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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第5章 ハルディーク皇国編
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第84話 影

ーー要塞砲艦『ヘカトンケイル』 提督室



「囮作戦は成功…っと言った所でしょうか?」


「あぁそうだ。先遣隊は囮だ。我らの主目的は、最強の『スキアーズ』達をイール王国へ侵入させ、破壊工作を行わせることだ。」



落ち着いたように話すアクアス提督の言葉を聞いていたのは、ジル中将であった。彼は多くの死線をアクアス提督とタウラス将軍と共に乗り越えて来た。



「…このことを知っているのは?」


「この戦場では私とタウラス…あと君か。そして、他の皇族最高幹部だ。だが、オリオン皇帝は知らない。」


「…戦友を死地へ送るのはやはり…気が進みませんな。」


「勝利の為だ。無論、先遣隊が上手くいけば余計な犠牲者もなくそのまま攻め込める事は出来たが、シリウスから聞いたニホン国の技術力の話…アレを聞いて、この作戦を決めた。」


「多くの仲間を失いました…辛く悲しい事です。」


「仕方がない…戦争に犠牲はつきものだ。」



アクアス提督とジル将軍は目を静かに閉じて、死んで逝った部下達を思う。


先遣隊を使ってのイール王国港町からの侵攻作戦。しかし、これは飽くまで『可能であれば良い』と言った内容の作戦であった。

日本国へ渡ったシリウスの情報を聞いた大幹部達は、完璧には信用をしてはいない。しかし、万が一を考えて保険…というよりは主目的となる侵攻部隊を用意していた。それが『スキアーズ』である。


この事をオリオン皇帝にだけ伝えていない理由は、自国の軍事力と技術力を過信している彼にこの作戦を伝えた途端に即刻中止命令が下る事は目に見えていたからである。無論、アクアス提督含めた他の大幹部達も、純粋な力で倒せるのならそうしたい。しかし、



「…ニホン国は恐らく対潜兵器に対する兵器が存在している『世界』から来た国だ。はぁー…実に厄介、またとんでもない世界なら来たものだな。」


「ならばレムリア共和国とヴァルキア大帝国と同等レベルの『世界』から来た可能性が高い…まともに戦って勝てるかどうか…」


「だったら、『まともに戦わなければ良い』だけの事……あらゆる手を使えば勝てる可能性は広がる。ニホンの力を得れば、我がハルディーク皇国の力は爆発的に飛躍する。レムリア共和国とも張り合えるようになる…そうなれば、もうあんな『イカれた宗教国家』に媚び諂う必要も無くなる。」


「…ヴァルキア大帝国は?」


「ヴァルキア大帝国も単独であの国には勝てない。たとえ気が進まなくとも、我らと手を組む他に生き残る術はないだろう。まぁ…我々はその国と手を組んでいるのだがな。」



コンコンッ


「失礼します!」


ガチャ!



そこへ1人の側近が入って来た。



「先ほどヨルチ隊長より、無事侵入成功したとの事です。」



この言葉を聞いたアクアス提督は、鼻で軽く息を吐いた後にやっとかと静かに呟く。



「…『大型魔導爆破石オル・ノヴァ』を持たせた。コレでニホン軍基地を破壊さえすれば、イール王国は親の居ない雛鳥の巣となる。」






ーー自衛隊第五駐屯地



海戦の勝利に湧く王都の市民達、普段であれば、夜でも賑やかに栄えるこの王都も、ハルディーク皇国への勝利により一層歓喜していた。兵士達も、この戦勝気分を味わおうと祭り騒ぎに参加していた。



しかし、正門にいた自衛官達はその祭りを目の片隅に置きながら、いつも通りに警備をこなしていた。するとそこへ、大量の樽を積んだ荷馬車が現れ、正門前に到着した。正門にいた自衛官数名が、荷馬車に止めるよう指示を出す。



