第90話 ハルディーク皇国VSアルフヘイム神聖国
だいぶ遅くなりました〜〜_:(´ཀ`」 ∠):
無事腹膜炎の治療が終わってホッとしてます!
ーーアルフヘイム神聖国 ガラフ樹林間アラド大森林街道沿い
パパパパパパッ!
ダダッ!
ダーンダーンッ!
ドォォーン!ドォォーン!!!
激しい銃声と爆音が鳴り響く森の中。第3防衛線と第2防衛線の間にあるこの森では、ハルディーク皇国陸軍約5000人とアルフヘイム神聖国軍約1500人が、死闘を繰り広げていた。
ハルディーク皇国軍は、草木が所々に生い茂る森林を、レバー式ライフルや軽機関銃から火を吹かせながら、エクステンディッドラインの隊形で前進する。
彼らが銃口を向ける先の殆どは正面では無く、上であった。
「クソッ!上だ上!また上からクソエルフどもが狙ってやがる!」
次の瞬間、巨木の上から無数の矢がハルディーク皇国軍へ向けて放たれて来た。
ヒュンッ!ヒュンヒュンッ!
ヒュン!
矢が空気を切る鋭い音が至る所で聞こえてくる。同時に射られたハルディーク皇国軍の兵士達の悲鳴が響いて来る。
「うわぎゃッ!」
「ヒィッ!」
「いでッ‼︎」
エルフ族の戦士達は、巨木の上からハルディーク皇国軍を弓矢で狙い撃ちしていた。さらに生い茂る多数の枝で上手く姿を隠し、近くの巨木へ飛び移っては撃ち、また飛び移っては撃ちの繰り返しであった。
しかし、この地の利を生かした戦い方がハルディーク皇国軍に対しては中々効果的だった。
恐らく、アルフヘイム神聖国内陸部の木々が想像以上に巨木であったり、背の高い草なども理由の一つであろう。しかし、一番の理由は彼らが住んでいた環境である。
近代的工業発達に力を注いだが故に、殆ど草木の生えない朽ちた土地にばかり住んでいたという事もあり、慣れない草木生い茂るこの土地での戦闘は、戸惑う事が多かった。
「上にいる事は分かっても、猿みたいにピョンピョン動きやがってッ……狙いが上手くできねぇ!」
「ウワッ!木の蔓に引っかかった!」
「隊が乱れたぞ!」
「背の高い草のせいで周りを把握出来ない!」
ハルディーク皇国軍は数こそは圧倒していたが、明らかに劣勢に立たされていた。地面に倒れている死体の数は、どう見てもハルディーク皇国軍兵の方が多い。
ハルディーク皇国軍も負けじと、得意の火力でレバーアクション式ライフルの一斉斉射をお見舞いし、反撃を行う。
「撃てぇ!」
ダダダダダダーーーーンッ!!!
続け様に、大きな轟音が森の中に響き渡る。それは、ライフル銃とは比べ物にならない程巨大な音だった。
ドドドドーーーーーンッ!!!
ボゴォォォーーーー……
一瞬にして、巨木上部を粉々に吹き飛ばし、何十人のエルフ族の戦士が爆散してしまう。何とか身を伏せて生き残った戦士達は、動揺と恐怖を隠せないでいた。
「な、なんて火力だッ⁉︎」
「敵の戦列艦からの砲撃は届かないはずだぞ⁉︎」
その正体は、直ぐに姿を現した。
歩兵部隊の後方から黒い蒸気を吹かす何かが木々を投ぎ倒しながら進んでいた。
「出たぞーー‼︎『雲を吐く甲蟲』だ!」
『魔導蒸気戦車』であった。
純度の高い火の魔鉱石と蒸気動力機関を組み合わせて造られた戦車である。
半円柱形の車体の両側には大きなキャタピラを備え、車体中央部に煙突が立っている。
車体の後部には操縦席、前部には砲手席があり、装甲が付けられている。
前部には主砲が1門、後部には機関銃が備えている。
車体がゆっくりと動き、砲門が一本の巨木へと向けられた。
「角度50°‼︎回せーー!」
「角度50°了解!!!」
操縦者が足元のハンドルをグルグルと回すと、車体前部がゆっくりと上を向き始めた。砲門は、木の上で矢を射っているアルフヘイムの兵士達へ向けられた。
「ッ⁉︎来るぞォォォーー!!!」
1人のエルフ族の兵士が叫ぶと、魔導蒸気戦車から轟音が鳴り響くと同時に、一本の巨木の上部が爆発を起こした。
ドォォォーーンッ!
