第89話 何かを守る為には……
大分遅くなりました(泣)
申し訳ありません!!!
ーー明朝 アルフヘイム神聖国 東海岸城塞
濃い朝霧が海岸を覆う。兵士達は、何時もと変わらない様子で見張りを続けていた。
変わらない日常に、城塞は何処と無く緊張感の無い空気が漂っていた。
「ほわぁ……眠いなぁ…早く帰って一杯やりたい気分だな。」
「気持ちはわかるがな…もっと気を引き締めないと上官殿に叱られるぞ?何のために聖王陛下が警備の強化命令をー」
「分かってるさ。でも…こんな所までハルディーク皇国やその傘下国は攻め込んでは来ないだろ?国はコッチからは仕掛けないと言ってるしな。」
例え日本がハルディーク皇国と戦を始めたとしても…日本と同盟を結んでいるとしても、自分達の国にハルディーク皇国が攻め込んでくると考える者は少なかった。
ーハルディーク皇国の敵は日本、自分達には直ぐに危害は訪れないー
しかし…
ブォォォォォォーーー!!!ブォォォォォォーーー!
突然、重低な音が鳴り響いた。見張り塔に備え付けられた、大角貝の角笛が城塞中に響き渡る。兵士達のダラけていた空気や眠気は強制的に醒まされた。
「な⁉︎大角貝の角笛⁉︎…って事は…敵⁉︎」
「バカな!!!駐在島からは何もッ」
「あいつら何してるんだ⁉︎」
色々と疑問に思う事は沢山あるが、兎に角今は戦闘準備を整えることが優先だった。
兵士達は城壁上へと整列し弓を構え、外殻塔のバリスタには大矢を装填する。
「……………。」
静寂が包み込み、朝霧が少しずつ晴れていく。兵士達の緊張に満ちた顔が時間が経つと共に更に険しさを増していく。
「…ッ⁉︎見えたぞ!!!」
霧が晴れると、水平線を覆う数の大艦隊が現れた。
「間違いない…あの旗は……ハルディーク皇国の艦隊だ!」
「ひ、怯むな!いくら大きな軍船で来ようとも、あのまま近づけば、座礁は必須!小舟で乗り込んでくる時に、ありったけの矢の雨をくらわせてやれ!」
指揮官の言葉の通り、あのまま近づいて来れば、間違いなす船は座礁する。座礁する浅瀬から城塞までの距離では、バリスタも届かない。大砲すらギリギリ届くか届かないかである。
「だから恐れる事はなー」
ドゴォォォン!!!ドゴォォ!ドゴォォォン!!!
突然城塞のあちこちで大きな爆発が発生した。兵士達は吹き飛ばされ、城壁も大きな穴をポッカリと開ける所も出てしまう。
「ウゥ…な、何が起きてー」
1人の生き残った兵士が何とか立ち上がり、朦朧とする意識の中で、ハルディーク皇国の艦隊から何やら煙が出ていることに気づいた。
「ま、まさか…大砲⁉︎バカな…こ、こんな距離まで……届くのか…列強国の…大砲……は…」
パタリと意識を無くしてしまう。そして、続けざまに城塞の複数箇所から大爆発が起き始める。その合間の中では、ひたすらに兵士達の悲鳴のみが響き渡る。
ーー東海岸城塞から2㎞地点 ガットゥ艦隊
絢爛たるハルディーク皇国の砲艦艦隊から続けざまに聴こえてくる砲撃音。甲板から見えるのは、一方的に崩壊していくアルフヘイム神聖国の東海岸城塞。
「うむ!実に良い、順調だな。圧倒的な火力と文明力で敵を圧倒する!コレぞ私の望んだ戦場よ!」
ガットゥ艦隊の旗艦『ギアントル』の艦橋から望遠鏡を使い、上機嫌で喋るモガモスカ中将がいた。
「よーし!砲撃中止!各艦小型輸送船で上陸を開始せよ!」
「「ハッ!」」
モガモスカ中将の命令に答える将兵達は、それぞれが率いる隊へ出撃の指示を出す。ガットゥ艦橋の輸送艦から次々と降ろされる小型輸送船。黒い蒸気を上げながら海岸へ向けて進んでいく。
その第2陣の上陸部隊の中に、ベネット中将がいた。
「ゲッゲッゲ!戦場だ!戦場が俺を待ってるぜ!」
彼は小型輸送船から身を取り出し、両手にリボルバー拳銃を構えながら不気味な笑い声をあげていた。
近くの小型輸送船に乗っていた別の隊は、そんな彼を気味悪がって見ていたが、当の本人率いる部隊は、見慣れた彼の姿に、何か思う事なくただ黙って小型輸送船に揺られながら乗っていた。
暫くすると、先に上陸していた第1陣から銃声が聴こえてくる。
ダーン……ダンダーン!…ダーン!
