害を他所に拡散させても良いかと聞かれればそれも良いとは言えず。


 ギフトの出した結論が一番マシだと理解して、それでも踏み込めない。それが優しさではなく甘えと知って尚、ギフトの様に嫌われ役を買うことが出来ない。


「で?どうする?」

「……甘え、だな。」

「どうかな?自分の手を汚したくない。でも目の届かない場所でなら何が起きても心が痛まないってのは個人的には良いと思うぜ?」

「嫌味か?」

「受け取り方次第。割り切る事は大事と言った筈だぞ?」


 ギフトはここで嫌われようが被害が出ないことを望んでいる。例え殺すことになって一人になろうとも、その道を進むだろう。


 最善だからではなく、最悪だけは回避できると迷わない。目の届かない場所で起きることはギフトにはどうしようもない。だから目の前で何とか出来る時に解決することを望む。


 文句は出るだろう。だがそれなら解決策を示してくれれば良い。ギフトに出せない答えが納得いくものなら、恥をかこうと意見はすぐに取り下げる。


「妾は嫌だ。だが……。」

「俺だって女の腹に穴空けるのは気が引けるさ。死なないだけマシと思ってくれることを願うぜ。」

「い、嫌……!」

「恨め。その資格がお前にはある。」


 そして女性の断末魔が耳を貫く。見てられない光景からロゼは目を逸らし、ミーネは耳を塞ぐ。


 他も似たような反応で、ネヴィルだけがギフトの行動を目に焼き付ける。


 ネヴィルからすればギフトも孫程に若い。なのに責任も期待も恨みも全て一身に背負おうとするその姿は痛々しく、悲しい。


 間違いではない。それをネヴィルはわかっている。殺さないだけマシだと十全に理解して、それでも葛藤は心に燻る。


 その迷いを一切見せずに突き進む。どんな環境で生きれば、これを普通と割りきれるのか。そしてこれを普通と割り切れない人生を歩んで来れたことに少し感謝もする。


 若者はなってない。そう揶揄したのが馬鹿らしくなる。ネヴィルとて全てを知っている訳ではないと、ギフトを見て痛感する。


「……聖女。治療だ。」

「う……。はい……。」


 見るも痛々しく腹に穴を空けて、焦げた匂いを撒き散らす患者に聖女は気後れする。ここまで酷い怪我を治したことはない。ここまでなっていて生きてる人に出会ったことがない。


 見知った人が息も絶え絶えになりながらソフィーに手を伸ばす。それが辛くてソフィーは目を逸らそうとしてしまう。


「嫌なら今すぐ止めろ。無駄に苦痛を味合わせるな。お前が怯えた時間がそいつを苦しめる。」

「……何で平気なんですか?」

「慣れだ。俺みたいな屑にはなるなよ?」


 平然と言いながら手についた血を燃やす。取り出した石を一つ握り潰して、もう一つはポケットにねじ込む。


 そのまま燃える手で煙草を点けると、空を見上げて煙を吐く。面倒そうに後頭部を掻いて行動を決める。


 現状で理解できてる事は、聖教連が人を操ろうとしている事。聖教連が魔物を呼び出した事。そしてそれが本人の意思では無いと言うこと。


「悪いが俺はしばらく一人で動く。その間お前らは地力をつけろ。」

「……妾達は不要か?」

「喧嘩しに行く訳じゃない。情報集めに行くだけだ。」

「それは、……止めたいな。」


 ロゼはギフトが情報を集めると言って、隠れて探ると思えない。そのやり方は確実に非道なものになるとわかっている。


 出来れば止めたい。ギフトがそう言った行動を望まない事は知っているから。それでもまた誰かの為にギフトは一人傷つく道を選ぶのだろう。


 どっちに転んでもギフトは傷つく。優しく強い人間は誰より前に出て血を流す道を歩き、それを後悔してないと言い切ってしまう。


「心配するな。お前らはお前らの出来ることをしろ。最後まで見てやれなくて悪いな。」

「ギフト兄。行っちゃうの?」


 ミーネも薄々勘づいているのだろう。ギフトにいつもの様な明るさがない事に。


 いつも笑顔で、何事も楽しむギフト。なのに今は少し辛そうで、浮かべる笑みは寒々しいものばかり。


 それでもギフトはミーネにだけは笑顔を浮かべて頭を撫でる。何も心配しなくて良いと。気づいた頃には全て無かった事にすると決めて。


「ミーネには一つ言わなきゃならんな。」

「……何?」

「本当は叱らなきゃならないんだけどな。お前が聖教連を助けに行ったこと。」


 ギフトの立場からすれば、ミーネを指導する立場としては怒るべきだ。危険な行動を決して褒めてはいけないとわかっていて、それでもギフトは何よりも嬉しく、その感情を隠せない。


「お前は俺の自慢の妹だ。無茶な真似はしてほしくないけど、それでもお前がやったことを聞いて俺は嬉しかったよ。」

「本当?」

「ああ。本当さ。でも、もうやるなよ?俺を泣かせないでくれ。」


 優しい表情でミーネに語りかける。ミーネは真面目に頷きギフトに抱きつく。ギフトが背中を軽く叩くとミーネは口を開く。


「……約束する。ギフト兄もロゼ姉も悲しませない。」

「ああ。約束だぞ。」


 そしてギフトは町に向けて歩いていく。望まぬ道を望んで歩く背中を見送るのはロゼには辛い物があるが、それでもそれを見ることしか出来なかった。

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