「うわぁ‼︎」
「ぎゃあ!!!」
その巨木にいたエルフ族達が吹き飛ばされていく。そして、続け様に他の魔導蒸気戦車から砲弾が一斉掃射される。
ドドドドドーーーーン!!!
巨木が次々と爆炎に飲まれ、倒れていく。敵の圧倒的な火力に為す術の無いエルフ達は、木々を飛び移りながら撤退を余儀なくされた。
「見ろよ!エルフどもが逃げやがるぜ!」
「ザマァ見ろ!!!」
敵が退いた事で勢い付いたハルディーク皇国軍は、更に新兵器を投入し進撃していった。
「グルァァォァァーーーー!!!」
「ギャァギャァ!」
悍ましい鳴き声が森中に響き渡る。ハルディーク皇国軍後方から、その状態がゆっくりと現れ始めた。
強固な鎧を身につけた『合成獣』達が、魔操機と呼ばれる特殊な杖を持った魔道士と共に列を成して現れた。
「な、何だと⁉︎」
「魔獣達がヒト族に従うなど…し、信じられんッ⁉︎」
その光景を見たエルフ達は、驚いていた。
『合成獣』達は、魔道士の命令と同時に、逃げ遅れたエルフに向かい一斉に飛び掛る。その時、ハルディーク皇国の兵士には見向きもしなかった。
「か、完全に敵と味方の区別が出来ているだとッ⁉︎奴等は魔獣達に何をしたのだ⁉︎」
その答えを彼らが答えてくれることなど無く、無残に『合成獣』達に殺されていく、仲間達の断末魔が響き渡る。
ーーアルフヘイム神聖国第2防衛線アラド大森林
ガラフ樹林間アラド大森林における、ハルディーク皇国軍とアルフヘイム神聖国軍は、半日に及ぶ死闘の末、ハルディーク皇国軍の勝利となった。そして、その数時間後、ハルディーク皇国軍はアルフヘイム神聖国第2防衛線アラド大森林を攻略していた。
◇ハルディーク皇国軍
被害
・歩兵部隊
戦死者約500人
負傷者1300人
・魔道蒸気戦車
中破5輌
・合成獣
23体
◇アルフヘイム神聖国
戦死者約4000人
アラド大森林第2防衛線基地を占領し、新たな前線軍事基地建設を着々と進めていたハルディーク皇国。サイクロプスの『合成獣』を使い、周辺の巨木を薙ぎ倒して即席の防衛ラインを造っていた。
更に続々とハルディーク皇国軍がアラド大森林に集まる中、そんな状況を見晴らしの良い場所から眺めていたムオント少将がいた。
「ムッフフ〜〜、実に計画通りに進んでいるゾォ!」
ムオント少将はかなり上機嫌だった。この作戦がもし自分の手柄になれば、間違いなく公王派遣制度に担うことも夢では無いからである。
そこへ1人の兵士が現れた。
「ムオント少将!沿岸より更に2500名の陸軍部隊が到着いたしました!」
「うむ。では…暫くはココを拠点とし、暫しの間待機だ。」
「了か…え⁉︎い、一気に攻め込まないので?」
「あぁ…まぁ見ておれ。将兵たちを集めよ!」
「は、ハッ!」
ーー数時間後
アラド大森林はすっかり夜にふけていた。あたりには伐採された木々が沢山横たわり、その代わりにハルディーク皇国軍の野営テントや兵器がずらりと並んでいた。
緑が生い茂る神聖な森から一変、他国から来た侵略者達の馬鹿騒ぎだけが響き渡るだけであった。
そんな中で一際開けた土地に建てられた1番大きなテント。そこでは、ムオント少将率いる将兵達が、話し合いをしていた。
「ムオント少将、此度の戦の輝かしい武功おめでとうございます。」
「これでムオント少将が昇進し、更に皇帝陛下への関心が高まれば、公王派遣制度の重役を担う事も夢ではありません。」
