第82話 イール王国海戦 その2
長らくお待たせしました!
近いうちに次話も投稿します!
地図も投稿してあります!…絵心ゼロの私が描いたヤツですが…。
ーーハルディーク皇国 バルザック艦隊 先遣隊
旗艦『モノセロス』
コップ将軍は唖然とした顔で沈みゆく副旗艦『イーゴス』、『ミューラ』を眺めていた。いや、彼だけではない、周りの海兵や他の砲艦の乗組員達も、大きな黒煙を上げながら沈みゆく自国最新鋭の砲艦を…。
「な、何をしたというのだ…アレは⁉︎」
コップ将軍は何が起きたのか必死に考えようとするが、余りにも衝撃的すぎる出来事に頭が上手くまわらない。するとー
『ッ!て、敵艦より再び『火を噴く槍』が発射されました!先ほどよりも2つ多いです!』
護衛艦『あさひ』から再びSSM-1Bが発射される。今度は4発同時に発射筒から撃ち出される。
「なッ⁉︎げ、迎撃体勢ーーー!!!」
海兵達は急いで高射機関砲を操縦しようとするが、既にSSM-1Bは水平線ギリギリを飛んで此方へ向かっていた。
「う、撃て!早くし!撃て撃て!!!」
上官の命令で機関砲射手が急いでハンドルを操作し、SSM-1Bを狙い火を吹いた。
ドッドッドッドッドッ!!!
だが時速850㎞で向かってくるSSM-1Bに命中する筈もなく、悲しくも海に当たり、ただ水柱をつくるだけであった。
「う、うわぁぁぁぁーー!!!」
コップ将軍の断末魔と共にSSM-1Bは命中…巨大な爆発が旗艦『モノセロス』を包み込み、粉微塵に吹き飛ばしてしまう。
それと同時に、副旗艦『アッガ』もSSM-1Bの餌食となり、海の藻屑へと消えていく。
早々に旗艦『モノセロス』が撃沈されてしまった事に先遣隊は狼狽えてしまう。残す副旗艦『ロジェイ』のみとなっていた。
『ロジェイ』の艦長、ナターナエル・クラハトは、日本の護衛艦『あさひ』の攻撃を見てある事に気付いた。
「まさかニホン軍は…旗艦と副旗艦を狙っているのか⁉︎あの破壊力と射程距離もそうだが…この精密性ッ!!!ば、バケモノか⁉︎……ッ!!!って事は次は⁉︎」
ナターナエル将軍は、直ぐに伝令室へと入り通信兵を押しのけて艦内にいる海兵に緊急で伝える。
『そ、総員海に飛び込めーーー!!!次に狙われるのはー』
『ニホン軍の軍艦より再び煙が発生!!!』
「ッ!!!やはり来たか!!!」
ナターナエル将軍の命令後、海兵達は急いで我先にと海へと飛び込んだ。飛び込んだ海兵達は、別の砲艦に拾われたが、武器弾薬を抱えたまま飛び込んだ海兵は、重みによってそのまま浮くことなく沈んでしまう。
そして、かなりの速さですべての兵が副旗艦『ロジェイ』から降りた瞬間、SSM-1Bが直撃し、同時に閃光と大爆発が発生する。
副旗艦『ロジェイ』はバラバラとなり、そのまま海の底へと沈んでいった。
その様子を間一髪海に飛び込んだ事で逃れる事が出来たナターナエル将軍は息を飲む。あとほんの一瞬、判断が遅ければ自分と乗組員は死んでいた。
ーー汎用護衛艦『あさひ』 艦橋
「金平一佐、敵艦隊旗艦及び副旗艦の轟沈を確認。」
「うむ、良くやった。だが気を抜くな、一旦向こうの様子を伺う。」
「了解。」
敵艦隊の旗艦と副旗艦全てを無力化する事に成功できた事で若干の安堵が見られるが、問題はここから…果たして敵艦隊が混乱し臆して引き返すのであれば良いが、もし向かってくるのであれば…
(『電磁加速砲』使用もあり得るが……『電磁加速砲』は圧倒的な破壊力と速度、射程距離が長所であるが、その莫大な費用が大きな欠点だ。1発につき大量の電力を消耗する。連続で使う場合、『固体電解コンデンサー』が持ち堪えられるのは…『5発まで』。)