「ハイ、止まってくださーい。」



荷馬車には2人のイール王国兵がいた。軽く挨拶を交わすと、自衛官が電子パネルを操作しながら荷馬車をジロジロと見始める。この行動を兵士は不思議そうに眺めていた。



「えーーっと……確か王城なら魚の入った樽が送られて来ると連絡があったから……02…4…53…ふむ、この馬車ですね。」


「そ、そうですか…じゃあ私達はー」


「では樽の中身を見せて下さい。」


「ッ!た、樽の中身ですか?…え、えぇ良いですよ。」



樽の中身を見せて欲しいという言葉に正直驚いた2人だった。自衛官達が用心深く、樽のフタを開け始める。


すると中から現れたのは、報告に聞いた通り、大量の魚だった。



「確かに魚ですねぇ。奥の方は…」


「ね、ねっ?何も無いですよ〜。本当に疑り深ないなぁ〜…取り敢えずこの魚はいつもの給仕棟へ運べば良いんですね?」


「えぇ、お願いします。」





ーー自衛隊第五駐屯地 給仕棟付近



樽が積まれた荷馬車は、給仕棟近くの小屋の陰に停めらていた。兵士は周りを見渡し、誰もいない事を確認すると、樽をガンガンと叩いき始めた。



「お、オイッもう良いぞ。」



すると樽の中から魚にまみれて現れたのは複数の人物…『スキアーズ』達である。彼らは、自衛隊駐屯地へ食料を届ける兵士を買収し、潜入の手助けをさせていた。



「…ふう、魚の匂いはこの『カムの葉』を潰したヤツを塗りたくれ。」



その中にはヨルチ隊長もいた。彼は部下達に緑色の軟固形物が入った小瓶を手渡す。部下達は、それを身体中に塗り始めた。これにより、魚の臭いを消す事が出来ていた。



「さて…御苦労だったな。」


「わ、解ったから…は、早く約束の金をッ!」


「あぁ…分かってる。これだろ?」



するとヨルチは懐から金貨がパンパンに入った小袋を取り出した。兵士は今すぐそれをくれと手を伸ばそうとしたその時ー



バシュッ!



隠していたもう片方の手で小型ボウガンを使って兵士の喉を貫いた。射られた兵士は荷馬車からドサっと転げ落ち、2度と起き上がる事はなかった。



「…身包みを剥がして着替えろ。このまま王城に戻り、中にいる同胞達に潜入成功の有無を伝えるのだ。」


「はっ。」



死んだ兵士の装備を奪い着替えた部下は、そのまま馬車を引いて正門へと戻って行く。土に埋めて、魚の入った樽はその場に置いていく。



「どうせこの基地はすぐに火の海になる。魚が届かない事で騒ぎ立とうが関係ない。それよりも…」



ヨルチは、少し離れた場所にある第五駐屯地本部へ目を向ける。他の建物と比べて少し大きいその建物をヨルチは、この基地の『頭』だと睨んだ。



「『ウル・ノヴァ』を仕掛けるのはあそこだ。あそこを潰せば、ニホン軍の指揮系統は完全に麻痺するに違いない。」


「では爆破と同時に信号弾を上げて、『バルザック艦隊』本隊へ進軍開始の合図を送ります。」


「さて…ニホン軍どもに復讐するぞ。」



擬態魔法で周囲に溶け込み、それぞれが本部はと向かい進み始める。全員の目からは強い殺意が込められていた。彼らの頭の中には、自衛隊を殺す事しかなかった。


だからなのか…それとも関係ないのかは分からないが、そんな彼らの背後から、同じ様に音を立てずに近寄る複数の影があった。



『……未確認侵入者確認』








ーー駐屯地内



1人のスキアーズが、本部棟へと向かい建て物に隠れては移動してを繰り返し、少しずつ距離を詰めたいく。彼の腰袋には『ウル・ノヴァ』が入っていた。



(このまま見つからずに目標地点まで到達し、任務遂行確率98%…ん?)



