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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第5章 ハルディーク皇国編
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第85話 港町ニベナスにて…

ーー翌日 イール王国



王城では朝からバタバタと騒がしくなっていた。昨晩の第五駐屯地襲撃事件もそうだが、1番は王城内の役人及び衛兵達の姿が忽然と消えた事…そして、その消えた者達の死体が離れた場所で全員見つかったことに。



「王国内は大混乱だ…ニホン軍の基地のタキカワ殿からの報告が無ければ、我がイール王国は知らぬ間に敵を内側に入れたままであっただろう。」



ギーマ国王は玉座に座りながら、自国の不甲斐なさに深くショックを受けていた。



「できればそのハルディーク皇国からの密偵達を捕らえたかった所ですが、全員がこの報告を受けた直後に忽然と姿を消してます。」


「恐らく、情報部隊にも密偵が潜んでいたのだろう。だからいち早く仲間に知らせて、逃げることができた。」


「それに比べてニホン軍…いや、ジエイタイの皆様は、密偵を1人残らず破壊工作1つさせずに捕らえた…オマケに謎の怪物すら撃退したとなると…。」


「…もうニホン様様だな。」



ギーマ国王は深く考え込む。



「ニホン国には、国を助けてもらい…妻を助けてもらい…もう何で礼を返せば良いか分からなくなって来た。もしかしたら、ニホンは我が国の主権を要求してくるやも…」


「こ、国王陛下⁉︎それは幾ら何でも…」


「分かっている!…だがこうも助けられてばかりでは…向こうは何かしら足元を見てくる可能性も無きにしもあらず…」



するとそこへ1人の従者が現れ、ギーマ国王に報告をする。



「国王陛下!ニホン国第五駐屯地のタキカワ殿がお見えになっています。何でも…折り入って相談があるとの事で…」



この報告を聞いた側近達とギーマ国王は、ヒヤリとした。まさか本当に無理難題を押し付けて、恩着せがましく我が国の主権を奪うつもりか…この様な考えが一瞬ではあったが頭をよぎる。



「いかが致しましょうか?…お忙しい様であれば、外務局長に対応する様に話しますか?」


「い、いや良い。ここへ連れて参れ。」


「ハッ!」



ドクンドクンと心臓の鼓動が激しくなるのが分かる。一体何を提案してくるのか…何れにせよ、我が国が拒否できる立場にない事は確かである。



(……どうなる?どうなるのだ?)



暫くして、滝川陸将補が謁見の間にやって来た。彼は一定の距離まで歩くと、ピタッと止まり、キレの良い敬礼を行う。ギーマ国王もそれに応える様軽く頷く。



「日本国第五駐屯地司令長官の滝川と申します!本日はお忙しい中、話に応じてくださり、誠に有難う御座います。」


「う、うむ。…して話とは?」



周りに緊張が走る。一体何を要求してくるのか…



「実は…」








ーー第五駐屯地 本部 作戦会議室



部屋の奥にセットされた大型のスマートガラスに映し出されていたのは、昨晩のミノタウロスとの戦闘が行われた場所であった。そこにあった監視カメラに映し出された映像を見ながら、幹部自衛官達は、真剣な表情で見ていた。


そして、映像はあの煙が発生して消えた場面へと変わると一時停止をする。



「ココです…赤外線カメラの映像では、あの白い煙が発生したと同時に2人の男…敵の隠密部隊が現れ、怪物から何か…いや『誰か』を引き抜いて連れて行く姿を捉えました。」



1人の幹部自衛官が手を上げて質問をする。



「その逃げた侵入者は捕まえたのか?」


「この3名は今現在『A・W』が追跡し、泳がせていました。」



『A・W』で追跡をさせ、ワザと捕まえないでいた理由は、敵のアジトを見つけ出すことであった。今回の襲撃により、大きな被害を受ければ必ず何処かで体制を立て直すか作戦を練るかをする筈と見込んだ故の結果である。



「成る程ね、であればもうあらかた目処は立っているので?」


「ハイ…この3名は、忘れられた港町ニベナスに逃げ込みました。確かにここは殆ど人が住んでいないゴーストタウンに近い町です。話によれば、この国の警備兵も不気味ゆえに見廻りを怠っていたり、甘かったりする事が多いそうです。」



