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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 一部~前準備~
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10 ミーネの考え方

「さて、どこから話したものかな・・・。」

「何も無いなー。豪遊してると思ってたよ。」

「馬鹿言え。王様など見栄以外はこんなものだ。」


 ギフトは案内された部屋に着くなり窓を開け放って煙草を吸う。話を聞く態度ではないが、ディーゴはそれに文句は言わず、机の上の紙を整理していく。


「っと。先にそちらの話だな。」


 整理する手を止めてミーネを見ると、緊張した面持ちで青ざめている。


 ミーネは庶民も庶民。族長の妹と言っても、限り無く狭い生活しか送っていない。それなのにいきなり一国の王に部屋に招かれ話をしろと言われても固まるだけだ。


「ミーネ。言わなきゃ伝わらねーぞ。」

「大丈夫だ。もし何かあっても妾達がいる。」


 ギフトは町を見下ろしながら、煙と共にミーネを宥め、ロゼは背中を押してミーネを前に進ませる。


 覚悟を決めたのかミーネは青い瞳でディーゴを見つめる。自分の服を握りしめて言葉を絞り出す。


「ぼ、僕は人狼族(ワ-ウルフ)です。」

「ああ。そう聞いた。」

「で、でもこの町に何かするとかは無くて、あの、き、嫌われたりしたくないです。」

「ふむ。」

「だ、ですから、僕は、この町でも獣人族が暮らして良いですか?」


 ミーネは自分なりの精一杯を震える声でディーゴに告げる。ギフトとロゼは黙ってミーネに視線を向ける。


 ディーゴは聞き届けた後、目を閉じて一考すると、厳かな口調で断言する。


「それは無理だな。」


 濁すことなく明確に拒絶する。ミーネは力なく項垂れ、それを見たギフトはディーゴを睨む。


「勘違いするなよ?俺の一存で決めた訳じゃ無い。変に期待させるよりも良いだろう。」


 ディーゴはこの国の王。かといって、国民一人一人の意識を急に変えるような芸当は出来ない。


 ミーネに悪意が無いと言うくらいなら出来るが、それでは何の解決にもならない。王の命令だからと言ってもそれを無視する連中は幾らでもいる。


 むしろ人族でもないのに特別視されていることに反感を抱かれる。味方になることで敵を作る可能性の方が高いし、個人的な心情だけで動けるほど、ディーゴの立場は軽くない。


「俺は何もしないし、出来ない。獣人族との蟠りは俺の言葉で終わりを迎えるほど安いものではない。」

「・・・そりゃ正論で。」

「この町に滞在する許可は出す。ただし揉め事は基本お前らで解決しろ。好かれるも嫌われるもお前ら次第だ。」


 至極当然の帰結。ギフトは煙草の火を消してミーネに近づくと頭をガシガシ撫で始める。


「諦めるなよミーネ?今回駄目でもまだ次が・・・。」

「・・・僕が変えても良いんだよね?」

「うん?」

「この町で僕が頑張れば、獣人族を受け入れてくれるかも知れないんだよね?」


 落ち込んでいる。そう思ってギフトはミーネを慰めようとしていたが、その目には諦めの色は無かった。


 反対に火が付いたのか、一つの可能性を見つけて爛々と目を輝かせている。


「僕が認められれば、獣人族も受け入れてくれるかも知れない。だったら僕は頑張るよ!」


 両拳を握り気合い十分にギフトを見上げる。ギフトは面食らって言葉を失うも、すぐに口角を上げてミーネを強く撫でる。


「流石だ!最高じゃないかミーネ!お前なら出来るさ。今確信したよ。」

「うん!どうすれば良いかはわかんないけど、好きになってもらえるよう頑張ってみる!」

「そうだな。王様の許可は得たんだ。揉め事は全部自分達で解決ってのも魅力的だな。」

「うむ。ミーネの頑張りが王の手柄にならぬのは良い。」


 ディーゴはそんなつもりで言ったわけでは無いのだろう。現に何も言えずただ三人のやり取りを見ている。


 突き放したつもりだったのだろう。だが、ミーネは言葉で止まることを良しとせず、自分の力で変えろと言われてやる気を見せた。


 獣人族を抱える基盤など出来ていない。ギフトが妹と紹介する者を傷つけない様にはしたが、正直獣人族のミーネが楽しく暮らせる国ではないと思っていた。


 だが、ミーネはそんなことわかっていたのだろう。自分が受け入れて貰えないことに。それを承知しているから好きにして良いと言う言葉をチャンスと感じたのだろう。


 ディーゴの口元が弛む。自分の立場を知って、それを変えようと足掻く。それも自分の為だけではなく、未来の誰かの為に。


「くっ・・・ガハハハハ!素晴らしいなミーネ!お前は間違いなくギフトの妹だ!」


 困難にぶち当たってもめげない。より良い未来を掴み取るために努力する。失敗する事もあるだろうに、それでもそれを恐れない。


 それだけギフトとロゼを信じている。信頼できる者が近くにいるからこそ、ミーネは迷うことなく進めるのだろう。


「あー・・・これは失敗か。将来的な事を考えれば、今媚を売っていた方がいい気がしてきたな。」

「遅いぜディーゴ。見謝ったのが悪い。」

「そうだな。至極残念だ。」


 将来彼女は大物になる。ディーゴは何となくそんな未来をミーネに見てしまった。


 そんな人物との縁を自ら断ってしまったのはこの上なく痛い。ほんの少しの後悔を抱きながらも、それを頭の片隅に追いやり話題を変える。


「そちらの話は終わりだな。ではこっちの話をしても良いか?」

「どうする?」

「僕は大丈夫。僕はやること決めたから。」

「妾も良いぞ。こちらの話だけと言うのも収まりが悪い。」


 ロゼとミーネは互いに言うこと無しと答える。ただ唯一ギフトだけがあまり良い顔をしていない。


 ディーゴを嫌っている訳ではない。前置きが長い話に良い思いをしたことが無いからだ。


「心配しなくても騙す気は無い。頼みはあるが、断ってくれても良いしな。」

「・・・話を聞くだけもありか?」

「ありだ。」

「なら良いよ。」


 ギフトは逃げ道だけ用意して話を聞くことを決める。


 ディーゴはギフトが黙った事に深く頷き、両手を組んで言葉を探し、口を開く。


「俺の、俺達の世界は今少し歪み始めている。」


 最初の語りは重々しく、ディーゴは笑みを消して語り始める。





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