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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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19 ミーネに訓練・急

「俺は許して貰えたかな?」

「いいえ。許しません。」


 煙草を吸い終わり、頃合いを見計らったギフトの言葉はソフィーにすげなく拒否される。


 ミーネと楽しそうに話しているからいけると思ったのだろうが、それとギフトが許されるかは別の話のようだ。


「ギフト兄は馬鹿だからねー。」

「あれ?ミーネ?」

「本当にミーネには怒らないんですね。」

「うるさいな。」


 罰が悪そうに言うが、ギフトにはもう先程の真剣さは無い。過ぎた事をネチネチ言う気は無いのだろう。


「ミーネは続きな。中断させて悪かった。」

「はーい。」

「聖女ちゃんは……んー。どうしようか?」

「私には何も教えてくれないのですか?」

「お前が学ぶべきは……。そうだな。お前はミーネを手伝え。」


 ソフィーを指差してギフトは良い案を思い付いたと晴れやかな顔になる。


 正直ギフトは聖女に特別何か教えることは出来ないと思っている。それなら仲良くなったミーネと一緒にいる方が気も楽だろう。


「お前はミーネに魔力操作を教えろ。」

「え?ですが、私もそこまで上手くは……。」

「だから良いんだよ。先に出来た方には属性に合った取って置きの魔法を教えてやる。」

「えー!僕が不利だよ!」

「そうでもないぞ?俺はミーネの方が早いと思ってるし。」


 顎に手を置いてギフトはミーネミーネが有利と宣う。ソフィーはそれに少しムッとして、ミーネは不思議そうにギフトを見る。


「でもソフィーは魔法が使えるよ?」

「魔法が使えないから良いって事もある。変な先入観が無いからな。」

「?魔法を使うと魔力操作が出来てるんじゃないの?」

「んー。ちょっと感覚的な話なんだがな。出来るようになればわかるから、頑張れよ。」


 ギフトにとって魔法を使う感覚と魔力を使う感覚は全く違う。


 魔法は魔力を集める感覚。魔力操作は強化したい場所に留まらせる感覚。似てるようで違うような感覚はギフトの言葉では表すことが出来ない。


 何よりギフトはそこに至った理由を知らない。生きてる内に自然身に付いたものを理論立てて説明は出来なかった。


「一応ヒントはやる。魔力は万物に宿る。お前らも例外なくな。」

「……全然わかんない。」

「私は何となくは……。」

「やっぱり僕が不利だよー!」

「二人で頑張れよ。俺は……。」


 ギフトは周囲に視線を散らせてニヤリと笑う。その後で面倒そうな顔になり、倒れているロゼ達の所に歩き出す。


「あいつらにも同じ説明をしなきゃならないんだ。」 

「考えなしだ。」

「反論できませんなー。」


 ヘラヘラ笑ってロゼ達が立つのを座って待つ。取り残された二人は頷いてそれぞれで集中する。


 ミーネは何もわからないので木の枝の先端を見つめてとにかく力を入れる。一方でソフィーは詠唱を初めてその感覚を体に覚えさせる。


 魔法を使えば出来た。ならその時に自分の知らない部分で何かが作用しているのだろうと、木の枝に魔方を行使する。


「一応言っとくけど、魔法を使うの禁止な。それで出来ても意味無いから。」

「わかってます!」


 集中が乱れたのかソフィーの声が荒くなる。そして魔力は霧散し、体から力が抜ける。


 ギフトの言っていることは詠唱することなく木の枝に影響を与えろ、と言うことだろう。それは聖女もわかっている。


 ただ今やってみてわかったことは、自分の中に主だった変化が無いと言うことだった。


「……魔法とは違う?魔力だけを使う?」

「むー……。燃えろ燃えろ燃えろ……。」


 ミーネは無意識にギフトと同様の変化を期待する。別に何であろうと良いのだろうが、目指す場所がわかっている方が気合いが入るのだろう。


 ソフィーはそれを見て考えるのを止める。穿った見方かも知れないが、もしミーネが見当違いの事をしているのならギフトが止めるだろう。


