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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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27 二日目 ロゼとミリア

 釣糸を垂らして魚が食いつくのを待つ。特に何か動かすわけでもなく、ただ餌に食いついたのを釣り上げるだけだ。


 あれこれ考えて釣るのではなく、頭を空にしてじっと待つ。遠い水平線を見つめて、心を穏やかにする。


 波の音と後ろからの話し声を聞きながら、ゆったりと時間が流れていく。無心になれる時間をギフトは楽しむ。


「あー!」

「おめでとう。リカ。」


 その時間もすぐに終わりを迎えた。突然の大声に振り向くと、リカの持っている枝の先から煙が上がっている。


 これで残るはアルバ一人だが、アルバの様子を見てこの調子ならすぐに終わりそうだとギフトは思う。


 尽くギフトの予想は外れることになるが、それも楽しみだ。想定通りにしか進まないなら人生は楽しくない。


 釣竿を置いて立ち上がる。腰を伸ばして潮の香りを精一杯嗅ぐと、満足そうに息を吐き出した。


「さて。じゃあ俺もやることやるか。」

「何をするのだ?」

「戦うぞ。言っただろ?最初は誰から行く?」


 ギフトの言葉に顔を見合せ、各々嫌そうな表情になる。前日にボコボコにされたばかりで、その記憶を忘れた訳ではない。


 だが嫌がっていては次に進めない。強者との戦い。それも死ぬ事の無い勝負は良い経験にもなるはず。


「最初は妾だ。一日に一度きりか?」

「満足するまでやってやる。他にやりたい奴がいないならな。」

「俺もやる!師匠!」

「お前はその前に武器を選べ。後で教えてやる。」

「魔法。」

「お前との戦いの時に教えてやる。ロゼ。お前は魔法と剣、どっちを学ぶ?」


 アルバとミリアの言葉は適当に返して、ギフトはロゼに選択肢を与え返事を待つ。口元に手を置いて暫し悩むと、ロゼは自分の目標を告げる。


「妾の目標は変わらぬ。出来れば魔法と剣、両方を学びたい。」

「……別に良いけど、それが強いとは限らないぞ?」


 ロゼが選んだのはギフトと同じ道。だがそれは正直厳しい道だと思っている。


 一つの事に打ち込むのと、他の事に手を出すのでは成長は違う。ロゼが二つの道を行ったり来たりしている間に、他の人は先に進んでしまうだろう。


 最初は一つに絞った方がいい。それがギフトの意見だが、ロゼは首を横に振る。


「妾にとっての強いはお前だ。一人で全てを守り戦えるお前に憧れた。だから妾はこれで良いんだ。」

「んー……。本人が納得してるなら構わないか。戦い方は自分で考えろよ?」

「ああ。お前と同じにはなれないからな。」


 ギフトは炎を自由自在に操れる。ロゼにはそれは出来ない。最終的な目標はギフトであっても、途中の道は同じではない。


 ロゼにはロゼの、ギフトにはギフトの戦い方がある。下手な人真似は自分の将来を閉ざす可能性もある。自分で考えて何が一番合っているかを模索しなければならない。


 ロゼは剣を抜いて呼吸を整える。敵対してそんな暇があるかはわからないが、今は全力で戦うべきだ。


 ギフトを睨み気合いを込めて、剣を構える。腰を落として剣を斜め下に向ける。そして先ほどまでやっていた感覚を思い出す。


 それを見てギフトは笑う。一日での変化にしては大したものだと。まだまだ足りないが、今後に期待は持てる。


「俺が言ったことは覚えてるな?」

「お前を敵と思え。強くなりたいのは妾だ。であろう?」

