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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 一部~前準備~
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7 抑えることは出来ない、しない。

「で、本当に行くの?」


 性懲りもなく悪足掻きをするギフト。何がそこまで嫌なのだろうか。一貫してぶれることなく王に会いに行くことを拒否している。


「行かねばならぬだろう。王に恩を売っておいて損は無い筈だ。」

「王様の恩返しなんて期待してないよ。」

「お前は良いかも知れないが、これは良い機会ではないか?」


 ギフトは誰に嫌われようが好かれようがそれを気にしない。だが、それは何十年とそう生きてきたからどうでも良くなっただけだ。


「どう言うことさね?」

「もしかしたらミーネの立場を上げられるかも知れぬだろう?妾は今の獣人族の立場は面白くない。」

「あー。なるほどね。」


 例えたった一つの国でも獣人族を受け入れてくれるなら大きな変化だ。もしそうなれば以前の様な惨劇を避けられるかもしれない。


 ロゼは今のミーネの立場を良く思っていない。むしろ一々慣れる事なく腹が立っていると言っても過言ではない。


 何も知らない奴らに蔑まれ、困った顔で笑うミーネを見たくはない。それを変えれる一助になるならロゼは率先して行動したいと考えているのだろう。


「それなら確かにありかな?悪くはない。」

「お前のさっきの話が本当なら妾達の世界は間違っているだろう。そうでなくても今の世界を変えて行くのは面白いだろう?」

「ふんふん。言うようになったじゃないかロゼも。」


 ギフトは楽しそうに口の端を釣り上げる。ギフトとロゼの思惑は違うかもしれないが、最終的な着地点は同じものだ。それにギフトも正しい云々はどうでも良いが、それが面白そうと言うのには共感できる。


「僕も言っていいの?」

「当然。もし文句を言われたらその時だな。」

「それならそれでこの国に未練が無くなる。旅から旅の生活なのだから固執しなくて良いではないか。」


 ロゼも疲れているだろうにそれを迷うことなく口にする。ただ正直ミーネを悪く言う人間がいる町より、この三人で過ごす旅の生活の方が楽だと感じているのも確かだった。


 ギフトの興が乗り、王様に会いに行く事を決めた時。窓の外を見ていたギフトが身を乗り出して、首を捻りながら声を発する。


「なんだあれ?」

「どうした?」

「ん。なんか鎧が歩いてるね。」


 ギフトに促されてロゼもミーネも窓の外を見る。そこには平和な町にはそぐわない、物々しい様相の、恐らくこの国の騎士と思われる者が数人隊伍を為している。


 誰か人を探しているのか辺りをキョロキョロ見渡しては、行き交う人々に何事が話しかけている。


「妾達が目的ではないのか?」

「僕もそう思うよ。早く行けって言ってたもん。」

「うへー。遅れたら連行ですか。そうですか。」


 溜息と共にギフトは呆れた声を出す。迎えを寄越すのなら装備は必要ない。こちら側を信用していないと言うのが見え見えだ。


「ふむ。対応としては間違いではないな。王が言っても下の者が納得するかは別だ。」

「って事はあれは命令で来たけど、何でそんな命令を受けなきゃ行けないんだって感じか?」

「であろうな。断片的な情報だけが伝わっているのではないか?」


 そう考えると最初に出会った門番は随分気前が良いと言うか、王を信頼していたのだろう。


 上の命令を遵守し、相応の結果を出す。ギフトと言う名前だけで何事も無く入れたのを不思議に思っていたが、こうして見れば、ちゃんと普通の対応をしてくる者が居て若干拍子抜けする。