開発当初は、ミサイルよりも安いコストで済む事から『電磁加速砲』の重要であることが証明されつつあったが、いざ出来上がってみれば、想像以上の莫大なコストが掛かる事が分かった。
アメリカや中国でさえ、7発が限界であった。中途半端な先進国では1発~3発が限界…強力である分、その数は限られる。
金平一佐は、敵が捨て身の全艦突撃で向かって来た場合…そして、費用もそうだが、更に後方から援軍が来る場合を考え、下手に切り札である『電磁加速砲』を無闇やたらと使用するのは危険と判断した。
「頼むから…もう引き返してくれ。」
ーーハルディーク皇国 バルザック艦隊 先遣隊
砲艦『ロー』
ギリギリで助かったナターナエル将軍を甲板へ引き上げて救出した艦長ミッズは、慌てふためいた様子で駆け寄って来た。
「な、ナターナエル将軍!我々はど、どうすれば?」
周りの海兵達は不安げな様子でナターナエル将軍を一斉に見つめる。ナターナエル将軍は、彼らを見た後に答える。
「はぁ…はぁ……ま、先ずは…敵の様子を伺う。」
「は、ハイ!おい!敵はどうだ⁉︎」
ミッズ艦長の声を聞いた海兵が上甲板の望遠鏡から護衛艦『あさひ』を見た。
『て、敵艦動きなし!!!』
「だ、だそうです…どうしますか⁉︎」
ナターナエル将軍は少し考えた。
(何故攻撃を辞めた?…あのまま指揮系統を失った残りの艦を攻撃すれば…例え一隻だけとはいえあの精密性と破壊力だ。問題はな………⁉︎なるほど…読めたぞ。)
ナターナエル将軍は艦首部へ移動し携帯していた望遠鏡で護衛艦『あさひ』を確認する。
(……本当に動きはない…フフフ、そういうことか……奴らは我々との全面衝突を避けようとしているな!!!恐らく奴らは十分な弾薬を積んでいない!だから、指揮系統を潰して混乱した我らを引き返しさせ、援軍が来るまでの時間を得ようとしているな!)
「え、えーっと…な、ナターナエル将軍?」
「ミッズ艦長!!!全艦へ伝達、緊急によりこの砲艦『ロー』を旗艦とし、戦闘継続!!!このまま敵艦へ向けて全速前進!!!射程距離に入り次第砲撃開始とな!!!」
「ッ⁉︎つ、つまり勝算は…」
「ある!!!間違いない!!!」
艦内から歓喜の声が聞こえる。
「わ、分かりました!!!では直ぐに旗をー」
「いや!旗は掲げるな!…このまま溶け込め。」
「は、はい!!!」
こうしてバルザック艦隊の先遣隊は、砲艦『ロー』を旗艦とし、ナターナエル将軍指揮の元、再び戦闘を開始となった。
ーーバルザック艦隊 本隊
要塞砲艦『ヘカトンケイル』 第1艦橋室
約150㎞先で先遣隊がイール王国港へ向けて進行を開始した後、現在日本の軍艦と戦闘中の報告を受け、ハルディーク皇国海軍大将兼バルザック艦隊提督のロード・アクアスをはじめとする幹部達が、大テーブルを囲むように気難しい顔で話し合っていた。
1人の幹部が壁に貼られた大きな地図版を使って状況を説明する。
「イール王国水軍との戦闘が侵入予定場所の港より150㎞地点にて開始。被害も少ない状態で勝利した後、ニホン国の軍艦1隻と戦闘を開始…そのわずか数十分後には、……旗艦と副旗艦全てが全滅。旗艦『モノセロス』艦長兼先遣隊指揮官のコップ・スケーチス中将は戦死。現在は、砲艦『ロー』を旗艦とし、副指揮官唯一の生き残りであるナターナエル・クラハト准将が指揮をとっています。」
旗艦と副旗艦の全滅…この言葉を聞いた全員がざわつき始まる。
「全滅だと?」
「まさか…旗艦と副旗艦全てが最前列に移動いたわけでもあるまいに…」
「一体どうやって?」
そんな中、偉そうな態度で座っている人の将校が低く手を挙げて口を開く。
「聞き間違いである事を願うが……1隻と言ったか?まさか辺境の新興国の軍艦1隻に対し…たった1隻に対しにか⁉︎」
