第92話 明かされる真実
いよいよ…佳境に入るって感じです。
ーーアラド大森林元第2防衛線 ハルディーク皇国軍最前線基地
アルフヘイム軍の襲撃から数時間後、ハルディーク皇国軍は再び進軍の準備をしていた。
『合成獣』を先頭として、多数の部隊が列を成していつでも進軍できる状態であった。
その後方で、魔導蒸気戦車に乗ったムオント少将は兵士達に指示を出す。
「良いか!!!最早勝利は目前!お前達はこれから手に入れる偉大なる勝利を掴み取る者として歴史に名を刻む!!!」
「「オォォォーーーー!!!」」
高まる兵士達の士気。ムオント少将は治療したばかりの右腕の痛みを堪えながら、進軍開始の指示を出した。
「進軍開始!!!エルフ族どもを蹂躙せよ!!!捕らえた民は煮るなり焼くなり好きにするがいい!!!」
森の中を進む2万のハルディーク皇国の大軍。魔導蒸気戦車の白い蒸気が勢いよく噴き出す音が至る所で聞こえてくる。
基地には僅か100人足らずの兵士達が残っていた。その中には、ベネット中将も居た。
「……せいぜい頑張りな、ムオント少将。」
ベネット中将は森の中へと進んでいく大軍を見送りながら踵を返した。
スタスタと歩くベネット中将の後ろを、途中からやって来たスコミムス大尉が付いて行く。
「良かったので?」
「……ケッ!ほっとけ。」
数える程度しかいない第2基地…後方からの増援部隊の到着は夕刻ごろ。それまでは、暫く静かな一時が続く。
残った兵士達は賭け事をしたり、酒を飲んだり武器の手入れをしたり、それぞれの時間を過ごしていた。真面目に警備をしている兵士は殆どいない。皆んなが、この戦争が直ぐに終わると感じ多少緊張感の無い状態となっていた。
「あれ?ベネット中将、どちらへ?」
1人の兵士が何処かへと向かうベネット中将に質問する。
「あぁ?ほっとけ。黙って手前ぇの右手とムスコで仲良くしてな。」
特に気にも留めずに歩き続けるベネット中将とスコミムス大尉。彼らはある場所へと向かっていた。
「……本当に宜しいので?」
「言ったろ?俺なりの…『恩返し』だ。」
ーーハルディーク皇国軍最前線基地の離れ
倉庫保管所
即席で作られた木製の小屋が複数建てられている。ここには、食料やらの保管場所としてハルディーク皇国軍が設けた場所である。
その中の一軒…厳重に鍵が掛けられている小屋があった。ベネット中将とスコミムス大尉は、その小屋へ向けて足早に向かう。
「…今は誰もおらぬようですね?」
「皆んなどっかでサボってんだろ?…ついてたな。」
ベネット中将の手には鍵が握られていた。彼は小屋の錠前に鍵を差し込み…開けた。
ガチャッ
ドアを開ける……しかし小屋の中には誰もいなかった。
「ッ⁉︎な、何⁉︎」
「居ない…だと⁉︎」
ベネット中将とスコミムス大尉は驚愕していた。小屋の中へと入り隈なく探すが、何処にも『見当たらない』。
「ど、何処に行ってー」
ベネット中将が小屋から出ようとしたその時ー
「動くな。」
突如、ドスの効いた低い声が聴こえて来た。
辺りはまだ日が昇っていない。何処にいるのか、必死に辺りを見渡すがやはり見えない。しかし、『それら』は確かに近くに居る。
「……ベネット・サジタリュウスだな?ハルディーク皇国軍中将にして、皇帝オリオンの側近のうちの1人。」
暗闇の奥から複数の『それら』がゆっくりと近付いてくる。
『それら』はー
全てが『黒』だった。
ーーー顔。服装。履物。そして、眼光と呼吸も、実際そうだと言うのでは無く、まるで雰囲気?気配?が『黒』だと感じる。
彼らは『別班』ーー
しかし、その場には隊長の鈴木の姿は無く。代わりに粕谷が指揮を取っていた。
全身がほぼ黒色で統一された装備を身に纏い、消音装置付きのM-4とP-90の銃口が2人に向けられていた。
