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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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25 先見先行

 ギフトが町でアルバと話している頃。ディーゴは一人、執務室で書類と格闘する。嘆願書に別の国との情報交換。大会が近いのもあって招待客も整理しなければならない。


 催し事には自分達の力の誇示と言う名目が大きい。当然利益も取らなければならないが、この国はこれだけの規模の祭りを開催できる。と言った力を見せつけなければならない。


 ディーゴが王になる前から大会は開催されている。前の方が規模が大きかった、面白かった。そう言われるのは屈辱でしかない。


 だがそんなものは運に偏る。大会が武道を主軸にしている以上はその時々の参加者の強さ次第で面白さが変わる。


 ギフトを誘ったのはその為だ。答えは予測できていたが、ギフトが出てくれれば大会は盛り上がる。と言うよりディーゴが盛り上げる。


 二つ名持ちで、魔法と格闘を織り混ぜた戦い方は観る者を魅了するだろう。結果はすげなく断られてしまったが。


 それでも良い知らせも無くはない。ギフトと共に旅をしている女性。アルフィスト王国の王女が大会参加を申し出た。まだ発展途上も良いとこだが、ギフトが一週間本気になるなら結果は変わるだろう。


 今年は盛り上がりそうだ。ディーゴは肩の荷が降りたかの様に腕を回す。その時部屋の外からドアを叩く音がなった。


「入れ。」

「失礼します。経過を伝えに参りました。」


 入ってきたのは執事ではなく、ギフト達が初めに出会った門番だ。何も持たず、王に会うにしては楽な格好だが、ディーゴはそれに機嫌を悪くする事なく、笑いかける。


「どうだった?」 

「勘がそこらの動物以上です。わかって無視してますね。」

「お前は本職じゃない。気づかれるのは仕方ないさ。無視されたのも敵視してないからだろうな。」

「そうですかね?相手にならないから放置されているとしか思えませんでした。」


 ディーゴは門番の報告を楽しそうに聞く。門番はディーゴにとって信頼に足る人物だ。


 その人物にディーゴは聖女の監視を任せた。聖教連の評判はディーゴの耳にも届いてる。この国にいる以上は好き勝手動かしたくない存在だ。


 勝手に善意を押し付けて見返りを求める。悪いとは言わないが、詐欺が常套手段と化したような存在をのさばらせたくない。


 その為、一応のトップである聖女を監視するよう命じた。だがディーゴの思惑はとことん外れる。


 聖女が聖教連と離れ、お供が一人しかいないこと。そして聖女をギフトが守ろうとしている事。


 ギフトだけなら監視に気づけば即座に始末するだろう。見られてる事を好む者ではない。断りもなく見るなと殴りに来るような奴だ。


 それをしなかったのは聖女を守る為だろう。根本から危険を排除する為にギフトが我慢するのは人の為でしかない。自分に起こる出来事は対応できても、目に見えない出来事はどうしようもない。


「私以外にも監視がいますが、あれは置いておいて良いのですか?」

「ギフトがいるなら下手な事も起きないだろう。余計な事をして怒りは買いたくない。」


 ディーゴはギフトを良く知っている。怒りに触れれば手をつけられないが、それ以外では基本温厚な性格だ。


 他の監視が何を考えているかわからないが、ディーゴとしては放置で構わない。手を貸す必要性を感じないからだ。


 もし国として介入して、余計な一言。それこそ助けてやったから礼を寄越せと言えばギフトは簡単に怒るだろう。国にまで矛先を向けはしないが、少なくともそれを言った人間は無事で済むかわからない。