「は、はい…」
「ケッ!!!バカバカしい!!!絶対にありえない。何かの間違いだろ?」
するとアクアス提督が静かに口を開く。
「モーゲル中将…その軽率が命取りになる。戦争に『絶対』は無い。それに、ニホン国はハッキリ言って未知なる国、ヴァルキア大帝国も同じ…油断は出来ん。恐らくは事実だろう。」
モーゲルと呼ばれる将校は、アクアス提督の言葉で押し黙ってしまう。
アクアス提督は話を続ける。
「しかし…恐らくニホン国も準備不足だったのだろう。相手が未知数である事はニホン国も同じ、我々の事など知る由も無い……ネイハムの知っている情報は全てでは無いからな。ニホン国の知らない我が軍の強さ…この『ヘカトンケイル』もそうだ。」
ーー
要塞砲艦『ヘカトンケイル』
全長200m
全幅45m(一部70m)
最大速力15ノット
乗組員350人~450人
大型魔導蒸気機関1基
中型魔導蒸気機関5基
対空(龍)高射機関砲12基
30㎝連装砲2基
15㎝連装砲4基
5㎝単装砲6基
ーー
「確かに…我がハルディーク皇国海軍最強にして最初の要塞砲艦。サヘナンティス帝国の大戦艦『ジーニアス』をも凌駕する大きさと破壊力を有しています。」
「『悪魔の息吹』もそうだな。」
「『飛行砲艦』もだぞ!」
「陸戦では『合成獣蒸気装甲部隊』だ!」
各将校たちが自国の巨大な軍事力を改めて確認し合うと、アクアス提督が静かに手をあげる。
「……続けていいかな?ゴホンッ…未知の敵と戦うのであれば、もっと軍艦を送るはず…なのにたった一隻のみ。」
「つまり…敵の狙いは指揮系統を失い、混乱させ引き返せる事でしょうか?」
「…うむ、そして援軍が来る為の時間稼ぎも目的の内に入るだろう。」
「そうと分かれば、早速ナターナエル准将へ連絡をー」
そこへ1人の海兵が入って来る。兵は入室し、敬礼した後将軍達に向けて報告をした。
コンコンッ
「失礼します!!!」
ガチャ!
「ナターナエル将軍が、たった今ニホン国の軍艦へ向けて総攻撃を仕掛ける為前進を開始しました!!!」
この言葉を聞いたアクアス提督は満足そうな顔でコクコクとゆっくり頷く。
「ふむ……どうやら、此方から伝えるまでも無かったな。」
ーー汎用護衛艦『あさひ』
戦闘指揮所(CIC)のレーダーモニターでは、大量の赤い点がゆっくりと動き出していた。
これを見たオペレーター達は、一気に血の気が引いていく。
「て、敵艦隊進行再開!」
これを聞いた戦闘指揮所(CIC)の指揮官は、冷や汗をかく。
「直ちに艦橋へ報告!敵艦隊進行の動きあり!!!」
「了解。」
報告を受けた艦橋では、淡い希望が無残に打ち砕かれた事に落胆し、重い空気になってしまう。しかし、直ぐに金平一佐が場を指揮する事で何とか皆んなを奮い立たせ、集中を切らさないようする。
「仕方ない……艦砲射撃用ーー意!!!」
「か、艦砲射撃了解!!!」
先ほどガタガタと震えていた若い自衛官が、震えた声で復唱する。そこへ金平一佐が歩み寄り、そっと声を掛ける。
「ここから正念場だ。勇気を出せ、戦ってるのはお前1人じゃない…みんながついてる!」
金平一佐と周りの先輩やベテラン自衛官は互いに見合い、決心したような目でゆっくりと頷く。それを見た若い自衛官は、ゆっくりと深呼吸をする。
「すーーー……はーーーッ……了解!!!」
艦首部甲板の『62口径5インチ単装砲』がゆっくりと向きを変え、射角を調整する。
「対水レーダー感知!目標までの距離28㎞!!!」
「角度良し!!!」
「5連続射撃用ーー意!!!…ッ撃ぇ!」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!…ドンッ!ドンッ!
