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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 二部~特訓開始~
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17 ミーネに訓練・序

「僕も武器を使った方が良い?」


 ミーネは倒れたロゼ達を見ながら質問する。ミーネが見てきた中で武器を使用しているのはロゼだけだ。


 自分の兄もギフトも基本武器は使わない。望むならその形を取りたいのだろうがギフトは難色を示す。


「使った方が良いぞ?楽だし。」

「お兄ちゃんもギフト兄も使ってないよ?」

「俺は魔法があるし、あいつの身体能力は俺より高いし体格もある。武器を使わない方が戦いやすいってだけだよ。」

「お兄ちゃんの方が強いの?」

「殴り合いならな。俺が勝ったのもあいつがボロボロだったからだし。」


 魔法を織り混ぜた本気の殺し合いならギフトに軍配が上がるだろうが、単純な近距離戦では厳しいとギフトは思っている。


 客観的な事実を告げるとミーネは嬉しそうに顔を綻ばせ、一回首を立てに振る。


「やっぱり僕は使いたくないな。駄目かな?」

「……駄目って事は無いけど、将来的には、に妥協してくれ。」

「何で?」

「今のミーネじゃ線が細すぎるし、いきなり殴り合いは怖いだろ?方法は無くは無いけど、危なっかしいし。」 

「ギフト兄もムキムキじゃ無いよ?」

「これでも鍛えてるよ。それに俺は魔法を使えるから。」


 今のミーネがリバルやギフトと同じ戦い方は出来ない。体格差を埋める術はあれど、それにはどうしても時間がかかる。


 ならば先に慣れた方が良い。いざ実戦となって体が動かなくなるよりも、常に平常心を保つ心を身に付ける事が先決だ。


「まあ、最終的には武器を使わなくても良いようになる。それまでの辛抱だよ。」

「でもそれで良いやってならないかな?武器に頼る、みたいな。」


 真剣な眼差しでミーネは舞踏家の様な言葉を口にする。ミーネもそれが悪いと思っているのではなく、抵抗があるだけだろう。


 それが獣人族の矜持なのかミーネの意志なのかは推し量れない。ギフトはそれを聞いて嬉しそうに微笑むとミーネの頭を撫でる。


「それはお前次第だ。心配しなくてもお前だけで戦えるようにしてやる。」

「本当に?」

「応とも。ただ厳しいからな?弱音は吐いても良いけど、頑張れるな?」

「うん!大丈夫!」


 両拳を胸の前で握り、決意を固める。ギフトは手ごろな棒切れを拾って、ミーネを座らせてこれからやる事を地面に書いていく。


「お前の場合やることが多い。勉強もしなきゃならないしな。人の世の常識を学び、文字を学んで、後歴史も学ぶ。その上で戦闘訓練になる。俺としては勉強に注力してほしいんだが……。」

「全部やりたい!」

「んー……。まぁミーネは一週間の期限も無いし、時間を使うか。」


 ロゼや他の者は一応大会が始まるまでと言ってある。ロゼだけギフトと旅をしているのでその限りでは無いが、条件付きではある。


 その条件も優勝とは言ったが、ギフトは別にそこはどうでもいい。一週間も様子を見れば大体わかる。後はそこから決めていけば良いと思っている。


 ミーネだけ条件は特に言っていない。一応やる気が無くなればそこで終わるつもりだが、基本ミーネが主体でギフトから切り上げるつもりは無い。


「最初は何がやりたい?」

「んー……。戦い方かなー……。ギフト兄達の役に立ちたいし。」

「俺達はそんな戦闘凶じゃ無いぞ?んじゃ始めるか。」


 ギフトは棒切れを持ったまま立ち上がり、腰を伸ばして数歩下がる。


 ミーネも立ってギフトが何を教えてくれるのかわくわくしているのか顔が嬉しそうだ。


「まずミーネに覚えてもらうのはこれだ。」


 ギフトは棒切れを前に出して棒切れを左右に振る。ギフトが何をしたいのかわからずミーネは首を傾げるが、すぐに目を開いて驚きを顕わにする。


 棒切れが先端の方から焦げていく。炎が燃えているわけでは無く、内側から燃えているように煙を上げてくすぶり始める。


「魔法?」

「厳密に言うとこれは魔力。聖女ちゃんこっちに来て。」

「私ですか?」


 ギフトは暇そうに成り行きを見ていた聖女を呼びつけて、棒切れを拾って聖女に渡す。ギフトは先端の焦げた棒切れを振るいながら視線を集める。


「さっきも言ったが魔法とは魔力に言葉で指向性を持たせて発動させている。ならその根源たる魔力ってのは何だ?」

「……それは、……考えた事も無いです。」

「ぶっちゃけ考えても意味はない。これが何なのかはまだ明かされてない筈だしな。」


 ギフト自身魔力が何かと聞かれても答えられない。世界中でその謎を解明しようとしている者がいるらしいが、それにあった事も無ければ、考えなければわからない答えは探さない。


