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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 一部~前準備~
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15 決闘を申し込む

 全てを諦める。それによってギフトの精神は無の境地に達し、起こる出来事の全てを穏やかな気持ちで迎え入れる事が出来る。


「おい赤いの。答えろ。」

「痛いです。すいません。」


 たが、その境地は耳を引っ張られることで霧散してしまった。


 ギフトも少し位は申し訳ないと言う気持ちはある。自分が遅れなければロゼ達は絡まれなかっただろう。


 遅れたのが理由あっての事。と言っても、ギフト自身ここにすんなり来たかと聞かれたら答えられない。何か騒がしいから来てみたらロゼ達だっただけで、今ここにいるのは偶然でしかない。


 ロゼは耳から手を離し、腕を組んでギフトを睨む。相当鬱憤が溜まっているのか今すぐにでも爆発してしまいそうだ。


「でも考えてみ?悪いのは基本あの子だよ?」

「だがお前が遅れた責任もあるだろう?それにそこにいるのは……。」


 ロゼは視線をずらして聖女とお供を見る。その目はロゼにしては少し厳しく、いい感情を抱いていないものだった。


「あまり言いたいことではないが……。」

「なら言わなくていいんじゃない?こいつらは、まぁ無関係ではないが、あいつの暴走には関わってないさ。」

「それはそうだが……。」


 ロゼだって勇者の責任を彼女達に償ってもらおうなど思っていない。だがその仲間となればあまり好きになれないのも事実。


 それが的外れであることは自覚しているが、それでもあれを持て囃していると考えれば言いたいことも浮かんでくる。


「……あなたの言いたい事はわかります。この度の騒動はこちらの責任です。申し訳ありません。」


 聖女はロゼの沈黙を持って何を言いたいか悟り、謝罪を先に告げる。


 頭をきっちり下げられてロゼからの許しを待つ聖女にロゼは唸り声を上げ、ギフトはそれを見て笑ってしまう。


「許してやれば?こいつだってまだ子どもだし。あの子を育てた訳じゃないんだし。」

「……何があったか話せ。正直に言うが妾はこやつらを好いてはいない。」


 はっきりと告げられそれが本音とわかってしまう。だがその反応も当然の事と聖女は肩身を狭くする。


 今までの聖女側の反応はどれもこれも彼らを刺激するものばかり。何もしていないのに文句をつけているだけで完全に悪者にしか見えない。それは聖女ですら思ってしまうことだ。


 救いを求める様に聖女はギフトを見るが、彼も内心何を考えているかわからない。一応話は聞いてくれたがそれが我慢しているのか素なのかまでは聖女には判断できず、ただ黙っていることしかできない。


「そうだなー。あいつらとこいつらは別と考えても良い。」

「あいつらとは白いのと勇者か?仲間ではないのか?」

「組織なだけじゃないの?こいつらの腹の内なんてしらねーよ。」


 適当なギフトの返答にロゼの目が厳しくなる。それを受け流すように煙草を咥えてヘラヘラ笑う。


「俺は何も知らないからね。ただ少なくとも聖女と聖教連の見てる先は違うっぽいよ?」

「だからと言って違うとは言い切れまい?嘘をつかれれば妾達にはわからぬ。」

「わからないなら様子見でしょ。それに嘘つかれた方が良いじゃん。」


 ロゼの質問にギフトは何一つ真面目に返さない。それもその筈、ギフトだって何もわかってはいないんだから。


 聖教連の事情も柵も何も関係ない。嘘だとわかれば簡単に切り捨てる理由ができたと喜びすらする。彼らに対して特別な感情は持っていない。


「どうなの聖女ちゃん?お前は俺を騙しているのかな?」

「騙してません!私達もあの人の行動には……。」

「つー訳。頼むよロゼ。話を聞いてやっておくれ。」


 ギフトは自分からの説明を放棄する。ロゼはそれを持ってギフトの言いたい事を理解する。


 今の現状をギフトも整理できていないのだろう。もし自分の中で答えが出ていれば伝えてくれるはず。聖女が本当の事を言っているのかわからず、かと言って直接何かしたわけでもない彼女達に強く言えない。