ハルディーク皇国の艦隊へ向けて火を噴く艦砲が光の槍となって襲い掛かり、5隻の砲艦に命中する。
直撃を受けた砲艦は爆炎を発生させる。ポッカリと空いた穴からは遠くからでも見える業火と黒煙が黙々と立ち昇る。砲艦が失速すると所々でボンッ!ボンッ!!という爆発が起こり、段々と沈み始める。
「命中!!!目標1、2を無力化。」
「……同じく目標3、4、5を無力化!!!」
「敵艦隊の進行継続!」
「多用途ミサイル用意!!!」
「多用途ミサイル発射準備完了。」
「用ーーーー意…撃て!!!」
尚も止まらない艦隊に向けてVLSに装填された多用途ミサイルが火を噴いた。それは真っ直ぐ高速で敵艦隊へと向かい、前列の敵艦複数を一気に爆炎の中へと包み込むと同時に大爆発が発生。これにより右翼側の何隻かが凱旋し、戻って行く。
「ッ!敵艦複数隻引き返します!!!」
「気を抜くな!!!戦闘継続!!!」
続けざまで撃ち続ける艦砲と対艦ミサイル。それを受けても数の力で切り抜けようとするハルディーク皇国の先遣隊。護衛艦『あさひ』は、確実に敵艦の数を減らす一方、弾薬も減り、敵艦隊との距離も15㎞を切ろうとしていた。
敵艦の砲撃の射程距離がどれ程なのかまだ分からない以上、これ以上近づけさせるのは危険だと、金平一佐は判断した。
「敵艦隊!!!数を減らしつつも接近中!」
(し、仕方ない…)
「『電磁加速砲』用ー意!!!」
「『電磁加速砲』了解!!!」
ーーハルディーク皇国 先遣隊
砲艦『ロー』
日本の護衛艦『あさひ』まで後10㎞近くまで接近した時点で、既に30隻近い艦が沈められてしまった。しかし、ナターナエル将軍は、尚も進撃を止める事はなく、数の力で突破を試みた。
「行けーーー!!!このまま行けば勝てるぞ!!!」
簡単な相手ではない。個での対戦なら間違いなく負けていたであろう日本の護衛艦を見て、腹わたが煮えくり返る様な思いになるが、今は目の前の勝利を目指し、進むことが何よりも重要だった。
「良し…良し!良し!!!」
決して少ない犠牲ではないが、確かな勝利を実感し始めたその時ー
『敵艦艦首部甲板と思われる所からハッチが開いてます!!!……ッ⁉︎お、大きなバリスタの様なモノが出てきました!!!』
「な、何⁉︎バリスタだと⁉︎」
なぜここに来てバリスタを出すのかさっぱり分からなかったが、きっと何かあるに違いないと思ったナターナエル将軍は、目を離すなと伝えようとしたその時、再び報告が入った。
『先ほどのバリスタが…で、電気を纏い始めてます!!!…さ、左方部隊へ向きを返えました!!!』
「何をする気だ⁉︎」
次の瞬間、大きな閃光と同時に左方部隊の艦隊約15隻以上が大爆発と共に粉々に吹き飛んだ。長く大きな水柱を発生させ、遥か後方まで続いていた。
「ッ〜〜〜〜!!!??」
ナターナエル将軍は、目の前で起きた出来事が信じられないといった顔で唖然と眺めていた。彼だけではなく、すべての海兵達が度肝抜かれていた。
「ナターナエル将軍……ひとまず撤退を……」
1人の幹部が真っ青な顔で彼に進言する。しかし、ナターナエル将軍はもう後戻りは出来ないと激昂した。すると1人の海兵が報告に来た。
「し、失礼します!!!本隊から伝来です!!!『合成獣のクラーケンを送った。魔操機を使ってニホンの軍艦を破壊せよ』との事です!!!」