2人は、その見た目は初めて見るもののそれが銃だと気付くのにそう時間は掛からなかった。
ベネットは数秒の沈黙の後、何かを悟ったのかその場に座り込んだ。
「ゲッゲッゲッ!……ナルホドね、あんたらが何者かは分かった。オリオン皇帝かジェミニェス兄弟に雇われた刺客だろ?状況は極めて不利…お手上げだね。ほら、さっさと撃ちな?」
粕谷はスッと右手を伏せるような動きをすると、周りの隊員たちは銃口を下へと降ろした。その行動を見て、怪訝な顔で粕谷を睨むベネットとスコミムス。
「御冗談を…。我々からしたらあなた達2人は利害の一致した者…つまりは同志です。」
「あぁ?」
「貴方がその鍵を使ってフレイヤ氏を逃がそうとしたのは分かってます。御安心を。フレイヤ氏は我々で保護しております。」
「お、お前らは?」
ベネットは粕谷に質問をした。彼の頭の中にはある程度予想外できていた。
「私達は日本国の者です。」
「……やっぱりか。それで?お前達の目的はフレイヤの保護と…アルフヘイムに攻め込んできた皇国軍の殲滅か?」
「隠す必要も無いな…ご明察。」
「そうか……だが良いのか?スコミムスも居るんだぜ?こいつの前でそんな事……俺の部下と言いつつ実は皇帝側の可能せー」
「ピスケス氏でしょう?この方は?」
「ッ⁉︎」
「彼は裏切り者として殺された…貴方に…しかし…彼は生きてる。恐らくは擬態魔法の類で姿を偽っているのでしよう?」
スコミムスは上着を脱いで、上半身を露わにする。すると彼の胸に魔鉱石が埋め込まれていた。
その魔鉱石が淡く光始めた。まるで波紋のように光が彼を包み込み…その姿を露わにする。
隊員たちは基本冷静を保っていたが、その神秘的な光景に内心驚いていた。
「…私はロナルド・ピスケス。元ハルディーク皇国海軍の中将だ。」
オリオン皇帝のクーデター、そして第2世界の国との密約、諸外国への侵略を企てようとした事を知り、反乱を企てようとした所をベネットによって殺された男。『公王派遣制度』の候補者の1人でもあった。
「これはまた……」
呆気にとられる隊員たちと粕谷は1番疑問に思った事を質問する。
「彼は殺された…しかし生きている。それは分かっていましたが、何故生かしたのですか?」
ベネットは素直に答える。
「俺もその反皇国派の1人だったからだ。表じゃあ俺は皇国派みたいに振る舞ってたが、実際は逆だ。」
「偽装工作…そしてオリオン派への潜入偵察も行なっていたってわけか?」
隊員の1人が問いかけると彼はコクリと頷いた。
「あぁ…でも、戦争はマジでやってたぜ。戦争が好きで好きで堪らないのは本当だ、ゲッゲッゲッ!」
「……」
粕谷はこの男がどっち側にせよ、下衆野郎な事に変わりわないと感じた。しかし、此れほどまでの戦闘狂が戦争派のオリオンを裏切るとは中々に想像が出来ない。
「我々も情報を聞いたときは驚いた……正直、お前みたいなヤツほど皇帝側だと思うが?」
ベネットは頭を掻き、俯きながら答えた。
「俺は…何年も前だが…俺ぁ…元々は奴隷だったのさ。」
「……。」
彼は話を続ける。ピスケスも目を閉じながら彼の話を聞いていた。
「ガキの頃記憶は曖昧だが、元々俺はとある低文明国家の人間だった。…テスタニア帝国に滅ぼされた後、偶々生き残った俺は捕まって…何年か経った後に輸送船に乗せられてハルディーク皇国に運ばれた。その後は、スラム街の闇売人かお忍びの貴族たちに買われるはずだった。だがそこへ俺をドン底から助けてくれたのが……皇国の姫君…キャサリアス様だった。」
そこへピスケスも話に割って入ってきた。
「俺も……ベネットと同じく奴隷市場で売られていた所を姫様に助けられた。俺だけじゃあない…彼女の側近、アリエスもだ。」