パパパパパ……パパパッ
ーーアルフヘイム神聖国 東海岸城塞
ガットゥ艦隊からの艦砲射撃により、瓦礫の山と化した東側城塞は、多数のエルフ族の兵士達の死屍累々となっていた。
東側城塞破壊後、小型の蒸気輸送船を使い、第1陣の上陸部隊約2000人を上陸させ、東海岸城塞をほぼ確保しつつあった。
ハルディーク皇国軍は、海岸の至る所に拠点のテントを張っていた。第2陣があと少しで上陸する頃には、もう既に海岸での戦闘は終結してしまっていた。
あとは、生き残ったアルフヘイム神聖国の兵士を片付けるだけであった。
ダーーン!ダーーン!
「た、助けー」
「うわぁー!!!」
「どうか慈悲を!慈悲をーー!!!」
ダーーン!ダーーン!
生き残った兵士を一箇所に集め、1人ずつ射殺していた。彼らの慈悲を乞う願いも虚しく、1発…また1発と銃声が響いていく。
「ムッフフフ…いやぁ〜実に良い響きですねぇ〜…ムッフフフフフフ。」
次々と無抵抗のエルフ族の兵士達が殺されていく姿を心地好さそうに眺めていた、1人の小太りの男性がいた。彼は、海岸に用意させていた自分用の豪華な椅子にどっかりと座り、酒の入ったグラスを片手にニヤニヤと笑っていた。
第1陣上陸部隊の指揮官であるムオント少将。ベネット程ではないにしろ、その非情かつ残酷な性格から手段を選ばずに任務を指揮する将兵である。
「ムッフフ〜〜……。」
「ムオント少将、第2陣の上陸部隊が到着しました。」
「うむ、そうかそうか。」
「失礼します!東海岸城塞の完全確保完了しました!現在、各隊ごとで通信テント及び武器庫の設営にあたっております!」
「うむ、順調だねぇ〜。いやぁ〜イール王国へ攻め込んだバルザック艦隊は、死神を引いちゃったみたいだけど…コッチは問題なさそうだねぇ〜。まぁ本国としてはコッチ側が主目的なんだけどねえ、ムッフフフ。」
着々と海岸に前線基地を創りつつある中、数人の兵士達が慌てた様子でやって来た。
「ムオント少将!…森へ入った偵察隊15名!全滅いたしました!」
報告をした兵士の後ろには、体の至る所に矢が射られている、ハルディーク皇国軍兵士の死体が運ばれていた。
「ムフゥ〜〜?……アルフヘイムの守備隊だなぁ。まぁ仕方のない事だ…飛行戦艦隊の旗艦『パーゴラ』へ通信だ。飛行戦艦で海岸付近の森林地帯へ向けて上空からの掃討砲撃を要求すると伝えろ。」
「ハッ!」
「ムッフフフ…文明の利器はこっからが本番だ!」
ーー飛行戦艦 旗艦『パーゴラ』
ガットゥ艦隊が水平線を覆う海の上空を、100隻近い飛行戦艦の艦隊が、巨大な4つのプロペラを唸らせながらゆっくりと、東海岸へ近づいて来る。
煙突からは黒煙が立ち昇り、飛行戦艦が進むにつれて、長い黒線の様になっている。
そのガットゥ艦隊内飛行戦艦艦隊の旗艦、飛行戦艦『パーゴラ』は、列の先頭を悠々と飛行していた。
「第1陣上陸部隊指揮官ムオント少将からで、東海岸付近の森林地帯の掃討砲撃を要請しています!」
「既に偵察部隊15名が、森林地帯のアルフヘイムの守備隊により殺られています!」
艦橋の通信兵からの報告を聞いた指揮官ロガーナ少将は、命令を下す。
「了解!直ちに掃討砲撃を開始する。上陸部隊に暫し、森林地帯付近から離れるよう通信を送れ!今から10分後に、掃討砲撃を開始する!」
「「ハッ!」」
飛行戦艦の飛行兵達が慌しく動き始める。
『総員に告ぐ!これより砲撃を開始する!直ちに準備に取りかかれ!繰り返す!砲撃準備にかかれ!』
飛行戦艦の艦底に艦載された2連装の砲塔2基が、ゆっくりと砲門を動かし始める。飛行兵達は、急いで砲弾を装填し砲撃準備を着々と整える。
『旗艦パーゴラを始めとする1番艦から25番艦の砲撃準備完了致しました!』
『第1陣上陸部隊のムオント少将からです!兵達の避難準備が完了したとのことです!』
『間も無く砲撃予定地点上空です。』
『高度500m!風速3m弱!』
『ロガーナ少将!いつでもいけます!』
砲撃準備が整った事を確認すると、ロガーナ少将は各艦へ向けて命令を下す!
