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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 一部~前準備~
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13 聖女とお供の事情。

「お待ちください!そこは王の私室です!用件は私目が預かります!」

「直接言うべきことがあります。通してください。」


 ギフトが立ち去ることなく部屋に居座っていると、外から言い争う声が聞こえてくる。


 このまま部屋にいると巻き込まれる。それを確信したからかソファから立ち上がり、腰を伸ばす。


「酷い奴だ。」

「俺が口出した方が面倒だろ?」


 明らかにディーゴを放置して逃げようとするギフトだが、言う通り居たところで役には立たない。


 聞かれたくない話だってある。ギフトが言い触らす可能性はゼロと思っていても、相手側がどう思うかまでは預かり知らない事だ。


 ギフト自身話に参加する気は無いし、ギフトがいては円滑に会話も進まないだろう。そう思ってギフトは退室するためドアノブに手をかける。


「次に会うのは祭りかな?頑張れよ王様。」

「お前もな。楽しみにしてるぞ。」


 そしてドアを開けると聖女が真剣な顔でギフトを見上げる。言い合いしていた執事は部屋へ入り、聖女とお供を無視して通り抜けようとすると、腕を捕まれ立ち止まる。


 自分に用はないと思っていたギフトはその行動に戸惑い、怪訝な顔でその主を見る。


「何か?」

「あなたにもお話があります。」

「俺には無いよ。それで話は終わりだねー。」

「……自分のしたことを理解していないのですか?」


 厳しい口調でギフトを責めているのだろうが、心当たりもなければ怖くもない。無視して立ち去ろうとするも、腕を放してくれなかった。


「何さ?ディーゴに話なら俺は関係ない。」

「……あなたが傷つけた人が誰かお分かりで?」

「勇者なんだって?それが何?」

「問題しかありません!勇者はこの世界の希望なんです!それが負けたとなればどうなるか・・・!」

「知らないよ。弱いから負けるんだろ?」


 何を言おうとギフトは取り合うつもりは無さそうだ。


 ギフトからすれば、勇者と呼ばれる人間があの程度で負けた事に問題があると思っている。世界の希望なんて者が、あの程度で伸されていては話にもならないだろうと。


 だがそれも仕方ない。勇者とは冒険者の称号の一つで、それは神に選ばれれば誰でもそう呼ばれるのだから。


 実績が無くても、優れた力や頭脳が無くとも、ただ神に選ばれた。その理由だけで勇者は勇者となり、相応の地位を約束されるという話だ。


 そしてギフトはそれを褒める事も貶す事もしない。別にどうでもいいから。邪魔ならどけもするが、目の届かないところで何をしようとも無関係でいられるなら文句は言わない。


「持て囃す前に身に付けることがある。強い奴には逆らうなってな。あの子の暴走は俺の責任じゃないし、あの子が死のうと俺は構わない。」

「あなたもこの世界で生きているのです!神の意向に逆らえば!」

「悪いが神様には縁が無くてな。それにあれは神の代理じゃなくてお前らの人形だろ?」


 ギフトの言葉に聖女の口が止まる。ギフトは聖教連を敵視しているわけでは無く、ミーネを蔑んだ事で嫌っているだけ。だが、その存在は知っていた。


「お前らのやるべき事は人気取りだろ?そういう意味では適任だろうが、責任を他人に擦り付けるな。お前らの遊びに巻き込んでやるなよな。」

「……遊び、なんて。」

「お前がどうかは知らんよ。ただな、お前とそこの以外はどう見ても目的が違うぞ?」

「わかっています!でも……。」


 それきり二人は沈黙し、俯いてしまう。そして思う。彼女達は目的が違う事に気づいているのだと。そして今それを変えようと足掻いているのだと。


 だが如何せん彼女達にその力はない。聖女の言葉だから従っているだけなら、その歯止めはいつ失われるかわからない。理解はしていても潜在意識は変えられない。


「んー……。お前らはどうしたいのさ?」


 聞いてから、しまったと思ってしまう。


 ギフトは聖教連や勇者と関わるつもりは無い。だが話を聞いてしまえば巻き込まれることは必至だった。


「あー。甘くなったな。ロゼの所為だな。」


 ギフトはそう結論付けて肩を落とす。ロゼがこの場にいたならば、それは元々のお前の性格だと言い返すだろうが、ギフトの言葉を否定する者はここにいない。


 さっきのは無し。と言ってしまう事も考えたが、思わず口から出てしまった言葉だ。ならばそれが自分の本音だろうと自分と向き合うのも良いだろう。


