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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 一部 ~邂逅~
12/140

12 焚き火を囲んで

行間開けてみました。


 弔いが終わり、誰もが一言も発することなく、その場を離れ、グラッドとローゼリアとギフトのみがそこに取り残される。


 いつまでも悲しんでいるだけではいられない。今後の身の振り方を考える必要が有り、話し合うことになった。

 三人で焚き火を囲んでローゼリアは倒木に腰掛け、グラッドとギフトは地べたに座る。


「姫様に害をなそうとするなら、他国の者が有力でありますかな?」

「どうであろうな。妾を害することで得をするとは思えん。少なくとも周辺国には妾の価値など無いだろう。」

「姫様。そのようなことを仰らないで下さい・・・。」


 そして会話が途切れる。ギフトは与えられた簡素な食事に夢中なようだ。そもそもギフトからしてみればここにいるのは場違いだと感じている。


 敵は全員叩きのめした。届け屋としての仕事も終了している。もうここに用は無いというのが正直な所で、なぜ今もこうしているのか不思議に思っているくらいだ。


 周辺の地理に詳しいわけでもない。国の事情となると尚更だ。そんなことが理解できる筈もなく、ただ聞くことしかできない。それでもグラッドが食事を出すという餌に釣られてここにいるのだが、その目的はわからない。


 もそもそと食事を食べていると不意にローゼリアがギフトに視線を寄越す。


「今更だが、何故こ奴がここに居る?」

「それ俺が聞きたいな。自分で言うのもなんだけど、頭の良さに自身は無いよ?」


 自分が話し合いなどしても碌な案は浮かばない。元が割と短気な性格と自分を認識しているギフトにとって、座して話し合いなど望むところではない。


 会話をするのは好きだが、頭の痛くなる話は嫌いなのだ。誰がどういう目的で何を成そうとしているのか。それを考えるくらいなら、全員どつき回す方が手っ取り早い。


 なので、ここにいても役に立たないと自ら宣言したのだが、グラッドはその首を横に振る。


「ギフト殿は旅の最中に得た知識がございます。今は一つでも情報が欲しいところですので。」

「国の政には詳しくないよ?文化とかにはそれなりに興味はあるけどさ。」

「それで構いません。同じ視点から物事を見続けて八方塞がりになるよりかはマシでしょう。」


 情報を集める。その点に置いてローゼリアも文句はないのか、ギフトに視線を向けたまま押し黙る。ギフトもそのまま何も言わないが、内心ではどうしようか考えている。


 このまま彼等に付いて行くつもりは無い。個人的にあまり肩入れしたくない事情があり、長く一つの所に留まれない理由もある。


 このまま彼らを置いて行くのは冷たすぎる気もするので、別の街なり村までは送り届けるつもりはあるが、深く関わるつもりはない。


 一方グラッドからすればギフトの力を貸して欲しいと考えている。素性のわからないものを見方に引き込むのは本来なら憚られるが、今は少しでも戦力が必要だ。


 このまま王都に無事に戻れるとは考えていない。ローゼリアの命を狙ったものがいるなら、生きていることが分かればまた人が送られてくるだろう。その時の状況は相手が自由に決められ、不利になることも容易に想像できる。


 グラッド達だけで切り抜けられるならそれで良い。だが相手の規模も分からない。先程より大勢、且つ手練の者がいれば、自分たちだけで出来るというのは自意識過剰だろう。


 ギフトの力は異常とも思っている。聞けば無詠唱の魔法で敵を燃やし尽くしたらしい。高い身体能力に加え、予備動作なく魔法を使えるなら、その力は間違いなく脅威だろう。


「俺は一応届け屋の仕事があるから暇でもないんだけどねー。」

「恥は承知で頼みます。お礼は必ず出します故。」


 抗議の意味も込めて愚痴を漏らすがグラッドに押し切られる。ブーたれながらも最後の干し肉を口に押し込む。


「お礼は飯な。後、こっちにも事情がある。最悪それは無視してもいいんだけど、出来ないことはしないからな。」

「助かります。そちらの事情とは伺っても?」

「俺にとってはもうどうでもいいことで、あんたらにとって悲劇になりうることかな?」

「・・・何を隠しておる?」

「それを教える義理はないさ。少なくとも俺からあんたらを害するつもりはないよ。」


 煙草に火を点け笑みを浮かべながら煙を吐き出す。隠し事があるのは構わないが、せめてそれを口にして欲しくは無かった。


 隠し事がありますと今日あったばかりの人に堂々と言われて、信用は出来ないだろう。落ち込んでいる時に追い打ちをかけて欲しくなかった。


 ただ、害するつもりはないと言ったのなら今はそれを信じるしかない。状況はこれ以上悪くなることは無いだろうと、グラッドが決断を下す。


「信用できぬ者と一緒に行動するのか?」

「姫様。我らもこのまま王都に戻るわけには参りませぬ。どこか別の場所に身を隠し、情報を集めるべきです。」

「・・・妾達に仇なすものが王都にいる可能性があるからか。」

「陛下ならば問題は無いでしょう。しかし我らが戻ることで敵がどう動くかがわかりませぬ。ここは慎重に動いて損はないかと。」


 ローゼリアに剣を向ける理由があるならば、何も知らぬ野盗か、今の体制に不満がある貴族のどちらかだろう。そして、彼らは野盗にしては統率が取れていた。


 何より使える主の命令と、そういったのだ。ならば、敵はそれなりの権力を持つ者であると予測はできる。具体的に誰がとまでは分からないが、貴族なら王都に身内を置いていても不自然はない。そいつらが街の中で、或いは城の中で襲ってくる事もある。