近くから複数の自衛官が歩いて来ることに気付いた彼は、直ぐに陰に隠れてやり過ごそうとする。何も気付かずに通り過ぎていく自衛官をジーっと見つめながら彼は考え事をする。



(…敵兵を殺しながら無事に目標地点まで到達出来る確率53%…目標地点到達し、爆破出来る確率…以前変わりなく98%…クククッ問題なしだ。)



間違いなく作戦が上手くいく事を確信した彼は、再び移動を始めようとしたその時、何かの影が月明かりに照らされ、自分の真後ろに誰かいることに気付いた。



「ッ!!!」



彼は直ぐに剣を引き抜いて後ろを振り向くと、そこには見たこともないモノが立っていた。



『目標発見。』


「…に、任務遂行確率……0.5%」



バチィッ‼︎


『目標捕獲。』





ーー第五駐屯地 指令センター



多数の点滅する画面とオペレータ達が情報処理作業する場所で、1つの画面が赤く光りだしていることに気付いたオペレータの1人が指揮官に声を掛ける。



「第7倉庫近くにて未確認侵入者確認。最付近の『AアサシンWウォーカー』が対処、捕獲しました。」


「なに?」



指揮官の町田二等陸尉は、赤い画面に注目する。一斉に他のオペレータ達が忙しそうに作業を開始する。


確かに未確認侵入者と思われる人物が監視センサーに反応し赤い点となって映し出されている。その数は確認できている中で約10人。



「…至急近辺で待機している『AアサシンWウォーカー』を出撃させろ。」


「了解。」



オペレータ達は至急近辺の『AアサシンWウォーカー』達に出撃命令を下す。更に周辺を警戒していた自衛官達にも、警戒対策を『厳』とするよう無線で指示を送る。





ーー


「おい、ピルノガ、ロランド、ギニー。」



魔伝を使って仲間達に声をかけようとするヨルチ隊長。しかし、彼らから返事が聞こえる事はなかった。そして、周りを見渡すと自衛官達の数が増え始め、基地内には多数のサーチライトが照らし出される。



(…思ったより早くバレたな…やはりニホン軍は手強い……ムカつくがそこは認めなければな。)



彼は引き続き物陰に隠れながら、周りを見渡していると、彼が以前出会った因縁の相手がそこにはいた。



「やっぱりお前もいたのか…久し振りだな『鉄の人形兵』。」



あの暗殺作戦で、自身の隊を壊滅させた『AアサシンWウォーカー』。彼は激しい怒りの憎しみが湧き上がるが、直ぐに自分をいさめた。


そして、再び魔伝を取り出してまだ連絡の取れる部下へ伝える。



「聞こえるか?…お前達は『ウル・ノヴァ』を仕掛けたら直ぐに爆破させろ。ニホン軍は思っていたより手強い。ここは俺が『禁呪』で奴等の目を惹く。」


『…良いんですか隊長?』


『…『禁呪』を使えば死にますよ。ましてやこれだけの数のニホン軍を相手にするとなるとかなり厳しいのでは?』


「かもなぁ…だが、このままでは1人また1人とやられてしまう。任務遂行の礎となるのなら本望だ。」


『…分かりました。』



魔伝の通信を切るとヨルチは上着をバサッと脱ぎ始めた。若いながらも鍛え抜かれた上半身…その胸の真ん中に黒い刺青の様なモノが彫られていた。


そして突然彼は持っていた短剣を胸に突き刺した。



「ウッ⁉︎…ぐぅ…ッ!!!」



ドクドクと流れる血を見ながら彼はブツブツと何かを呟き始める。すると彼は、建物の陰からゆっくりと出て来て、あえてサーチライトの当たる場所へと近付こうとする。そこへ、気が付いた自衛官達が一斉に彼に駆けつけて銃口を向け始める。



「止まりなさい!!!そこで止ま……ッ⁉︎」



近づく事で彼が血だらけで重傷である事に気付く。その姿に驚愕する自衛官達、直ぐに救護班を呼ぶ様声を出す。しかし、ヨルチの身体にある異変が起きていることに気付いた。



「お、おい…あいつ……角生えてないか?」


「てか…身体が大きくなって…」



ヨルチの身体はムクムクと巨大になっていった。いつしか傷は癒え、太い手足に牛の様な尻尾と顔と下半身になり、その姿はまるで…



「み、ミノタウロス?」



グォォォォォォォーーーーッ!!!