 ロゼの怒りを取り払う術は無く、誤解かどうかもロゼの判断に任せるしかない。ギフトの言葉で納得できても意味は無いと思っているのだろう。


 為人は自分で測るしかない。噂話や人伝の話は当てにならないとギフトもロゼも知っている。一括りに嫌いと思ってしまうことは違うということも。


「……わかった。妾の早計だった。許してくれ。」

「い、いえ!私達が変に言いがかりを付けなければこんなことにはなりませんでしたし……。」


 ロゼに頭を下げられて、聖女も慌てて謝罪する。それを見てギフトは安堵の息を漏らす。


「お前が遅れた所為で不快になった事は話が違うぞ?」

「それも俺の責任じゃないもんねー。」

「す、すいません!それも私の所為なんです……。」


 ギフトは自分が話題から離れていくことを感じ取り、いよいよ頭を空っぽにする。ロゼに小突かれてしまうが、それでもヘラヘラ笑って煙草を消す。


 ロゼはもう諦めたのか、聖女に向き直りじっと見る。鋭い目で見られて聖女は気後れするが、ここで退いてしまっては弁明の機会は訪れないだろう。


「その、ですね……。私が彼にお話がありまして……。それでお時間を頂いたのです……。」

「その話とは?」

「何を……!仲良くしてるんだ……!?」


 やっと聖女とロゼが向き合って話し合おうとなった時、勇者が鼻血を手で抑えながら近づいてくる。もっと強く蹴っても問題なかったかとギフトは後悔する。


「そいつらは……!僕を蹴った!何故仲良くしている!?聖女が神に逆らうのか!?」

「そのような事はありません。あなたの言動が意に反していれば、それを止めるのも私の役目です。」

「僕が選ばれたんだ!僕が神の代理だ!君はそれの支援だろうが!」

「うるさ……。」


 小声で呟いたギフトの声はしっかりと勇者の耳に届いたのだろう。幽鬼の様にふらりとギフトに向けて一歩踏み出し、剣を抜く。


「黙れよ。僕に、後悔しろ。」

「支離滅裂になってるぞ?大丈夫か?」

「お前が!クソがっ!」


 勇者は体裁も無くギフトに斬りかかる。その姿のどこが勇者なのかギフトは甚だ疑問に思う。


 どういう基準で勇者を選んでいるのか知らないが、これでは道化もいいところ。まるで神に離反する者を生み出す為に選ばれた存在と言っても過言ではない気がしてくる。


「……そうか。そういう可能性もあるのか。」


 ギフトは剣を躱そうともせず、思案する。口元に手を置いて無防備な姿を晒しているのが勇者の怒りを助長する。


 そのまま勇者の剣はギフトの体に当たり、そこで止まる。その攻撃は肌どころか服すら傷つける事もできず、驚愕の表情で勇者はギフトを見る。


「まぁ俺にはどうでも良いか。」


 勇者に笑みを浮かべて指を一つ立てる。勇者がその指に視線を移すとそれは光を放ち、勇者から視界を奪う。


「うっ!?くぁ……!目が……!?」

「さてどうしようかな……?」


 一連の騒ぎで周りに人が集まっている。今更どう取り繕おうが意味は無いだろうが、このままでは黙りこくって俯いているミーネが可愛そうだ。


 どうにかしてこの場を穏便に収めたい。そしてどうせならこれから先ちょっかいを出されないようにしたい。その上でミーネが動きやすいよう場を整えたい。


 ギフトは前蹴りで勇者の腹を蹴って距離を離す。まだ目が回復していない勇者だが、それも時間の問題。その間に考え無ければならないが、ギフトに策は浮かんでこない。


「油断さえしていなければお前の攻撃なんて効くかよ!」

「また気絶させるか?それとも一度負けるか?うーん……?」


 言葉に出して自分の考えを纏めようとするが、ここで完膚なきまでに叩き潰した方が早いとしか考えられない。


 どこかで叩き潰したいが、ここではダメ。今のままでは誰が悪者かとなればこちらになる。それではミーネの枷にしかならない。


 ボコボコにしても文句を言われない場所。むしろそれが望まれる場所で正々堂々戦い勝ち、勝てば無条件で良しとされる。それが出来る条件が整わなければ、戦っても不利益にしかならない。


「それ以上は許しません!止まりなさい!」

「お前が止めるのはそいつだろうが!僕の言うことを聞け!」

「あっ……。おい勇者!」


 ギフトはあえて大声で勇者と叫ぶ。妙案が浮かんだのかいい顔をしている。


 思い当たる場所があった。人をぶん殴っても文句を言われない。強ければそれが褒められて、不意打ちだと騒がれる事もない場所が。


「俺を殴りたいか?」

「当たり前だ!」

「ならば一週間後!俺は闘技大会にてお前に決闘を申し込む!まさか勇者とあろう者が逃げたりはしないだろうな!」


 ギフトの大声に周囲の人間の目が変わる。自他共に勇者と認められる者がいる。そしてそれが大会に出ると聞けば興味も湧くだろう。


 先ほどの事で落胆したと思っていたが、周りはそれを忘れたかのようにざわつき始める。勇者の戦いが見られるとなれば高揚もするのだろうか、ギフトはその反応を見て笑みを深くする。


「お前が真に勇者と言うのなら!大会で全てを示してみろ!俺はお前と戦うまで勝ち進む!全ての決着はそこでつけよう!」


 不意打ちだったかもしれない。それでも勇者を蹴りつけた者と勇者との真剣勝負が見られる。その事に期待が膨れ上がり、声を上げて盛り上がる。


 勇者からすれば気分は最悪だろう。別にどこであろうとギフトを倒せれば良いと思っていたのに、このまま戦えば勇者が決闘から逃げたと思われる。それではこれから先に不都合が生じてしまう。