港町ニベナスは、イール王国の港町の1つとしてかつては栄えていた場所である。しかし、流行り病が流行った事により、別の場所への移動を余儀なくされてしまった。今現在、病はとっくに落ち着いてはいるものの、現地の人々は不気味がり近づこうとしない。更には警備兵もここだけは素通りする事もザラにあると言う。


殆ど人がいない町で、警備も緩い。こんな絶好な隠れ場は先ず無いだろうと全員が思った。



「まぁ隠れ家の方は良しとして…敵勢力艦隊の数はどうなんだ?そこは衛星で確認取れているのか?」


「敵艦隊の数は少なくとも500隻…結構な数ですね。もし、序盤でこの数で攻め込まれていたら、『あさひ』はやられていた可能性もあります。しかし、敵はそれをしなかった。…敵艦隊は少しずつ南下しています。恐らく隠密部隊の作戦が成功していると思い込んで、本隊を送ったのでしょう。」



最新の戦略人工衛星写真により、敵艦隊が集結しイール王国へ向かい始めているとの情報を掴んでいた。いよいよ始まる敵主力と思われる艦隊との戦闘に、幹部自衛官達はそれぞれの持ち場に戻って準備を始める。



「敵の航空戦力に対して、『おおすぎ』に搭載されてるF-35Jで事足りると思うか?」


「敵の航空戦力は未知数ですが、恐らくは大丈夫かと。」


「確か衛星写真では飛行船と複葉機が確認されたんだろ?だったら問題ないのでは?」



すると壇上で話をしていた自衛官がスマートガラスを操作して、とある衛星写真を見せる。そこに写っていたのは、複数の複葉機と飛行船が編成飛行をしている写真であった。しかし、注目する所はその真ん中を飛ぶ物体…形状からして『龍』であった。



「これはハルディーク皇国の主力の1つと考えられる『真龍』と呼ばれる龍の一種です。真龍は、龍の中でも上位種で、単純な戦闘能力であれば『炎龍』にも劣らないと呼ばれております。」



衛星写真に写る真龍。編成を組む中で、真ん中を飛行するあたりハルディーク皇国の航空戦力の中の主力の1つと捉えてもおかしくは無い。


問題はその性能であったが、『真龍』は希少も希少である為、『真龍』を有している国はハルディーク皇国だけであった。噂によれば真龍は古代龍の血を引いている為に、謎の霧を吐き出す事が出来ると言われている。この言葉を聞いた幹部自衛官達は一瞬凍りつく。



「あの時…亜人族国家の王達が来た時だ……あの時も霧を纏った古代龍が突然と現れた。それが直ぐ頭上に現れるまで誰も気がつかなった…誰もだ!!!」



誰も気がつかなった。管制塔にも…つまりそれは、現代科学のレーダーにも写らずに、掻いくぐることが出来る性質を秘めた霧である事がわかる。それを真龍が使え…敵がその真龍を有しているとなると。



「……真っ先に狙うは真龍だな。」








ーー港町ニベナス


かつては栄えていた港町ニベナス。今では綺麗な海とは裏腹にボロボロとなった建物ばかりが連なるゴーストタウンとなっていた。


その中の小さなボロ屋に、2人の『スキアーズ』がいた。2人はかなり疲労していたが、1番危険なのはヨルチであった。身体中傷だらけの状態で、ゴザの上で横たわる。



「はぁ…はぁ…最悪だ。作戦失敗…本部への連絡手段も無い……」


「連絡がなければ向こうは作戦成功と受け止める……マズイな。」



そして、物陰からはゾロゾロと他のスキアーズ達が集まってくる。



「…失敗か……俺たちも落ちたものだな。」


スキアーズ……元々は第2世界に存在する隠密部隊を元に作られた組織と聞いていた。…最初は紛い物みたいな存在である事に嫌気があったが…今では自分たちこそが元祖だと思うようになって来た…それがこのザマだ。」