神話に出てくるミノタウロスの様な怪物へと変化したヨルチは、その猛威を自衛官達へと向けていく。




ーー



隊長が『禁呪』によって、怪物へと変わってしまう様子を遠くから眺めるのは、副隊長のビーツ。彼の言う通り、周りの自衛官や『AアサシンWウォーカー』達は、ヨルチ隊長の方へと向かっていく。



「チャンスだ…行くぞ!」



彼に続いて他5名の隊員達が、それぞれ建物へと向かって行く。しかし、彼らが建物へと向かおうとしたその時、突然サーチライトが彼らを照らし出す。


5人はあまりの眩しさに一瞬怯み、視界が奪われてしまう。



『そこで止まりなさい!!!抵抗した場合、それなりの対応も辞しません!』



目の前には多数の自衛官達が銃口を構えていつでも引き金を引ける状態だ待機していた。そんな状況を、回復した視力で見て驚愕する5人。


基地は広い…もっと他にも行くところがあるかも知れないのに、何故ピンポイントで狙っている場所が分かったのか…理解できなかった。





ーー第五駐屯地本部 指令センター


「…目標ターゲット5名、予測フォーカス地点ポイントに到着を確認。」


「捕獲しろ。状況によっては射撃許可も出ている。(まぁ奴らの動きは確認した時から見てたからな……何処を狙ってるのかは行動を見て予測してそこに部隊を送ればどうとでも対処出来るのは当然。オマケに…)」



町田二尉は近くの小型画面に映っている赤外線暗視モニターが5人を鮮明に映していた。この映像は、自衛官及び『CFW』に備え付けられた『暗視サーマルカメラ』によりモノクロで映し流されている。



「幾ら擬態魔法で姿が見えなくなろうが、熱赤外線まで隠すことは不可能だ。まぁ…どう考えても奴さんには想像すらできない事だろうがな。」



大画面には本部を中心に5つの赤い点が映し出されていた。彼らを取り囲む様に配置されている緑色の点…自衛官及び『CFW』である。



「町田二尉。第二保管棟、第六倉庫付近にて『AアサシンWウォーカー』が更に3名発見。内2名確保しましたが、1名は激しい抵抗の為射殺しました。」


「…周りに被害を出さない事が重要だ。」



突然、オペレータの1人が声を荒げて町田二尉に報告をする。



「飛行場近くの第四倉庫付近にて巨大危険生物出現との報告!既に被害多数!応戦していますが、対象にダメージ見られず!」


「ッ何⁉︎至急応援を送れ!」


「対象は突然巨大な怪物へ姿を変えたとの報告あり!」


「…どうなってやがるッ」




ーー第四倉庫付近



巨大な怪物…『ミノタウロス』と化したヨルチはその巨体を振るい自衛隊と衝突していた。辺りには、大きく歪み炎を上げている数台の軽装甲機動車(LAV)に『CFW』、更に数名の自衛官も地面に倒れていた。


大きく唸り声を上げるミノタウロスは、知性があるのか無いのか最早分からない…いや、知性は残っていないだろう。何の関係もないモノや地面をでたらめに殴ったり地団駄を踏んだりをしている。


そのミノタウロスから十数メートル離れた場所で、自衛官達は軽装甲機動車(LAV)を遮蔽物にしたり、伏せ撃ちをしていた。



ダダダッ……ダンダン!


ダダダダダッ…ダダダッ


ダーンダダーンッ!



真夜中の中、異常に照らされたサーチライトによって、遠くからでも見えるほど明るくなった第五駐屯地。そこでは、一国の大隊…もしくはそれ以上の戦力を有した化け物との戦闘が行われていた。


20式小銃やMINIMI機関銃で応戦する自衛隊。連続して聞こえる乾いた破裂音が響き渡る。その中で時折聞こえる大きな爆発音…手榴弾。



「手榴弾!!!」



こう叫ぶと数名の自衛官が一斉にミノタウロスに向けて手榴弾を投げ始める。手榴弾は、ミノタウロスの足元近くに転がり落ち、数秒後に連続した爆発が起き始める。



ブォォォァーーーー!!!!!!



爆発をマトモに食らったミノタウロスは、苦痛の叫び声をあげると、膝から崩れうつ伏せに倒れてしまう。



「やったか⁉︎…」



自衛官達が仕留めたと思ったその時、ミノタウロスは何事も無かった化の様にユックリとその巨体を起こし始める。



ブォォォァ!!!ブォーブォォォーー!!!