「そうだ。来い。」


 ギフトは左手を前に出して、右手を体で隠す。受け流し、時間を稼ぐ為の構えだが、それだけじゃない。


 それにロゼも気づいているのだろう。本当はこんな真似をする必要も無いのだが、勝てる可能性があると思えなければやる気も出ないだろう。


 真に警戒するべきは隠された右手。ギフトはそこに魔力を集中させている。あれで殴られてはロゼの体は壊れるだろう。


 それはしない。わかっていてもそんな甘えた考えは捨てなければいけない。敵が自分を殺さない保証など何処にも無いのだから。


 ロゼは更に重心を落として、一気に詰め寄る。初めは突き。自分の走る速度と突き出す速度を乗せてギフトの胸を狙う。


 案の定ロゼの突きは剣の腹を弾かれて逸らされる。だが流された力を利用して体を回して剣を横凪ぎに振るう。


 それも少し後ろに歩くだけで回避される。ロゼはギフトに向けて足を踏み出して縦に剣を振り下ろす。


 ギフトはロゼの落ち着いた剣技を見ながら、惜しいと思う。何年も剣を降り続けていたからか、剣筋は決して悪くない。


 ただ正直すぎる。どこから攻撃が来るか予想でき、ギフトより遅い攻撃は何度続けても届かない。振り下ろされる剣を体を捻らせて避けると、ロゼの手の甲に裏拳を打ち込む。


「くっ……!」


 剣は落とさなかったが勢いは殺される。横に流れる体を足で止めると、ギフトの体が深く沈む。


 何が起こるか予想は出来ても体が追い付かない。足を払われてロゼの体は宙に浮き、腰から地面に落ちて仰向きになる。


 すぐに起き上がろうとするが、それよりも早くギフトは倒れたロゼの胸ぐらを掴み、手を高々と上に掲げる。


「……参った。」

「ん。反省点は?」

「……全て見切られていたな。」

「ならどうするか考えろよ?」


 ギフトはロゼに手を伸ばし、ロゼはそれを掴んで体を起こす。体に付いた砂を払って剣を納める。


「魔法を使う暇すら無かった。」

「ならミリアに相談してみな。あいつがどう魔法を使ってるか学ぶ良い機会さ。」

「それは後で。次は私。魔法勝負で。」

「良いぜ。」


 休む暇なくギフトは勝負を受け入れる。ロゼは巻き込まれないよう離れ、ミリアもギフトから距離を取り、杖をギフトに向ける。


 ギフトは作った釣竿を拾ってそれをミリアに向ける。それが杖代わりになるのか疑問だが、自信満々のギフトを見ると、それが不利に働くとはならないのだろう。


「集え水精。落ちる水滴は石をも穿つ。水弾(ウォーターバレット)。」

「来い。全て貫き燃やし尽くせ。炎の槍(ジャベリン)。」


 互いに言葉を紡ぎ、現象は起こる。ミリアの前に大きな水の塊が、ギフトの前には炎の槍が。


 破壊力はギフトが上。ミリアはそれを承知でギフトに水弾を撃つ。何か罠がある事を承知の上でギフトは笑って迎え撃つ。


 炎の槍が水弾に当たると、一瞬で蒸発し視界が確保できなくなる。炎の槍をミリア避けて、ギフトが動く前に先手を取る。


 ミリアは視界が切れたギフトから更に離れ、海に足を着ける。ミリアの水魔法を最大限生かす為に。


「私の声に応えて。流れを生み出し翻弄して。蠢く水(アクアライブ)。」


 ミリアの言葉に反応して海から水流が立ち上る。一本の水の柱が立ち、ミリアが杖を動かすと連動したように水流も動く。


「条件さえ整えれば強いなー。魔導師ってのは。」


 蒸気は風に流され視界は晴れる。ギフトに向けて勢いの乗った水流が迫るが焦りは無い。ギフトの炎は本来水に弱いが、このくらいの水なら蒸発させられる。


 水のある場所で水魔法の得意な魔導師と戦う。実践なら避けるべき状況だろうが、ギフトはそれを良しとしてない。