「何だとッ」


「よせ…争っても仕方ない。とにかく隊長を手当てしよう…」



するとそこへ別のスキアーズが音も無く現れる。



「…見知らぬ者が5名来てる…ヒトではない。」


「付けられたか……仕方ない。」



スキアーズ達が一斉に武器を持って、脱兎のごとく建物から出る。そして、個々が別の建物の陰へと入り、侵入者を迎え討とうとする。


そこへ現れたのは『A・W』であった。


光学迷彩ステルスを付けているとは言え、周りの景色との僅かなズレや歪みの違いを、隠密のプロである彼らが見逃すはずがなかった。



『……目標ターゲット不確認ロスト。索敵開始。』



『A・W』が辺りを見ながらゆっくりと歩を進めて行く。スキアーズ達は、互いに目を配り、攻撃の合図を伺う。そして、『A・W』がある建物の中へ入ろうとした次の瞬間ー



(……そこだ!!!)



入って来た『A・W』の死角である入り口ドア付近に隠れていた2人のスキアーズが一斉に飛び出して、『A・W』の両脚を持っていた鎌剣で切断する。



『ッ⁉︎』



膝から下を斬り落とされた『A・W』は、ガシャン!っと床に落ちてしまい、その瞬間を狙って、スキアーズ達は首を斬り落とした。



『ビ…ビビッ…ガビーーッ』



バチバチとショート音を出しながら倒れ込む『A・W』。同機の異変を察知した他の『A・W』が手榴弾を取り出し、その建物の中へと放り込む。


放り込まれた手榴弾を見たスキアーズ達は、一瞬でそれが『ノヴァ』に似た爆発武器である事に気付く。



「ッ⁉︎逃げー」



ドドォォーーン!!!



建物の中で大きな爆発が起きる。スキアーズの1人はギリギリ窓から飛び出たが、1人は間に合わずに爆発に巻き込まれてしまう。



「…く、クソッ」



これにより他のスキアーズ達が、『A・W』に向かい、投げナイフなどを投擲するがさほどのダメージにはならなかったから。これにより他の『A・W』が腕部に収納されていた組み込み式の6.5㎜機関銃を露出させて、捕捉したスキアーズ達に向かって容赦のない弾丸の雨を浴びせ始める。



ドドドドドドドドッ!!!ドドドド!!!


ドドドド!!!ドドドドッ!!!ドドド!



弾幕を避けきれなかったスキアーズの何人かがバタバタと倒れてしまう。それでもなお、物陰に隠れながら投げナイフで攻撃するが、『A・W』は構わず弾丸をばら撒き続ける。


ゴーストタウンとなった港町ニベナスは、たった4機の『A・W』による機関銃の嵐で地獄と化した。



「クソッどうする⁉︎」



1人…また1人と仲間が撃ち殺される姿を、物陰に隠れながら黙ってみるしかできない事に強い苛立ちを覚える中、ある事を思い出す。



「そうだ!『ウル・ノヴァ』だ!」



すると彼は腰袋から1つの『ウル・ノヴァ』を取り出して、それを2機で固まっている『A・W』の元へ投げ出す。それはコロコロと転がって行き、見事に2機の『A・W』の間で止まる。そして数秒後に、大きな爆発が2機を襲う。



ドグォォォーン!!!



