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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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34 ロゼの理由

「つまる所魔法とは言葉で図形をなぞっておるのだな。この魔法陣に魔力のラインに流して魔法が発動するのじゃ。」

「ならば無詠唱とは?」

「文字の分もラインに置き換えておる。後は魔力を操作し魔法陣を描くのじゃな。」

「……でもそれの方が時間が掛かる気がする。ギフト君は一瞬で魔法を使う。」

「魔力を流す速さが違う。意識せずとも魔法を使えるほど慣れておるのじゃろう。」


 ギフトがいなくなって、ネヴィルの魔法講義が始まる。ギフトが書いた魔法陣をどうやって使うかと言う話だ。


 ネヴィルはギフトの描いた魔法陣に感動している。まだ若いが、余程の知識量と閃きが無ければこんな魔法に思い至らないだろう。


 何より教えられた事が全てと考えていてはこの発想は出ない。常に新しい事を身に付けようとしている筈が、固定概念に囚われていると感じざるを得ない。


「ネヴィル殿は無詠唱は出来ぬのか?」

「儂は出来る。よく使う魔法に限るがな。」


 ギフトの様に、自分で使わない魔法を無詠唱で出来るよう考える者は少ない。単純に時間が勿体無いからだ。


 戦闘に使うにしても、生活、研究に使うにしても、自分で使えない魔法など必要ない。それに時間を割くくらいなら自分用の魔法を作り出す。


「魔法に傾倒してなければ出来ん芸当じゃが、恐らく常日頃から探究心を持っているのじゃろう。」

「うむ。……そうか?」


 ネヴィルはギフトを褒め、ロゼはそれに賛同しかけて首を傾げる。ギフトは探究心は無いと思う。どちらかと言えば好奇心だ。


 新しい何かを見るのは好きだ。だがそれを深く追いかけない。知識を広めては行っても、深める行為はしないと考える。


「ギフトは欲深いだけだな。」

「欲深い?ギフト君はそう言ったものとは無縁そう。」


 金も権力も興味はなく、女性にもそれほど惹かれない。唯一食事だけが動かしそうだが、別に大食らいでもなく質素な物も嬉しそうに食べる。


 ミリアはギフトを欲深いと思わない。だがロゼは疑問に対して笑顔を浮かべる。


「救いたい者がいれば全部救う。気に入らない物は全部壊す。そんな奴さ。」

「ほっほ!それは自己中じゃのう。何故そんな人間に従っておる?」


 ネヴィルは単純な好奇心からロゼに聞き出し、それを聞き付けたソフィーが耳を澄ます。


 問われたロゼは少し考える。理由は色々ある。どれも本心だが、ここ最近でより一層強くなった思い。ギフトと一緒にその景色を見たいと強く願う。


「妾の夢の為だな。」

「夢とな?」

万物の箱庭(ユニヴァースガーデン)を妾達は探している。」

「……それは、ふむ……。否定する気は無いがのぅ……。」

「別に構わんさ。妾も最初聞いたときは馬鹿にした。」


 例え否定されてもロゼは気にしない。ギフトがいても怒らないと確信している。


 馬鹿にされようと否定されようとギフトは構わず進んでいく。その背中についていくには一々外野に振り回されてる暇はない。


「妾はただギフトとミーネの幸せを望む。これから先もそうありたい。ギフトは妾の全てを捧げても良い器だ。」

「……心酔しておるのか?」

「思考放棄ではない。ギフトと共にいたいのは妾だ。いつか必ず振り向かせるさ。」


 強い意思を携えて、自信満々に笑みを浮かべる。藍色の瞳は真っ直ぐネヴィルを捉えてそこに微塵も疑いはない。


 ロゼはギフトなら夢を叶えると信じている。でもその時ギフトの側に自分がいないのが嫌だ。だからロゼはギフトと共にいることを選んだ。