 聖女はその言葉に少し不意を突かれたように顔を上げて、だがそのまままた下を向いてしまう。言いたいことはわかっているが、ギフトはそれを良しとはしない。


「何も言わないなら話は終わりだ。頑張れよ。」


 自ら変わろうとしない者にいつまでも付き合うつもりは無い。現状を嘆くだけなら誰にでも出来る。不満を解消できるのは行動できるものだけだ。


 聖女は言葉を選ぼうとして、口を開けよとして、閉じる。それを幾度か繰り返すと、情けない声で答えを絞り出す。


「……わかりません。私は、わからないんです。」

「なるほどね。それは最高だな。」


 自分が出した答えは誰も納得しない。そう思っての小さな声だが、ギフトはそれを笑って受け入れる


 聖女の言葉は偽らない本音なのだろう。この年で組織を変える手段など浮かぶはずも無い。それを言えるという事は少なくとも聖女にとって今隣にいる男の子は信頼できる相手という事だ。


 一人なら無理だろう。だが二人いれば話は変わる。思いを共有できる相手がいるのなら、何も悲観する事は無い。ギフトは腰を屈めて聖女に視線を合わせる。


「俺への話ってのは本当は何だ?」

「……あなたは多様な方から信頼されています。それで、その……。」


 聖女が最初に話題にしたのは勇者についてだった。それはあくまでギフトと対等に話そうと、弱みを握っているぞと脅す為の事だったのだろう。


 慣れない事をしているのはわかっていたし、表情の割に怒気が無いから違和感があった。聖女は初めからギフトを責める気はなく、むしろ助言を願っていたのだろう。


 だから信頼できるお供とだけでここに来た。そうでもしなければ、彼女はギフトと会話をすることは出来なかっただろう。また喧嘩になる事は目に見えているのだから。


「それはディーゴの領分だろう?俺より適任だ。」

「ですが、あなたはその王にさえ慕われている様子でした。なので……。」

「それは俺には答えられないなー。」


 ギフトは自分が人に好かれる理由などわかっていない。一つ言えるとしたら自分は運が良いのだろう。だから自分を理解してくれる人が周りにいるし、慕ってくれる人に出会うことが出来る。


「むしろそういう質問は周りに聞くと良い。そしたら理由がわかるだろ?なあ少年。」


 話題を突然降られた男の子は、面白いように固まり目を白黒させる。付いてきただけで喋ることは無いと思っていたのだろう。


 何よりギフトからすれば普通に聞いたつもりなのだが男の子は顔を紅潮させて言葉を紡がない。言葉に詰まることは予想していたが、あまりにも遅い反応にギフトは首を傾げる。


「お前はこの子を尊敬してるんだろ?じゃなきゃここまで来ないでしょ?」

「あ、ああ!そうだ!俺は聖女様を尊敬している!」

「だったらその理由を教えてやれよ。」


 何も含むことも無くギフトは問い質すが、男の子は一向に応えてくれない。まごつく態度に聖女もしびれを切らしたのか畳みかける。


「お願いです。これからの為にも教えてください。」

「い、いや……それは……!」


 男の子の顔はますます赤くなり、しどろもどろになって意味の無い音を紡ぐ。ギフトは意味がわからず黙って見ていると、何か思いついたのか男の子は目を少し開いて間違えた声量を出す。


「そ、俺は、あ、いや私はそれを言葉に出来ないのです!敬意はありますが、それを一つに纏める事が……!」

「んー。確かに直感的な事を言葉にするのは難しいか。」

「そうなんですか……。」


 男の子の言葉にギフトは同意を示す。ギフトも自分を言葉で表現するのは苦手だから理解できてしまう。それが間違いだとも気づかないままに。


「じゃあ俺の仲間に聞けば良い。ついでにあの三人娘にもな。」

「……あの方たちもですか?」

「冒険者は偏屈だと思ってるか?特例はどこにでもいるさ。」


 話題が変わった事に男の子はバレない様ほっと胸を撫でおろし、ギフトは姿勢を戻してロゼ達と合流するため歩き出す。


「ま、待ってくれ!」


 とギフトが先に行こうとすると男の子が声を掛ける。


 ギフトは振り向いて男の子を見るが、その視線は一つだけでなく聖女も同様に隣を見ている。それはこの子が独断で動いている事をギフトに知らせるに十分だった。


「どうしたの?お前らの要件は終わりだろ?俺は何もできないって。」

「そうじゃないんだ。その……。」


 どうもこの子は歯切れが悪い。ギフトがそう思った時、その男の子は突如床に膝まづいて頭を床に付ける。


 その行動に聖女は目を見開いて驚き、ギフトは眉間に皺を寄せて言葉を掛けようとするが、それよりも早く男の事の口が開かれる。


「お願いします!俺を弟子にしてください!」


 放たれた言葉は廊下に響き、ギフトは心底嫌そうな顔で男の子を見下す事になってしまった。






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