その爆発は2機を粉々に粉砕し、更には近くの建物をも巻き込んで吹き飛ばした。


他の団員も『ウル・ノヴァ』を取り出して、残りの『A・W』へ向けて投げつける。再び起こる大爆発により吹き飛ばされる『A・W』。


戦場と化した港町ニベナスに再び静寂が包み込む。



「はぁ…はぁ…終わった。」


「だな…何人やられた?」


「……20人は殺られた。」


「クソッ…たった4体に20人もか⁉︎」



この襲撃でこの国にいるスキアーズの半分以上が殺られてしまった。もう作戦続行は不可能に近かった。



「敵は恐らくここへやって来る。アジトがバレた…ここはもう終わりだ。」


「チッ…だったら」



そう言うと1人がビリビリと上着を破り始めた。露わになった上半身の真ん中には、ヨルチと同じ刺青が入れられていた。



「ヨルチ隊長は『禁呪』で沢山のニホン軍を倒した…だったら最初からこうすりゃ良かったんだ。」


「…『禁呪』を使えば最悪の場合死に…仮に生きても一生廃人となるぞ?」


「構わねぇさ…ヨルチ隊長1人ばかり背をわせられるかよ!」



この言葉を聞いた他の団員は互いに向き合いながら笑った。



「ハハッ…そうだな。」


「俺たちはハルディーク皇国の影…力……その意地を見せてやるぞ。」



他の団員達も上着を脱ぎ始めた。全員の胸にはあの刺青が掘られてある。



「ニホン軍が来たと同時に…やるぞ!」


「「おう!」」








ーー港町ニベナス付近



第五駐屯地から出発した多数のトラックや軽装甲機動車(LAV)、そして16式機動戦闘車が列を成して悪路を進んでいた。搭乗している自衛官達は、皆がフル装備と暗視装置を装着した状態で、これから向かう『スキアーズ』達のアジトへと進んでいた。



『…目標地点肉眼で確認。ここからは徒歩で進む。』



無線から聞こえる指揮官の声に、トラックはその場で停止。同時に乗っていた自衛官達が素早く下車して整列する。整列を終えると、彼の前に指揮官である中原なかはら二等陸尉が全員に聞こえる声で話し始める。



「これより昨晩、破壊工作を図ろうとした敵隠密勢力アジトへ攻撃を仕掛け、無力化する。各隊員、訓練した事を思い出し、無事に全員が生きて任務を終える事を願う。…行動開始。」



自衛官達は、港町へ入っていくと『CFW』が、先陣をきって進んでいく。F2020を構え、建物の陰から陰へと移動しながら注意深く進む。


ゆっくりと建物の1つ1つを調べながら慎重に進んで行くと、複数の建物の中から多数の生体反応を捉えた。『CFW』は、手で自衛官達に止まるよう指示を出すと、自衛官達は少し離れた木箱や木陰、建物の陰に隠れ、『CFW』が反応のあった建物の中へ入っていく。小隊の中に腕に小型モニターを装着した自衛官がその様子を見ていた。



『CFW』の暗視モニターには、複数人が固まりとなって蹲っている反応が映っていた。しかし、抵抗する様子は見られなかった。


数時間前までは、追跡していた『A・W』と激しくドンパチをしていたにも関わらず、今回は一向に攻撃を仕掛けてくる動きは無い。ただ蹲っているだけであった。


指示を求める『CFW』からの発信に、オペレーターはモニターを操作してもう少し近づく様指示を送る。指示を受信した『CFW』達は、再びゆっくりと彼らに近づこうとしたその時ー


暗視モニターに映っていた彼らの反応が急激に大きくなり始めた。ムクムクと膨れ上がるそれは、天井にも達し、ミシミシと壊れる音が聞こえ始める。



「な、何だッ⁉︎」



『CFW』越しのモニターを見て驚愕するオペレーター。それは他の建物の中でも起きていた。そして遂に、巨大化するそれらは天井を破壊してその姿が月明かりの元鮮明に照らされる。



グォォォォォォォーー!!!



それは昨晩、第五駐屯地で暴れたあの『ミノタウロス』であった。その数は15体で、1体だけでもかなり厄介であったアイツが、今度は15体…状況は深刻である。


早速近くにいた1機の『CFW』が避難射撃を行なったが当然大した効果も無く、ミノタウロスの巨木の様な太い腕が『CFW』に襲い掛かる。



グシャッ!



振り回された腕が『CFW』に直撃し、『CFW』は建物の壁を突き破り外へと吹き飛ばされてしまう。装甲の造りが『A・W』と違う為、戦闘不能には至っていないが、片腕がグシャグシャに曲がってしまっていた。