「用意!……撃てぇ!!!」
ドドドドーーーンッ!!!ドドドーーー!!!ドドドドーーンッ!!!
大きな轟音と同時に砲口が火を吹いた。海岸付近の森林は瞬く間に大きな爆炎に飲み込まれていく。
「ぎゃあああああああーーーー!!!」
「熱いッ!熱い熱いッ!!!」
業火の海へと変わった森からは、四肢が千切れ、焼かれのたうち回るエルフの警備兵達がゾロゾロと出てきた。火の海から逃れる為に出て来た所を、海岸で待機していたハルディーク皇国軍が銃で撃って仕留める。
その中には無論、ベネットの姿も見られ、楽しそうにリボルバーを撃ち続けていた。
「ゲーゲッゲッゲッ!」
離れたテントから様子を見ていたムオント少将は、直ぐ様近くの通信機を使い、上空の飛行戦艦へ伝令を送る。
「そのまま森林を超えて、王都を火の海にしろ!アルフヘイム神聖国に翼龍の類を使った飛行戦力は存在しない!安心して進め!」
ーー飛行戦艦 旗艦『パーゴラ』
「地上のムオント少将より再び入電!『このまま王都へ侵攻し上空からの掃討砲撃を開始せよ』との事です!」
「了解した。操縦士!そのまま全速前進!通信
兵は他の飛行戦艦にこれと同じ事を伝えよ!」
「「ハッ!」」
旗艦『パーゴラ』を先頭に、ハルディーク皇国軍の飛行戦艦団は、そのままアルフヘイム神聖国の王都を蹂躙すべく前進を開始した。
「良し!このまま一気にー」
次の瞬間、突然旗艦『パーゴラ』が大きく振れ始めた。その揺れはだんだんと大きくなり、立っている事さえままならない程であった。
「ウワッ!な、何事だ!」
指揮官のロガーナは、必死に手すりに掴まりながら、窓の外を見た。
すると、自分以外の飛行戦艦が次々と不安定な飛び方をしている事に気付いた。
「なっ⁉︎ど、どうなってー」
「か、艦長!!!」
そこへ数人の魔導師と機工士が血相を変えてやって来た。
「こ、今度は何だ⁉︎」
「と、突然申し訳ありません!ですが、直ぐにでも引き返して下さい!今直ぐにです!」
「何を言ってー」
『こちら動力室!全ての魔導蒸気動力が不安定に…しゅ、出力500以下にまで低下!』
『こ、このままでは完全に動力が止まってしまいます!』
『1番から3番の魔導蒸気動力停止!浮力維持できません!あと十数秒で墜落してしまいます!』
動力室から一斉に緊急事態の報告が聞こえて来た。ロガーナは何がなんだかわからない状況ではあったが、直ぐに魔導師達の方へ向き直す。
「な、何が起きているのだ!」
「『ミスリル』です!この国は『ミスリル地帯』です!直ぐに引き返して下さい!」
ロガーナは直ぐに飛行艦隊を、離れの群島まで引き返させた。運良く墜落した飛行戦艦は無く、本土から離れると魔導蒸気動力も元の状態へと戻った。
ーーアルフヘイム神聖国 王都
王都内は多くの民が、沢山の荷物を抱えたり荷馬車に乗せて移動をしていた。全員の顔からは恐怖と不安が表れている。
「急げ!早く地下へ避難するんだ!」
「女子供が優先だ!落ち着いて進んで!」
「荷物は必要最小限にしておけ!少しでも多くが地下へ避難できるようにするんだ!」
〜〜ハルディーク皇国軍の襲来!〜〜
この報告が、東海岸城塞の兵士から送られて来て直ぐに、連絡が途絶えてしまった事で、聖王ウェンドゥイルは緊急事態令を発令した。
多くの兵士が決戦に備え、準備を急ピッチで進めていた。女子供は王樹の地下へと避難させる。
ウェンドゥイルも鎧を装備し、謁見の間にて将軍達を集め作戦会議を始めていた。
「現在ハルディーク皇国軍の陸海空の三軍は、東海岸城塞へ侵攻を開始。そして、東海岸城塞は完全に敵の手に落ちました。」