 どの状況下で誰と戦うか。それはわからない。わからないならあらゆる状況に対応できるよう策は練っておくべきだ。


 ギフトは砂浜に手を突き水流と向き合う。力勝負で勝つのではなく、策を凝らせば不利もひっくり返せると身を持って示す為に。


「吹き飛ばせ炎。抉り、更地に変えろ。炎撃(フレアインパクト)。」


 途端ギフトの掌から小さな爆発が起こる。砂の盾はミリアからギフトの姿を消すが、それも構わず水流をぶつける為にギフトがいた場所に向けて杖を振る。


 勢いそのままに地面に当たり、派手に水飛沫を上げる。砂の盾は一瞬で役に立たなくなったが、ギフトの姿はそこに無い。


「何処に……?……温い?」


 消えたギフトを探そうとしたが、足下の水温の変化に気づいて下を向く。


 それはどんどん温度が上がり、やがて気泡が一つ上がる。ミリアは急いで海から上がり、砂浜に到着し、周囲を見渡す。


「……私の負け。」


 急いだのも確かだが、そこには何もなかった筈。なのに今ミリアの周囲には小さな火の玉が数十個浮かんでいる。


 これが一斉に来ると防ぎきれない。悟ったミリアは早々に敗北を宣言する。


「もっと考えないとな。普段後ろにいることが多いんだから、お前が見失っちゃ駄目さ。もっと予想を立てな。」

「……そこにいたの。」

「お前からは見えない場所に行くより楽だろ?」


 ギフトは自分の魔法で生み出した砂浜の穴の中から顔を出す。砂の盾は副産物。目的はミリアの攻撃を回避するための場所だったのだろう。


 普通に避ければ追いかけられる。一瞬でも姿を消せれば何処に行ったか悩む。悩んだ隙にミリアに向けて炎の槍を伸ばして温度をガンガン上げた。


 そうすればミリアは海にいられない。何処から攻撃されているか考えずに逃げるには砂浜に行く。それも真っ直ぐに。


 後はその付近の地面に炎の玉を埋め込んで置けば良い。魔法を発動するまでの早さ、自由に動かす魔力操作があれば出来ることだ。


「相手の動きに合わせるのではなく、相手の動きを制限させる。」

「当てるんじゃなくて、勝手に当たる様誘導させる。これに関しては仲間と連携でも良いがな。」

「発動までも遅い?」

「そうだな。水流を動かすのは大したもんだが、何が来るか予想できれば対策も立てられる。敵に余裕を与えるな。」

「わかった。ありがとう。」


 魔力を使いすぎて疲れ気味のミリアに対し、ギフトは余裕綽々で煙草を吸う。魔力量もそれを扱う技術もまるで歯が立たない。


「後でロゼに教えてやりな。人に教える事はお前の役にも立つ。」

「そうする。」

「師匠。次は俺。」

「はいはい。ちゃんと教えるから待ってろ。」


 次から次に申し込まれてはギフトも疲れる。魔力も体力もまだ問題ないが、手加減していては頭が疲れる。


「少し休憩だ。その間にお前は早く皆に追い付け。」


 アルバはまだ魔力操作の感覚を掴めていない。どうせ必要になるのだから早めにコツを掴んでおいて欲しい。


 負けた二人は早速とばかりに話し合う。ロゼにとってもミリアにとっても有益な時間になると、ギフトはそちらに視線を向ける。


「ミリア。頼む……。」

「うん。私も聞きたいけど、ギフト君に弱点はある?」

「むぅ……。普段はポンコツだが、戦闘となるとな……。」

「ロゼ?聞こえてるぞ?」


 勝つ事を目的にしているから弱点を聞くのは問題ない。かといっていきなり悪口を言われる事は予想していない。


 煙と溜め息を吐き出して、ギフトは少しの休憩を釣りに勤しむ。未だ釣果は無いが、波の音に耳を傾け、心地よさに目を閉じる。

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