完全に怒りに満ち溢れた眼を一台の軽装甲機動車(LAV)に向けられ、それを遮蔽物としていた自衛官達がドキッとする。



「マズイ…」


「来るぞ!!!LAVから離れろ!!!」



ミノタウロスは息を荒くし、地面を何度も蹴るような動きを見せる。この動きは闘牛などが突進する時によく見る動きそのものであった。


そして、予想した通りミノタウロスら大きな角を突き出しながら、目をつけた軽装甲機動車(LAV)に向かって突進し始めた。自衛官達は一目散にその軽装甲機動車(LAV)から離れ、別の車輌や建物の陰に身を隠した次の瞬間。



ゴッシャァォー…ン!!!



軽装甲機動車(LAV)はあり得ないくらいにまで凹み曲がって仕舞い、数メートルも転がって行く。その後、大きな爆発と同時に車輌は火に包まれていった。後数秒遅ければ、自衛官達は一緒に吹き飛ばされていた。



「な、なんて破壊力だ。」


「それよりも…あいつの足…確かにモロに手榴弾をッ⁉︎」



手榴弾の爆発を受けたミノタウロスの足に自衛官達は注目すると…全くの無傷であった。黒い体毛がビッシリと生えており、蹄の足元は綺麗そのものであった。



「確かに効いてた…血も…肉片も飛んだのが見えた…なのに何でだ⁉︎」


「わ、分からないが…撃ちまくるしかねぇ!」



再びミノタウロスに向けて一斉射撃が開始される。あの巨体に向けて火を吹き続ける20式小銃やMINIMI機関銃。ミノタウロスは腕で顔を守るような動きを見せながら、少し後退りをする。全く効いていない訳ではないが、倒すまでにはいたらなかった。


『CFW』は横列を作り、F2020を撃ち続けながらミノタウロスに少しずつ近づいて行く。


至近距離で撃たれるミノタウロスもコレには中々キツイようで、先ほどよりも大きく後退りをする。一定の距離まで近づくと『CFW』の2機がグレネード弾を撃ち込んだ。



ボーン!!!ボーン!!!


ブォォォォォォーーーー!!!



グレネード弾を胸に受けたミノタウロスは、遠くからでもハッキリ見えるほど爆発により抉られた様な深い傷穴が2つ空いていた。


ミノタウロスが、膝をつくと同時に残りの『CFW』が、一斉にミノタウロスに向かって飛び掛かる。振り解こうにもダメージが大きすぎてマトモに動けないミノタウロス、遠方からは援護射撃が続く。


ミノタウロスにへばり付いた『CFW』は、援護射撃の弾を何発も受けるが、その装甲ゆえに大したダメージにはなっていなかった。『CFW』は、腕に内蔵されていた『高周波ブレード』が露出し、それをミノタウロスの首元や脇腹、腰部に何度も深々と突き刺し始める。



グォォォォォ!!!グォォォォー!



苦悶の叫び声を上げるミノタウロスとは関係無しに何度も人体で言う急所に『高周波ブレード』を突き刺す『CFW』。ミノタウロスはその巨体を何度も振り回し、『CFW』を落とそうとするが、強い握力によって掴まれておりそう簡単には降り落とせないでいた。


その姿は、大きな獲物に群れを成して襲うラプトルの様な光景であった。あらかた刺し終えたら、また別の場所へよじ登りながら移動して、また刺し続ける。刺し傷からは焦げ臭いと煙が出てし始めていた。高周波ブレードは、その高速振動によって発生した熱により、血とは違う真っ赤な色になっていた。


気が付けばミノタウロスの足元は血の海状態となり、その動きも少しずつ弱々しくなっていた。


するとそこへ16式機動戦闘車が数台やって来た。それを確認した『CFW』は一斉にミノタウロスから離れ距離を取り始める。フラフラの状態で正直可哀想とすら思えるミノタウロスに向かって、16式機動戦闘車の砲門から火が吹いた。



ドドドーーーーン!!!



