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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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22 ニ日目 朝

「一週間で出来ることなんてたかが知れてるからな。お前らの当面の目標は俺に通用する攻撃を覚える事だ。」


 翌日、太陽が中天に輝く前。海のすぐ側で同じ面々が集まりギフトに稽古をつけて貰おうとしている。油断すれば昨日と同じ目に会うかもと思っているのか真剣さが違う。


 昨日は意識を失い、食事をとって宿に入った途端、ギフトを除いて例外無く微睡みに落ちていった。


 一週間しか無いのに時間を無駄にしたと後悔している。同じ失敗をすればギフトは笑うだろうが自分達は笑えない。


「一日修行、一日の終わりに俺と組み手。終わったら何が駄目か考えろ。一人で考えても良いし、俺以外に相談してもいい。」

「修行の内容は?」

「ひたすら同じ事の繰り返しだ。」

「……なるほど。昨日と同じ事をすれば良い?」

「俺が充分と感じたら別の事もするし、まずは一つずつ片付けろ。」


 ギフトとその他では戦力が違う。どんなに頑張っても同じ目線になれないので、丁寧に教える事にも無理がある。


 ならばいっそ自分達で高めあった方が良いだろう。わからないことがあればその度にギフトが教えるといった形の方が、ギフトも彼女達もストレスが少なくすむ。


「つー訳で。後は頑張ってねー。俺は遊んでくるので。」

「えー!良いなー。」

「ミーネも行くか?釣りに行くだけだよ?」

「んー……。」

「昨日と同じ事なら釣りしながら出来るし、近くにいる分は構わないから一緒に行く?すぐそこだし。」


 本当に特別な事をするつもりは無い。ただ釣りがしたいだけだ。魚を釣って食いたいだけだ。


 持っているものが木の枝から釣竿に変わるだけ。やろうと思えば何処ででもやれる特訓だ。


「妾も同行して良いか?釣りはした事無いんだ。」

「良いよ。あ、でも釣竿作らなきゃだから。先に海行ってて。」

「手伝うか?」

「いや良いよ。俺の鞄持っていって先に頑張ってて。」

「承知した。」

「あ、少年はこっちに来い。手伝え。」


 ギフトは鞄をロゼに渡し、男の子を手招きする。だがソフィーの側を離れる事に悩み足踏みする。


「心配しなくてもここにいる奴はお前より強いよ。」

「それは……。いや、わかってます。でも……。」

「どのみちお前がいてもまだ何も出来ないだろうが。大人しくついてきな。」


 何一つ遠慮の無い物言いに、男の子は落ち込み、全員の目が厳しくなる。


 女子五人にジト目で睨まれてもギフトは何も気にせず、堂々と煙草を取り出して口に咥える。


「お前らは先に行けって。別に虐めたい訳じゃないよ。」

「ギフト兄には監視が必要だよ?」

「信頼は取り戻さないとなー。ちゃんと仲良くなるよ。」

「本当にー?」

「本当。ちょっと確認したい事があるだけだよ。」


 ギフトが人に厳しく当たるのを見たくないのだろう。自分と同年代なら尚更で、嫌な目にあって欲しくないのだろう。


 ミーネの優しさをギフトは無駄にしたくない。だが気になることをそのままにしておきたく無いので時間を貰うだけだ。


「何をだ?」

「……何が?」

「何を確認するのだ?お前は時々言葉が足りぬ。不安に感じるのはミーネだけではない。」

「んー……。別にどうでも良いことだよ。無視しても良いさ。」

「言えぬ事なのか?」


 詰問されてギフトは煙草を咥えたまま唇を尖らせる。ギフトにとってどうでも良くても、ロゼ達にもそうとは限らない。


 流石に危険があれば言ってくれるだろうが、平気で嘘をつくこともある。会って間もない男の子に怒鳴る様な真似はしないとわかっていても、何をするかわからないのは不安が残る。


