冴えない王様
学校のクラス単位で異世界転移させられてしまうというのは、最近の研究によると存外理に適ったものであるらしい。
一度に転移させるに当たり多すぎず、少なすぎず、適正な数であり、また、クラスメイト全員を同時に転移させることで、彼らの転移後の不安感や衝撃が緩和されるとの効果も期待できるからだそうだ。
そういうわけで、わりと最近ホットな話題として世間を賑わせている上記クラス全員異世界転移に巻き込まれてしまったのは、俺の通う高校2年2組の生徒一同である。
昼食を終え、なんとなくまぶたの重く感じられる昼下がり、俺たちは元の世界とは明らかに異なる世界へとやってきていた。煌びやかな装飾に彩られた一室。2年2組一同、王様らしき人物の前で並んでいる……。
「突然の事態に戸惑っていることであろう。用件を端的に伝える。君たちがここへ連れてこられたのは……」
皆の視線が王に注がれる。何を……言うのか。
「すまん! 単なる手違いじゃった! もう本当にすまん!」
何を言っているんだこのおっさん?
おっさんとの敬称に憚られるものはもはやなかった。先までのいかにも王様ですよ的な厳かなオーラは瞬時に吹き飛んだ。
「な、何を言い出すんですか、国王様!?」
「まあまあ、こういうことはきちんと正直に伝えたほうが良いんじゃよ」
「そ、そんな……。も、もしこんな失態が公に知られたらこの国の信用はがた落ちですよ!」
「そ、そうは言ってもな。やってしまったことは仕方ないじゃろうに……」
「もう、どうするんですか!?」
王様の隣に控えていた神官らしき男と王が何やら言い合いを始めた。しかしその様は国のトップとは到底思えないお粗末なものである。まるで上司と部下が互いに責任をなすりつけあっているようである。というか実際そうなのだが……。
閉口するしかない俺たちに王様は続けて言う。
「私たちは君たちを間違えてこの世界に呼び起こしてしまったのだ。つまり、その……君たちのこの世界での正当性は無じゃ」
状況を把握するとかそういう諸々以前に呆れるしかなかった。
異世界に転移だぞ。しかもクラス全員。
そういうときって大体なんかしら転移させられた理由とかあるんじゃねえのか? 手違いって、そりゃねえぜ。
「君たちにはどう弁明しても弁明し足りないであろう。じゃが、どうかここは一つ、この由々しき事態を内密にしておいてはもらえんだろうか」
「私たちはこれからどうなるんですか?」
クラス委員長の東堂楓が聞いた。
「それは、だな……」
「元の世界には返してもらえるのですか!?」
「手違いって、ちゃんと責任とれよな!」
事態の重さとあほらしさに認識が追いついてきたのかクラスメイトから矢継ぎ早に質問が飛びはじめた。
「君たちはきちんと元の世界に返すつもりじゃ。じゃが、現状その方法がないんじゃ……」
クラスメイトはパニック状態に陥った。
確かにこれはやりきれん。勝手に転移させられて返す方法は分かりませんとは。
馬鹿馬鹿しすぎて怒りの矛先をどこに向けるべきかも曖昧になるぜ、全く。
「今後我々でなんとしても君たちを元の世界に返す方法を見つけ出す。じゃからそれまではこの世界で生きてくれんか?」
はあ。やりきれないけど、もうそうするしかないのも事実。
クラスメイトの大半もそれに気づき静まった。
「とりあえず君たちには魔術を扱う能力を授けよう。この世界には人を襲うクリーチャーと呼ばれる存在がおる。魔術を持たねば生きていくことは困難じゃからな。」
もうどうにでもなればいいさ。
もはや考えることすら諦め、クラスメイトは一列に並んだ。とろとろしてた俺は最後尾。王様が何やら種々の色の結晶体を一人ずつ近づけていく。
するとその結晶体の色が褪せ、灰色になっていく。どうにもそれが魔術の力の根源らしい。
そんなこんなで俺の番が来た。異世界に転移させられたのは不愉快だが、魔術が使えるようになるというのはまあまあ楽しみではあるからな。
「あ?」
「ん?」
王様とその隣の神官が顔を見合わせる。
「どうかしたんですか?」
俺の問いに対する返答はいたってシンプルであった。
「結晶体がなくなってしまった」
「はい?」
「じゃから、その……結晶体がなくなってしまったのじゃ……」
「なんで?」
「こちらの手違いで……」
俺の中の何かが崩れ落ちたのはいうまでもなかった。