「東海岸沿い森林の守備隊が決死の海岸奪還を図ろうとしましたが、その前に敵の空飛ぶ箱舟から放たれた砲撃により全滅。生存者は絶望的かと…」
「現時点での我が国の戦死者は2000を超えてます。第1、2、3の防衛線に展開している兵と王都にいる兵を合わせて残りは5000人…それに対しハルディーク皇国軍は、陸軍はおよそ10万以上…空飛ぶ箱舟は200隻以上…軍船は150隻…物量の差は絶望的かとー」
ウェンドゥイルは頭を抱える。どうしようもないハルディーク皇国軍との圧倒的な差をどう補い、どう戦うか…正直勝てる見込みはゼロに近い。
唯一の望みは…
「…ジーギス外務局長を呼んでくれ。」
「ハッ!」
数分後、兵士がジーギス外務局長を連れてやって来た。ウェンドゥイルは、彼が何処か落ち着かない様子に気付いた。
「お、お呼びでしょうか?聖王陛下。」
「ジーギスよ…本当にニホン国からの援軍要請などは来ておらぬのだな?…ニホン国からの連絡は何もないのだな?」
ウェンドゥイルは強くジーギスに問い掛けるが、ジーギスは首を横に振った。
「も、勿論でございます。ニホン国からの要請は何もありません。」
「では…早急にニホン国へ連絡を取れ。あの国の力ならそう時間は掛からずに援軍に駆けつけてくれるだろう。……ニホン国から預かっている無線機を使うのだぞ、良いな?」
「ハッ!早急に…」
ジーギスはその場を後にする。すると、彼とは入れ替わる形で、1人の将兵が深刻な顔で扉を開けて入って来た。
「どうかしたのか?」
「聖王陛下……ガラフ樹林の第3防衛線基地が落ちました!」
「なにッ⁉︎」
「まて、アーウィン殿!ガラフ樹林を任せていたルーゾ戦士長は⁉︎」
「……討ち死を……」
「くっ!」
「おのれ!ハルディーク皇国ッ!」
予想よりも早く第3防衛線が破られた事にウェンドゥイル達は焦っていた。このままでは、2日以内でアルフヘイム神聖国が滅ぼされてしまう事に…
「今は、ガラフ樹林第2防衛線のアドラ大森林間で、決死の抵抗で敵の侵攻を抑えていますが……いつまで保つか。敵がアドラ大森林まで到達するのは時間の問題です。」
「……やはりココは…ニホン国からの援軍に期待するしかありませんな。」
アルフヘイム神聖国の将校達は、誰1人自国だけの力では勝てない戦争であると感じていた。そして、ニホン国だけが頼みの綱だと思っていた。あの国へ実際に赴いた事のあるウェンドゥイルは尚更そう思った。
「………少し席を外すぞ。」
「……ハッ」
ウェンドゥイルは少し足早で謁見の間を後にした。そして、ある場所へと向かう。
ーーフレイヤの部屋
「戦争か……嫌だな。」
聖王ウェンドゥイルの娘、フレイヤは窓近くの椅子に座りながらボソリと呟く。つい数時間ほど前から始まったハルディーク皇国との戦争…彼女はまた多くの犠牲者が出てしまう事を気に病んでいた。
コンコンッ
「入るぞ?」
ギィ……
「お、お父様ッ」
そこへウェンドゥイルが部屋に入ってきた。彼は出来るだけ平然を装いながら娘の元へと歩み寄るが、彼女の座り方を見て深いため息をつく。
「フレイヤ……もう少しお淑やかに…」
「え?」
フレイヤは、片膝を立てながらあぐらをかいて椅子にすまり、頬杖をつきながら窓を眺めていた。美しい外見と服装からは似つかわしくない格好である。
「アッ⁉︎…ご、ゴメッ…じゃねぁや…えーっと、も、申し訳ございません、お父様。」
慌てたように姿勢を直し、言葉遣いもギリギリ粗暴な感じを抑えながら、申し訳無さそうにペコリと頭を下げる。
ウェンドゥイルはまた溜息をつくが、もはや見慣れた光景であった。何よりもこんな状況で、あの様な光景を見た事で少し緊張感がほぐれた気分になった。