 魔力は大気中、全ての生命に宿り、それが無くなれば命が尽きる。魔力が尽きた空の器に大気中の魔力が入り込み変質した姿が魔物と言われているが、それも定かではない。


「ただそれはきちんとそこにある。そして魔法は魔力量の過多で威力が決まる。なら魔力だけを使えばどうなると思う?」


 ギフトは意地悪気に笑みを浮かべて質問する。ミーネも聖女も真剣に考えて、やがてミーネの視線にそれが止まる。いや正確には動いているので左右に目が動くのだが。


「燃えるの?」

「着眼点は良い。聖女ちゃん。それに魔力を流してみて。」

「……どうすれば良いのですか?」

「魔法と一緒。とりあえずそれを持ちながら魔法を使う時と同じようにすればいい。」


 そう言われ聖女は目を閉じ詠唱を始める。魔力の渦が流れそれは自身の持つ棒切れにも影響を及ぼしていく。


 それを見ながらギフトは素直に称賛する。その魔力量が並では無く、そこらの冒険者や傭兵では勝てないと思えるほどの力強さだったからだ。


 当然それがそのまま勝敗に直結する事は無いのだが、確かに聖女と呼ばれるだけの事はある。と他人事に思う。欲を言うなら魔法の発動までが遅いという事だろうか。


 聖女は目を閉じているか変化がわからず、ミーネはその変化を驚き声を上げる。それに集中が乱れたのか聖女は魔力の奔流を止めて目を開ける。


「あ、す、すいません。」

「別に良いよ。魔法を見たいわけじゃないし。どうだミーネ?」

「すごい!なんで!?」


 ミーネは感情のまま聖女に近づいて棒切れを凝視する。釣られて聖女も自分の持っている棒切れに目を落とすと、そこには変化が訪れていた。


「あれ……?これは、芽が……?」

「回復に使える魔力の性質って事だな。属性が無いから無魔法って言われる事もある。」

「無魔法?回復魔法では無くてですか?」

「間違いでは無いよ。無魔法は魔力の属性が無い。だからか知らんが他人に譲渡する事も出来る。他人の傷が癒せるのは無魔法だけだ。」


 ギフトは怪我を塞ぐ事は出来ても癒す事は出来ない。出血箇所を焼いて無理やり塞いでるだけの荒療治だ。


 他の魔法も使い方では怪我を和らげたりする事は出来る。だが癒す事が出来るのはこの属性だけ。聖女に相応しい魔法属性と言って良いだろう。


「これで自分の魔法の属性がわかる。ついでに言うなら物に魔力を流す事も覚えられるしな。」

「それができると何かあるの?」

「俺に勇者の剣は通らなかったろ?あれは服に俺の魔力を通して強化したのさ。」


 魔力を物質に流し込めば、それだけ物の結束が強化される。剣の切れ味が上がったりするわけでは無いが、防御においてはとても優秀な技となる。


 体に流せば体も強固になる。それで殴れば岩なら壊せるし、魔力次第では鉄を凹ます事も出来るだろう。


「リバルや俺は自分の体に魔力を操作できる。俺の場合は意図的に、リバルは知らんが。要はそれが出来れば殴り合いだろうが、相手が剣を持っていようが有利になる。」

「……でも、ギフト兄は倒せないよね?」

「物騒だがその通り。俺の場合はそれに加えて魔力量があるし、魔力を意識的に集めたり、増やしたりできるからな。」

「増やしたり、ですか?」

「増やすってのは言葉の綾だけどな。強い奴と戦う時は実力は隠す。相手に自分の情報は与えない。」

「隠した魔力を解放する。って事?」

「だが逆に自分の力をある程度出しておいて相手に誤解させる事もする。その辺は駆け引きだな。俺は面倒だから普段は何もしてないが。」


 二人の質問にギフトは答えていく。疑いを擡げていた聖女も気になる話題だったのか、どんどん興味が惹かれていく。


 師と仰ぐには性格に不安がある。そう思っていた筈だが、ギフトは聖女より豊富な知識と経験を持っている。やり方に目を瞑ればギフトは教える者として妥当なのだろう。


「ミーネには魔力の引き出し方を覚えて貰う。それが出来たら次に行くぞ。」

「はい!」

「元気が良いなー。一緒に頑張ろうな。」


 ミーネにだけ特別甘いギフトを見ると、聖女はギフトの本意が見えなくなる。


 冷酷で面倒見が良い。ちぐはぐな印象しか持たれないだろうギフトだが、聖女はそれに不信感を持っても不快感が無い。その奇妙な感情は文字にならず、ただ胸にモヤモヤだけが残される。


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