 強さも欲しい。知恵も欲しい。好奇心を満たしたい。好きな男と共にいたい。その全てを差し置いて、ギフトが夢を叶える時に、誰よりも自分が側にいたい。


「妾は阿呆だからな。望む答えでは無いかも知れぬな。」

「……いや。つまらぬ質問じゃったな。」


 ロゼは自分の確固たる意思でギフトに従っている。そう思わせるだけの何かをギフトが持っているのだろう。


 ここまで正直に言うとは思っていなかったが、ネヴィルの表情から満足している事は伺える。ギフトやミーネと同じくらいロゼも気に入る。


 真っ直ぐで、眩しい。目的の為に進み、人の為に踏み止まる。仲間だからと馴れ合わず、自分の意思を伝え、理解しようとする事を止めない。


「お主はギフトを心から好いておるのだな。」

「でなければ共にいないであろう。」

「ほっほ!じゃが女子なら少しは恥じらいもあった方が男には効くぞ?」

「……そうか?そう言うものか?」

「うむ。どうじゃアルバ君?」

「お、俺!?」


 急な話題の転換にアルバは大きな声になる。ここにいる男はネヴィルとアルバだけで、ネヴィルは意見としては達観しすぎている。


「いや師匠も達観してるって!女の子に興味無いでしょ!?」

「だがあれでも……。人並みに女性の扱いは知っている。」

「え、それって……。」

「ち、違うぞ。そう言う意味では……。」

「止めて!」

「止めてください!」


 アルバとソフィーは生々しくなりそうな話に待ったをかける。声こそ出していないがルイも顔を赤らめて乾いた笑い声を上げる。


「でもギフト君も年頃。そう言う風にならないの?」

「……ならん。あれは自制してるかも知れんが、まぁ……。」

「誘ったりしないの?」

「難しいな。そう言う生き方もしてこなかった。だがこれからは少し頑張っても……。」

「そう言う話は俺のいないとこでしてよ!」

「むー……。うるさい……。」


 アルバが顔を真っ赤にして声を張り上げると、体力も回復したミーネが煩さに目を覚ます。


 ソフィーもルイも話に参加する気は無く、ただ興味はあるのか離れることもなく。ネヴィルは若い頃にでも思いを馳せているのか優しい目で髭を撫でる。


「……うぅ。……ふぁー。……ん?」


 ミーネは体を大きく伸ばして眠気を払う。そして鼻を揺らすと慣れない匂いがミーネの鼻腔に届く。


 風向きは海に向けて吹いている。ならば匂いはミーネの前にいる人達ではない。


 振り向いて、ミーネは寝ぼけ眼を擦り、その正体を目に写す。そして慌ててロゼの背中に隠れて身を隠す。


「む?どうしたミーネ?」

「……あの人達。変な匂いがする。」


 ミーネの言葉通りにロゼは視線を移してそれの姿を確認する。あまり会いたいと思わない人間。と思われる者達がそこにいた。


「……聖教連か。……変な匂いとは?」

「わかんない。嗅いだことない。」

「匂いの特徴はどうじゃ?」

「頭がツーンってなる。少し甘い匂い。」

「……ふむ。全員気を引き締めておけ。」


 ネヴィルの言葉にロゼは静かに臨戦態勢を調える。ミーネが不安がっている以上はそれだけで戦う理由になる。


 冒険者は少し気まずそうに、アルバは警戒してソフィーを自分の後ろにさがらせる。


 本来なら必要ない動作にロゼが違和感を持ったのか、二人を見る。だが追及はせずにまた前を向く。


「何でここに……?」


 代表するように、ソフィーの口から言葉が漏れる。どこに行くかは伝えていない。ここにいることが知られれば迷惑になると黙っていたのだろう。


「探しましたよ。聖女様。」


 聖教連は警戒する面々を無視して聖女に語りかける。どこか怒りを携え、薄く冷たい笑みを浮かべていた。


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