「はははッ…お前は変わらんな。」
「……じ、自分でも何とかエルフ族の姫としての自覚を持って…姫様らしくしようとは思っているのですが……。」
落ち込んだ様子のフレイヤに対し、ウェンドゥイルは優しく微笑みながら彼女の頭を撫でた。
「…そういう不器用さは母親似だな。お前の母…フランもお前と同じように、男勝りで少し粗暴な印象の強い…ヤンチャな人だったよ。王妃としての行動を心掛けていても…どうしても素の自分が出てしまう。でも…彼女はとても優しくて…あったかくて……素晴らしい女性だった。」
「お母様……」
「だからなフレイヤ…正直な話…今まで通りのお前でいてくれればそれで良いんだ。」
「……うん。」
ウェンドゥイルはフレイヤを抱き締める。フレイヤは、父親の温もりを感じながら静かに顔でうずくめる。
「……なぁフレイヤ。」
「ん?」
ウェンドゥイルは今まで聞けなかった事をフレイヤに聞いた。
「…お前の……龍と会話が出来る能力は、お前の母親…フランから受け継いだ能力だと言うことは…知っているな?」
「うん。」
「…お前は…その能力を持って…幸せか?……産まれた事を…後悔してないか?あの……10年前も…。」
フレイヤは少しの間黙ってしまった。
10年前のあの事件……。
ほんの少しの沈黙が、ウェンドゥイルには長く感じた。そしてー
「ううん…確かに大変な事もあったけど…この能力があったから、いろんな人にも出会う事が出来たの。10年前の事件も……私は背負って生きていくつもりよ。」
ウェンドゥイルは、いつの間にか逞しく育っている娘の成長を誇らしく思うと同時に、自分も嘆いてはいられないという気持ちになった。
(そうだ…娘がこんなにも強く生きているのだ…私も…負けられんな。)
ーー
その後、フレイヤは廊下を歩いていた。少し部屋を出て行くと、周りは兵士達が忙しそうに走り回っている光景ばかりが目に入ってくる。いつもの穏やかな国の様子とは違う。
フレイヤはこの国が戦争中であるという実感を改めて感じた。
そして、彼女なりにどうすればこの戦争から民を…父を守れるのかを考える。
「(連中は何故エルフの国へ攻めて来た?…何か目的が無ければ絶対に……まさか…)」
「…ひ、姫様。」
そこへ外務局長のジーギスが現れた。彼は少し挙動不振な様子だったが、フレイヤはこの状況ならば無理も無いと思い、特に気にとめなかった。
「ジーギス?…どうかしたの?」
「…姫様ッ!失礼を承知で、少し聞きたい事がございます。」
「え?…え⁉︎」
「もし…自分が最も大切な存在を守る為に…大きな犠牲を払わなければならないとしたら…ひ、姫様はどうしますか?」
突然の質問にフレイヤは少し戸惑ったが、少し考えた後、ジーギスの眼を真っ直ぐに見つめながら答える。
「…後悔しない道を選びます。」
フレイヤの答えを聞いたジーギスは、数秒の沈黙の後に微笑みながら彼女に御礼を言った。
「………ありがとうございます。」
その後、彼は引き返していった。フレイヤは、彼が何の意味であの様な事を聞いてきたのか、いまいちよく分からなかった。
「何だったんだ?……あっ!ジーギス!!!」
フレイヤは何かを思い出し、彼を呼んだ。ジーギスは、呼ばれた事に気が付き、スッと振り向いた。
「ニホン国からの援軍……これが無いと私たちの国は侵略される。必ず…助けの声を届けてッ!」
「…む、無論です。」
「それから……メリアの容態は?…もし落ち着いてるのなら…彼女に宜しくと伝えてね。」
「は、はい。必ず…娘に伝えます。」
ジーギスが考えている事……鋭い人は解るかもですね。