 決闘。その申し出を受けて断る事はできない。断ってしまえば逃げたと噂される。勇者としても戦士としても、決闘から逃げたとあっては生きていけない。


 注目を集めているのも最悪だ。これで一週間以内に彼らに何かあれば真っ先に勇者が疑われる。一週間はこちらから不意打ちもすることはできない。


「どうした勇者!?俺の決闘を受けないつもりか!」

「……受けてやるさ!一週間後を震えて待て!逃げるなよ!」


 そう言うしかない。期待を背負うものとしての矜持が合ったことは驚きだが、ギフトは思い通りに進んだことにほくそ笑む。


 これでギフト達は一週間の自由を得られた。その間はちょっかいも出されないだろう。それさえ確約されればギフトに文句は何もない。


 勇者は踵を返して怒りを現わに離れていく。付いて行くものは誰もいない。町民は盛り上がり騒いでいるが、関わりのある者は沈黙している。


「という訳で、俺も大会に出るぞ。」

「本当に出るの?」


 冒険者三人はいつの間にかギフトに近づき口を開く。ギフトはそれに唇を尖らせる。


「助けてくれても良いじゃん?」

「嫌よ。私達もあれ嫌いなのよ。もし手を出してたらわかんないけど、そうなる前にあんたが来たし。」

「俺は手を出されたよ?」

「それはいいでしょ。大会に出るの?」


 ギフトに手を出した所で何も気に止めない。と言うよりギフトが勝てないなら自分達には何も出来ない。


 そんなことより重要な事を聞き出そうとリカはギフトに迫る。もしそうなればリカ達には迷惑この上ない。


「私達も大会に出るつもりなのよね。」

「妾は優勝したいのだが。」

「それがどうしたのさ?」

「「勝てない。」」

「そこは俺にも勝てるよう頑張りなよ。つーか俺はあいつを始末したら棄権するし。」


 物騒な単語を言葉にするが、殺すつもりはない。逆にいえば殺さないだけで、それ以外は保証しないのだが。


 そこでミリアがギフトの前に立つ。ミリアはじっとギフトを見つめて何も話さない。疑問を覚えたギフトが首を傾げつろ、ミリアは口を開く。


「私達は大会に出る。でも勇者が出てくるのは想定外。性格はあれだけどあの人はそれなりに強い。」

「ほうほう。それで?」

「あの人が大会に出るのはギフト君の責任。ならあなたは私達の勝率を上げる義務がある。」

「……ん?」

「昔魔法を教えると言った。」

「……あちゃー。」


 ギフトは確かにそう言った事がある。忘れてくれていると思っていたが、ミリアは覚えていたようだ。


「約束はしていない。でも私達の事も考えて欲しい。」

「……んー。」


 ギフトはロゼを横目で見る。ギフトはもうロゼに教えると決めたし覚悟も決めた。だがそれとロゼが納得するかは別問題。


 ロゼは今まで一緒にいてやっと教えてもらえる。なのに昔一度あっただけの人に教えるとなって気分が良いかと聞かれればそれは違うだろう。


 だがロゼは頷き許可を出す。ロゼからすれば教えてくれるなら文句はない。


「ただし、妾とミーネが最優先だ。」

「それは約束する。お前らは俺で良いの?」

「あれから結局ギフト君以上に強い人に出会わなかった。お願い。」

「一応俺はロゼを優勝させる為に動くからな?」

「構わない。一緒にいることで得られる物もある。」

「お、俺もお願いします!」

「良いぞ。来るがいい。」

「ロゼちゃん!?」


 お供がついでとばかりに声を上げると、ギフトではなくロゼが許可を出す。勢いよくロゼに振り向くが、ロゼは悪くないとばかりに得意げな顔をしていた。


「ここまで増えれば別に良いだろう?時間が惜しい。」

「そうだけどさー……。」

「あやつを倒すのはお前でなくても良いのだろう?」


 ロゼは決意を込めてそう呟く。勇者が大会に出るのはロゼにとっても良い機会だった。


 ムカつかないわけがない。ミーネを馬鹿にされたままで、ロゼは何も出来ていないのだ。あそこまで馬鹿にした報いは出来るならば自分の手でしたいのだろう。


「……なるほどね。そりゃ俺としてはそっちの方が楽でいい。」

「であろう?ならば早く動いたほうが良い。一週間で出来る事など限られている。無駄には出来ない。」

「んー……。わかった。」


 後頭部を掻いてギフトは仕方なく約束する。どの道優先順位はロゼとミーネだ。


「やった!聖女様!」

「ええ。ですが、それには私も付いて行きます。」

「へ?」

「その話はお前らで解決しろよ?聖女ちゃん回復魔法は?」

「使えます。」

「なら都合が良い。……一気に大所帯だなー……。」


 この人数を纏め切れる自信は無いが、別にそれはギフトの役目ではないだろう。


 結局現状では男の子の強くなる理由も聖女とロゼの蟠りも解決できていないが、それは時間が解決するだろう。ギフトは気楽に考えて、街の外へと歩き始める。





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