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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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21 一日目 夕暮れ

 時間は経ち、日が傾いて来た頃。いい加減暇をもて余したギフトが一人遊びを始める。


 炎の球体を作り、自身の周囲で動かす。どんどん数を増やして速度を増して、時に自分の頭上でぶつけて小さな爆発を起こす。


 寝そべって紙に何やら書いては、たまに視線を周囲に散らし、炎の玉はくるくる回る。


 未だ何の変化も訪れない者達からすると、挑発のようにも映る行動。集中力が真っ先に削がれたリカが声を出す。


「ねえ?全然出来ないんだけど、ヒントとかないの?」

「今目の前でやって見せてるじゃないか。見て盗めよ。」

「無理よ。と言うか私魔法使えないんだから。」

「ミーネも使えないけど出来たさ。」

「……これ以外の特訓無いの?」

「しても良いけど、間違いなく置いてかれるぞ?それでも良いなら適当に教えてやるよ。」


 ギフトも現状飽きては来てるのだろう。数時間経ったが未だ誰も成功してない。


 ミーネとソフィーが早すぎただけで、本来あんな数分で出来るものだと思っていない。それでも何もしない時間が続けば退屈も覚える。


 なのでリカが折れて体を動かせるならギフトとしては良いと思っている。別に遅くなるだけで、成長しない訳でも無いから。


「……そう言われると嫌だけど、でも誰も成果が上がらないのよ?」

「んー。俺は何も言わないよ?言う事は伝えたさ。」

「それだけで出来ない人もいるのよ。」

「……お前、良いこと言ったな。」


 ギフトは寝そべった体制から座り、煙草を取り出す。直ぐに火を点けずに指で転がすと、楽しそうに笑う。


 逆にそこまで考えられて答えに辿り着かないのはどうかと思うが、そこは性格が邪魔しているのか。


「言っただけじゃ出来ない。そりゃそうだ。なのにお前は何で思考停止してるんだよ。」

「……どう言うことよ?」

「俺は何も言わない。言葉だけで理解出来ない。考えることを止めない。それがヒントかな?」

「あー!もう!ハッキリ言ってよ!」


 業を煮やしたリカが苛立ちで喚くがギフトはそれを流して煙草を美味しそうに吸う。


 今何を聞いても答えない。それを理解したリカはギフトを睨んだ後、振り返って元の場所に戻る。


「む……?」

「おっ。」


 リカが戻るとロゼが怪訝な声を上げ、ギフトがそれに気づく。ロゼが持っていた枝の先端が何かで削ったのかのようにおが屑を溢している。


「これは?」

「成功だね。今の感覚を忘れるなよ?」


 ロゼは安堵の息を漏らして小さく拳を握る。気を失っている間にミーネに先を越されたのを表には出さずとも気にしていたのだろう。


 ロゼはギフトの言葉に従い、もう一度魔力を流そうと試みるが、どうも上手くいかない。すでに気持ちも集中も切れてしまっている。


「……キツいな。」

「毎日やればそうでもない。慣れればこの通りさ。」


 言いながらギフトの周囲で動く炎の数が増えている。そこまで行くのにどれだけ時間がかかるか知らないが、目標があるだけ進むことに迷わないですむ。


 ロゼは一つ課題を終えて力無く座る。本来なら休憩せずに次の段階に移りたいが、日も傾いて来たし、ミーネもソフィーも眠気がだいぶ来ているのだろう。


 折角町に来たのに野宿はしたくない。暖かい食事に寝床があるなら最大限利用したい。慣れているが、楽出来るときは楽したいものだ。


「今日は終わりにするか。続きは明日な。」

「うむ……。強烈な眠気があるな……。」

「先に飯食えよ?お前らも町に戻るぞー。」


 ギフトも腹が減っているし、ロゼが一日で出来たならギフトとしては文句はない。


 三人娘とお供はまだ出来ていないが、それは翌日やればいい。そう思っていると、ミリアに変化が起きる。


 木の枝から水滴が落ち、コツを掴んだのかどんどん水量が増えていく。ミリアはそれを喜ばず、深い溜め息を吐いた。


「何で思い付かなかったのかわからない。誰も教えてくれなかった。」

「お前ならわかるけど、おいそれと教えられんだろ?」

「盗まれるは仕方ないにして、不用意に喋ってはいけない技術。私がリカとルイに教えるのはあり?」

「寧ろ頼むわ。俺は説明できないから。」


 感覚としてしか捉えないギフトと違って、ミリアなら理論立てた説明が出来るだろう。口数は少ないが、この中で誰より冷静に物を考えられるとギフトは思っている。


 寝ぼけ眼を擦りながら習った文字を書いているミーネに町に戻ることを告げて、ふらふらしているミーネを背中に背負う。


 それだけで糸が切れたのか、ギフトの背中ですやすや寝息をたて始める。それを見てソフィーは微笑ましそうにギフトを見る。


「本当の兄妹のようですね。」

「本当の兄妹なんだよ。」


 自信満々に答えて、ギフトはソフィーの頭を軽く撫でる。


 ミーネと中が良くなったからか、随分と対応が穏やかになっている。だがそれを見たロゼがギフトに近づきいつもより近い距離でギフトを睨む。


「なんだ?」

「ミーネは良い。だが他の女にうつつを抜かすのは許さん。」

「子どもに目くじら立てるなよ。ミーネの友達だぞ?」


 ギフトはミーネを背負い直して否定する。普段はこんな態度を取らないが、疲れて頭が回っていないのか。


 違う側面を楽しそうに受け止めて、ロゼの頭を撫でると、ロゼは満足気に顔を弛ませる。


「うむ。わかれば良いのだ。」

「お前……。いや良いや。疲れたなら運んでやるぞ?」

「抱えると言え。妾はまだ大丈夫だ。少し歩く。」


 ロゼは自分が強くなる事に浮かれていた。だが、待っていたのは手痛いしっぺ返しで、意識を失っている間にミーネに一度先を越された。


 将来的にミーネは自分より強くなるかも知れない。でも、今はまだミーネに姉と慕って貰いたい気持ちがある。


 少しでも近づく努力をする。そうしなければギフトは遠ざかり、ミーネに追いつかれる。それを痛感したからには少しでもギフトから多く盗まなければならない。


「お前から盗むのは妾だ。他の者には譲らぬぞ。」

「ふははっ。なら俺も油断出来ないね。」


 ギフトはロゼが自分を越える将来がいつか来ると信じている。いや、来てくれなければ面白くない。


 諦めの悪いロゼなら必ず辿り着く。だがそこで満足してほしくもない。際限無くロゼの成長を見るためには自分も高みに昇らなければならない。


 二人は先頭を歩き、ソフィーがそれに続いて男の子も重い足取りで付いていく。


「……ミリア。後で教えてね。」

「私もお願いします。置いてかれるのは寂しいです。」

「わかった。でも私もやりたいことがある。」

「良いわよそれで。追い付いて見せるから。」


 ロゼとミリアに置いて行かれることを嫌がり、やる気を見せるリカとルイ。魔法に興味を持ってくれた事に嬉しさはあるが、ミリアもミリアで次に進みたい。


 もたらされる知識はどれも新しく、有益な物ばかり。これが一週間の期限つきで無いなら今すぐにでも紙に筆を走らせ思考を纏めにかかるだろう。


 それが出来ないもどかしさと、新しく広がる世界に高揚する。歩き始めた二人の背中を見つめ、ミリアは疲れる頭で先程の感覚を何度も反芻しながら、遠いギフトの背中を追いかける。






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