「モガモスカ中将殿が実質の最高指揮官ではありますが…これで完全に出し抜くことが出来ましたな。」
将兵達が確信した勝利を信じ、自身の上官であるムオント少将へ言葉を贈っていた。無論、戦後報酬の分け前を少しでも多く得るのが大体の目的であった。
しかし、ムオント少将はそれを知ってか知らずかかなり上機嫌な様子で深々と豪華な椅子に座り、酒を飲んでいた。
「ゲッフゥ〜〜…ムッフフ、ベネット中将殿の働きもあっての戦果でございますので、非常に感謝しております。…ですが、本当に此度の手柄を全て私に下さるので?あの戦闘で誰よりも多くのエルフを仕留めたのは貴方様ですぞ?」
ベネット中将は、部下のスコミムス大尉と共に、テントの片隅で椅子に座りながら愛銃の手入れを黙々としていた。
「……あぁかまわねぇよ、好きにしな。」
見向きもしない彼の態度に若干の不快感を感じてはいたが、それよりもこれからの事について話し合う事が大切だった。
「如何いたしますか?このまま一気にアルフヘイムの首都まで攻め込みますか?」
「今の戦力で行けば間違いなく殲滅が可能ですぞ!!!」
周りの将兵から進撃をするべきだと言う声を聞いた後、静かにムオント少将は答えた。
「いや……ここで待機する。これ以上我が軍からの被害を出さずにこの戦争を終わらせる。」
「は、はい?…どうやってですか?」
ムオント少将はニヤリと笑いながら答えた。
「我々の目的は、この国の姫君…フレイヤを捕らえる事だ。決して殲滅でもなければ占領でも無い。つまりは重要人物の誘拐だ。」
「そ、それは我々も理解しております。だからこそ、軍を派遣したのではありませんか?…一体どうやって?…まさか向こうからやってくるわけがー」
「その通りだ。」
「「ッ!」」
「内部に協力者がいる。その者がフレイヤをこの場所まで極秘裏に連れて来てくれる手筈だ。私が考えた作戦だ!!!私の!!!ムッフフ〜〜!」
周りの将兵からは「おぉ!」っと言う声が聞こえてくる。その中で、ベネット中将は誰にも聞こえない程度に小さくチッと舌打ちを打った。
「チッ!……あのジーギスとか言う外務局長か…相変わらずセコイ野郎だなムオントは。」
「…情報によれば、ジーギスには不治の病を患ってある娘が一人居るそうで…」
スコミムス大尉は袖から小さなメモ用紙を手に取り、それを読み上げた。
「あぁ…『ルカの秘薬』を取引のカードにして、協力させてる。……ハルディーク皇国の常套手段だ『ルカの秘薬』をエサに内部から裏切り者になりそうな人材を見つけ利用する。」
「……成る程、それで最低限の被害で作戦が成功すればかなりの大手柄ですね。数ヶ月前、ムオント少将がコソコソやっていたのはこれでしたか。モガモスカ中将殿も可哀想ですね、手柄を全て持っていかれる。」
「………。」
「ベネット中将、貴方様は動かないのですか?」
「ゲヒッ!さぁな…。」
そう言うとベネットはスッと立ち上がりテントから出て行った。スコミムスも彼の後に続き、テントを後にする。周りの将兵達は彼らが出て行った事など気付かずに話し合いを続けている。
「それにしても、飛行戦艦が使えないのは残念でしたね。」
「いやはや全くだ。飛行戦艦からの援護があれば、間違いなく被害はもっと少なかっただろう。…だが仕方がない、まさかこのアルフヘイムが『ミスリル地帯』だったとは…。」