 空を見上げてギフトは少し考える。そして咥えた煙草に火を点けると、観念したのか口を開く。


「監視されてるからさ。誰が狙いかわかって起きたいんだよね。」

「……何?」

「昨日も今日も見られてる。場所はわかってるし、この距離で気づかれるんだから大した事無いんだけど。目的だけ掴んどこうかなと思って。」


 あまり気を散らす様な真似はしたくなかったが、あそこまで詰められては逆に気になってしまうだろう。


 ギフトの言葉に全員に緊張が走る。狙われる理由は無いが、見られていると思うと警戒もする。だがギフトはそれを見てへらへらと笑う。


「別に放っておいて良いよ。だから言わなかったんだし。」

「……それとその子を連れていくのは何の関係があるのだ?」

「いや目的があるとすれば聖女か俺だと思うんだよね。やり方によってはそんなもん聞き出せるんだけど。」

「そう言うことか。嫌な言い方をして悪かった。」


 今からギフトは適当に監視している人間を捕まえて情報を聞き出すつもりなのだろう。


 聞き出そうと思えばギフトは聞き出せると思っている。だがロゼやミーネと一緒にいる間はそういった事はしないようにしようと心掛けている。


 要は気を使ったのだ。ロゼ達の邪魔にならないように、集中出来るように。その気遣いを疑った事を反省し、ロゼは頭を下げる。


「まぁ気にしなくて良いと思うんだけどねー。ただ聖女ちゃんが狙いなら、俺はいつも一緒にいる訳じゃないし。」

「……アルバを連れていかずとも、私が行っては駄目ですか?」


 ギフトの言い分を理解した上でソフィーは名乗りを上げる。ギフトの言う通りなら自分が行っても問題ない筈。そう思っての言葉だが、それはギフトに断られる。


「何が狙いかわからないから駄目だ。それにお前が狙いだと、奴らの気を逸らせないだろ?悪いけどお前を囮にするよ。」

「……ありがとうございます。」


 もし監視役の狙いがギフトなら放置で良い。自分が狙いなら何が起ころうと大概は処理できる。


 だがソフィーが狙いだとそうもいかない。ギフトはミーネの友達であるソフィーに傷付いて欲しくはない。だがこの国を去れば面倒を見ることも出来ない。


 これから先一緒にいるのは男の子。彼には覚えて貰わなければならないことが山ほどあり、それは短い期間で覚えられる事ではない。それはわかっているが、何もしないのも後味が悪い。


 自分の為に時間を割いてくれる事に感謝して、ソフィーは男の子に視線を向ける。


「ギフト様から学んできて下さい。こちらは大丈夫です。」

「はっ!」

「堅いねー。肩の力抜く事も大事だよ?」

「そんなわけにはいきません!師匠から多くを学びたいと思います!」

「ししょー!?」


 ギフトは本気で嫌そうな顔だ。そんな立場になりたいとは思ってないし、そう呼ばせる事は今後もない。


「はい!師匠が嫌なら先生と……。」

「俺の事はギフトって呼べ。敬称は自由だが師匠やら先生やらはやめろ。」

「ではギフト師匠と。」

「それでふざけてないなら大したもんだ。後で話し合おうじゃないか少年。」

「あ、おれ、じゃなくて私はアルバって言います。」

「その話し方もやめろ気持ち悪い。」


 ギフトは現状アルバの一挙手一投足を気に入っていない。


 それ故言い方もキツいものになっているが、アルバはめげずにギフトに付いていこうとする。その健気さはギフトを悪者にする。


「子どもにその言い方は無くない?頑張ってるのは認めてあげれば?」

「努力の方向が間違ってるだろ。品性や威厳なんて勝手についてくるもんだ。それとも少年。お前は上辺だけ取り繕えればそれで良いのか?」

「……違う!……ます。」

「なら正直にいろ。自分を殺して目指す先は笑えないぞ?」

「……ふふっ。」


 ぶっきらぼうに話すギフトにソフィーは吹き出す。


 ギフトは口は悪いが、言っていることはまともで、優しさも感じられる。


 他人の意見を無視するのではなく、反感を買ってでもその気持ちを深く刻み込ませる。その為なら平気で嫌われる道を選べる。不器用で優しく、年下に対して面倒見の良い一面も持ち合わせている。


「ギフト様は難しい人ですね。」

「ギフト兄は単純だよ?」

「ああ。ギフトは単純だぞ。」

「単純よね。」

「単細胞。」

「難しい事を頭使わないで話す感じですよね。」

「複雑だよ!お前ら俺を何だと思ってやがる!?」


 流石に堪忍袋の緒が切れたのか、ギフトが怒鳴る。どうせ本気で怒って無いことはわかっているが、やり過ぎたと自覚しているのか、蜘蛛の子を散らすように去っていく。


 顔に手を当てて重く息を吐く。別に悪ふざけを咎めるつもりは無いが、一気呵成に攻められては疲れもする。


「だ、大丈夫ですか師匠?」

「……あーもう何でも良いよ。」


 煙草の本数が暫く増えそうだ。別に嫌な訳ではないが、変に敬われるのも下に見られるのもギフトにとって肩が凝る案件だ。


 覚えておけ。それだけを固く心に誓って、ギフトは視線の方向から少し逸れて離れていく。アルバはギフトと行動出来る事に、少し胸を高鳴らせる。



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