直撃を受けたミノタウロスはそのまま崩れる様に倒れてしまう。片腕は完全に吹き飛び、頭も8割近くが無くなっていた。もう完全に生きている筈がない状態。



「こ、今度こそ死んだろ。」


「今の内に負傷者を運べ!」



一件落着と思った自衛官達は、直ぐに負傷者の元へ駆けつけて、担架に乗せて運び出したその時ー



「嘘…だろ…おい!」



頭を殆ど失ったミノタウロスが再びユックリと起き上がろうとしていた。よく見ると、無くなった腕と頭が少しずつ再生し始めていた。



「不死身かよ…こいつ。」


「う、撃て撃てー!!!」



自衛官達が小銃をミノタウロスに向けた瞬間、新しく再生された腕を、ミノタウロスが大きく横に振り回した。その時近くにいた自衛官達数名が、振り回した腕に巻き込まれて十数メートルまで吹き飛び、離れていた他の自衛官や『CFW』に衝突する。



グォォォォォォォーーーー!!!!!!



「畜生ッ!!!」


「まだ終わらねぇのかよ!!!」



再び暴れ出したミノタウロス。すると1人の自衛官があるものに気付いた。



「ん?…アレは?」



離れていた為に気が付かなかったが、ミノタウロスの右胸近くに小さく光る模様が見えた。それは、ヨルチの胸に刻まれていたあの刺青にソックリであった。



「全隊怪物の右胸を集中射撃!!!…撃て!!!」



咄嗟の命令に自衛官達は直ぐにミノタウロスの右胸へ向けて射撃を開始した。しかし、ミノタウロスは特に弱った様子は見られない。しかし、その模様は少しずつ光が現れ始める。



「(アレが何なのかは知らないが、少なくともこのまま普通に攻撃してもラチがあかない!)」



彼らは僅かな可能性を信じて、右胸に向かって射撃を続ける。相変わらずミノタウロスは元気に見える…しかし、心無しかその動きは鈍くなっている様にも見える。それは、胸の模様の光が強くなるにつれて、大きくなる。それと比例するかのように、ミノタウロスの動きも明らかに鈍く弱くなる。



「全員退がれ!」



16式機動戦闘車の砲門がミノタウロスの右胸を捉え、そして…



ドドドーーーン!!!



直撃を受けたミノタウロスは、うめき声1つ上げずにそのままうつ伏せに倒れてしまう。すると同時に身体から何かが抜けたかの様に白い煙が勢いよく噴き出し、周囲が見えなくなってしまう。


暫くして白い煙が晴れたかと思いきや、ミノタウロスの死体はそこには無く。ただ血だまりのみが残っていた。突然姿が消えたミノタウロスに周りは驚いていたが、その後はとくに何も被害が起きないところを見ると、消滅したと考えるのが妥当と判断し、被害の処理に移っていた。


不幸中の幸い、死者は出ておらず重傷者12名、軽傷者25名で済んでいた。





ーー隔離棟

今までの出来事を隔離棟の小窓から偶然覗き見をしていた1人の男…タウラス・ディエスは驚愕していた。



「今のが…ニホン軍の戦い方か⁉︎……戦い方からして我々と全く異なる……武器の性質、破壊力、部隊の動き方…何もかもが!」



タウラスはゆっくりと後ろに退がりながらベッドに座り込み、口元に手をあてがいながら考える。



「(ニホン軍は戦勝気分で浮かれていたとばかり思っていた…だが、油断しているどころか『スキアーズ』の破壊工作1つも許さない厳重体制。おまけに合成獣キメラ成造魔法科学を応用した『禁呪』を使った身体強化した兵士をも不十分と思われる兵力で倒してしまう…アレは1人で普通の軍隊約1500人分の戦力を有した生物兵器だぞ⁉︎)」



タウラスは恥じていた。侮っていたのは…油断していたのは自分自身だと。ニホン軍の戦い方が自分達の考えている事と違く、そして強い事に…。



「(我々は…全てにおいて敗北している。だからと言って、祖国を裏切る様なマネは到底出来ん。我々がニホンを真っ先に狙う『本当の理由』を奴等が知った直後、この戦争の全てが水の泡となる。何としてもそれだけは知られてはならない…。)」

ハルディーク皇国が日本を真っ先に狙った真の理由……もしかしたら気付く人は気付く…かも?

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