粕谷たちがそのアリエスという人がどんな人物なのかは知らなかったが、取り敢えずは黙って話を聞いていた。
次にピスケスが口を開いた。
「私達は…表では前皇帝及び現オリオン皇国のお気に入りであり幹部であるが…実際我々が忠を尽くしている相手は…姫様だ。姫様は今のままでは皇国は、第2世界の国々に良いように利用されて終いだと考えておられる。そうなると…多くの民が犠牲になる。例え劣悪な環境で暮らしていても、これからの皇国はより良いものになると信じ尽くしている民達の為にも……今の皇国を破壊しなければならない。」
要は『反乱』をキャサリアスは企てていた。少しずつ…決して大人数では無いが、有能かつ信頼できる仲間を増やしながら、その準備を行っていた。
「だが、それに感づく者が現れた。それが王族顧問のジェミニェス兄弟だ。私は何とか姫様に目がつけられないよう私が首謀者と言うことにしておいた。だが、幸運にも彼らはベネットは皇国派だと信じていた。オマケにあの性格だ。彼らは私に引導を渡すのにベネットを刺客として送り込んだ。」
話は繋がった。だからこそピスケスは擬態魔法で生き延び、今に至る。そして、彼らがフレイヤを逃がそうとした理由はー
「フレイヤは知っての通り龍と心を通わせる事ができる能力を持っている。そして、あの巨大な霧の壁……あの壁を作っているのは第2世界側にいる『古代龍』だ。第2世界の国々は、此方の世界へ大々的にその力を伸ばす為に、あの霧の壁がどうしても邪魔だったのだ。」
「曖昧な情報もあったが……今の話を聞いてハッキリしたな。だからフレイヤ氏を…」
「そういうことだ。だから我々はフレイヤを保護し、安全な場所へと隠そうとしたのだが…」
「その時にやって来たのがお前さん達ってワケだ。」
ベネットが隊員達に向けて指をさす。想定外の事だったとは言え、結果的には彼らの狙い通りフレイヤを保護する事が出来た。後はー
「フレイヤを保護した後は?」
「……今アルフヘイムにいるハルディーク皇国軍を全滅させる。勿論、こんなこと姫様は望んではいない。俺たちの考えだ……ここにはハルディーク皇国軍の3分の1の兵力が集結してる。これを完全に削げば……まぁ俺たちも無事には済まないだろうな。」
「だが一向に構わない……そうだろ?ベネット。」
「あぁ…ピスケスは兎も角、俺ぁ殺しすぎた。もうまともに生きていけるとも死ねるとも思ってねぇよ。戦争も楽しんだしな!だからよ……ニホン国の人…俺に最後の仕事させてくれや。姫様が創り出す新しい国に……俺みたいな人間は不要だ。」
不気味な笑みを常に浮かべていたベネットとは思えない真剣な表情で粕谷達を見ていた。その目には、強い覚悟がある事に粕谷は感じた。
「…良し、お前達にも協力させてもらう。」
この返事を聞いた2人は薄っすらと笑った。
「だがな…本当にそのお姫様の事を考えているのなら……ちゃんと生延びてからもっとマシな生き方で使えてやれ。それが一番だ。」
つまりは死を選ぶなという事を伝えたかった粕谷の言葉…これを聞いたベネットはハッ!っと鼻で笑った後、静かに頷いた。
「良し!話がついたな。それじゃあ早速、俺たちはフレイヤを連れて安全な場所へと一度移動する。その後に…あのハルディーク皇国の軍隊を一掃する。」
「だがどうやってだ?お前達の腕が立つのは分かるが…流石に無謀すぎるぜ?」
粕谷は耳に装着していた小型無線機に手を当て、誰かの報告を聞いていた。
『………。………、……。』
「…了解。」
無線を終えた粕谷は皆んなに向かい言葉を掛ける。
「今から『マルヒトマルマル』より…作戦名『鷹龍』を開始。…奴らを潰すぞ。」
今回の話は洋画のとあるミリタリー映画の中身を元に作りました。