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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 一部 ~邂逅~
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13 二人で料理?

 自分のテントに戻ったローゼリアは何度も眠ろうとした。だが目を瞑り無心になろうとしても、声が聞こえてくる気がする。


 自分の失態が人の死を招いたと、そう感じざるを得ない。例え誰にも言われなくとも。


 眠らなければいけないのはわかっている。これから先は闇の中。体力を少しでも残さなければいけないのもわかっている。


 それでも、何も気にせず眠ることなどローゼリアには出来ない。仮に自分の所為で無くとも、裏切りに合い、考えることだらけの今、何も思わず眠れるほど能天気な性格はしていない。


 だからといってこのままではいけない。ローゼリアは気持ちを切り替えるために天幕を開け外に出る。


 月明かりが闇夜を照らし、虫の声が聞こえてくる。普通なら気持ちの落ち着く環境だろうが、今のローゼリアにはそれを気にする余裕は無い。


 どうすれば良かったのか。何がいけなかったのか。自分を慰めるためか、それとも責任を負いたいのか、それすらわからず自問自答を繰り返す。


 そして天幕をでてふらりと歩くと焚き火の明かりが見えてくる。そしてその前に座る者の姿も。


「こんな夜更けに何処へ行くのさお嬢さん?夜の散歩は危ないよ。」


 火を消さないよう枯れ木をくべるギフトは、こちらへ視線を寄越す事もなくローゼリアに声を掛ける。


 そして首だけを後ろに倒し上下逆さの状態でローゼリアを見つけるとにっと笑う。


「お。正解だった。これで外れてたら笑いものだったからヒヤヒヤしたよ。」


 焚き火に向き直り、何かを焼いているギフトはそれを焦がさないよう頻繁に肉をくるくる回している。


 気分転換に散歩に出たはずがよりにもよってな人物に出くわしてしまった。まさかギフトがまだ起きているとは思っていなかったのだ。


 何も思わずさっさと眠りについたと思っていたが、辺りを見渡すとギフト以外は外に出ていないようだった。


「あぁ、おっちゃんは寝てるよ。見張り交代したからね。・・・これ中まで火通ってるかな・・・。」


 自分が誰を探しているのか早々に当てられ、なぜか少し気恥ずかしくなる。まさか雑談の為に睡眠を邪魔するわけにも行かないだろう。だが、今話し相手はギフト以外にいない。


 ブツブツと何かの肉と格闘するギフトと会話するつもりなど毛頭ない。かと言ってこのままテントに戻ろったところで眠れないだけだろう。


 ローゼリアがどうしようか迷っている間に肉に齧り付いたギフトがしかめっ面を浮かべている。


「・・・焦げてる。」


 その言葉を聞いてローゼリアはギフトが持つ肉を目にすると、そこには黒ずんだ何かが少し齧られていた。


 流石にそこまで黒くなっているなら、焦げてることは口にせずともわかるだろう。そうでなくともそこまで焼く必要があったのだろうか。火が通ってないことの怖さはわかるが、やりすぎであろう。


 そう思っているとギフトのお腹からぐう。と音が鳴り、それを隠すつもりもなく空を見上げる。食事は食べたが足りなかったのだろう。そうでもなければ今何かを口にする必要はない。


「・・・腹が減っておるのか?」

「うーん。やっぱり足りないよなぁ。いや、文句言うつもりは無いんだけどね?」


 頭の後ろを手で掻きながら申し訳なさそうに、だが、正直に物を言うギフト。


 そういえばずっと食事だ食事だとうるさかった。それなのに渡されたのは簡素な乾パンと干し肉が少しだけ。あれだけ暴れまわった後では足りないだろう。


 そしてローゼリアも少し空腹を感じ始める。食事を取ったのはこの場に辿り着く前で、半日は過ぎている。食事を取る時間はあったがそんな気にもなれなかったが、体は空腹を訴えてきていた。