「な、何と⁉︎…ハルディーク皇国主力海軍兵器の一つをッ⁉︎…希望が見えてきた!魔導師はいるか⁉︎」
「ハッ!しかし、先ほどのニホン軍の攻撃を見て自室に籠もってしまい…」
「引きずり出せ!!!ここから我々の反撃が始まるのだ!!!」
ーーイール王国沖合付近 とある深海
真っ暗な海の底を泳ぐ巨大な烏賊の様な生物…『クラーケン』。しかしその正体は地球で言うところの『大王烏賊』である。この世界で『大王烏賊』は『クラーケン』と呼ばれ、よく神話や伝説に現れている。
ハルディーク皇国はその『クラーケン』を捕獲し、『合成獣』へと変えさせる事でその身体を30m近くまで巨大化させる事に成功。さらに、『魔操機』によるコントロールの完全化により、操る事が可能となった。
『クラーケン』の身体には一本の角の様なモノが生えており、それは紫色に輝きだした。
すると『クラーケン』は、護衛艦『あさひ』の元へ猛スピードで向かっていく。
ーーハルディーク皇国 先遣隊 砲艦『ロー』
進撃を中止した先遣隊は旋回し、ゆっくりと後退していく。すると、護衛艦『あさひ』からの攻撃が止み、艦内から安堵の声が出てくる。
甲板では1人の魔導師が、怪しく光る『魔操機』を使っていた。
「フフフ…まさかニホン軍も海の中から攻撃されるとは夢にも思うまい。」
「ナターナエル将軍、もう少しで『クラーケン』がニホン軍の軍艦と接触します。」
「良し!蛮族どもを海の底へ引きずり込んでしまえ!!!」
ーー汎用護衛艦『あさひ』
戦闘指揮所(CIC )のオペレーター達は、モニターに映る反応に注目していた。
「『水中ソナー』より探知。2時の方向から何かが接近中、距離30㎞。」
指揮官はこの報告を聞いて、あることを思い出す。
(確か…ハルディーク皇国には『合成獣』と呼ばれる生物兵器がいたはず。これもその類の可能性があるな。)
「『八咫烏01』へ伝達。ソノブイを投下しろ。」
「了解。『八咫烏01』へソノブイ投下伝達。」
護衛艦『あさひ』の周囲を飛んでいた『八咫烏01』は、戦闘指揮所(CIC )からの伝令を受信する。
2時の方角へ向けて低空飛行すると、機体の腹部より潜水探知器のソノブイを投下する。
「ソノブイ投下確認。」
「索敵開始。」
「………探知完了、大きさ約30m。遊泳速度から海中生物である可能性あり。」
「艦橋へ報告。」
戦闘指揮所(CIC )からの報告を受けた金平一佐は、直ぐさま対潜戦闘用意の指示を送る。指示を受けた戦闘指揮所(CIC )は、直ぐさま『八咫烏』に対し、対潜戦闘準備に入る。
機体腹部から12式魚雷を投下する。
新型の広帯域音響振動子アレイにより、目標となる『クラーケン』目掛けて進んでいく。
「目標到達まで5、4、3、2……今。」
モニターに映っていた三角の緑色マークが赤いマークに接触と同時に、両方2つとも消滅する。
「目標命中…反応ナシ。」
「目標消滅。」
ーー少し前 とある深海
(…痛い……身体が言うことを聞かない……痛い。)
クラーケンは猛スピードで護衛艦『あさひ』へと向かっていた。しかしそれは彼の意思ではなく、植え込まれた角の様な魔鉱石によるものだった。抵抗しようものなら角が光りだし、身体中に激しい痛みが電気の如く勢いで駆け巡る。
(何処へ向かわされてる?…ん?アレはなんだ?)