「確かにね。あれは新兵っぽいな。頑張って欲しいもんだ。」

「何でわかるの?」

「歩き方。鎧の重さで歩くのが辛そうだねー。」


 鎧の重さは並ではない。成人女性一人背負っているのと同じくらいの重さの鎧を着込んで戦うのは、余程鍛えた上で慣れなければまともに動く事も出来ない。


 作る人間の腕前や素材によっては軽量化もできるだろうが、自分の体重を重くして動くことは疲労も貯まる。中央の建物からここまで来るので既に疲れてしまっているのだろう。


「だが折角来てくれたのだからこちらも出向こう。正直な話、王に対して無礼を働くのは心臓に悪い。」


 ロゼの言葉にミーネもこくこくと頷く。ギフトにはわからない感想だろうが、目上の人間に背く様な行為はそれだけで動悸を早くする。


 ミーネはただでさえ人族の長に位置する者に会いに行く事が緊張するのだろう。小言を言われないようにしたいという思いが少しはあるのかもしれない。


 それでもここまでのんびりできるのは、最悪ギフトが何とかしてくれると思っているからだろう。でなければミーネはここまで平静を装えない。


 二人の意思にギフトはようやく立ち上がり、それでも時間を引き伸ばそうとしているのかわざとらしくあれは持ったかこれは持ったかと確認している。


「普段そんな事しないではないか。」

「王様に会いにいくんだろ?身だしなみは整えなきゃなー。」

「うぅ・・・。ちょっと怖いな。」

「大丈夫大丈夫。もう遅刻決定なんだから焦らずに行こう。」

「誰のせいだ。誰の。」


 だらだら支度を整えて、三人は似た様な黒い上着を着込んで部屋を後にする。宿を出る前にミーネは一応フードを被って耳をしまう。


 門番には良いと言われたし、ギフトは隠すなと言っているが、そのせいで二人に気を使わせてしまうのが申し訳ないのだろう。


 ギフトはミーネの頭をフードの上からガシガシ撫でる。しなくて良いと思ってはいるが、そうやって気を使うミーネが愛らしいのだろう。


「さーて。じゃあ案内してもらうか。」

「ようやく観念したな。」

「流石にね。十分駄々捏ねさせて頂きました。」


 宿を出て道の端で三人は立ち止まり、騎士が来るのを視線を向けながら待つ。ほどなくして向こうもこちらに気づいたのだろう。三人に重い足取りで近づいてくる。


「お前がギフトか?」

「・・・そうだよ。」


 心の中でギフトはこっそりと評価を下げる。遅れているのはこちらかも知れないが、勝手に呼んだのは向こう側。高圧的な態度を取られることは腹が立つ。


 だがギフトはにこやかに答える。ロゼに腰を抓られているからだろう。痛みと何か変な事を言えば、後でロゼが怖いから、ここは無難に答えている。


「ふん。王がお呼びだ。さっさと来い。」

「へいよ。」

「待て。その格好で行くつもりか?」

「そのつもりだけど?」

「旅の者だから仕方ないと言うつもりは無い。そんなみすぼらしい姿を王の前に晒すな。」


 一瞬ロゼの力が弱まる。これは友人からもらった服だ。それを馬鹿にされた事でロゼにも怒りが沸いたのだろう。


 だがそれを知らない者に言っても仕方ないと、ロゼはギフトを止める役目に徹している。ミーネも息を殺して、なるべく目立たないよう俯いている。


「悪いがこれ以外の服を持っていない。これで許してくれ。」

「・・・ふん。まぁ良い。」


 黙りこくったギフトに変わりロゼが発言すると、納得したのか許可を出す。


 ロゼは見た目は多くの人間が振り向くような顔立ちだ。凛々しい顔立ちで、可愛らしさとは無縁かもしれないが、女性としての美しさはかなり高いだろう。


 その女性に言われたから納得した。そう疑われても間違いないと思える反応をした騎士に、ロゼは気持ちだけ一歩引き下がる。


「だがせめてフードは取れ。王の前に顔を見せぬのは不敬だ。」


 突如話題を振られてミーネの肩が震える。高圧的な態度を取ってくる人間にミーネはまだ慣れていない。


 鎧越しで顔も見えず、声だけの騎士に警戒心を解くことはできないのだろう。だが騎士は構わずミーネに近づきフードを取り上げる。


「なっ!?貴様獣人族か!?」


 驚いたから仕方の無い事だが、そんな大声で言う必要は無いだろう。ギフトがそう思ってももう遅い。周囲の人間もミーネを見て目を丸くし、表情を歪めていく。


 ミーネはその視線に晒されても何も言わず、俯いてじっと耐え忍ぶ。その姿は痛々しく、ロゼは奥歯を噛み締めて、ついでに我慢しているからかギフトを抓る力も強くなる。


 ギフトは黙って何も言わず、腕を組みながら騎士をまっすぐ見つめている。その視線に気づかずに大声で喚き立てる。


「こんな不潔な者をこの国に入れるな!!何を考えて」


 言葉は最後まで言い終わることはなく、ロゼはすっと手を離し、ギフトは兜ごと頭を右腕でガッチリと掴む。


 その目は一切の光を見せず。口元だけが上に上がっている。ロゼはこれから何が起こるのかを理解しているが、もうそれを止める気は無い。


「ギフト兄・・・。」

「ミーネ。これが現実ってやつだ。」


 ギフトは兜の隙間から騎士の目を見つめる。その目は何が起きているのかを理解できていない顔で、これから何が起こるのかも分かっていないだろう。


「馬鹿らしいな。よし。王様に会いに行こう。丁度いい手土産もできるしな。」

「・・・これは僕の問題だよ?」

「俺が王に呼ばれたからこうなった。これは俺の責任にしてくれ。」


 ―――じゃないとこいつらを殴れないだろう?


 言外にそんな意思を匂わせてギフトは右腕に力を込めていく。常人ならば意味の無い行為だが、兜は音も立てずに握力に逆らわず凹んでいく。


「ミーネ。これはお前の問題かも知れぬ。だがその問題を今お前にどうにか出来るか?」

「・・・。」

「後でお前がなんとかすれば良い。王に直接文句を言える機会だ。ここは任せておけ。妾達はお前の兄で姉だろ?」


 ロゼは微笑んでミーネの頬を撫でる。ギフトもそれを合図にしたのか最後の力を込める。すると兜は人の顔を凹ませる程度に小さくなり、腕を振って遠くへ投げ捨てる。


「さて。お前らは手土産だ。交渉材料くらいにはなってくれよ?」


 ギフトはここに来てニッと笑う。言われっ放しで終わる義理もなし。容赦なくぶん殴って良いと許可も出た。


 騎士は慌てて戦闘体制に入ろうとするが、もはや後の祭り。ギフトは全てを殴っては蹴り、この国の王への土産を用意することに成功した。


気づいたら101話でした。

特に文字数を気にせず投稿しているのであまり意味はないかも知れませんが・・・。


見てくれた人、ありがとうございます。

これからも少しでも暇つぶしにはなれるよう頑張ります。

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