「姫ちゃん料理できる?」

「・・・妾は仮にも皇女だぞ?その手の習い事は一通り受けておる。」

「王様ってそういうことしないと思ってた。」

「他所の国までは知らぬが、この国の皇女で家事の出来ぬ者はいないだろう。」


 国にもよるが、王家の者は『どこに出しても恥ずかしくない』ようにするため教育が施される。特に女として生まれたなら出来ることは多岐にわたる。


 前王が亡くなるまでは、その教育は受け続けていた。数年前までのことだが、ローゼリアはまだ忘れていない。


「へぇ。王様って威張ってるだけじゃ無いんだ。」

「いったであろう?国にもよると。この国が珍しい可能性もある。妾は知らぬがな。」

「他所のとこでは王様が威張り散らしてるだけで皆が飢えて、戦争が始まったら民を真っ先に切り離したって話があるからなー。」

「・・・そんな者は王ではない。民を一番に考える者が真の王だ。」

「ふーん。まあ王様どうこうはもういいや。料理できるなら作ってもらえない?」


 生肉を差し出しながらローゼリアに飯を作れと言ってくる者など、この国には一人もいないだろう。だが、ここで断るのも慈悲が無いだろう。


 何より自分もお腹は空いている。気晴らしになるかもとローゼリアはやる事を決め、ギフトからナイフを受け取る。


「良いナイフだな。」

「傭兵時代に貰ったんだ。料理ができないなら解体だけしてろってな。お陰で解体は上手なんだぜ?」


 渡された肉は確かに血生臭さもなく、腕が良い事を証明している。余計に何故そんな肉を焦がしてしまったのかと思うが。


 それはともかくとして、その肉を手際よく薄くスライスし、適当に葉の上に置いていく。月明かりに照らされ淡いピンク色の肉はとても綺麗に映し出される。


「これは何の肉だ?」

「ホーンブル。美味いらしいな?」

「料理人ほど上等なものは出来ぬぞ?」

「俺より料理が下手くそなやつ見たことないから大丈夫じゃない?」


 暗に黒ずんだ肉より美味しければ何でも良いと言ってきたギフトに少しムッとする。確かに最近はあまり料理などしていないが、それでも人に食べさせる程度のものは作れる。少なくとも素材が上等なら不味いものは作らない。


 馬鹿にされたような気がして熱が入る。どうせなら美味しいと言わせてやろうと考える。設備も無いし、調理方法も対してないが、それでもやりようはいくらでもある。


「塩か胡椒は無いのか?」

「勿体ないから買ってないよ。」

「確かに貴様が持ってても宝の持ち腐れだな。」

「そこはかとなく馬鹿にされたけど言い返さないよ?その通りだからね!」


 皮肉も気にせずこちらの手から視線を逸らさない。いや、正確には肉から目を逸らさない。


 だが、少し考える。塩も胡椒もない。ただ焼くだけではどうしても肉の味だけ。せめてソースか付け合せが欲しいが、森の中でそれを求めても難しいだろう。


 それでも一縷の望みをかけて、ギフトに手持ちに料理に使えそうなものがないか聞いてみると、自分のリュックをゴソゴソと探し出す。


 その間に肉は全てスライスし、ローゼリアも保存食を取ってくる。あるのは乾パンや干し肉が主だが、それ以外にも保存の利く野菜などもある。


 それらを使ってスープでも作れれば、肉が味気なくとも問題は無いだろうと、できるだけ種類を持っていく。


「姫ちゃん。これとか使える?」

「・・・なんだこれは?」

「どっかで生ってた木の実。いざとなったら食べようと思って忘れてた。二週間前くらいかな?」


 それは食えるか食えないかじゃなく、もはや名前すらわからないものだった。二週間前からずっとリュックの中に入っていたものなど食べたくはない。


 ギフトは使えないと早々に見切りを付けて、持ってきた食材で何ができるか思考する。イモ類が多く、できることならシチューを作ろうかと考えるが牛乳がない。そもそも調味料がないので野菜スープも難しい。


「味がどうしてもないな・・・。」

「行軍演習なのに塩とか持ってきてないの?」

「・・・あそこにあったぞ。」

「あー。なるほど・・・。」


 指さしたある一角を見やり、仕方ないとつぶやく。食料は一箇所に集めてはいないが調味料は一箇所に集めていた。そして、その調味料袋が破れ、血がかかっていた。


 それを食べる気にはどうしてもなれず、血のかかってない部分も集めたが少量。どれだけ持つかわからないのに、自分たちの夜食に使うのは忍ばれる。


「俺からすればちゃんと焼けた肉さえ食えれば良いんだけどな。」

「仕方ない、か。このまま焼くぞ?」

「それを炙るの?」

「鉄板がどこかにあるはずだ。それを使えば良い。」

「へー。これなら俺でも出来そうだな。焼いてみていい?」


 馬鹿にされたと思いギフトを見ると、珍しく真面目な顔をしていた。どうやら何の意図もなく、純粋にその言葉を吐いただけのようだ。その為それを承諾する。


 料理が出来ない自分にも作れるなら、旅がもう少しマシになると思っての言葉だったが、それは訂正する。


 ギフトの焼いた肉は、少し目を離した隙に鉄板にこびり付き、黒ずんでいくのを見つめる事しかできなかった。



続きは明日10時。

誤字脱字は気をつけていますが、

あれば報告お願いします。

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