人類最強女騎士の秘密
「サマル! なぜきちんと確認をしておかなかったのだ!」
「そ、そう言われましても王様、私が確認したときは確かに人数分ありましたよ」
「あああ! もういいよ!」
神官と王様の小競り合いを見ているのが辛くなって大声を出してしまった。
「しかし翔殿、この世界を魔術なしで生きていくことは大変な困難を極めますぞ」
「そうかもしれねえけど、その魔術の生成できる結晶体ってのはもうないんだろ。だったらしかたねえじゃねえか。武術でもなんでも学んで強く生きていくしかねえ」
俺は一応空手有段者である。それなりに戦える自信はあった。
まあそんなことはこと異世界においては何の確証にもなりはしないが。
「武術……。そ、そうじゃ! 良い手を思いついたぞ!」
王が閃いたように神官に告げる。
「彼女を連れて来い」
「え?」
「ぼさっとするでない! 彼女じゃ、シャーリーじゃよ!」
「シャ、シャーリーですか! あ、あの人類最強の聖人の!?」
王に促され、神官サマルは一人の女をつれて戻ってきた。
「翔よ、お主には魔術の代わりにこの女騎士を与えようぞ」
王の前にその女は立っていた。
日本人か? 黒く艶やかな髪が肩までかかっている。目が大きい。というか目力が尋常でない。
そして無表情。今まで出会った中で、否、芸能人なんかと比較しても遜色ない。
そう、彼女は文句のつけようのない超絶美人だった。
「彼女の名はシャーリー。この世界において人類最強と呼ばれておる。彼女を汝の従者として使わすことにしよう」
「ボディーガードってことか?」
「まあ、そんなところじゃな。ついでに彼女に武術を学ぶと良い。何せ世界最強じゃ。彼女の下で指導を受ければきっと強くなれるじゃろうて」
「……」
シャーリーか。こんな美人が世界最強なんて。しかもそんな人が俺の従者だと。
なんつーか、嬉しいような恐れ多いような、複雑だ。
「心配するでない。彼女は聖人といって我々とはその起源を異にする種じゃ。聖人は古来より絶対服従の文化のもと繁栄してきた。汝の言うことには全て従ってくれる」
「俺の言いなりってことか?」
「そうじゃ。ただし、シャーリーの主人として絶対に守らねばならないことがある」
「何だ?」
「それは……彼女の純潔を絶対に破らないことじゃ。いや、破ろうとしても駄目だ。未遂であろうと、汝がそのような行為をしようとすれば即座に汝は彼女に殺されることになる」
「ど、どういうことだよ」
「うむ。聖人というのは感情を押し殺し、邪念を振り切ることで精神をある極地点にまで高め上げ、常人の何千倍という力を発揮する女種族。いわば戦闘のためだけに生まれてきたような種族なのじゃ。しかしそのような力と我々が共存するためには彼女らの力を制限する必要があった。そしてその方法はただ一つ。彼女らの純潔を奪うことなのじゃ」
話がまだよく見えない。聖人? 純潔?
「聖人は生後10年以降、その身体能力を飛躍的に向上させる。しかし、純潔でない聖人はその力が大幅に減退する。もちろん減退したとしても常人の何十倍もの戦闘能力は維持できる。じゃから我々は聖人がまだ幼く力の弱いうちに純潔を奪うことで共存を図っているんじゃが……」
なんとなく事情は分かってきた。
「シャーリー、彼女だけは純潔を保持したまま生後10年を超えてしまった。そして聖人はその思想の根幹に純潔への厚い信仰がある。つまり、もはや手のつけようのないほどに強く成長してしまった彼女の純潔は誰も奪うことはできないのじゃ」
「そいつの純潔が奪えなかったのは何でだ? まさか、それも手違いか?」
「……」
王は閉口した。
なるほどな。国の武力として行使するには不確定要素が多すぎる。かといって彼女に戦闘力以外を期待するのは聖人ゆえ厳しい。そこで俺のボディーガードって役目がふってわいたってわけか。
「まあいいや。たしかにセーフティはありにこしたことない。シャーリーにお願いするぜ」
シャーリーはただただ機械的に頷いた。あいかわらずの無表情。
「聖人は決して主人には逆らわない。純潔に係るのでなければどんな命令であろうと忠実に従ってくれるじゃろう」
とまあ、こんな感じで王からシャーリーを引き受けたわけだが、さて今後どうしようか。まずは住むところでも探すか。
「シャーリー、お前どんなところ住みたいとかあるか?」
「いえ、ありません。私は主人の住むところならどこでも。私の役目は主人をお守りすること」
淡々とした口調である。
人類最強が味方というのは心強い。純潔にさえ気をつければ良い。そんなに難しいことじゃないな。