ミスリル地帯とは、『ミスリル』と呼ばれる特殊な鉱物を含んだ地帯の事である。この『ミスリル』は特殊な魔力を秘めていた。見た目の美しさから装飾品としての人気が高い魔鉱石である。
その魔鉱石に秘められた力とは、飛行戦艦などの宙を浮く乗り物にとって必要不可欠な動力源を『無効化』する力であった。
ハルディーク皇国やサヘナンティス帝国が使用している『飛行戦艦』…これらの動力源は、特殊な魔導駆動炉から発生するエネルギーを使用している。ハルディーク皇国は蒸気機関に特化し…サヘナンティス帝国はプロペラ発動機に特化していた。両国共に違う所で特化した部分があるが、唯一共通している動力源がある。
ーー『飛行石』である。
あれほどの大きな船体に推進力、浮力、機動力そして、砲撃を行う際の衝撃に耐えるには、魔導駆動炉だけでは不足なのである。その為、『飛行石』が必要不可欠なのだ。そして、『飛行石』自体非常に貴重な鉱物資源である。
「『ミスリル地帯』か…全く、無敵と思っていた飛行戦艦や戦闘機も厄介な弱点を持ってしまったモノだ。」
「だがこれから『ミスリル地帯』でも飛行可能な飛行石の開発が出来ればー」
「はっ!そんなモノ造れる訳がない。ミスリル地帯に関係なく飛行可能な乗り物などー」
「噂ではあのレムリア共和国が、そのミスリル地帯でも飛行可能な人工飛行石の開発に成功したとか…」
パンッ
ムオント少将が手を叩くと周りの声が一斉に止まった。
「まぁまぁ、取り敢えずは例の協力者が来るのを気長に待とうではないか。」
そこへ1人の兵士がテントの中へと入って来る。
「失礼します…少将殿……」
兵士がムオント少将に耳打ちをすると、彼はニヤリと笑いながらテントを後にした。
ーーアルフヘイム神聖国 王樹
「フレイヤ!フレイヤはどこだ!」
ウェンドゥイルは大声を出しながら廊下を歩き、娘であるフレイヤを探していた。周りの兵士や使用人達は何事かと思い、通り過ぎていくウェンドゥイルを見ていた。
「せ、聖王陛下!」
「おぉ!ロッタか、フレイヤを見なかったか?」
「そ、それが…十数分ほど前に、ジーギス外務局長の馬車と一緒に姫君が乗っているのを見たという者がー」
「何だとッ!ど、どう言う事だ⁉︎」
「分かりません…それに馬車が向かった方向は、ハルディーク皇国軍が現在駐留しているアラド大森林へと…これは…明らかな裏切りです。恐らく…ニホン国との連絡も彼が止めていたのでしょう。」
ウェンドゥイルは頭を抱えた。今まで共に苦難を乗り越えて来た友が何故、この様な行動をしたのか……とても信じられなかった。
「ジーギス……何故……いや、それよりも今はフレイヤを取り戻す事が最優先だ!至急軍を整え次第、ジーギスの向かった場所まで向かいフレイヤを奪還せよ!!!」
「はっ!!!既に準備は進めております!」
「『土人形兵』も導入しろ!もはや出し惜しみなどしておられぬ!」
「はっ!」
ロッタは急いでその場を離れる。残ったウェンドゥイルは静かに夜空を眺めながら祈った。
(あぁ…我らの神スアールよ。どうか娘をお護りください……そしてどうか…この国をお護り下さい。)
ブックマークしていた作品を読み返すと…やっぱり他人の作った作品は本当に面白くてワクワクする。




