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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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31 無魔法

「あー……。良い加減鞄変えるか?ごちゃごちゃしてきたな……。」

「早くしてくださいギフト様。」

「待てって。んー……。」


 ギフトは自分の鞄を漁りながら過去の自分に苛立つ。何でもかんでもとにかく鞄に詰め込んでいるから、必要とした物を取り出すことが出来ない。


「あー面倒臭い!」


 探すのを諦めて鞄をひっくり返し、中にあるものを全て吐き出させる。すると本と煙草とゴミと何かの骨が大量に出てきた。


「趣味悪いわよあんた。」

「本は財産。手厚く扱う。」

「ゴミばかりではないか。片付けろ。」

「……まず俺の趣味じゃないし、これは俺が書いたものだから本じゃないし、これはゴミではないし!」

「いやゴミであろう?何だこれは?」

「木の実の皮。」

「ゴミだな。」


 ギフトの荷物に興味があるのか、わらわらと人が集まる。だが入ってる物を見て女性達は若干引きぎみの様子。


 ギフトの鞄から出てくる物は女性にはまるで興味が沸かない代物だったが、ネヴィルは首だけ出して感嘆の声を上げる。


「ほぅ。随分珍しい物を集めておるな。収集癖でもあるのか?」

「どうだろうねー。欲しければ上げるよ?」

「……本気で言っておるのか?売れば金になるぞ?」

「どーだロゼ!ゴミじゃねーだろ!」

「……何かこう。腹が立つな。」


 ギフト自身は価値ある物として集めていない。恐らく鞄にいつ入れたかも、何故入れたかすら覚えていないだろう。


 何となくで集めた意味の無い行為。それがネヴィルの一言で価値ある行動に変わっただけなのに、さも考えていたかのように胸を張るギフトにロゼは苛立ちを覚える。


「何がゴミじゃ無いだ。ならこれは何だ?」

「砂漠で見つけた何かの実だな。味はなかった。」

「これは?」

「荒野で見つけた石だ。綺麗だろ?」

「……これは?」

「龍の鱗だな。」


 最後の一つを除けば基本ゴミばかり。最後も嘘か本当か誰にもわからない上に、ギフトが威張る事無く言うせいで説得力の欠片もない。


「妾が片付けるぞ。」

「捨てちゃ駄目だよ?整理してね。」

「……わかった。目的の物は。」

「えー……。……ああこれだ。」


 目当ての本を手に取り、待ちくたびれているソフィーとルイの下に歩く。


 本を適当に開きながらギフトは書かれた文字を読み上げ、地面に字を書いていく。


「じゃあ授業の時間でーす。」

「何をするのですか?」

「お前らの属性について、だな。」


 ギフトは地面に六角形の図形を描き、真ん中に一本横に線を引く。その上側の左から風、雷、火の三角形。下側の左から土、無、水の逆三角形を書き込む。


「これが基本の六属性。この配列も覚えとけよ。」

「意味があるのですか?」

「上側と下側で別れてる。風は巻いて雷を起こし、雷は落ちて火を生み出し、火は昇って風が吹く。無から塵が集まり土となり、土は息をし水を生み、水は命を吐き出し無を作る。」