目の前から自分へ向かってくる何かに気付いたクラーケン。
(…生き物じゃない…アレは?)
向かって来るものを避ける程度は出来る。しかし、操られている事に多大な怒りを抱えてくる彼にとっては、向かってくるもの全てが敵に見えた。
クラーケンは大きく長い触手を広げて威嚇するが一向に怯む気配のないソレに更に苛立ちを覚える。そしてついに、クラーケンはソレに向かって突進しだした。高速でこの巨体をまともに受ければ、多少大きな軍船でも一撃で粉砕するほどの威力。それで倒れなくとも怯みはするだろうと睨んだクラーケンは、直ぐに触手で絡みつき、深く暗い海の底へと引きずり込んで、嬲り殺す準備を考えている。
(くらえッ!!!)
次の瞬間、それはクラーケンへと直撃する。同時に大きな爆発が発生し、クラーケンは海中に多数の肉片を撒き散らしてそのままさらなる深海へと沈んでいく。
(ッ⁉︎な、何が…起き……て……)
ーーハルディーク皇国 先遣隊 砲艦『ロー』
魔導師がクラーケンとの交信が途絶えた事に気付くと、ナターナエル将軍の方へ顔を向ける。
ナターナエル将軍は一瞬何故彼がこちらを向いたのか分からなかったが、あの青ざめた顔とゆっくりと首を横に振る動きから、全てを察した。
「く、く、クラーケンが…まさか……う、上になんて報告すれば…。」
「申し訳ありません……まさか敵が…海中からの敵襲に備えた武器を有していたとは…」
「か、海中生物用の銛か何かじゃありませんか?」
「だとしてもこんなあっさりと殺られるワケがない!!!漁師のそれとは話が違う!!!大きさも力も何もかも、こっちの方が断然強い!!!天然のクラーケンよりもな!!!………何故こうも…こうも思い通りにいかない!何故海中生物兵器までもが通用しない…我々が戦っている相手は…本当にヒト族なのか?…そもそもこれは現実なのか…それすらも分からない…誰か…この悪夢を終わらせてくれ…」
ガクッと肩を下ろし、跪いて動けなくなってしまうナターナエル将軍。最早戦意は完全に打ち砕かれてしまっていた。彼だけではなく、生き残っている海兵全員が…。
「…通信兵…本隊へ連絡してくれ。『クラーケン』死亡、先遣隊はニホン軍の軍艦たった一隻になす術なし…これよりー」
『私に任せろ!!!』
「「ッ⁉︎」」
通信機から突然誰かの声が響いてきた。その声とは、後方の輸送艦で待機していたタウラス将軍であった。
「た、タウラス将軍⁉︎」
『私に任せてくれ!!!だから砲艦何隻かをどうか我が軍に貸してくれないか⁉︎』
「な、何を言ってー」
『案ずるな、砲艦の扱い方は心得ている。だから頼む!!!このまま敗走しては軍人としてに誇りが傷付く!せめて…せめて一矢報いなければ!!!』
「しかしタウラス将軍!」
『ナターナエルよ…年は違えど同じ将軍なら分かるであろう?アクアス殿には私から伝えよう。これが務めよ…だから頼む!!!』
「……ほ、本隊へ連絡を…」
『…すまない!』
ーーハルディーク皇国 バルザック艦隊 本隊
要塞砲艦『ヘカトンケイル』第1艦橋室
この場にいる幹部達が、タウラス将軍からの伝令を聞いて…絶句する。彼の言葉もそうであるが、日本の軍艦一隻に為す術なく壊滅状態となった先遣隊に驚いていた。
『……っというワケだ。すまないアクアス提督。』
「…実にお前らしいな。…死地を見つけたか?」
『ハハッ!私は死ぬとは一言も言っておりませんぞ!』
「……あぁ…そうだったな。…頼むぞ親友。」
『お任せを!!!』
通信が切れるとアクアス提督は静かに目を閉じる。しかしそんな彼とは関係なく幹部達がこぞって意見を言い合う。