 敵が誰か、その勢力、目的。それがわからない以上考えなしに動くことは出来なかった。


「お主の言うことも分かる。妾が陛下の心配をすることもあるまい。ならばどう動く?」

「一先ずこのまま別の街に行きましょう。服や食料も買わねばなりませぬ。」

「いいね。賛成。ご飯を食べに行きましょう。タバコも無くなりそうだし。」


 真面目な話の最中とは思えない呑気な提案に、ローゼリアから鋭い視線が刺さるが、ギフトは煙で輪っかを作って遊んでいる。


「貴様は状況がわかっているのか?はっきり言うが、妾は貴様を信用していない。」

「お互い様だろ?俺もお前らが正しいかどうかなんて分かんないし。俺はあのおにーさんに頼まれてあんたらを迎えに行っただけだからな。」

「・・・グラッド。妾はこ奴を連れて行くのは反対だ。何を考えているかわからぬ。」

「人の考え全部分ったら人生楽そうだよなー。あ、でも逆にしんどいのかな?」


 睨み続けるローゼリアに対し、ぷかぷか煙を浮かべ続け、視線を合わそうともしないギフト。馬が合わない、というよりかはギフトが意図してローゼリアを挑発しているように見える。


 グラッドはその意味はわかっている。それを口にすることも感謝することも出来ないが、代わりにそのやりとりに口を挟まない。自分に出来ないことをギフトがやってくれているのだ。


 ローゼリアは信用できないと言ったが、グラッドはギフトをある程度信用できると見ている。隠し事もあり、能天気な部分が垣間見えるが、それでも他者を気遣う姿は確かにある。


 恐らく何かしらの譲れないものがあるのだろう。そうでもなければ、今も尚ここにいる説明が付かない。思考まで読み取ることは出来ない為、ただの思い込みかもしれないが。


 それ故にグラッドの胸中は内心穏やかではない。騎士として部外者を巻き込むことに罪悪感を覚えるも、それでも守りたいものがある。その為ならどんな恥辱にも耐えうる覚悟は既に出来ている。


「さて、ならばとりあえず王都以外の街に赴きましょう。そこで何か分かれば良いのですが・・・。」

「・・・言っても仕方なかろう。出来ることをやるのみだ。」

「良い事言うなぁ。出来ることだけ頑張ろうぜ!姫ちゃん!」


 ギフトの言葉に返すことはなく、その場からローゼリアは離れていく。


「・・・ちょっと言いすぎたかな?」

「今はまだ、難しいのでしょう。人は簡単に前を向けるほど強くはありません。それはそうとギフト殿は戦場にでもおられたのですかな?」

「一応元傭兵だよ。」

「なるほど、道理で・・・。嫌われ役を押し付けてしまって申し訳ない。」

「大丈夫さ。嫌われ役には、慣れてるよ。」


 人の心は簡単に折れる。人の死を間近に見た人間が平常心で居られるわけなど無い。持ち直すために、人は泣き、笑い、怒り、感情を表に出すのだ。


 だが、ローゼリアには今それが出来ない。胸の内は穏やかなものではないだろうが、それでもそれを表に出さず、一人で抱え込もうとしている。そのままではいずれどこかで心が崩れてしまうだろう。


 怒りでも泣くでも何でもいい。とにかく感情を揺さぶろうとギフトはあれこれやってみた。それでもその怒りを直接ぶつけてくる事はなかった。それが二人には気がかりだった。


「倒れなきゃ良いけどなぁ。責任感強いのかな?」

「アルフィスト王国が皇女でございますからな。自然身につくものは有りましょうぞ。」

「良い方にも悪い方にも?」

「・・・ええ。その通りです。もっと表情豊かな方だったのですが、ここ最近はずっと険しい顔をしておられるのです・・・。」

「ふーん・・・。」


 ギフトは短くなった煙草を腰の箱に潰して入れ、空を見上げて黙り込む。


 それに釣られてグラッドも空を見上げると、大きな月がこちらを覗き込んでいて、その明るさに負けないようにと星が煌めいている。


 暫く二人してそのまま何も語らなかったが、ギフトがゆっくりと立ち上がり星を見上げながら呟く。


「今日も星が綺麗だな。」


 グラッドはその呟きを聞き逃さず、ギフトに視線を向けるが、ギフトは視線を上に上げたままだった。


 それが独り言であることを理解し、グラッドも星を見上げる。それが誰に対しての呟きなのか、何の意味がある言葉なのか、それはわからない。ただギフトはそう呟いたまま、一向に動こうともしなかった。


「よし。決めた。」


 ギフトは手を叩き、笑顔を浮かべる。その顔は子どものように純粋無垢な顔をしている。とても良い事を思いつきました。そう顔に貼り付けて。


「何を決めたのですか?」

「姫ちゃんに笑顔を届けてやるよ。届け屋として。」


 笑顔のままグラッドの問いかけに答えるギフトに唖然とする。グラッドからしてみれば願ってもない話だが、何故急にそんなことを言いだしたのか疑問が残る。


「何故そうするのですか?」

「俺はこの世界が嫌いだったからだ。だからあいつには笑って貰わなきゃな。」


 それだけ言うと話は終わりとばかりに、その場を去っていくギフト。


 グラッドは疑問が解決せず、モヤモヤとした気持ちを抱えて寝床に着くことしか出来なかった。


続きは明日10時。

誤字脱字は気をつけていますが、

あれば報告お願いします。

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