 それに門番の男が気づいているならギフトも気づいている。なら対策も既に決めているのだろう。恩を売れる機会があれば売るが、徒労に終わる未来しか見えない。


「報告は以上か?」

「はい。あ、後これは直接聞いた訳では無いのですが。」

「何だ?」

「どうも彼は勇者に決闘を申し込んだ様です。闘技大会で行うと。」

「……本当か?」

「真偽の確認は取れていませんが、まず事実かと。大衆の目の前で宣言したそうですから。」

「……わかった。お前は引き続き監視を続けろ。最悪ギフトが接触したなら、正直に話せば良い。」

「はっ!失礼します!」


 威勢良く敬礼して門番は命令に従い、聖女の監視に戻る。


 ディーゴはにやける口元を手で抑え、それでも笑いが溢れる。


 勇者など気にかける必要も無い存在だったが、中々有益な事もしてくれる。この瞬間だけディーゴは勇者に感謝する。


 ギフトが大会に出る。それは圧倒的な力のアピールが出来ると言うこと。懇意にしていることも表明できれば、この国の地盤は固くなる。


 一つ問題があるとすればギフトの正体だろう。隠し通してくれれば良いが、ギフトは自分の存在に胸を張っている。


 それが気に入っている部分ではあるが、ギフトの正体を公表するのは時期尚早だと思っている。まだその存在を許容する地盤は出来ていない。


「さてどうするか。いや、俺が考えずともあいつは勝手に人を惹き付けるからな……。」


 ギフトの為に出来る事を考えるが、それこそ余計なお世話と言われるだろう。


 それより自分の為だけに動いた方が良いだろう。例えそれでギフトを切り捨てる結果になってもそれを笑って受け入れる。


 それにまだ数日は残っている。その間に雑務をこなし、純粋に大会を楽しむのも一興だろう。


 ディーゴは一つの楽しみを持って、再び書類と格闘する。幼き日の様に、祭りの日が待ち遠しくて上機嫌に鼻唄を歌い始める。



 ◇


 同時刻。ロゼ達はギフト達を待ちながら、昨日と同じ様に木の枝を持っている。


「あーあーあー……。ミリア?」

「魔力は自分の体にある。たぶんそれを感じとるのが目的の修行。」

「それが感じ取れないんだけど?」

「集中力。想像力。あと自分を信じる。無心になってただ願う。」

「無心で願うってなんなのよ!」


 ギフト達がいなくなり、海辺についてからずっと同じ事を繰り返してる。ルイは早々に結果を出したが、リカは未だ変化が起きていない。


 リカは自分ができない理由を魔法が使えないからと思っている。魔力がなんなのかいまいち理解してないリカからすれば魔法が使えない自分が出来ないのは仕方ないと思っている。


「それは違うだろうな。現にミーネも出来ているし、出来ない事に時間を使わせはしないだろう。」

「……そうかもしれないけど。一人だけ出来ないのは恥ずかしいのよ……。」

「教えられる程上達してない。残念だけど、ギフト君が帰ってくるまで待たなきゃいけない。」

「うぅ……。」


 リカも別に本心から恥ずかしいと思っては無いだろう。単純に他と差をつけられて焦りを感じているのだ。


「体をぼーっとさせて、ジーっと見て、目を瞑ったら出来るよ。」

「……ありがとね。」

「あ、……余計なお世話だった……?」

「ううん。そんなこと無いわよ。」


 年下のミーネに慰められて悲しくなったのは事実だが、それに当たるのは何より悲しく恥ずかしい。


「あ、で、でもね!別に木の枝じゃ無くても良いと思うよ!」

「どう言うことだミーネ?」

「ミーネちゃん?」

「え、だって結果が見やすいだけで、魔力を流すのが目的じゃないの?」


 ミーネの発言にリカは若干の怒りを覚える。当然ミーネにではなくギフトに対してだ。


 魔力が流れる感覚を忘れるなとは言ったが、ギフトはこの枝に魔力を流すのが目的とは一言も言っていない。


 要は魔力さえ流せれば自分の体だろうが剣だろうが構わない。それを敢えて言わなかったのだろう。


「……でもそれでも難しいわよね。」

「無心になるのが目的だよ?」

「……ミーネちゃん。もしかして自分に魔力を流せる?」


 ミリアの疑問にミーネはこくりと頷く。視線はミーネに集まり期待が高まる。


 なにも言わないが、ミーネにそれを見せてくれと言うことだろう。ミーネは目を閉じて意識を深める。


 感覚は自分の臍。中心辺りに流れを見つける事。それをゆっくりと体の細部に送っていく。


 一直線に送るのではなく、回しながら広げていく。目に見えないし、そこにあるかもわからないが、ミーネは確かな手応えを感じながらそれを続けていく。


 目に見える変化は何もない。だが全員その姿から目を話せない。ミーネからギフトより弱々しいが、それでも同質の圧力が感じられるからだ。


「わっ!」

「わーっ!?」


 そこに大声を張り上げられてミーネは耳と尻尾を逆立てて体をピンと伸ばす。


 その後すぐにしゃがんで後ろを見ると、ギフトが楽しそうに、とても楽しそうに笑っていた。


「もう少し動じない精神が必要だが、ミーネは本当純粋だな。」


 ミーネのやっていた事は、後で教えようと思っていたことだ。それを誰に教わるでもなく自分の頭で考えて実行したことがとても面白い。


「……ギフト兄の馬鹿っ!!」

「おおう!?なんさミーネ?」


 だが楽しそうなギフトとは裏腹に、それ以外の者は皆ギフトを恨めしそうに見ている。


 疑問を持ったギフトが首を傾げると、ロゼが近づいてギフトに笑みを向ける。それがロゼが怒っていると悟ったギフトは即座に頭を回す。


「一応理由はあるよ?」

「その前に殴られた方が良かろう?」

「反省はしてる。」

「歯を食いしばれ。」


 大きな音が海に木霊する。誰もが当然の報いだと、胸がすく思いでそれを優しく見つめていた。

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