 そうなってないからミーネは間違ってない。少し卑怯な考えとも思うが、ギフトならソフィーが考えることは見通してる気がする。


 ならこれは許される。自分のやり方に拘らず、学べる事は貪欲に吸収するべきだろう。もしかしたらそれも見越して二人でやれと言ったのかもしれない。


 ミーネはじっと木の枝の先端を見つめ、やがて言葉を呟かなくなる。魔法を使うのが禁止なら、必要なのは言葉ではないと思ったのだろう。目を閉じてただ念じているようだ。


 聖女もそれに習い目を閉じる。風の音が自分を抜けていく音、衣擦れの音がやけに大きく聞こえる。


 ソフィーとミーネが静かになり、ギフトが視線を送っても二人はただ木の枝を握り締めてめをとじている。何かに祈りを捧げるように。


「まじでか……。」


 ギフトは小さく呟く。これに必要なのは集中力と想像力。ギフトはそう考えている。


 魔法はそもそも決まった詠唱も無いし、決まった形がある訳でもない。自分の想像力と魔力量で新しい魔法は幾らでも生み出せる。


 これはその基礎を養う方法。人によってはすぐに飽きて止めるか、他人の方法に頼って成長を自ら止める者が出てくる。


 だが二人は各々を見て、自分が最適解と信じた方法を選びとった。それが正解かどうかもわからずに。ただ自分を信じて。


 それからどれだけ時間が経ったのだろう。ロゼ達が目覚めるより前に、ギフトは小さな変化に気づく。


 そしてそれは持ち主も気づく。小さな小さな、自分でなければ気づかないような音。何かが割れる音が確かに聞こえた。


 ミーネはゆっくりと目を開ける。それだけではわからず木の枝の先端を目を皿にしてその変化を見つける。


「あー!!」


 小さく、本当に小さくだが、木の枝が割れている。小さな変化だがミーネは大はしゃぎでギフトに走りよる。


「やったやったやったー!見て見てギフト兄!」

「ああ。良くやったなーミーネ。」

「これで僕が魔法を教えて貰えるよね!?」

「さー?それはどうだろうな?」


 ギフトはニヤニヤ笑いながら言葉を濁す。一瞬ミーネが疑問符を浮かべるが、すぐに気づいてソフィーの元に駆け寄り、ギフトもそれに続く。


 ミーネはソフィーの持っている木の枝を見て、それだけではわからず目を細める。


「ソフィー?」

「今集中してます。」

「でもこれ……。」


 ソフィーにも大声は聞こえていた。それに焦って集中力など既に乱れていて、切り替えるためにも目を開けて息を吐く。


「流石に驚いた。お前らの力を見謝っていたかな?」

「何の話です?」

「これって何?」


 ミーネの疑問にギフトは答えず、ソフィーは自分の持っている木の枝を見る。するとそこには小さく緑色が芽を出そうとしていた。


「あ!ギ、ギフト様!?」

「お互い成功だな。まぁまだそれだけじゃ役には立たんが、最初の一歩だな。」

「や、やりましたよミーネ!」

「うん!すごいやソフィー!」


 二人は手を取り合って喜ぶ。正直ギフトの予想を上回る速度で来たが、問題があるわけではない。


 喜ぶ二人を見ながら笑っていると、不意に喜ぶのを止めて顔を見合わせる。不思議に思ったギフトが口を開くより前に、二人はギフトに詰め寄る。


「どっちが早かったの?」

「……どっちが早いと思う。」


 ギフトがそう聞くと二人は考えることもせずに互いを指差す。それが面白くて声を上げてギフトは笑う。


「発破かけただけだし、どっちにも教えてやるよ。」

「本当ですか?」

「良いよ。俺の予想より早かったし、特別にな。」


 本当はどのみち適当な理由をつけて教えるつもりだったが、お互いにどっちが早いかわからないならそれで良いだろうと判断する。


 二人はまた喜び女の子二人の笑い声が響く。ギフトはそこに自分は立ち入らないよう肩を竦めてそっと離れる。


 自分の予想を軽々越えた二人に、ギフトは楽しさを覚える。それがあるなら指導者にも向いてるかも知れないが、そんな事は微塵も思わずに。


 二人の未来が少し見えた気がして、ギフトは一人嬉しそうに笑っていた。

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