「…各員それぞれを援護しながら攻撃開始!絶対近づくな!近づかれたら終わりだ!」


「「了解ッ」」



中原二尉の指示を聞いた自衛官達は、一斉に隠れていた物陰から身を出して、ミノタウロスへ向けて20式小銃の引き金を引いた。



静寂な夜、忘れ去られた港町に乾いた破裂音と低い咆哮が響き渡る。







ーークドゥム藩王国 国境付近の関所



クドゥム藩王国…ドム大陸の中でも特にどっちつかずの立場を有してきた国で、悪く言えば日和見主義である。しかし、日本の出現により、クドゥム藩王国内のインフラ設備や日本の品々を輸入する事で、その富と繁栄がうなぎ登りとなっている。結果、クドゥム藩王国は他のどの国よりも日本のご機嫌を取って、少しでも甘い汁を吸おうと躍起になっている。しかし、高官の中には、日本に恩を売ってその借りを何らかの形で返して貰おうと企む輩も少なくない。


『今回の件』もその輩によって手引きされたものである。




「よーし!次の団体の検問行うぞ!」



関所管理のクドゥム藩王国兵士がズラリと並ぶ荷馬車の列に声を掛ける。列からは「おーう」っと言う声が聞かれ一台ずつ関所を通り、監査を受けた馬車から進むことが出来る。


そして、その一団が検問を終えると門をくぐり薄暗い夜道を進んでいった。その後から来た別の輸送馬車の団体はかなりの数であった。



「おーっと…これはまた随分な数だな。」



早速、兵士達が荷馬車の荷物を調べようとしたその時、先頭馬車の商人が兵士の1人に手招きをしていた。直ぐに兵士が商人の元へ駆け寄る。



「なんだ?何かあったのか?」


「ヘッヘッヘッ…すみませんが、ここの責任者さんはどなた様で?」


「……私がここの責任者のノーグ兵長だが?」


「おっとっと!そうでしたか。それは失礼しやした。……じゃあ先生…ちょっとお話があるのですが…それまで少しばかり検問を待ってもらえせんか?」



ノーグは少し周りを見た後、手を挙げて他の兵士に検問を一時中断するよう指示をだす。



「…話を聞こう。」


「へへへっ…んじゃまぁ…これを…」



そう言うと商人は何かがパンパンに入った小袋をノーグに手渡した。ノーグは周りに見えないようコッソリと中身を確認した。中には大量の金貨が詰まっていた。



「…ッ!これは…」


「どうかこのまま検問無しに通らせてくれやせんかい?…鉄と銅しか入ってない木箱ですよ。」



ノーグはチラリと荷台を見てみると、大量の木箱が積まれていた。それには『鉄・銅』と書かれていた。



「…どこへ運ぶ荷物だ?」


「ニホン国のウンベカントだ。」


「あ〜〜…なるほど、お前達がそうか。」



どうやら手筈通り彼らへの口利きは出来てるか様だった。するとノーグは手のひらをスッと出してきた。



「…何だ?」


「まだ懐にあんだろ?…それも寄越せ。」


「何ッ⁉︎これはオレのー」


「良いのか?…ここで騒ぎを起こしても?…あんたらの言う計画が台無しになっても?」



商人は悔しそうに歯ぎしりをするが、確かにここで事を荒立てるのは得策ではない。素直に懐からもう一袋取り出してノーグへ手渡す。



「…悪いね。」



ノーグはそれを懐へしまうと声を大にして叫んだ。



「荷馬車に異常無ーーし!!!通ってよし!開門!!!」



周りの兵士は特に気にもする事なく。荷馬車から離れていく。どうやら、クドゥム藩王国でこういった賄賂の類は日常茶飯事の様だ。


門が開かれると一団はウンベカントへ向けて進み始める。長い馬車の列を見送った後、ノーグは関所内へと戻り、みんなで金貨の山分けをしていた。


すると1人の兵士が声を掛けてきた。



「ノーグ兵士長、あの一団通して良かったんですか?ニホン国は我が国に大きな富を与えてくれた国ですよ。下手に怒らせたりしたら…」


「良いの良いの。『あいつら』がどうなろうが知ったこっちゃねぇ。」


「ですが…え?『あいつら』?」


「あの商隊だよ。ほら、貰った金貨を分けるぞ。欲しくねぇのか?」




兵士はノーグの言葉に疑問に思いながらも、ガヤつく皆と一緒に貰った賄賂金貨を受け取った。

ノーグはニヤリと笑いながら金貨を一枚、灯りに照らしながら呟く。



「本当に…気の毒だと思うよ♡」


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