「ニホン軍一隻に何故こうも上手くいかない⁉︎ナターナエル将軍は無能兵だ!!!」
「それよりも、『クラーケン』を仕留めるとは…やるな。」
「どうやって仕留めた⁉︎大型の水中生物用の銛を使用したとしても、もっと長期戦になるはず…だがそれすらもなかったそうでは無いか⁉︎」
「皆目検討もつかない…浮上しなければ海中生物を砲撃で仕留めることは出来ない。まさか…海中生物を的確な仕留める武器が⁉︎」
「ハッ⁉︎そんなモノあるワケがない!!!夢のまた夢の兵器だ!ば、バカバカしい事を言うな!!!」
「イール王国を最小限の被害で占領する筈が…少なくとも死者1000人以上…決して少なくない被害だ。」
するとアクアス提督はスッと手を挙げて場を鎮めさせる。
「……24時間以内にタウラス中将から援軍要請があれば直ぐに出撃する。だが、もし何もなければ、ウェールズ艦隊を援軍として要請し、合流後直ぐに出撃する。各員それまで休んでいてくれ。」
「…タウラス中将から連絡はくるでしょうか?」
「さぁな……敵は海中へと攻撃手段も有している…無論、銛などと言う原始的な方法では無くな。それはつまり……ニホン軍は海中からの攻撃が出来る国と戦っていた可能性がある。無論、生物では無く兵器だがな。クラーケンでさえまるでボロ雑巾のように易々と屠ってしまう。」
「「…な⁉︎」」
幹部達が再び絶句する。そんな国など今の世界では存在すらしないからである。そんな超未来の武器を有した国と渡り合う攻撃手段を有したニホン軍…段々と恐ろしくなってくる。
「さてさて…上手くやってくれよ、タウラス将軍。」
ーーハルディーク皇国 バルザック艦隊 先遣隊
砲艦『アムダ』
ナターナエル将軍達は撤退。タウラス将軍は彼らの代わりに、数隻の砲艦と部下を率いて日本の護衛艦『あさひ』に向かっていた。
「…コレは戦場…常に生と死が隣り合わせの場所、敵も味方も殺されるのが当然…ではあるが、ハルディーク皇国 第1陸軍軍団長兼中将のタウラス・ディエスの名において…部下の仇は取らせて貰うぞ。」
「砲撃用ーーー意!!!」
護衛艦『あさひ』まで約15㎞…いつでも砲撃できる準備をしている。すると…
『ニホン軍の軍艦より煙が発生!砲撃と思われー』
ドォン!!!
ドドドドォォォーーー……
艦砲射撃をまともにくらってしまい、砲艦『アムダ』の艦首部に大きな穴が空いてしまう。しかしそれでもタウラス将軍を始めとする兵士達はひるむ事なく突き進む。
ドォン!!!ドォン!!!ドォン!!!
砲撃音が鳴る度に一隻…また一隻と仲間の砲艦が爆発を起こし、遂には止まってしまう。そして、残り10㎞地点で、残りはタウラス将軍を乗せた砲艦『アムダ』だけとなっていた。
「そうだ!!!俺を見ろーー!!!」
ドォン!!!
次の瞬間、大きな爆発が砲艦『アムダ』を包み込む。もくもくと黒煙を上げながらゆっくりと沈む『アムダ』からは、1つの悲鳴も聞こえない。
ーー汎用護衛艦『あさひ』
艦橋にて敵の最後の突撃と思われる艦群を全て撃沈させ、辺りに敵艦となる物がいない事を確認する。
『周囲に敵影無し。』
『ソナーにも反応ありません。』
この報告を聞いた金平一佐は、大きく鼻で深呼吸をした後、静かに呟く。
「状況終了。直ちに生存者の救出に移る。」
「「ハッ!!!」」
護衛艦『あさひ』は、船の墓場状態となっている場所へゆっくりと進み。敵の生存者救出へと動き出す。
かくして、孤軍状態であった護衛艦『あさひ』の決死の戦闘…日本とハルディーク皇国最初の直接的な衝突は、何とか日本の勝利に終わった。