「……えー?っと?」

「無から塵が集まるのですか?」

「……そこは俺も知らん。何でかそう呼ばれてる。」


 ギフトは正直に告白する。ギフトも何も無い所に何故塵があるのか等説明できないが、ギフトは教えられた事をそのまま伝えてるだけだ。


「たぶん本来は五つの属性だった。だが、それじゃお前らの属性の説明が出来ないから勝手に名付けたんだと思う。」

「ふむ。お主の解釈は?」

「無、じゃなくて核魔法。物事の中心になるもの。それならギリギリ納得できる。」

「……ほぅ。……いや、むむ……。」

「そんなのどうでも良いよ。要はお前らの属性はこの中で一番進んでいない。厳密に何が出来るかわからないって事。」


 途中入った茶々に律儀に返して言葉を続ける。ネヴィルはギフトの解釈に何か思う所があったのか、髭を触りながら押し黙る。


「回復では無いのですか?」

「んーとな。属性の無い魔法を使える……かな。属性が無いから他者への魔力譲渡が出来る。色で考えたらわかりやすいかな?」


 火は赤。風は緑。雷は黄。土は黒で水は青。それぞれの色があり、人の魔力の色が変わってしまうなら魔力を渡せない。


 無魔法は無色透明。誰に渡しても色に変化は起きない。だから他人の回復や強化が出来るとギフトは勝手に推測している。


「でしたら同じ属性なら回復が出来る、と言うことですか?」

「厳密には同じ属性はほぼ存在しないが、間違いじゃない。」


 ギフトは書いた図形に点を新たに加える。火と書かれた頂点にギフト、そこから少しずれた一辺にリカと書いた点を打つ。


「同じ属性でも俺は火のみ。リカは火属性だが風か雷に少し寄りその幅は無限にある。そんでリカが風に寄ってるなら風か火属性しか回復は出来ない。」

「同じ辺の点にいなければ不可能、ですか……。」

「そう言うこと。だから……。」


 ギフトはそこで言葉を切る。言って良いことか悪いことか判断しきれず、ここまで来てしまった。


 当然ギフトの推測が間違っている可能性もある。ただその推測が合っていれば疑問も解消出来るのも確かだった。


 ほぼ確信に近い。無魔法が使える人間は大勢いても、無属性の人間の数は少ない。


 火属性の回復魔法持ちは火か、風か雷の一つの属性しか回復できない。一人の人間で回復させられるのは二つの属性まで。


「だから、お前達は誰でも救える可能性がある。一番下から皆を支えられる魔法だな。」

「……そうじゃな。素晴らしき魔法じゃ。」

「まぁ一番謎が多いが、俺が知ってる事は教えてやる。」


 ギフトは言いたい事を飲み込み言葉にしない。ネヴィルは何か勘づいた様子だが、ギフトの気持ちを汲んだのか相槌を打つだけでそれ以上は言わなかった。


 ギフトとネヴィルの言葉に二人は嬉しそうに微笑む。ギフトはそれ以上考えることをやめてルイに本を渡す。


「この本は人体の構造が書かれてる。魔法の効果を高めるのに知っておけ。」

「一先ずは回復魔法、ですか?」

「人への強化は回復魔法の延長にあるし、結界も魔力をどれだけ同じ場所に集中できるかだ。他の属性は後回しにしとけ。どうせ一番使うことになる。」

「わかりました。具体的にはどうすれば?」

「ここに紙と炭がある。ひたすら書け。夢で見るようになれば最高だな。」

「……うぇ?」

「本気だぞ?」


 そこに描かれた人体は骨、筋肉、皮膚と描かれている。精巧な物で無いことはギフトも承知だが、それでも限りなく忠実には書かれているだろう。


 最初は本を見て、いずれ実践。何度も何度もそれを繰り返して覚えるしかない。


「これはお主が書いたのか?」

「無理無理。流石に書けないよ。」

「……この本を儂の学園に寄贈せぬか?言い値で買うぞ?」

「これは必要な物だし、仲間に貰った物だから駄目。」


 ルイとソフィーが嫌々ながらも紙に書き写していく作業を見ながらギフトは煙草に火を点ける。言いたかった事も煙と一緒に吐き出していく。


「言わぬが正解じゃ。理由もあるじゃろうし、そんな事知ってる者も少ない。」


 ネヴィルは小声でギフトだけに聞こえる様呟く。ミーネが起きていれば聞こえただろうが、寝ている事は確認済みだ。


 それを受けてギフトは笑う。自分より歳上に言われるなら判断に自信も付く。ネヴィルを自分と似た人間と信じた行動だった。


「……それが不幸を招かないよう、頑張らなきゃな。言わなかった俺の責任だ。」

「……ほっほ!益々気に入ったわい!」


 ネヴィルは朗らかに笑い、ギフトの行動を後押しする。もしネヴィルがギフトと同じ立場なら自分もそうしていただろう。


 ギフトもネヴィルもわかっていること。もしかしたら仲間のリカやミリアも知っているかも知れない。


 無魔法は選ばれた魔法。本来六属性と数えられる事の無い特別な魔法。


 その使い手は少なく、誰をも救い、全ての魔法を高い次元で使えるとされている。


 だから無属性の者は聖女や勇者と呼ばれる。特別で崇高な、他と一線を画した人間として。


「負けてやるつもりは無いがな。」

「当然じゃ。その為の知識でその為の鍛練じゃ。」


 二人ともそれが特別とわかっていて、特別扱いはしない。才能に胡座を掻いてるだけでは何も成せないことを知っているから。


 仮にルイが聖女や勇者と呼ばれようと何も変わらない。ギフトの知らぬ何かがある可能性もあるし、何よりそれは特別な力であって特別な人間とはならない。


 ここにいる人間をギフトは気に入っている。ネヴィルだけがまだ推し量れていないが、ネヴィルは自分と同じで正義にも悪にも興味を示さないだろう。


「お前が味方でいてくれることを願うよ。」

「儂も同じさ。ここには原石ばかりがおるからな。」


 ソフィーは広く周知されているだろうが、ルイは二人が言わない限り無属性と広まらないだろう。知ってしまったならギフトはネヴィルを信頼(脅迫)する事しか出来ないが、それは無用な心配だろう。


 ネヴィルはここ最近の魔導師や剣士の質の低下を嘆いていたが、ここに来て自分の浅はかさを知り、楽しくなる。


 歳を重ねて目が曇った。ここにいる者達を見てネヴィルはそう思わざるを得なかったのだ。


 アルバの素振りの音。ロゼとミリアの魔法談義。リカの静かに揺らぐ魔力。ミーネの寝息にソフィーとルイの会話。


 それら全てを感じとりながら、煙を上に吐き出す。ネヴィルは穏やかな顔で見守り、ギフトは咥え煙草で楽しそうにポツリと漏らす。


「案外悪くないね。」


 呟きはネヴィルだけに届き、その目が輝き出す。だがそれには悪戯っぽく笑みを返して、ネヴィルは肩を落として落胆する。

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